聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。

彩柚月

文字の大きさ
上 下
13 / 52

13

しおりを挟む
 メラニアは大聖堂で、大神官に謁見していた。

 あの後、若い神官は丁寧にエスコートをして、ここまで連れて来てくれた。既に連絡がされていたようで、聖堂に着くなり大神官が出迎えてくれた。

 「神官達が手荒な真似をしたようで申し訳なかったね。」
 「あ……えっと……」

 たっぷり髭を蓄えた、人の良さそうなおじいちゃんという感じのこの人が、大神官様のようだ。

 謝ってもらえても、何と答えれば良いのかわからずに、言葉を濁してしまう。平気ではなかったので、「はい」とも「大丈夫」とも言えない。だからと言って、「本当に迷惑でした」とも言えない。許すことができるのかといえば、それも無理そうなので「いいえ」とも言えない。

 こういう時に、一括して全てを含む適切な言葉があれば良いのに、と、自分の教養のなさを嘆いたが、わからないものはわからない。

 「それで、アシュリー家の者だと言うのは証明できるかね?」
 とおじいちゃ……大神官様が問うてきたが、そんな方法、知るわけがない。
 「どうすれば証明できるのかわかりません。」
 と、素直に答えた。おじい……大神官様は、ふむ、とお髭を撫でてから、
 「その懐に何を持っているのかね?」
 と聞いた。
 
 懐?と、自らのみぞおち辺りに手を当てると、隠し持っていた枝を入れていたことを思い出したので、胸の隙間から手を突っ込んで、枝の入った巾着を取り出して見せた。

 神官達が不快そうな顔をして見せたのがわかったが、身を証明するために必要だと言うのなら取り出すしかない。

 「こちらへ。」
 近くにいた神官が枝を受け取ろうと折敷おしきというのだったと思う台をこちらへ向けてきた。

 (え?渡すの?)

 何か手放すことに嫌な感じがして、折敷おしきを持った神官と、大神官様を見比べると、

 「不安なら私がそちらへ見に行こう。」
 と、言って立ち上がってくれた。

 「なりません!大神官ともあろうお方が下に降りてはいけません!」
 と、周りが制止するのを、

 「これが本物なら、君達のしていることは、大変な不敬だが良いのかね?」
 と、言って、来てくれた。
 その姿を見て、近くに寄ることを許してもらってから、こちらから行くというかべきだったと思った。杖を使っておられる。

 今からでも遅くない。少しでも歩かせないように、側の神官の横をすり抜けて、おじいちゃんの側に寄った。

 「どうぞ、座って見てください。」
 枝を両手に乗せて差し出すと、
 「お嬢さんは優しい娘さんだの。」
 と、言ってから、神官が持って来た椅子に座り、手には触れずに、私の手の上に顔を近づけて、枝をマジマジと見た。

 「本物に見えるがね。」
 そう言って、大神官様は懐から何かを取り出した。メラニアの持っている物とよく似た枝だった。

 「これが、何か知っているかね?」
 と問われ、
 「いいえ。ついこの間、その、偉大なる存在に頂いたばかりなのです。」

 周囲が騒つくのがわかった。
 (偉大なるってなんだ……?)
 (大樹とか?)
 (まさか)
 (こんな娘が?)

 ヒソヒソと噂されるのが聞こえる。
 恥ずかしい。怖い。こんな風に注目さらると、何か悪いことをしているような気分になる。

 「ふむ。まあ、説明は後にしようか。これの真偽を確かめるには、ここは騒がしい。とりあえずお嬢さんの力を確かめさせてもらいたいが良いかね?」
 「何、を、すれば、良いのです、か。」答えた
 震える声で、やっと答えたメラニアに、大神官様は、神官に指示をして、何かを持って来させた。

 「これは、瘴気に蝕まれたトネリコの苗なのだがね。」
 「トネリコが瘴気に蝕まれるなんてことがあるのですか!?」

 思わず大きな声を出してしまったメラニアに、大神官様はフォフォと笑ってから、
 「ここに居る聖人達が、毎日聖力を注いで、かろうじて苗のカタチを保っておる。そうでなければとっくに枯れておるな。」
 と、教えてくれた。そして、

 「これを浄化できるかね?」
 と、確かめるように聞かれたので、
 「やってみます。」
 と、答えた。

 
 手に聖力を集めて、苗木を囲うように両手を添えて、両手の範囲を円に見立てて聖力で満たして……。

 「今、ここでやるのかの?」
 
 良い感じに始めていたのに、大神官が声をかけてきた。

 「そういう意味かと思ったのですが。」
 「いや。身を清めたり、心を落ち着かせたり、そういう準備は要らんのかの?」
 「はい。大丈夫だと思います。というか、そういうことをしたことはありませんので、方法もわかりません。」
 「ほう……?」

 不思議そうに見つめられる。やっぱり見られると言うことは、何か恐ろしい。人と話す時は目を合わせろと良く言われるが、実際、目を合わせるのは難しいことだと、改めて思った。

 「止めて悪かった。やってみせておくれ。」
 「はい。」
 
 もう一度、両手を添えて聖力を集める。範囲内を聖力で満たしたら、その濃度を保ちながら、ゆっくりと中心の苗に与えるように、聖力を動かす。

 これは、手強い。いつもならこれで浄化が完了するのに、ほんの少しも瘴気が剥がれ落ちる気がしない。瘴気が中まで侵食しているのかもしない。

 ならば、溶かし出す方が良いかもしれないと、両手の内の聖力をグルグルと循環させた。

 良かった。溶けている。
 少しずつ苗の瘴気が失われていく。

 およそ5分程だろうか。
 瘴気に侵された苗は、普通のトネリコの苗に戻っていた。

 「なるほど。これでお嬢さんが特級の聖女であることは証明された。」

 またも周囲が騒ついている。
 思わず俯いてしまう。
 
 「名は何と言うのかね?」
 「メラニア……メラニア=アシュリー、です。」

 「そうかアシュリーの……。これより、メラニア=アシュリーを特級聖女として扱う。敬意を持って接するように。」
 
 そう宣言してから、
 「部屋を準備させるから、今日は休むが良い。明日、枝の話をしようかの。肌身から離さないように。」
 と、立ち上がって、ゾロゾロと取り巻きを連れて行ってしまった。

 「どうぞこちらへ。」
 ここへエスコート付きで案内してくれた神官が、手を差し出して再び誘導してくれようとするのに、素直に手を差し出してついていった。

 
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

処理中です...