ヤンデレBL作品集

みるきぃ

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◆「俺は、男だ!クソ野郎」【後編】

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「ーー岬?」


賑あってる中、ふと、懐かしい聞きなれた声が聞こえてきた。


「え…淳兄!」



さっき、写真で見たまんまの淳兄が隣にやって来た。前髪はかっこよく上げられていてスーツを着込んでいる。まさに男前。でも表情は、心なしか殺意を剥き出しにしたような感じがするんですけども。



「岬。どうして、こんなとこに来てるわけ?怒るよ。しかもなんつー格好してんの?俺以外見せたらダメだろ、ばか」


「……。」


えっ。俺にばか…?急なことで返す言葉が何も見つからない。てかすごい言われよう…。なんか、知らないけど若干説教うけてる?淳兄の圧に自然に強ばって肩が竦む。 


改めてもう一度説明します。蒼野 淳。俺と二人っきりの時はものすごく優しいけど誰かと一緒にいる時はものすごく怖くなる人間です。生態、未だ不明。理解不能。というキーワードがこの人に当てはまります。俺も言っててよくわかんねぇや。


「あ、蒼野さん。俺が姫をここに連れて来ました!ちなみに姫は、岬ちゃんのことね~」


「あ"?お前ごときが岬に近寄るな」


割って入ってきた翼先輩を淳兄は、ドスのきいた声を出して睨んでいる。


「怖~。まぁまぁ落ち着いてよ。姫が蒼野さんの親戚だなんて今日まで知らなかったし、第一、姫は俺の後輩でーす」


翼先輩は怪しく微笑みながら俺の肩に手を回した。絵で描かれている場合、二人の間にバチバチと火花が散っているような表現が出来そうな強いガン飛ばしである。なに。この誰も望んでない展開は。そして俺の気持ちは今この場から離れて帰りたいのみ。



でもまぁ…ここまで来てイチゴケーキを食べずに帰りたくないのも一理ある。こうなったら何がなんでも必ず絶対、食う!!




そう思ったのはいいが、今の状況をどうするか考えないとな…。とりあえず、俺の肩に回している翼先輩の手を振りほどき、少し距離をとった。だけど、離れたのにまた近寄ってくる。その度に淳兄の眉がピクリと動いて恐怖を覚える。


 「ねぇ、そういや昨日、子供の作り方を聞いたとき、親戚の兄ちゃんに教えてもらったって言ってたけど、もしかしてそれ蒼野さんのことだったりする?」
 


翼先輩はニヤニヤとしながら急に質問してくる。…子供の作り方?あぁ、あのことか。保健室での出来事を思い出す。たく、あれは正式には“作る”んじゃなくて“運んでくる”って言っただろ。詳しく言うとコウノトリがだな、くちばしにゆり籠みたいなのをくわえたまま中に赤ちゃんを乗せて運んでくるんだ。お前は、まだ理解していなかったのか。


飽き飽きしながら

「そうだけど?」


と答えるとニヤリと翼先輩の口角が上がった。つか、なんで今それを聞いた。


「マジで(笑)蒼野さん、姫に何教えてんの」



ぷぷっとバカにしたような笑い声をあげ、淳兄に言う。淳兄を見るとおでこに血管が浮き出ているのがわかる。これは、相当怒っていることを表している。俺は関係ないので、フイと顔を逸らす。



「岬は、純粋で無垢なんだ。すぐ人を信じてしまうから、誰にも汚されたくないんだよ」


「だからって、そんなおとぎ話みたいなの教えたんだ」


「別にお前には関係ない。それより、岬をこっちによこせ」


「それは無理~」


ひそひそと二人は何かを話している。…早くイチゴケーキ食いたい。そんなことを思っていると翼先輩にまた肩に手を回される。



「姫、そろそろ席に行こうか」


「え?あぁ…わかった。じゃあね、淳兄」




淳兄には悪いが早くイチゴケーキが食べたいのだ。だからできるだけ淳兄の顔を見ないように横を通りすぎて行った。


――――
――――――
――――――――

……。


翼先輩に案内させられて席に座ったまではまだよかった。翼先輩はすぐにお客さんに指名されたとかなんとか言われて無理矢理オーナーっていう人に連れて行かれた。本人は、ものすごく嫌がってて俺に助けてという目を送っていたが正直関わりたくなかったから無視した。そのおかけで俺はぼっちだ。


「暇だから雑誌でも見るか…」


そうぽつりと呟いて近くにあった雑誌を手に取って広げた。ん~なになに。ページを適当に捲っていくとある記事が目に入る。



――――――――――



【売り上げNo.1ホストクラブ】


ホストクラブ「wing」


橋川 翼

全日本ホストグランプリ優勝。


ちなみに

ホストクラブの「wing」=「翼」は

彼の影響で新しく改名されたという。

――――――――――




などとでっかく写真付きで取り上げられていた。おまけに文武両道とまで書かれている。な、なんだこれ…。…どんだけ有名人なの?これを見て、ホストという業界?で翼先輩はスゴイ人物なんだなと改めて思った。


てか、内緒でやってるみたいなこと言ってたけど隠す気なくて草。


翼先輩は、No.1だけあって忙しいらしい。だから、当然のようにお客さんから指名が入るということか。俺も女の子にモテたい…。つくづく腹立たしい奴だな。負けた気持ちになって、雑誌を閉じる。すると、後ろから肩をとんとんされた。



「えっと、何ですか…?」



後ろを振り向くと笑顔の男の人がいた。この人もきっとホストという店員だろう…。だって、チャラチャラしているし。


「アハッそんな緊張しないで大丈夫だよ。ビール飲む?」



いや、緊張してねぇし!と言いたい所だけれども初対面なので我慢する。


「いや、未成年なので結構です…」




一応、控えみに断る。

つか、こいつ、いつの間にか隣に座ってるし!



「やっぱり未成年かぁ!おかしいと思ったんだよな~。小学…いや、女子高校生かな?」




くそ。多分、悪気はないと思うがものすごく殴りたくてたまらない。初対面の人に小学生と言われそうになったの今日で2回目だぞ。でも心は大人だから顔を引きつらせながらも頑張って笑顔で対応する。



「は、はい~。そうです…あははは」


正しくは男子高校生だけどな。平然を保ってるように見せてる俺、本当凄いし偉いと思う。…誰か褒めて。そう思いながら苦笑いを続ける。




「あっそれより、名前なんて言うの?俺、宇都宮 秀!」



「え?あ、えっと。田中です…」



突然、人の個人情報(名前)を聞いてくるからつい咄嗟に偽名を使っちまった。コイツ、こんなチャラチャラしてんのに宇都宮…秀っていうのか。


「えー苗字じゃなくて名前教えてよ」



宇都宮さんは、口を尖らす。いや、そう言われましても。しかし…そうきたか。また偽名を考えようとしていると俺の太ももの上に奴の手が置かれる。


「ちょ何、触ってんですか」


慌てて手を払いのける。うわ、まじ鳥肌立つよ。なんなの、この人。



「だって、なんか触ってって言ってるような感じがしたから!それより早く名前教えて?」


は?ふざけるな。

「あっち行け、ハゲ」



口を滑らせてぽろっと本音が出てしまった。口元を押さえる。いけね…。でも我慢の限界。宇都宮さんは、俺の態度の違いに驚いて目を見開いていた。



「え、えっと今なんて…」

数秒後、すぐに宇都宮さんは目をぱちくりさせながら聞き返してくる。


「いえ、何も?」


ここは安全を考えて俺は、とぼけることにした。あとは、笑って誤魔化せるだろうなどと思っていると


「おいそこ変われ」

そう言う誰かの低い声が聞こえてきた。



「あれ蒼野さんじゃないっすか。どうしたんですかー?」


翼先輩が戻ってきたのかと思ったが来たのは超不機嫌気味の淳兄だった。


「いいから、お前消えろ」


淳兄は、サラッと睨みながら宇都宮さんに言い放つ。多分どうやら、淳兄は俺が困っているのを見て助けにやって来てくれたみたいだ。



「え、消えろなんて蒼野さん、怖いっすよ。ちなみに今俺、田中ちゃんとお話し中だから」



宇都宮さんは、負けじと言い返す。



「田中…?」



淳兄は、は?と訳のわからない顔をしている。あ、やばい。俺、嘘ついて田中になったんだ。



「だから、そういうわけで邪魔しないでね」




宇都宮さんは、そう言いながら俺の肩を抱き引っ付いてきた。その途端、俺の鼻を刺激する。うわ、香水きつ…。ものすごく鼻を摘まみたい気持ちになった。


「そういや、田中ちゃんってここ来るの初めてだよね?俺、田中ちゃんならプライベートまで踏み込みたいよ」



宇都宮さんは、淳兄がいるのにも関わらず俺に次々と話しかけてくる。だけど俺は話の内容など頭に入ってこない。それより、近いから離れろ…。香水のきつい匂いに魂の抜けたような気分だった。



「おい」

淳兄のオーラがより一層、殺気増した。


「お前、他の客のとこ行け。俺がその田中ちゃんを相手する」


淳兄は、空気を読んで俺のことを田中ということにしてくれたみたいだ。それは正直助かる。でも、淳兄…その殺気どうかしまってくれ。



「えー今、田中ちゃんといい感じだし無理だよ」



宇都宮さんは、笑いながらまた言いたい放題言いやがる。…いい感じってなんだ。俺、ものすごく困ってるし嫌なんだけど。


「いい感じ?バカじゃねぇの?どう見ても一方的だろ」



淳兄は宇都宮さんを睨み付けながら正論を言う。まさにその通りだ。


「は、はぁ!?一方的じゃねぇよ!」



宇都宮さんは淳兄の言葉に苛立っている様子。



「ほら、お前。あの客に指名入ってんぞ」



淳兄は、指差しながら行けよと促す。どうやら、本当に宇都宮さんは指名されてたみたいだ。



「チッ。マジかよ。…あ、田中ちゃんまたね!今度は名前教えてよ」


宇都宮さんは、淳兄を睨みながら舌打ちして俺に笑顔で手を振ってからしぶしぶ他の席へと移動した。宇都宮さん、まじ苦手なタイプ。



 「はぁ淳兄…助かったよ」


ホッと一息吐いて礼を言う。


「そんなこと別にいいよ。お帰りなさいませ、お嬢様」



なにやら急に淳兄は執事みたいなことを言ってきた。お帰りなさいって…ここ俺ん家違う。まぁ、ここではそれが挨拶なんだろう。



「えっと…ただいまです?」


どう対応すればいいのかわからなくて一応返事をしとく。うん、いまいちルールがわかんね。説明書ぷりーず。そんなことを思っていると淳兄の雰囲気が変わる。


「…ところで、岬」

宇都宮さんが去って安心した束の間、また新たな恐怖が襲ってきた。全身に力が入る。淳兄は怪しい笑みを浮かべた。



「は、はい…なんでしょう」


その威圧感に敬語になった。



「どうして、こんなとこに来ているのかな?怒らないから言ってごらん」



淳兄は、にこにことなんと不自然に笑ってる。………怖すぎる。怒らないからって…俺にはもはやすでに怒っているようにしか見えませんけど!!でもこのまま口を閉ざしていたらもっと殺気が増加しそうだ。


「えっと…それは、さっき翼先輩が言ってた通り、俺は連れてこられたんです…」



多分、声は震えてたがちゃんと言ったぞ。


「で、それはなんで?岬は、性格だけは男前なのに、簡単に女装なんかさせられちゃって……どういうことだ」


だんだんと淳兄が鬼化していく過程がよくわかる。




「あ、それには、深~い事情がありましてですね…」




なぜか冷や汗が止まらない。あと、性格だけは男前っていうの気に食わない。



「事情だと…?」



俺は、とりあえずコクンと頷いて素直にここまで来た経緯を詳しく話した。例の鬼ごっこからのことを全部を。


……死にたくないんだ。

許せ。



「へー、なるほどね。それはわかった。」

俺の話を聞き終えた淳兄は、先程の殺気が嘘のように消えていた。それを見て、一息吐く。


「でも、許せないな」

「えっ?」

急にどうした?とツッコミたくなる俺。





「俺以外に気安く、そんな可愛い格好させやがって…。しかも野郎どもの視界に映して」


『罪状としたら十分だよ』と耳元で囁かれた。おいおいおい。これは、コメディーだろ?そんな固いこと言うなよ。そして危ない雰囲気出すな。



「あ、あっ!そういえば、なんで淳兄はこんなとこで働いてんだよ?確か、前に聞いたときはモデルの仕事してるって言ってたじゃん」




俺は、慌てて話題を変える。それが一番だと判断した。そう淳兄は、前に自慢気に言っていたのだ。モデルの仕事してるって。ホストクラブとかで働いてるのは、初めて知ったぞ。


「あ?あぁ…ここで働いてんのは、岬と暮らすために資金を貯めてるんだよ」




「はっ?」

不覚にも間抜け面になった。なにそれ、冗談としても怖いよ。



「モデルの仕事だけじゃ、全然足りないんだ。でも将来が楽しみだね」



「淳兄、怖えよ」



将来が楽しみだねって言われてどう答えていいかわからない。恐ろしくてたまらない。


「ごめんね。自分でもわかるくらい、病んでるんだ」



やんでる…?あぁ、



「なんだ、病気か…。」


「いや、病気じゃないよ。ただ嫉妬深いだけ。まっ、岬には難しいよな」



淳兄は、軽く笑って俺の頭を撫でる。正直言うと頭を撫でないで欲しい。身長縮みそうで怖いから。でも今は、撫でるなと言えない空気。それにウィッグ取れないか心配だ。


「淳兄って凄いなー。よく女装しているのが俺だってわかったよな」



不思議に思っていたことを聞いてみた。普通、こんな格好してメイクもしていたら俺だってすぐに気づかないだろう。淳兄の観察力にはお手上げだ。


「なに言ってんの。当たり前じゃん。隅々まで岬のことならわかるよ。もしかして俺をなめてんの?」



「うっ…」



久々に出た。淳兄の俺様キャラ。昔の爽やかだった兄ちゃんは、一体何処へ行ったんだ。目を細めながら懐かしの記憶を辿り、あのころの面影を探していたが今じゃもう完全に消滅されていた。つか、また怒らせたとか言わないよな…。ストレスでも溜まっているのか。発散するならよそでやってくれ。俺は、淳兄が口を開くまでとりあえず黙った。




「岬さ、ホストクラブのことよくわからないで来ただろ?」


口を開いたと思ったらそんなことを聞いてきた。




「え?知ってるし」


あれだろ。ケーキ屋さんをかっこく言った感じだろ?まあ、最初は全然知らなかったけど教えてもらったからわかって来たんだ。ケーキが無きゃここに来てないよ。


「知ってるの?なんで。…もしかして男探し?飢えてんの?俺がいるのに?」


どうして?どうして?と質問攻めに合う。苦笑いしかできない。



「いや、俺は、イチゴケーキが食べたくて…」



「ここにはそんなもの置いてないよ」



「はっ?」


目眩がした。言語道断だ。とんでもないことを言いやがる。一瞬のうちに、俺の笑顔は消えていった。


「う、うそだろ…?」

少し間を置いて、淳兄に問う。もし仮に本当だったら俺、何しに来たんだよ…。こんな格好してまで。ふと、翼先輩が脳裏に浮かぶ。“騙された”と思った。…クソ。絶対、陰で笑ってやがったな。




「嘘じゃないよ。…てことは、岬は、男を求めに来たんじゃなくてケーキを食べに来たんだね」



なぜか淳兄が笑顔を取り戻す。腹立つ気力さえ失われた。それほど、俺にとってイチゴケーキは重要なことだったのだ。



「ははは…」


きっと口から魂が出てるだろうな…。ケーキが無くちゃ意味ねぇよ。結構…いや、かなり楽しみにしてたのに…。深いため息を溢す。その途端に淳兄が『あ』と声を漏らす。



「そういや。今日、珍しくイチゴが沢山のっているケーキが用意されてたな。あれ、岬のだったのか」


「え…?」


ちょ、待っ今なんて…っ!?


「普段はないのに、あったよ」


「それまじかよ!?なんだ…。あるならあると早く言えよな。俺、かなり落ち込んだんだぞ」


てことは、つまり。どうやらイチゴケーキは、あるみたいだ。ホッと安心した。翼先輩、ちゃんと用意してくれたんだな。さっき、殺してやろうと思ったけどそれまじ取り消すわ。すまん!急に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。いやぁ~、でもしっかし。普段ケーキがないってどういうことだよ。ここ、ホストクラブというとこはケーキ屋さんなんだろ?ケーキ屋にケーキがないって笑えるぞ、おい。ギャグセンス(笑)軽く笑ってしまう。



「なら、淳兄たちは、いつも一体何をしてるんだ?」


俺は、込み上げてくる笑いを止めながら淳兄に聞いた。



「……知りたい?」


淳兄は少し溜めたあと、そう怪しく返した。俺は、その反応に戸惑ったがとりあえず頷いて淳兄の言葉を待つ。



「それはまた今度教えるね。でももうこんなとこに来ちゃだめだよ。もし破ったら調教してやるから」



覚えとけ。と念を押された。


「あ、当たり前だ!」



二度、女装は勘弁だからな。これは人生の一度きり。もうこんなヘマはしねぇよ。俺自身、何度も何度もそれを心に入れた。


「まあ、今日は仕方がなかったということにしとく。次はねぇから」



指をさされ、しゅんと体が縮まる。


「う、あ、はい…」



淳兄…、もしかしてここに来させたくないような恨みが俺にあるのか?なんか、とてつもなく嫌われてる気がする…。さっき自分も二度来たくないと言ったけどこうも相手に来るなと言われると寂しいような気もする。


「そんな暗くならないで。じゃあ、岬が楽しみにしていたイチゴのケーキ今から持ってくるよ」



そう言って、淳兄は立った。


「おぉさすが!やっとか!さんきゅ、淳兄」


さっきとは、正反対に満面の笑みになる。この際、イチゴケーキがあればどうでもいい。余計なことなど深く考えないことにする。





早く、食べたい!

早く、ご対面したい!




早く、早くと促すと淳兄は『はいはい』と笑って席を離れた。ただ、今わからないことはホストクラブは一体何をしているかということだけ。でもまた今度教えてくれるっていうから別にいっか。そう、思って鼻歌を口ずさみながら来るのを楽しみに待った。



「うひゃあ~!!いただきまーす!」



顔の前に手を合わせて叫ぶ。今、目の前にあるのは俺の愛しいイチゴケーキ様さまっ!!さっき、淳兄が食べやすいようにケーキを包丁でカットしてくれたからこうやってすぐ食べれる。感謝だ。さぁ、イチゴケーキよ。俺の胃の中で結婚式をあげようではないか!とありえないことを考えながらパクっと一口、口に運んだ。


「やべぇ…これまじ惚れる」


目を細めて頬に手を寄せる。なにこのとろけるかんじ。イチゴの甘酸っぱさが俺の心にズキュンときた。ドストライク。


「本当、おいしそうに食べるね」

淳兄は、俺の食べる姿を見てにっこりと微笑む。




「だって、本当にうめぇもん」


そう言って、口に運ぶスペースが早くなる。うわ最高だ。


「ほらそんな慌てて食べるから、ほっぺにクリームついてるよ」



「えっ。まじかどこ?」


右?左?と聞く前に急に淳兄の顔が近づいてきて、ぺろっ。



「ここだよ」

俺の頬っぺたを舌で舐めた。


「とれたよ。あ、でも近くにぷるんと可愛い唇があっから、危うくキスしてしまうとこだった」



淳兄は、にやりと怪しい笑みを浮かべる。本気で言ってるのか、冗談なのか考える前に俺はそれどころじゃなかった。ゾワッと身体全身に電気が走るような感覚になり、鳥肌が立った。それにプラス氷のように固まる。例えるなら、今まさに放心状態だと思う。


「甘かったよ。ごちそうさま」



淳兄は、長い足を組みながら満足気だった。へいへいへい。別に誰も感想とか聞いてねぇよ!余計、寒気がした。南極といい勝負ができそうなくらいに寒い。行ったことないけど。でもこれ以上、俺を気持ち悪くさせないでくれ。頼むから。もう、おかげで鳥肌が止まらない。俺は、ひとまず冷静になってから抑えていた衝動を発散する。



「淳兄、急にやめろよ。舐めんな」

俺は、睨み付けながら淳兄に舐められた箇所を手でゴシゴシと拭った。




「え、急じゃなきゃいいの?」

面白そう口の端を上げて淳兄は言う。


「誰もそんなこと言ってねぇだろ、だめだ!答えはノーに決まってる」




いい加減にしろと叫びたくなる。一体、男相手にこんなことして何が楽しんだ。正気かよ。これは絶対、俺の反応を見て楽しんでる。淳兄の気が知れない。性悪とか悪魔とか意地悪とかそういうレベルじゃない、閻魔大王だ。



「岬、顔真っ赤。照れてるの?」



「お、俺は怒ってるんだぁー!」


淳兄の捉え方がおかしすぎる。なぜ俺が照れないといけない。むしろ、嫌なんだ。わかってくれ、俺の気持ち。さっきの幸せな気分が台無しになった。返してほしいぜ。はぁ…。男に舐められるとかなんとも言えない屈辱だ。



「ははっ、俺が悪かったよ。ごめんな。次からはちゃんと許可とるから」


「いやそういう問題じゃない」


たくっ。淳兄は、全く理解していないみたいだ。呆れてまた深いため息を吐いた。



「岬は、ファーストキスもまだだもんな。相変わらず、純情というか無知というか」



「……」



俺は、淳兄の一言にピタリと返す言葉を失う。ファーストキス………うわあああ。  今ので嫌な記憶を思い出しちまった。あのクソ会長にファーストキスを奪われその後、大悟に濃厚な……うわあああ。多分、みるみる顔が熱くなっていく。せっかく忘れていたのになぜ、このタイミングで思い出させるんだよ。あー!と、そのことで頭がいっぱいでもう真っ白になりそうだった。




「岬?あれ、反応なし…それに顔が赤くなってる。…おい、誰とキスした?」




淳兄の顔がだんだんとまた怖くなっていき、声がさっきよりもずっと低くなった。その表情から『早く言え』と促してるように見える。



「い、いや…キスは残念ながら一度も…」



声は小さくなりどもってしまったが答えた。嘘をついたけどだって、キスの相手が“男”だって言えねぇじゃん!!口がさけても言いたくねぇ。墓まで持っていくつもりだ。自分の中でとどめておくんだ。いや、あれは、いっそうなかったことにしよう。そうだノーカウント!


 「ふーん。じゃあどうして俺が近寄るごとに、 岬は遠ざけて行くのかな?言うのが本当なら、普通は逃げないよね?」

それはその通り。自分でも気づかないうちに少しずつ淳兄から離れていた。


お れ の ば か た れ が 。



と心の中でプチ説教。嘘ついてるからこそ離れてしまうのもあるが、例え嘘でなくても淳兄のにこにこ笑顔の後ろに悪魔が見えるから仕方ない。つか、 なんで形勢逆転されちゃってんの俺。さっきまで確か俺が怒っていた立場だったよな。 そう考え事をしていたら



「あ、」

やべっ、と思った。



「残念。もう寄るスペースがないみたいだね。俺はもう少し岬と鬼ごっこしてもよかったんだけどな 」



とうとう寄るスペースを無くしてしまったようだ。淳兄は心底残念そうな表情をしているが俺は騙されない。ドS、鬼畜、と言える言葉は山ほどあるが、この状況でそれは逆効果。 よし、俺は、大人だから正直に言おう。


「わかった。話すよ。強いて言うなら、二人だ」


そう言い終わったら、『ほら、寄れ』と目で訴える。でもそれが男だなんて言わないぞ。恵まれない俺の人生。みんな募金よろ。いや、待て。俺の人生は、募金でなんとかなる問題でないな、うん。ふっ。なぜ、金を集める(笑)と自分のギャグを笑う俺。…つらたん。自分でもこんなときに何考えてるんだとスゴイと思った。


そして隣の閻魔大王は、変わらず不自然な笑みを浮かべてる。


「へぇ~、……俺が知らないうちに岬はガードが緩くなったのか。一から躾が必要だな。で、岬の唇に触れたのは誰?女なら半殺し、男なら殺す」



「えっ」

スラッと何言ってんだ!?


「あ、主語がなくてごめんね。岬を殺すって言ってるんじゃないよ。相手をってことだから安心してね」


いや安心できねぇから。俺は、冷静にそう思った。考えなくてもわかることだ。淳兄は、人を殺そうとしている。いや、本気で。ここで軽々しく言ってみろ。殺人者になりかねない。そして、動機とかなんちゃらできっと俺のせいにするはず。うん。淳兄は、そういう人間だ。徐々に淳兄が恐ろしくなってきて俺の感覚が鈍くなっている。


「い、いや…別にそんなことどうでもいいだろ…」



やっとの思いで声を絞り出す。そして、ふい、と視界に入らないように背けた。直視はキツい…。目力だけで殺せそうだ。お願いだから、一切このことには触れないでほしい。俺にとってはある意味、傷口を抉る行為に属するぞ。


「どうでも良くないよ」

しかしこの閻魔は、さも当然かのように言い張った。


「いや、どうでもいい」

これだけは断言できる。俺は、ため息を吐きながら負けじとはっきり言った。


「岬にとっちゃ、それはどうでもいいことだろうけど、俺にとったら重要なことだ。せっかく理性を抑えながら地道に計画を立てていたのに…こうも簡単に崩されるとはね」


淳兄は、そう言ってから『納得もいかないし、思ってもみなかったよ』と口を溢して、眉を八の字にさせながら苦笑していた。


つか、えっ?

重要…?計画…?

一体、今俺に何を伝えたいのか伝わってこない。



「あー…それってつまり、俺に先を越されて悔しくて腹を立てているってことか?」



もしかするとそういうことだよな。こんな平凡(言ってて辛いが)な俺がキスできるような相手がいないと思っていたけど、結果、まさかのいたという驚きで妬んでいるということだろ。要は。ちぇ…俺もなめられたもんだ。だけど、した相手は女の子ではなく残念ながら男だからな。なんとも言えない複雑な気分だ。イコール、妬んで腹立てる必要は微塵も無い。でも正直にキスした相手が男だと言うのは気が気じゃない。プライドを捨てるか、それともこのまま淳兄が怒っているのを隣で必死に耐えとくかのどちらか。どっちにしろ、選んでも想像できるのは全て地獄だな…。


「俺がそんなことで腹を立てると思うとでも?俺がこうしてイライラしてんのは、大切にしていたものが誰かの手によって汚されたということだよ。ねっ、わかる?」

淳兄は、次の瞬間両手で俺の顔を左右から押さえつけて固定した。目線を淳兄から決して離れないように。


「え、あ、えっと…わ、わかってます…!!」

歯切れが悪くなってしまったがコクコクと頷いた。実際は、1ミクロンもわかってないが命の危機が迫っているのでそうした方が正解だと本能的に思った。



「…岬。本当にわかってる?」



「いえ、わかってません。」



「だよね」


そして、これも本能的に素直に言った方がいい思った。だって、こう…静電気みたいなものがビビっときたし。俺の悪いセンサーは、結構当たるのだ。失礼なこと言うけど、なんて恐ろしい顔をしてるんだっ!?人が見るものではないだろう。出来ることなら、モザイクをかけて通したい…。…もはや、ホラーな感じでR指定の領域。それほど、淳兄の表情は怖いのだ。しかも『だよね』なんて言うくらいなら、最初っから『わかる?』って聞くなよ。俺は、内心そう思った。すると、その途端淳兄はニヤリと意味深な笑みを浮かべて、俺の顔を押さえていた手を引いてくれた。とりあえず、その行動に助かったとホッとするが、こうもあっさりと離してくれるとは…。急に態度が変わった淳兄を疑わずにはいられなかった。





「もう一度聞くけど、キスした相手は誰?」



背後からは、ものすごくブラックを放っている。




「いや、もうそれはいいから…」


違う話をしようぜ…。



「じゃあ、女?それとも…男?」



なんだよ、一体この質問は。こうなったらしょうがない。


「センセー、黙秘権を使いたいと思いまーす」


もう降参ということで、ハーイと手を上げて、淳兄を先生と呼んだ。




「はい、それ却下ー。残念でした」




淳兄は、恐ろしくもそのひとことで上手く跳ね返してきた。…マジかい。俺の最後の手だと思ったのに。ガクッと肩を下ろす。これでも諦めてくれない淳兄に俺は何の言葉も出ない。せ、先生は生徒を否定しちゃダメなんだぞっ。と、心の中で反撃しても意味無いが。つか、淳兄は先生ちゃうし。でも嫌がっている人に対して不利なことを無理に聞いちゃいけないだろ。そう呟く。もちろん心の中で。あれこれ頭の中で色々と駆け巡らかせていると


「あれ、岬。黙秘権って言葉知ってたんだ」



なんと淳兄は、不思議そうに俺を見てきたのだった。



「あ、当たり前だろ!なにその人を馬鹿にした感じの言い様は。そ、そりゃあまぁ、高校受験の勉強で頑張ったからだよ」



そう俺の努力の結晶。まっ実際、黙秘権は、受験には出てこなかったけどな。はははっ。もう笑っちゃったよ。大変だったあの頃を思い出す。



「はいはい。そんなことどうでもいいから」



淳兄は、そう言って話を片付ける。ちょ、おい。どうでもいいって……淳兄が先に言ったことだろっ!はぁ…今ので話の流れが絶対変わったと思ったのに。



あーもう。

「これ以上聞くのなし、無理。」




俺は、むしゃくしゃしながらキッパリと言った。そして手を交差させてバツを作る。でもなぜか淳兄は、怖いくらいの満面の笑みを浮かべている。もちろん、目は笑ってないが。意図がまったくわからない。それに対して、はは…と力なく笑った。


「じゃあ、当ててやろうか?キスした相手……男だろ?」


「………えっ。」



俺は、淳兄の言葉に一瞬、思考回路が止まり目が点になる。……ウ、ソ。


『キスした相手……男だろ?』

脳裏で、もう一度リピートされる。



……なぜわかった!?

俺、何も言ってないぞっ!?



「なぜって思う?そりゃあ簡単だよ。女か男かって聞いた時、答えなかったから、あーこれは答えづらい“男”だなってね。岬は、妙にプライド高いよね。嘘はバレバレだけど」



「……」




俺は、何も言えなかった。なんだよ…そこまで考えてたのかよ!?その時、俺はどうしてた。あ、そっか。センセー、黙秘権みたいなこと言ってたな。あの時、嘘でも普通に女って答えとけば良かったんだぁぁ…。つまり、失態を晒したということか…?俺のあほばか。穴があったら入りたい。そして、ものすごく泣きたい。


「へー。答えないってことは、マジで男なんだ」



「えっ」

俺は、淳兄の言葉にえ?となる。待て待て…。今の発言はど、どういうことだ。まず自分の耳を疑った。


「かまをかけたんだよ。どんな反応するかをね。でも図星か」


淳兄は、未だに怖い顔をしながらそう言った。


「な、なにそれ…」


俺の声は途切れ途切れになる。かまをかけただと…?うわ、最悪じゃん。つまり、試したってことだろ!?腹立つやり方するぜ、この野郎。俺は、睨むことしかできないけど、でも淳兄の顔をずっと見ることができなくて睨み始めて3秒くらいで目を逸らした。はははっ。俺、弱っ。悲しいぜ。


「…で、その二人の中で誰が好きなの?もしかして今付き合ってるの?ねぇ、俺よりそいつかっこいいの?」


淳兄がクイッと俺の顎を掴みながら言った。


「はぁ!?待てよ。なんでそうなるんだよ!?」

意味わかんねー!相手が男だって知ってるくせになんてこと言うんだ。つか、好きとかかっこいいとかの話じゃないだろ。俺は、泣きたい衝動を抑えて必死に淳兄と目を合わせる。もうこの話からいい加減遠ざけたい。


「ねぇ俺を嫉妬させたいの?冗談でも俺、妬くタイプだから」


淳兄は、口の端を上げながら目が怖いことになっていた。嫉妬とかなんだよ、それ。本当意味がわかんねぇ…。あああ…頭が痛くなる。


「じゅ、淳兄、怖い…」


とりあえず、この場から逃げたい。抑えていたけどもう無理だ。目から涙が溢れた。その途端に、淳兄の目がハッと見開いた。そして怖い顔からいつも通りの表情に戻った。




「み、岬!ご、ごめんね。泣かせるつもりはなかったんだ」



淳兄は、慌てて俺の涙を指で拭っていく。



「べ、別に泣いてねぇから!」



泣いているくせに変に精一杯強がる俺。くそ、超ダセェ…。これくらいで泣くなんて情けねぇ…。頭を抱えたくなる気持ちにもなるし第一、今ものすごく顔を隠したい。



「怖かったよな…」

淳兄は、そう呟いて少し寂しそうな表情をしながら俺を優しく抱きしめ包み込む。



「じゅ、淳兄…?」


別にそこまでしなくてもいいのにと言いたくなる。



「俺…岬の涙に弱いんだ」


耳元の近くで淳兄がそっと囁いた。わーい、淳兄の弱みGETと言いたい所だがこれは素直に喜べない。何せ、俺が泣くのが弱みだなんて。


「お、俺。人前で泣かねぇし」



やっぱり、口から出てしまうものは全て強気な言葉。


「絶対そうしてね。…こんな可愛い顔を誰にも見せたくないし」



「ん?」



「なんでもないよ」


淳兄は、クスッと笑いながら次は背中をとんとんと優しくあやしてきた。抱きしめられているという自覚がなかったわけじゃないけどこれは、多分ハグみたいなものだし自然と簡単には振りほどけない。



「あ、岬ってキャンディ食べれる?」


突然、顔を覗いて俺にそう聞いてきた。おかげでハグから脱出した。



「う、うん!大好きだぞ」

俺は、コクンと頷きながらなんで?と聞き返す。甘いものは、ほとんど大好物である。






「じゃあ、これあげる」

ふふふっと怪しい笑みを溢しながら俺の手のひらに置いて渡した。




「え、あ、ありがとう…」

見てみると可愛い水玉模様の包み紙に入った少し大きめのキャンディだった。




「何で急にこれを俺に…?」



「あー泣かせちゃったからね」



「っは!な、泣いてないし!」




顔を背けて何を言ってだと誤魔化す。だけど、なぜか知らないが淳兄は笑って俺の頭をよしよしと撫でている。


「ほ、本当に泣いてないのに…」


俺は、ボソボソ言いながら包み紙から出してキャンディを口の中に入れた。その瞬間、淳兄の口角があがったことに俺は気づかなかった。『最終手段』と淳兄が小声で何やら口を溢した。でも俺の耳には当然、何を言ったのか届かなかった。




「あ、このキャンディ、何の味かよくわかんねぇけど、甘くて美味しいな」


口の中でコロコロと転がしながらゆっくり溶かしていく。…うん、すっげぇうまい。


「クスッ。…なら良かった。ちゃんと最後まで味わってね」



「へいへい」



味わうの意味がわからなかったが適当に返事を返した。


――――――
――――――――
――――――――――


……。





「……んっ」



キャンディを舐め終えて経った数分の出来事だった。


「…岬?どうしたの?顔が赤くなってるよ」




なぜか俺は、意識が朦朧としてきている。でも淳兄の声でハッとした。


「あのさ。じゅ、淳兄…なんかここ暑くね?」



気のせいだろうか?とても暑くてしょうがない。それになんかふわふわした気分で頭がうまく回らなくなっている。



「いや、暑くないよ?」


何ともなそうで平然としている淳兄。



「あぁ…そうなんだ」


 

…じゃあ暑いのって俺だけか。急に、なんか体の底から熱を感じてくる。すでに顔は熱を帯びてるみたいだけど。でも変。なんだ、これ…変な気分。それに頭がクラクラしてきた…。


「岬、大丈夫?なんかキツそうだね。少し涼しいところに移動しようか?」


淳兄が俺の様子を見てそう声をかけてきた。


「うん、そうしたい…」


コクンと頷く。…俺、急にどうしたんだ?風邪か…?いや、でもこれはそれとはまた何かが違う。そう考えるも先に、とりあえず今は涼しい場所へ行きたかったから考えるのをやめてしまった。立ち上がるのも精一杯で淳兄の肩を借りながらお店の奥の個室に案内された。フラフラした俺の体を淳兄は、優しく支えてくれた。そして。


――バタンッ。

個室の扉が閉まる音。これからが悪夢の始まりだった。ん?あれ…。



「じゅ、淳兄…?ここあんまり涼しくないけど」

どうなってんの?と尋ねる。


「あれ?おかしいな。冷房はあっちよりも利いてるはずだよ」


「そう…なんだ」




俺は、別に先程と全然変わらなくただただ暑い。…限界だ。手で扇ぐ。そして、なにやら違和感に気づいた。あれ?俺…。目線を下に向ける。他にも熱を帯びてじんじんも痺れる感覚はあったが、それが身体のどの部分から発生しているか、気づいた途端に仰天してしまう。うそ、こんな……

 

「っ!?」

目をガバッと見開いた。な、なんだこれは!?何で今この状況で…男としての立派な所が大きくなってんだっ!?俺の下半身の方が異常なことになっていた。

しかも苦しいぞ…っ。


「…へぇもう効いてきたのか」

自分の身に何が起こってるのかわからない時に淳兄が笑みを浮かべながらそんなことを言ってきた。


「…?」


き、効いてきたって…なんだよ、それ。それに、ハァハァと息があがってきた。


「…岬、ものすごく可愛いよ。イヤらしいくらい」
 


淳兄は、そう言って俺の髪を触りながら耳にかける。




「…っ」



即座に危険を察知した俺は、一歩後ずさる。そんな俺に淳兄は、ふふっと笑った。
 


「はぁ…っ。」


もう力が入らない。床に倒れそうになったけど淳兄が俺の体を支える。


「岬は本当、警戒心がないし、無防備だよね。だから簡単に唇が奪われちゃうんだよ」


淳兄は、俺の唇を優しく触る。もうキスの話しはしないと思っていたのにまた持ち上げてくる。



「それに、こんな弱々しくて虚ろな目でこっちを見られると。……俺、結構キタ」



淳兄は、何かを企んでる顔をしている。この雰囲気は……なに?淳兄の豹変ぶりにまた目が点になりそうだった。 


「岬は、今ものすごく身体が熱いんでしょ?さっきのキャンディ……“媚薬”だったんだ」


ごめんねと言ってるわりには笑顔。




「び、びやく…?」


でも初めて聞く言葉の意味がわからない。こんな熱いのはそれが原因なのか…?


「そう、媚薬。この薬の作用は、個人差があるけど岬はすぐに効いたね」




「な、なにそれ…っ」


つまり、俺に毒を食べさせたってこと…っ?待て冗談だろ…。



「媚薬ってのは、性的興奮を高める作用を持つ薬のこと」


淳兄がそう説明してくる。せいてき…興奮?毒薬ではなかったのか…?



「…?」


もう言葉を発する力がない。説明されてもよく意味がわからなくて首を傾けた。


「まぁわかりやすくいうと、惚れ薬。俺に対して恋愛感情を起こされるための薬だよ」


ニヤッと悪魔のように笑う。


「れ、恋愛感情…っ!?」



俺は、驚きのあまり声をあげてしまった。なぜ、男の俺に惚れ薬なんか…。そ、そこまでして俺のことが嫌いなのかよ…。と内心ショックをうける。それにそんな薬があるなんて初めて知った。


「そうだよ。わかった?あ、ふふっ岬のここ…勃起してるね」


淳兄は、笑みを溢しながら今俺の大きくなってるアレをワンピースの上からいやらしく触ってくる。着ているこのワンピースが薄いせいかビクッとしてしまう。




「……んっ」

そこを触られると今までに感じたことのない感覚に襲われた。口からは、変な声が洩れてしまう。な、なんだよ、これ…。苦しい…けどなんか、もっと触って欲しくなる…。はっ。お、俺どうした…!?変態かよ…っ。恥ずかしくて自分を殴りたい。



「…はぁっ淳兄…そこ触らないで…」


掠れた声でお願いと言いながら頼んだ。なんか知らないけど電気が走るようにビクビクいちいち反応して敏感になってしまう。こうなってんのも淳兄から貰ったあのキャンディのせいだよな…っ。クソッ変なもの食べさせやがって…っ!ギリッと歯を食い縛る。でも本当これ以上、触られるとやばい。さっきよりも息が荒くなる。お願いだから手を止めてほしい。


「それはできないよ。だって岬のここ。俺にもっと触って欲しそうだもん」



淳兄はそう言って儚くも俺の頼みを聞いてくれない。しかも触って欲しそうだもんって……やめてくれ…っ。じゅ、淳兄をどうやって…止めればいいんだ。ふとあることを思い出す。あ、そだ。淳兄の弱みだ!



「お、俺…泣くぞ!?それでもいいのか!?」

仕方なく、泣くと言って脅した。だってさっき、俺の涙には弱いとか言っていたから止めてくれるだろうと信じた。だが、淳兄はクスッと笑ってこう言った。

「もうなんて可愛いこと言うのかな~。俺が岬の涙に弱いの知ってて言ってるよね?あーでも残念。あれはね、岬の泣き顔見ると、もっと泣かせたくなる自分を抑えたかったから言ったんだよ。我慢できなくなるんだ」

だからキャンディもあげたんだし、と付け加えられた。
 


「……っ」



俺は何も言えなかった。ウソ、だろう…っ?逆に、今泣いてしまえば余計泣かされるって意味だよな…。お、恐ろしい…っ!!熱い身体とは反対に心はゾッと冷たく凍った。どうしよう、って呟いたら心細くて泣きたい気持ちがこみあげてくる。しかしここで泣いてしまえばただでは済まないと思った。
 



「淳兄ぃ…っ」

もう降参だと目で訴える。そんな俺の様子に、小さく淳兄は笑顔を浮かべたあと舌なめずりをする。そのような仕草を見せる淳兄の姿に、ぞっと寒気が走る。


「いいね、その顔。たまんなくそそるよ…。それにさっきから岬の言う『淳兄』って萌えるよね。……ゾクゾクする」


目を細める淳兄は、先を求めるかのように徐々に顔を近づけてきた。どうしよう…淳兄の様子がおかしい。何を考えてるか俺にはわからない。それに、なんでこんなにも力が上手く入らねぇんだよっ。クソッ何で…っ。



「可愛い、可愛い俺の岬」

狂ったように俺の名前を呼ぶ。





「……んんっ!?」

次の瞬間、目を見開いた。淳兄の顔がこんなにも近くにあって、唇には生温かい感触。待ってこれってキ ス さ れ て る ?


や、やめろ…っ。想像もしたくなかった光景。疑いたくなる光景。それが目の前で起きてるなんて俺にとって最悪だった。それに欲情の炎を目に宿した淳兄の動きは止まることなく、俺を貪るように唇を重ねてくる。深く合わさった唇の間から、唾液が流し込まれた。それが淳兄の唾液と認識するまで、そう時間はかからなかった。


「んっ……、はぁ……」

やめろと否定する感情とは逆に、身体の奥底から湧きあがる熱に、小さな息が漏れる。 深く舌を絡めてきて何度も口付けをかわした。逃げようとしても舌を絡めとられ、そのたびにピ チャピチャと水音が室内に響き、淫靡(いんび)な音を奏でた。い、いやだ…っ。俺は、逃げなきゃと考える反面、初めて与えられる快楽に抗えず、もっと、とせがむ自分がものすごく嫌で怖かった。なんでなんだ…っ?こんなの俺じゃない。何で、もっととか気持ち悪いこと考えてしまうんだよ…っ。今、恍惚とした表情を浮かべた淳兄は俺にとって恐怖の対象でしかなかった。何度となく唇を交わし、 重なり合った唇からどちらともつかない唾液が端からこぼれ落ちると淳兄はすかさず舌ですくい取り、再び口内に戻した。

「岬、ちゃんと飲まなきゃだめだよ」

そう怖い笑みを浮かべると、俺にまるで駄々っ子に対するような口調で言った。き、気持ち悪い…っ。まだ気が済まない淳兄は、俺の唇を今も貪りながらゆったりとした動作で床に押し倒す。



 「や、やめろ…てっ!」


嫌がってる俺を見て淳兄は、ふふっと笑う。


「ねぇ、岬。俺と他の野郎とのキスどっちが気持ち良かった?はははっもちろん、俺だよね。ほら、言ってごらん」
 
淳兄は、目を細目ながら俺の顎をクイッとあげてまるで否定することを許さない空気を放った。意味、わかんねぇ…っ。俺は、そんなことを聞いてくる淳兄を睨んだ。


「…いいねその顔。睨んでるつもりだろうけど逆効果だよ。でも本当、往生際が悪いよね。素直に俺のが気持ちいいって言えばいいのに」


淳兄は、そう言って無意味に俺の頭を撫でる。同じ男にキスされて、気持ちいいわけあるか…。俺はあのキャンディのせいで身体がおかしくなっている。自分の意思じゃないのは確か。……何でこんなに熱くなんだよっ。下唇を噛みながら、苛立ちを抑える。

「岬、唇噛んじゃだめだよ。噛むなら、ほら俺の指 噛んで」



淳兄は、俺の前に指を差し出す。俺は、すぐにふいっと顔を背ける。


「…わ、わかんねぇよ。なんで淳兄は、こんな意味のわかんねぇこと…すんだよ…はぁっ」


荒々しく息が漏れながらもそう言った。すると、ぐいっと顔を近づけられる。そして、淳兄は笑った。


「何でって?…ふふっそんな顔を俺に見せる岬が悪いんだよ」



お、俺が悪い…?何の答えにもなっていない。淳兄は、ククッと笑いながらまがまがしい妖気を放っている。やっぱり、閻魔大王だ…。

「もう…俺っ帰る。こっちにはただイチゴケーキ食べに来ただけだし…」


そう言ってとりあえず、退散することに決めた。淳兄が怖すぎる。…でも一方、淳兄は、そう簡単に俺を逃がしてはくれなかった。


「は?食べに来ただけ?なにいってんの。ここは、岬みたいな子羊が来るとこじゃないんだよ。わかってる?もし俺がいなかったら食べられてるよ?」


 
低く押し殺した声で淳兄が怒りをぶつけてきた。俺の胸にまたも続く恐怖が走った。…く、狂ってやがるっ。そう思った同時に、俺は、信じられないものでも見ているかのように目を見開き、二度三度、瞬きを繰り返した。え…っ?目の前の淳兄は、怒りのあまりか、わなわなと身体を震わせていた。…こりゃあ例えるなら般若だ。淳兄は、凄まじい剣幕で話を続ける。
 


「…つっても俺がこれから美味しく食べちゃうけどね」


淳兄は低い声で、ありえないことを言う。俺は、一瞬のうち、何かの糸が切れたかのように表情が歪んだ。


「ちっちゃいねぇ岬は。ずっと思ってたけど、肌やわらかいし。」


好き勝手言いながら、ギュッと抱きしめてくる淳兄に鳥肌がたつ。淳兄の鋭く冷たい視線に負けまいと、俺は必死に言い返した。
 

「触んなぁ…っ!」


淳兄は、俺の太ももあたりをやらしい手つきで触ってくる。くすぐったい…というよりもいっそう変な気分になる。


「…本当それムラムラする。やめてあげらんない。岬が可愛すぎるのが悪い。だからもっと可愛い姿見せて?……俺の嫁に来てよ」


淳兄は、俺の耳元でそうぽつりと囁いた。ニコッと笑う淳兄に俺は、首を必死に振る。もちろん、横に。
 
「おれ、は男だぞ…っ」

何、笑えない冗談を言ってるんだよ。でも顔は恐ろしい淳兄のままであり、泣きたくなったが泣いて誰かが助けてくれるわけでもない上に



「もぉ…いや…」

掠れた声でやめろと懇願することしかできない俺。


「そう否定されちゃあ、いくらなんでも傷つくなぁ。正直に『お嫁に来る』って言ってくれれば即、こんなことやめてあげるのに」



淳兄は、呆れた様子で言ってくる。そして、くつり、と笑って従服の笑みを浮かべてきた。…誰が冗談でもそんなこと言うか。


「しょ、正気かよ…っ!」

強く言う。気は確かか?淳兄は、昔からそうだ。俺を支配するのに楽しんでる感じがする。


「正気かって?おかしなこと言うね…。俺は、いつだって岬の前では正気だけど、でも、今ここは、こんなにも速くなっちゃってるよ」


俺の手を掴み取り淳兄の胸に当てられる。そして、すぐにドクドクと心臓の鼓動の速さが手に伝わってきた。


「あっでも、ここが一番かな…」



淳兄はニコリと笑い、また俺の手を掴んで次は下へと持っていく。そして、淳兄のズボンの前でピタッと止まる。そこで俺は、淳兄のある部分が膨らんでいることに気づく。


「っ!?」


俺は、声を詰まらせ驚いた。それから淳兄は、そのままそこに俺の手を押し付けてきた。嘘だろ…。

「な、なにしてんだよ…っ!」


「なにって、ナニだけど?俺のもうこんなにガチガチで硬くなってるでしょ。何でこうなるか知ってる?…あぁズボン越しじゃなくて生で触ってほしくなってきた」

淳兄は、恐ろしい顔をしながら意味のわからないことを連発してくる。俺が何を言っても離してくれない淳兄。絶対、泣きたくねぇ…っ。そう思ってるのに涙腺が緩む。我慢していた涙が溢れ出そうになった時だった。


ーーードガンッ!!

ものすごく鈍い音が個室中に鳴り響く。

 そして……――――。



「…おい、岬に汚ねぇもん触らせてんじゃねぇよ」
 
聞こえた声に反射的に振り向くと…そこには、ありえない人が立っていた。俺は、幻覚でも見ているのかと疑ってしまう。






う、そ…。

なんで…大悟がここに…っ。





どうやら、さっきの鈍い音は、大悟がドアを蹴ったせいで取れた音だったみたいだった。


「…聞こえねぇの?岬にそんなもん触らせんな」


大悟は、不機嫌にドスのきいた低い声で淳兄を睨み付ける。幻覚なんかじゃない…本物の大悟だ。俺は、安心したかのようにすぅと涙が頬を伝った。



「今、お取り込み中なんだけたど、………何か用?」

淳兄は、邪魔されたことがイラついたようでキツい口調で大悟を睨み返す。淳兄の顔は、さっきまで俺に見せてた怖い表情が比じゃないくらい今のが倍、恐ろしかった。



ガンッー

その音と共に、血相を変えた大悟が淳兄をガシッと掴みかかっている。そのおかけで俺は、あっさりと淳兄から解放された。




「“俺の”岬を返してもらおうか」



大悟のその言葉に、淳兄の眉がピクリと動いた。



「…はっ?お前のだって…?笑わせんな、このクソガキ。誰がお前なんかに岬を渡すか」




「岬は、俺がいないとダメだからね。失せろケダモノ」



「ははっ、今思い出したよ。お前昔から岬にベタベタしていた幼なじみの害虫じゃねぇか」



淳兄は、笑いながら酷いことを言う。そんな淳兄に対して、大悟は軽く笑った。


「ふっ、俺にとっちゃテメェが害虫だけどな。」




でも目は、一ミリも笑っていないが。



ゴンッ


「っ!何すんだッ!!テメェ」

淳兄が悲痛な声を出す。





「岬を泣かせた罰と汚ねぇもん触らせた報いだ」



大悟の手には、拳が作られていた。殴ったのだろう。



「…チッ暴力ねぇ。お前相当狂ってるな」



淳兄は、殴られた箇所を拭い、睨みながらそう言った。


「それ、テメェが言えたことか」


「はっ俺は、狂ってねぇよ。ただ欲に忠実なだけ。」

 

淳兄は、意味不明なことを言う。…欲に忠実ってなんだよ。そう思った時、俺の体がふわっと持ち上がった。それは、世で言うお姫様抱っこというやつだった。 



「もう、テメェに何言っても無駄だ。この通り岬は俺のだから。返してもらう」


大悟の顔がこんなに近くに見える。


「…だ、大悟っ。お前、なんで…っ」


俺は、大悟に体を持ち上げられたと理解した。俺…昨日、大悟に酷いこと言って傷つけたのに…っ。


「それは、後で詳しく…ね」

大悟は、 にっこり笑う。そしてそのまま歩き出した。


「おい、待て……ブハッ」

淳兄が待てと言いかけた次の瞬間、大悟は、淳兄のお腹目掛けて巧みに蹴りを入れた。バタンと見事に淳兄は崩れ落ちた。大悟は、淳兄が倒れたのを見て



「ざまぁ」

そう言葉を吐いた。よく考えてみたら大悟の蹴りは、あのドアが壊れるくらいの力だ。それを淳兄のお腹にと思ったら少しゾッとした。大悟って本当…凄い。


「岬、大丈夫か…?」

眉を八の字に曲げながら心配そうに俺に問いかけた。俺は、コクンと頷く。今、声を発してしまえば変な声が出てしまうかもしれない。


「それならいいけど…。あっこれ被っとけ。…エロい顔してるから」

後半部分なんて言ったか聞こえなかったが大悟は、俺の顔を隠すようにパーカーを被せた。…もしかして、泣き顔を隠してくれてるのか…っ?大悟の優しさに感動した。俺は、今あのキャンディのせいで頭が上手く回ってないけどこれならわかる。




「大悟…っ。ありがとう…」

掠れた声でパーカー越しに礼を言う。


「…気にしなくていい。俺は、お前のヒーローかつ、王子だからどこでも助けにかけつけるよ。」


「ふっ…なんだそれ」


なんて、意味のわからない言葉がこんなにも温かく感じるのはなぜだろう。



―――――
―――――――
―――――――――


………。



「――…さき。岬?」



俺を呼ぶ声で、ハッと我に返る。


「だ、大悟…ここは?」

そう聞いたら持ち上げられていた体をゆっくりと降ろしてくれた。


「俺の部屋。…今日は誰もいないし気にするな」




「そっか…」

大悟の部屋…。久しぶりに入ったかも。相変わらずシンプルで綺麗な部屋。


「それより、岬。本当に大丈夫なのか?顔ものすごく紅くなってるしフラフラしてるぞ」 


そう言って、俺の頬に触れる。




「え…!?」

触れた瞬間、ビクッと反応してしまった。気のせいだと思いたいがさっきよりも身体が熱くなってる気がする。


「だ、大丈夫だ…っ」



くそ。まだあのキャンディ効いてんのかよっ。熱さが増してくる。俺は、少しでも涼しくなるようにウィッグを取った。それですぐ涼しくなるってもんじゃないけど、でもずっと被っておくのは嫌な気分しかしない。取ったウィッグを床にバサッと落とす。



「本当に大丈夫か?……岬、もしかして何か盛られただろ」

突然、大悟の顔つきが変わった。


「え…?」


盛られた?


「さっきのは、やっぱ気のせいじゃなかったんだな…くそッ」


大悟は、顎に手をつき何やら考え込んでるみたいだった。


「さ、さっきって…?」




俺は、大悟の言った意味がわからなくて聞いてみた。

「お前をおぶってここまで運んで来たんだ。そしたら当たったんだよ、岬のここ」

大悟が俺の股関を指差した。


「えっ!?」

「気のせいだと思ったが、いくらなんでもおかしすぎる」

イライラと怒ってる様子の大悟は今にも誰か殺せそうな勢いだった。そう、大悟から何やらただならぬ妖気みたいなのが感じられる。眉間にしわを寄せた顔は人を殺せそうなくらい怖いけれど、恐ろしいことにそんな殺人鬼みたいな顔をしていてもかっこよさが崩れないのだから、大悟という人はすごいと思う。 って、こういう時に俺は、何考えてんだ。つか。あぁ…やばい。視界がフラフラしてきた。さすがに、股間のこの膨らみはおかしいって気づくよな。


 「…アイツから何か貰って、口にしなかったか?」

未だに妖しい空気を纏いながら大悟はそう言った。く、口にしたもの…。確かに口にした。


「キャ、キャンディ…っ。なんか、媚薬とか言ってた…」


だから、こんなにも身体がおかしくなっている。



「なるほど、やっぱりな。…アイツ殺す」

 殺気を放ち、拳を作りながらどこかへ行こうとする大悟。え、どこに行くんだ…っ。ま、待って…。


「…んっ」

俺は、フラフラしながら、どこかへ行こうとする大悟の袖を掴む。なぜ、この行動に出たのか自分でもわからない。


「岬…?」

「お願い…。どこにも行かないで…」


ただ、一人にしないで。俺の身体…どうしちゃったんだろ。これほど、変な気分になるなんておかしいだろ…。熱くて、そう、かなり変…。


「た、助けて大悟…」 
 

もうダメだ。ぎゅっと後ろから大悟の腰に手を回す。こんな感じ初めてだ。苦しい。辛い。お願い、どこにも行くな…っ。助けて…。



「え、…ちょっ」

すると、クルッと大悟の体勢が変わり、ぎゅっと正面から抱き締めてきた。


「…今の言葉、取り消すとか無しだぞ」

そう言って、大悟は俺を軽々ベッドまで運び、そのまま、その上に下ろした。


「だ、大悟…っ?」

急なことに把握できなくて首を傾けてる。


「無意識に言ったと思うけど、俺は、全部本気で受けとるよ」


「え…?」


ドサッー

気づいたら、あっという間のうちに大悟が俺に跨がっていた。


「あと、岬がこんな状態になっているのにどこかに行くつもりなんてないよ。ただドアを閉めようとしただけ」




大悟は、軽く笑いながらドアの方を『あれあれ』と言いながら指差す。その方向を見ると、少し隙間があって、ドアは確かに開いていた。


「そ、そうだったのか…っ」

俺は、何を勘違いして…。急に恥ずかしくなり、大悟から目線を逸らす。


「……それに、急に後ろから抱きつくなんて反則」


「わ、悪かった…」



驚かせてしまったのかと思い、素直に謝る。そして忘れてくれと言いながら口を押さえた。 


「別に謝ることない。岬にあんな可愛いこと言われたんだ、俺が忘れるわけないだろ」



「んだよ…それっ」

可愛いことなんか別に言ってない。でも、恥ずかしい行動をしたことには間違いなくて俺の顔はきっと更に赤くなっているだろう。


「ちなみにもう我慢なんてできないから。岬が言ったんだからな」



「え?」



「おあずけとか無しってこと。岬、今日は泊まって行け。」




「は、おあずけ…っ?泊まる?」

急に話の展開が見えなくなってしまった。


「明日は日曜で学校は休みだ。…アイツに汚された部分、俺が綺麗にしてやる」




『今から助けてやるから大人しくしてろ』

と、耳元で囁かれ大悟は自分の羽織っていたパーカーを床に放り投げた。

きっと、さっき俺が『助けて』と言ったから大悟もそれに答えてそう言ったのだろうけど



「だ、大悟…っ?」

なぜ、俺が着ているワンピースを脱がそうとする必要があるっ!?そう、大悟は今ガバッとワンピースをめくっていた。おかげで中身は晒し放題。というか丸見えで筒抜け状態。


「ちょ、や、やめろ…っ。す、ストップ!!」

俺は、勢いよく前で手を交差させて、守るようにぎゅっとした。


「…岬?この手は何?」

にこ~と笑顔で言う大悟。違和感ありすぎで怖い。


「た、確かに助けてとは言ったけど…なぜ脱がそうとしてんの…っ?」


「なぜって…岬、今ものすごく熱いんでしょ?だからだよ」


「だ、だからってそこまでしなくても…ってうわっ!」


「チッ。こんな脱がしやすい格好しやがって」

舌打ちをしながら大悟の手は、俺の太ももに触れていた。


「そ、そんなとこ触るな…っ!」

ビクッと何か衝撃みたいのが身体中を駆け巡る。



 「…なんで?感じるから?」 


大悟は、嬉しそうにクスッと笑いながら言った。俺はもう、色々と絶えれなくなり、手で顔を隠すように覆った。 でもあっさりと大悟によって退かされる。


「自分が言った言葉に責任持たなくちゃダメだよ」

「は…っ?」


「岬はなにもしなくていいから…後は俺に任せろ」


「ちょ…っ」


「“ここ”ものすごく辛いだろ?」

大悟は、そう言いながら俺の膨れ上がっている中心部の方を触った。



「ッ!」

すると、またビクッとなる。

何とも言えない快楽。…これも全部キャンディのせいだよなっ…?



「怖かったら目を閉じとけ」



もう自分自身わからなくなり、大悟の言う通り、ぎゅっと目を瞑る。この変な感じから解放してくれるなら…早く助けてほしいっ。



「はぁ…っ」


息が漏れる。あのキャンディの効果が完全に効いているみたい。更に、身体がおかしくなってるから。…熱い。…なんか、もっと触って欲しいような感情が溢れ出てくる。


「岬…、そのまま俺に岬の綺麗な身体見せて」

そう甘く囁く大悟。こんな状況に俺は急に恥ずかしく感じ、目を開けてすぐに起き上がろうとしたが力に敵わず、



「大丈夫だから…」


と優しい声で大悟にそう言われて俺は何も言えなかった。ゆったりとした動作でワンピースを剥ぎ取られる。露になる肌。


「…っ」

大悟は、なぜか喉をゴクンと呑み込んだ。

と思ったら次の瞬間、


 「ひゃっ!…な、なに…っ?」

急な刺激に声をあげる。 だって、突然俺の胸にある突起を大悟が口に含んだのだから。


「大悟…っ、お前変だぞ…」


何で急に変なことするんだよ。



「変なのは岬だって同じでしょ」



「お、俺はキャンディのせいだっ」



大悟は、いつもと何か様子が違う。俺のためにしていることなのか…っ?


「それより、集中して…」


「ひっ…!」



大悟は、 片方の手で摘んだりしながら、唾液をたっぷりと絡め舌で舐め回す。また、人差し指や中指の腹で交互にいじくり回したりもする。な、なんだこれ…っ。考える時間さえ忘れてしまう。大悟が触れるその度に、ジワリと俺に言い知れない快感をもたらし、小さく体が震えた。



「やっ、…ふっ…ん」

声を我慢しようと両手で口に手を当てるが、さらりとした動作で大悟に退かされる。


「我慢しないで…いいよ。」


こんな自分じゃないような声…




「い、いやだ…」


は、恥ずかしいだろ…っ。俺は身をよじり逃れようとするが、大悟に腕を掴まれ引き戻され強く抱き締められた。


「…普段ならやめてるけど、可愛いお願いした岬が悪いよ」



「な、なんだよそれっ」



俺は、ただ助けてって言っただけで別に可愛い要素なんて1ミクロンもない。


「もう我慢できないって言ったでしょ。抵抗は禁止だから」




「ちょ、意味がわかっ…んぁ」



すると、首筋を舐められた。すぐに痺れるような感覚に襲われる。


「わかりやすく言うとエロい気分なの、俺。ものすごく岬に興奮してる」



「はっ…ぁッ」


次に耳元を舐める。興奮…っ?よくわからないけど、大悟を止めるすべが無さそうだ。


「…俺自身もうコントロールできない。それにしても、岬は温かいよね。赤ちゃんみたいだよ…」




大悟は、優しい眼差しでビクビクと震えて反応する俺の頬に手を添えたあと、


 
「やっ…、あぁ……んっ」


大悟は片手で胸をいじりながら、もう一方の手はパンツ越しに俺のものに触れていた。


「あ…っ」

急に大悟がまたも変なとこを触るから声を上げてしまった。


「反応、可愛い。もしかして、ここは自分であまり弄ってないんだね」


大悟はクスッと嬉しそうに笑う。



「そんなの…」


当たり前だろ…っ。何を言わせるんだ。



「嬉しいな…」

俺の中心部分をいやらしく触りながら言う。 羞恥に頬を染めた俺に、にこりと笑うと、俺のものを始めはゆっくりとした動作で、それから徐々に激しく扱いていった。


「ちょ…っ…あ、大悟ッ」



「ああ、岬。もっと俺の名前を呼んで…」




パンツ越しというのに、なんか、ぐちゅぐちゅとした水音が部屋の中に響いた。



「はぁ…っ」


「…岬」



朦朧としている意識の中、大悟の顔が近づいてきた。


「……んっ」


そしたら、大悟が俺に噛みつくように口付けをしていた。なぜ、キスされてるかわからなかった。俺に添えられた手は更に激しく扱われ、もう少しでやばいというところで手を離された。俺は一瞬ほっとしたものの、下にあるものは熱を持ったままで落ち着かなかった。…まだ熱いっ。


「岬。ごめんね、これ邪魔だから脱がすよ」


大悟が言ったこれとは、パンツのことだった。


「え、ちょ…っ待って…!」



そう止めに入ったがもう手遅れだった。大悟は、素早く俺のパンツを下げやがった。そして、ゴクンとまた息を呑み込んで頬を少し赤く染める。




「…お前、本当に男かよ」

俺のをまじまじと見ながらそう、ぽつりと呟く。


「…な、何、やってんだ…!見せもんじゃないんだぞ…バカ野郎っ」



てか、勝手に脱がすんじゃねぇよ…変態かっ。それに俺はれっきとした男だ。人のものを見ておきながらよく、そんなことが言えたな。悔しさと羞恥さを持った俺は、涙目になりながらも反撃するように睨んだ。




「それ睨んでるうちに入らないよ」



「な、なに…っ!?」

睨んだつもりなのに、違うと言うような感じでこうもあっさり跳ね返されることに少しムカついた。


「…まったく乳首もここもピンク色とかガキかよ」


「ガ、ガキ…!?」


しかもピンクって…


「目のやり場に困るくらい、すっごい可愛い」


恍惚とした表情で俺を見てくる。く~~っ!絶対、バカにしてる。


「こ、子供扱いすんじゃねぇ…っ」


ギリッと奥歯を噛みしめ、言い張った。

「ふ~ん、そっか。…じゃあ、大人扱いしてあげる」


その言葉を待っていたかのように大悟は、ニッと笑った。


「ちょ…待っん」


俺の胸に大悟の舌が再度触れる。そして、徐々に下腹部に移り、俺自身でも余り触らない部分にたどり着いた。大人扱いがこれ…っ?どう見てもおかしくないか!?


「だ、大悟…っんふ」

俺の反応を確認するように、上目づかいで見た後、不適な微笑みを浮かべ、口に含んだ。


「ッ!」


う、嘘だろ…。大悟が俺のものをくわえていた。


「や、やめ、ろぉ…っ」


今まで感じたことのない感覚に俺は羞恥を感じることを忘れ、ただ喘ぐことしかできなかった。





「…やぁん、」

大悟は俺の行動を弄ぶように、時に舌で尿道つついたり、時に口をすぼめたりして上下に動かした。



「も、無理…やっ…ん」




熱い粘膜に覆われ、心とは反対に俺のものは熱を強くした。やばい…漏れそう。身体の底から疼く。


「だ、大悟…そ、の放せ…っ」



そう言ったが、大悟はそこを放さない。う、嘘だろ…もう我慢なんて俺には。


「クッ!…んぁっ」



もう無理…っ。限界な俺は快楽と焦燥感とともに体の力が抜け、いつしか抵抗するのも忘れていた。何も考えられない…。大悟の口内ではじけてしまった。


「ハァハァ…っ」


少し熱が引き、さっきよりだいぶ、気分が良くなった気がした。大悟はまだ俺のをくわえたまま出したものをゴクリと飲み込んだ。



「お、おい大悟っ!お前嘘だろ…いくら大人扱いするつっても、そんなの飲むなんて…」

でも俺が我慢できなくて小便を漏らしてしまったことにはかわりなくて。これはもう羞恥を越える域だ。



「…甘くて、美味しかったよ」

大悟は口元に手を当て、目を細めて笑った。何、笑えない冗談を言ってるんだと思ったら、目線が下に向いた。



「っ!?」


俺は、目を丸くさせ驚く。え、嘘…だ、ろ。だって、俺の先から白い液体が出ていたのだから…。なにこれっ、しょ、小便じゃなかったのか…?訳がわからなくなり混乱する。待って俺…まさか病気なのか?考え出たのがそれだった。驚きで声も出なく、頭が整理つかなくて俺は、そのまま気を失ってしまった。



――――――
――――――――
――――――――――


………。



チュンチュン――。

小鳥が鳴く声。




そして、カーテンの隙間から射し込む光。





「うーん…」


欠伸をしながら目を覚ます。





「…ん?」



まだ半分しか開いていない目から怪しげに、にこ~っとしている大悟の姿が見えた。…何で、俺の部屋に大悟がいるんだ?またなんかの悪い夢を見ているのだと思い、再び目を閉じて眠った。

だが。



「岬、寝ぼけてないで起きろ」

ガシッと体を揺すられて、はっきり声が聞こえたため俺は、一気に目を覚ました。どうやら、現実(本物)のようだ。



「おはよう、岬」


俺の顔を覗きながら、ひとことあいさつする。




「あぁ、おはよ…。てか、何で大悟がいるんだ?」


なぜ?と言いながら首を傾ける。そしたら、大悟は深いため息を溢す。


「はぁ寝ぼけるのもいい加減にしろよ。…昨日のこと覚えてないのか?」


「昨日…?」


俺は、まだ働いてない頭を動かせ、昨日のことを思い出す。昨日?昨日って何してたっけ…確か…うっ!!ガッと、昨日の記憶が甦ってきた。そ、そうだ…。俺は、大変重要なことを忘れていたみたいだ。思い出すと同時にみるみると顔に熱が帯びていく。てか、ここをよく見れば俺の部屋じゃない。道理で、起きたとき天井に『But, my heart is strong』が書かれているポスターがないはずだ。しかも堂々とベッドの上で寝ちゃってたよ。戸惑いと焦りを隠せない俺を見て、満足そうな表情を浮かべる大悟。


「その様子だと思い出したみたいだね…顔真っ赤だし」

人の顔を伺ってクスッと笑う。


「~~っ」



昨日、俺にあんなことしといてよくそんな平然のままでいられるな。おかげで、こっちは…。


「っ」

ふいっと視線を逸らす。目も合わせられねぇじゃねぇか…。逸らしたら、すぐにガッと顔を左右から掴まれる。途端に大悟の口元がドアップで映し出された。

っ!!き、昨日この口で俺のを…。

急に変なことを思い出し、また、視線が合わすことができず、掴まれながらも目だけ違うところに視線を向ける。朝から心臓に悪いぞ…。そんな俺の様子に怪訝の表情を浮かべる大悟。




「何で目。合わせないの?」



「な、なんでって…そりゃあ」

い、言えるかっ!!


「…あーよしよし。やっと俺を意識し始めたか」


途端に嬉しそうな顔をし、最後、何て言ったか聞こえなかったがなぜか頭を撫でられている。


「ちょっ、やめて」


俺は、大悟の手を退かそうと頭を振る。まったく、髪がぐちゃぐちゃになんだろ…。まぁ、すでに寝癖はあるが。それでも大悟は、撫でるのを止めず今もにこにことしていた。もう俺は諦めて、布団から出た。


ん?


「な、なんだこれ…」




「なにって、それ俺のワイシャツ」



自慢げに大悟が答える。えっちょっと、待って。なぜ俺は、お前のワイシャツを着ている?しかもムカつくことにワイシャツぶかぶかなんだが…。袖から手が出てない。大悟め…自分が成長しているのをいちいちアピールすんな。お、俺だってあと半年したら大きくなるんだぞ。ちょっと強がってみた。 はぁ、嫌味か、本当…。ってはっ!?目線を下に向けたとき、俺は、また驚かさせられる。


「…こ、これはいくらなんでもないぜ、大悟くん」


これは本当にない。なぜ、ワイシャツだけ着て、ズボンはいてないんだ。

「あー、一度はこうゆうのしてみたかったんだよね。それにサイズ大きくて下見えないでしょ」




「……」



呆れてものも言えない。下見えないとか問題じゃないだろ…。中途半端だ。面白がってるな、これは。


「あのさ、いくらしてみたかったって言ってたって…俺で試さないでくれる?」

下パンツだけって。お願いだから俺を変態にさせないでくれ。 

「なに言ってんの、岬だからしてみたかったんだよ。」



な に そ れ。

あぁ、やだやだ。鳥肌が立ってしまったじゃねーか。


「言っとくけど、勝手に寝ちゃう岬が悪いんだよ」



大悟は、いかにも自分が正論だみたいな口調だった。…ん?そういや、なんで、俺、すぐ寝たんだっけ。昨日の記憶が少しうろ覚え状態にある。まだ起きたばっかりっていうのもあるが頭が回らない。




うーんと、考えていると、



あっ。


お、思い出した…。

いや、思い出してしまった。

一番、肝心なことを忘れていたかもしれない。思い出したくもなかったが重要なことだ。





「な、なぁ…だ、大悟…」


俺は、ぎゅっと布団を掴み顔を俯けた。




「どうした?急にあらたまって」


俺の様子が変わったのを不思議に思ったのか大悟は、ベッドの横に座って耳を傾けてくる。きゅ、急にだけど相談してもいいのかな…。

「お、俺さ…病気なのかな?」

そう告げた途端すぐさま、はっ?と拍子抜けする大悟。


「だ、だって、大悟も昨日見ただろ!?お、俺の…その、あそこから…白い液体みたいのが…出たの…」



確かに大悟は、見てたはずだ。普通は、おかしいと思うだろ?こんなの初めてだ。はぁ…っ俺、きっと病気だ。ぐすっと、自然に涙が出てきた。すると、大悟が俺の頭を撫で始める。んだよ…励ましのつもりなのか?もっと辛くなるわ…。


「ほんと、岬って…」


大悟は、口を押さえながらクスッと笑う。



っ!?



「な、なんで笑うんだよ!こっちは、真剣なんだぞ!?」



「ごめんごめん。岬、それは病気じゃないよ」




「えっ」



間抜けな声が出た。耳を疑ってしまった。

い、今の…まじ!?




「ほ、ほんとなのか!?」

嘘か本当か判断できず、半信半疑な状態になった。




「うん。そうだよ」



大悟の口振りは、嘘をついてるようには見えなかった。その様子に肩の荷が下りる。


「よ、よかった…。俺まじヤバイと思った…」




なんだ…、病気じゃないのか。じゃあ、あれは一体何だったんだ?でもひとまず、よかったとホッと安心する。



「なぁ、それなら俺だけじゃないよな?大悟も同じ経験ある?」



そこんとこ、ちゃんと確認しとかないと。だってもし俺だけだったら、ちょっと怖いし。


「俺は、岬のこと想ってるだけでいつも出るよ」


なんとも言えないエロい声で俺の耳元に囁いた。


お、俺?

なんで俺なんだよ。


「な、なにそれ」



若干…いや、かなり顔を引きつった。反応に困る。あと耳元で囁くな、俺、結構耳弱いんだ…まったくもう。


「夜のオカズみたいな」


大悟は、サラッと訳のわからないことを言う。



…オカズ?




「意味わかんねぇ」


話の内容が噛み合わないとはこのことだな。さっぱりで首を傾げることしかできない。




「まぁとりあえず、岬も俺だけの前でしか出したらだめだよってこと」

なぜか、そう雑にまとめて大悟は念をおしてくる。


「そういうきまりでもあるのか?」

俺がそう聞いたら、




「…そうだよ」


と大悟は、少し間をあけて答えた。んだ、その間は。でもそういうきまりがあるみたいだ。そんなの初知り…。


「へぇー、そうなんだ」


嘘っぽいけどな。



「信じてないみたいだけど、じゃないと病気になるから。(ごめん、嘘)」


俺の肩に手を置きながら真剣な顔で言う。




「ヒィっ!ま、マジかよ!!」


また恐怖が振り返す。う、嘘だろ…。俺は、またゾッとして体が固まる。…副声音で何か聞こえたが気のせいだよな?と、とりあえず、誰の前でもあんなの出さなければいい話だよな?そう、今まで通りみたいに。それに、人のものを口に含むとか汚いだろ。なに考えてんだか本当想像できない。



「もう、あんなことすんなよ」

念のために言っておく。




「あんなことって?」


大悟は、面白そうにニヤリと笑みを浮かべる。なに。その、いかにも知らないよみたいな顔は。




「知ってるくせにいちいち聞いてくんな。…わ、わかったな?絶対にやめろよ」


少し躓いたがちゃんと言わないと、大悟は、同じことをする習性がある。だから気を付けないといけない。


「なにそのもっとしてみたいな」



「はぁ!?バカかお前は」


人の話をどう解析してそうなった。もう呆れてため息を溢す。




「ぜひ、大悟の脳内を覗かせてくださいってくらいだ」

きっと、精神年齢は3才とかだろ。




「なに可愛いこと言ってんの。覗いても、岬だけしか映ってないよ」



さも当然かのように答える。



「可愛いもくそもあるか。やっぱ、お前お母さんみたいだな」


いろいろと通じないことが発覚した。それを聞いた大悟は『お、お母さんかぁ…』とぶつぶつ言いながらガクリと残念そうに肩を下ろしていた。一体何を落ち込んでるんだ…。理解不能だな。


「俺、つくづく可哀想だと思う」

口を開いた途端に大悟は、そう言う。


「急にどうした」

「あぁこれは逆に尊敬してほしいレベル。いや、もう…その域を超えてるな」


大悟は、うんうんと頷いて、一人納得している。うん。見るからに変だ。



「だからどうした?」



把握できないし、大悟がおかしくなった理由が知りたい。だから俺は、大悟の顔を覗きながら聞いてみた。

それにすぐさま反撃するかのように



「他人事じゃねぇぞ、岬。昨日おあずけされてた上に、岬は、自分だけ気持ちよくなって寝るんだもん」



「は?」




「分かりやすく例えると、一匹の犬がいるとします。その犬の飼い主は、散歩もしてあげなければ、何のご褒美もあげません。まさにそうおあずけ状態、…どう思う?」



えっ。例えでも、急に飼い主と犬の話聞かされても思うことはただあれだ。


「ひでぇ話だな。おあずけなんて」



どう思う?って言うから俺は、素直な感想を述べた。だって、どう見ても犬の立場が可哀想だ。


「まぁ、それ岬が言えたことじゃないけどね」

と、すぐに突っ込まれる。ん?ということは、俺がその飼い主と同じだって言いたいのか…?



「俺、犬なんて飼ってないけど…。え?なに、それとも…今の悪口だったりする?!」


一瞬、ハッとなった。本人の前で堂々と…っ。いや、待て…それは違うよな。だって、ちゃんと例え話って言ってたし。俺、まずは落ち着け。その直後に、大悟は呆れた顔になる。


「全く岬は…。悪口じゃないよ。…でもまぁ、おあずけされたけど岬のカラダ洗えたし」



「えっ」


俺は、耳を疑った。

…体を洗っただと?




「さすがにあのままだったらやばいでしょ」


俺は、クンクンと嗅ぐ。道理で俺の体から大悟と同じ匂いがすると思ったら…そういうことか。


「つ、つまり一緒にお風呂に入ったってことか…?」



「そうだよ。まぁ湯船に浸かってなんてことはできなかったけど、とりあえず岬だけは、じっくり隅から隅までキレイにしてあげたよ」



「ス、スミ、スミからって…スっ」



「なんでそんな動揺してんの?」


さっきまで別に男同士だからいいやと軽く思っていたけど隅々までって…しかも




「だだだって、そんな!!は、裸だし」




「何を今更ー…俺たちそういう仲じゃん」



大悟は、何かおかしいか?とでも言いたそうだった。…た、確かに小さい頃とか一緒に毎日って言っていいほど風呂に入ってた(いや、大悟が勝手に入ってきた)けど俺の意識がないときによくそんなこと…。変なことされた挙げ句、体を隅々まで洗われるなんて…なんと言う屈辱。


「俺、もう頭痛い」

そう、何も考えたくない。


「なに昨日の媚薬まだ効いてんのか?」



「んっ!?いやいや!効いてないから!!大丈夫」




俺は、自分の体を守るように前で手を交差させる。頭痛いって言っただけでなんでそうなるだ…。油断も隙もねぇ。それに、また何か変なことされたらひとたまりもない。すると、大悟の様子が一変する。


「…ところで岬。俺に何か言うことない?」




「え?」

大悟の顔を見ると、さっきまで見せていた笑顔がなくなり、今から説教しますみたいな例の大悟の顔になっていた。…俺、大悟に言うことなんて、なんかあったっけ?

心当たりがない。でも、なんかまずい気もする。それよりも今、なんだか怒っているような顔をしている大悟の前では、俺も少し真面目な顔をしたほうがいいんだろうか。別に怒られるようなことをした覚えはないけど。これから雷が落ちそうな雰囲気は漂っている。

「あ、あのさ…なんか怒ってるの?」


「いいや」


とても、いいや。という顔ではないと思うのだが、つっこんでさらに怖い顔をされても嫌なので、そうかーと肯いてひとまず大悟の機嫌は横に置いておくとする。でもちょっと気になったことがひとつ。



「じゃあさあ、なんであっちの方こんなに荒れてるの?とか、聞いてもいい?」

俺は、机の方を指差す。昨日は気づかなかったがよく見たら見えないところが荒れている。俺の言葉に一瞬だけ眉間のしわを寄せた大悟。



「それは、別として、…昨日なんであんなとこにいた?」



 
「え」



直球でそう言われた。

も、もしかして不機嫌な理由はそれ!?





「岬?」

うわ、にこ~って笑ってる。これは、いつもの大悟の怪しい笑みだ。

「そ、それは」


やばい。

今さら言い訳してもダメだ。だって、俺は女装していたんだ。たまたまにそこに行ったって言った。俺の趣味が疑われる。ここは、話をかえた方がいい気がした。


「そ、そういえば大悟に言わないといけないことがあるんだ…」



俺は、大事なことを忘れていた。大悟だって人間だ。誰だって傷つくことはある。あの時、俺が言った言葉に多分、大悟を傷つけた。


「なに?」


「俺、大悟には、関係ないって言って…傷つけた。本当にごめん。俺もそれ大悟に言われたらかなりへこむかも」



頭を下げる。これがすぐに謝りたかった。大悟は、あぁ、あのことかと言った表情を浮かべる。一方的だったけど、ケンカみたいなのは嫌なんだ。俺は、 うつむけてた顔を恐る恐る上げる。



「あーもう、調子狂うよね。…ほんと岬はずるいわ」



ため息を溢し、俺をずるいと言う。もしかして、反省していないように見えたのか?



「待って本当に、悪いと思ってるからっ!」


大悟の片手を手にとって両手で握る。少しシュンとなった。そして信じてくれ、握りながら目で訴えた。…あの時、大悟が帰ったあと夜ぐっすり眠れなかった。これからは発言に気をつけたいと思う。だって、親しき仲にも礼儀ありだもんな。


「…あー、まったく。そういうのがずるいんだって…」


大悟は、少し頬の方を赤く染め、俺が握ってる手ではない方のもう一方の手で口元を軽く押さえていた。


「え?」


きっと俺は、間抜けな顔でもしているのだろう。


なに、そのずるいって…。俺の必死さが伝わってないとか?すると、大悟は、息を吐いて口を開いた。


「謝るなら俺の方だよ。…だけど、岬は知ってるよね、俺がどれだけ独占欲強くて嫉妬深いこととか」



ギラッと目が光る。ん…?少し空気が変わった。……な、なんと答えればいいのでしょうか。

独占欲強くて…嫉妬深いことはいまいちハテナだが



「うん。まぁ…お前過保護だもんな」


これくらいしかわかっていない。だって『お前は俺の親かよ』ってツッコミたくなる要素が数えきれない程あるんだ。


「過保護?…合ってるけど、何でその言葉しかわからないんだ」



と、大悟は首を横に振りながらやれやれとものすごく呆れた顔で言った。


「っ、俺をバカにしてんのか」


ムッとなる。べ、別に独占欲とか嫉妬深いって言葉くらい知ってるし。あ、あえて言ってないんだよ、バーカ、バーカ。心の中で、そう言ったって大悟には届かないけど。


「全く岬は…。一応言うけど、俺、岬と口が聞けなったら、ものすごく耐えられない。あのときは後悔した。すぐ会いたくなって声も聞きくなった」



「え」



「だから抑えられなくて、まあ…ちょっと部屋を荒らした」

さっき俺が指摘したあの荒れ具合は、なるほどそういうことか。でも何で? 


「そんなに俺のこと思ってくれてたの?」

俺は、てっきり理解力のないミジンコ以下の存在にされると思っていたよ。でも今の話を聞けば、そうじゃないよな…?



「俺は、岬を毎日想っているよ」


目を逸らすことを許さないかのような真剣な顔。


とりあえず、

「あ、…ありがとう?」



なんか、本当に大悟は世話好きなんだな…。改めてそう思った。


「岬は?」


不意打ちにそう言う。



「俺?」



俺は…




「夜も寝れないくらいお前のこと考えてた」


どうやって、許してもらえるのかなってずっとそのことで頭がいっぱいだった。だから、 ホストクラブでケーキを食べ終えたら速攻で大悟の家に行くと決めたんだ。 だけど結果、逆に迎えられちゃったけど。


すると大悟は、嬉しそうに

「岬っ!」


ギュッと俺を抱き締めた。





「な、なに…?」

抱き締める力が強くて息がしにくい。


「岬は時に恐ろしいこと言うよね」



少し力を弱めて、俺の耳元の近くで囁く。





「お、お前ほどでもにないよ」


俺は、ははっと苦笑いを浮かべた。恐ろしいのは、大悟の方が上だよ、上。俺は到底、敵わない。何おかしいこと言ってんだと俺は、顔を引きつらせた。


「で、話は逸れたがまだ解決してないことあるよね?」


にっこりと俺から離れ、早く言えと言わんばかりに腕を組む大悟。きたよ、また嵐が。 


 
「で、でも関係ないって言わせたの大悟にも非はあるんだからな。だって、ここ噛んだし」 
 
俺は、首の方を指差し話をどうにかして引き戻す。あれは、痛かった。


「話変えるの上手いね」


「うっ」


気づかれてたのかよ。汗が垂れる。

「でも答えてあげる。岬が答えたあとにね」

絶対、俺に言わす気の大悟。どうも隠し事は無理みたいだ。


「…わかった。もう正直に話すからそんな睨むなって」

俺は、折れて昼休み俺が戻るのが遅かったことと、香水の匂いのことそれからホストクラブに行ったことなど全てを話した。あの時、隠し事はしてないって嘘をついたのは謝る。確かに嘘をつくのは、基本的には悪いことだが場合によっては、本当のことを言うよりも嘘を言ったほうがスムーズに行くことがある。そう、あれだ。嘘も方便。嘘をつくことは悪いことだが、時と場合によっては必要なこともあるということ!俺は、別に悪くない!ちゃんと、言い終えた後大悟の顔を伺うと非常に険しく曇っていた。


な、なんだ…よ、別に俺は、悪くないぞ。そ、そうだよな?悪くないよ……な?何かちょっと怖くなってきた。不安と焦りで俺の体は徐々に強ばっていく。


「なるほどな。やっぱりそういうことか」

大悟の声は、あまりにも低くて俺自身、少しビクッとなった。ちょっと…というかかなり不機嫌、うん。嘘ついたこと…やっぱ、怒ってるよな。これはどう見ても。でも、それも覚悟でちゃんと話した俺偉くね!?などと、可哀想なことに自分を褒めている時だった。



「…チッ、許せないな」

大悟は舌打ちをし、小さい声で言った。ちょ、大悟さん。完全に聞こえておりますよ。


「ご、ごめんな…その、」



これ以上、怒らせてたらダメだ。やばい。死ぬ俺。生きたい。絶対、負ける。そんなの嫌なので速攻で謝る選択肢を選んだ。



「まさか堂々と浮気するなんて考えてもみなかった。油断できない」




え。浮気?

…な、なんじゃそりゃ。



「そもそも付き合ってねーだろ。それに俺たちは男同士だろ?おかしなこと言うな。ツッコミきれない」



全く、大悟はたまに馬鹿なボケ方するんだよな。苦労しちゃうぜ。ふぅと、かっこつけながら息を吐いた。


「何その仕草。かわいい」



「は?」


ちょ、そこは、カッコいいと言いたまえ。急に何を言うんだ。


「あ、それと岬。俺、ボケてるとかじゃなくて本気だから」


「なんだ。心読めるのか」


「大体は」



「嘘つけ」

もしそうだったら、今まで心の中で悪態ついてたのバレバレだったというわけで怖いわ。つか、本気ってどういう意味だ。まぁ、いっか。別に大したことではないだろう。


「…なぁ、岬」

「んー?」

 
「俺は、岬が心配なんだ…。頼むから離れないで」


大悟は、俺の両肩に手を置いて顔をうつ向けた。


「だ、大悟…」



そんなに俺のこと心配してたのかよ…。



「大悟、ごめん。それとありがと…。で、でもこれでアイツ(翼先輩)に命令されることはもうないのだ~」


解放!!と言いながら両手を上に広げるポーズをしたけど大悟は無反応。え、。ちょっ、そんな反応とられると俺、完璧、変な人扱いじゃん。…ちょっと泣けてきた。少しでも心配させまいと、明るくボケた俺の身にもなって。しくしくと泣いたふりをする。大悟は、子供をあやすようによしよしと俺の頭を撫でた。…悪意を感じる。


「 あと、合気道や護身術とかも習えよ」

「あ、あぁ…」


合気道や…護身術ね…。昨日のことで軽く淳兄がトラウマになった。今までにあんな怖い淳兄、初めて見た。思い出しただけでも、少し震えてしまう。自分でも思うほど、力が出なかった。




「なんつって…合気道とか習わなくても俺が守ってやるけどな」



 
「え…?」
 


ドキッ。


大悟は、柔らかな笑顔で俺を真っ直ぐに見つめた。不覚にも、ドキッとしてしまった。



「これからも、俺を頼れ。その方が俺も嬉しいから。…ん?どうした?固まっちゃって…もしかして俺にときめいた?」




「は、はぁ!?う、うっせぇ!」

慌てて口元を手の甲で押さえながら、視線を逸らした。そしたら、俺の反応を見て大悟は、クスクスと笑っていた。く、くそ…っ。何なんだ、全く。べ、別に、嬉しいなんて思ってないぞ…。ホッとなんか、これっぽっちもしてないし。うんうんと、心の中で頷く。


「こ、これから鍛えるから、別にいいし」


「強がらなくても大丈夫だよ」


「ば、ばかやろ…う」


大悟にしては、優しすぎるだろ…。いやいや、考えてみると今までの大悟だって優しかったな。…ま、時に怖い要素もあるが。すると、真正面からぎゅって抱き締めれる。




「うわっ。きゅ、急に何…っ?」

突然のあまり、びっくりしてしまった。


「これ以上、岬を見ていたらいろいろやばくなるから抱き締めてみた」




「なんだ、それ…」


け、貶されているのか…?



「あぁ、岬…本当いい匂いする」


「おい嗅ぐな、アホ」

堪ったもんじゃねぇ。




「岬って…犬みたい」



「はぁ!?」


いや、どちらかというと犬っぽいのはそっちなんだけど。だって、勝手にクンクンと人の匂い嗅ぐし。


「あ、犬って言っても小型の方のだけど」



「嫌みか!!」




「俺のもの」



「ジャイアンか。離れろ」


ペット扱いか、コラ。





「やだ」








何だ?甘えたい時期なのか?ったく、もう…調子狂うわ…。大悟は離さないように、より強く俺を抱き締める。


「ちょ、苦しいわ!!殺す気かよ」




息苦しくなったので、大悟を押し退ける。あ、あぶねぇ…。新手の殺人計画にはそうは簡単に引っ掛からねーぜ。



「ちぇっ、もうちょい俺の胸の中に閉じ込めておきたかった」




「何その、プチ監禁」


怖いわ。なぜか大悟は、それにツボったらしく大笑い。普通、それだけで抱腹絶倒…するか?大袈裟だろ。

 
「あ、そうそう。俺、大悟に聞きたいことがあったんだ」



「んー?なんだ」

くそ、まだ笑ってやがる。いいや、無視だ。無視。


「お前って本当すごいよな」


俺がそう言った瞬間、大悟はキョトンとなったがすぐに『何を今さら?』という表情したので少しムカついたが話を続けた。

「よく俺があんなとこにいるってわかったよな」

ホストクラブなんて、なぜ都合よく助けに来られたんだと不思議に思った。お前は超能力者か。



「あー、あれか。でも言ってなかったっけ?」


「何を?」


「岬のことなら何でも知ってるよ、って言いたいところだが」



「うん。そんなのいいから、で?」




「冷たいな…まぁいいや。岬の家でケンカした時、俺が岬の携帯取り上げたときあったよね?」



「え?…あ、あぁ」

あの時か…。確かに、途中取り上げられたのは覚えてる。『お仕置き』の意味を調べていた時だろ?でも、それとどう関係するんだ?



「岬どこでもフラフラと行っちゃうから、その時、念のためにGPS機能をちょっといじった」



「はっ?」



じーぴーえす…だと?待って待って。そんなさらっと言うことじゃないだろ。俺は、固まった。やがて、覚悟を決めたように話始めた。
 

「GPSを使って、それで岬の現在地がわかった。でも驚いたよ、だってそこが家ではなくてホストクラブだったから。慌てて来たよ」


「俺が驚いたわ」


無意識に言ってしまった。今の発言を聞いて俺の方がびっくり。でも、そのおかげで助かったことにはかわりない。


「もう…あーいうところに行くなよ。俺の心臓もたないから」



大悟は、心配そうに俺を見つめ手を握った。俺は思いっきり首を縦に振った。


「岬には俺がついてるし」


「あ、ああ…」


その言葉は俺の中で何回も何回も響く。自分の弱さに困惑しながら俺は、急に何か恥ずかしくなって布団に顔を埋めた。




「また寝るのか?」


クスっと笑み溢し呆れた大悟の声。そして、大悟の手が俺に触れる。安心感を持たせてくるのは、髪を撫でるその手の優しさだった。弱くてもいいような…そんな気持ちにさせてくれた。


――――――
――――――――
――――――――――


……。



「うわっ!やべ。いつの間にか寝すぎてた」



ハッと、勢いよく目が覚めた。つい、ぐっすりまた寝ちまってた…。


「あー。岬、もう起きちゃったか」


と、大悟はこっちを見ながら残念そうな顔をして『もうちょい、寝顔見たかった』とハート付きで言うが無視。ずっと、見てたのかよ。俺の寝顔、そんなに面白かったのか?おまけに、携帯を構えていた。こいつ、勝手に人の許可なく写しやがったな…。きっと、これをネタして笑ってやがるんだ。あー、まじ遠い目。って。それは置いて…


「昨日家に連絡すんの忘れてた…」


きっと、心配してるな…。ガクリと肩を下ろす。なんて、言い訳しようか…。




「それなら大丈夫、心配するな。俺がしといたから。…そしたら、おばさんに快く岬をお願いしますって言われたよ」


「お前、本当ウチの母さんの前では良い子ちゃんだよな。まっ、でもおかげで言い訳考えずに済んだ。連絡さんきゅ」


へっへっへっ。

いつか、母さんの前で化けの皮剥がすけどな。




「だって、将来岬を嫁にもらうんだしイイ顔しなきゃ」




「は?まだそんなこと言ってんのか。あーもう、俺帰る。お前に付き合ってらんね」




「え、まさかその格好で帰るの?(笑)」


その格好というのは、あー、これか。ワイシャツ一枚に、下パンツだけの格好。


「(笑)じゃねーよ。いいもん別に結構家近いし」




隠れていけば、何とかなるし。変質者に思われて通報されてもそん時は大悟のせいにするから怖くない。

「は?そんなの俺が許すはずないでしょ」


「なんで」



なぜ、睨む。


「ただえさえ、他の誰の目にも岬を映させなくないのに、それも素足丸見え状態で食べてくださいみたいな格好を見せるとか絶対許せない。むかつく。想像しただけで腹立つ」


「じゃあ、かわりの貸せ」


大悟の声がうるさくて話をほぼ聞かず耳を塞いでた。それから、ちゃんとした服を渡されて着替えた。…着替える最中ずっと、超ガン見されてたけど。


「あ、それ、俺の小学生の頃の服だけど大丈夫か?」


「いちいちそんな報告いらないから、大丈夫だ」

絶対、大袈裟に言ってるだろ。小学の頃の大悟とサイズが今の俺と一緒なんてそんなの信じない。


「ははっ。岬は、可愛いな」



ポンポンと頭を撫でられる。




「か、かっこいいと言え!」

 長年一緒にいるせいかイラつかせるのが得意みたいだ。

「ん~?今なんて言った?」


「嘘です。ごめんなさい。俺は、ミジンコです」


やはり、大悟の黒い笑みには敵わない。ワロタ。ミジンコでおk。そのあと、また礼を言ってそのまま家に帰った。嫌だ、と言ったけど大悟が俺んちまで送ってくれた。


「岬。」

「ん?」

家に入ろうとした寸前に急に呼び止められた。


「…さよならのチューは?」



「するかっ!」

あまりにもしょうもないこと言うからバンッと玄関の扉を閉めた。


…なのに、こんなにドキドキするのはなんでだ?玄関の扉に背中をつけ、もたれながらそのまま腰を下ろす。そして自分で胸ぐらクシャと鷲掴みした。


なにこれ…超ドキドキしてるじゃん。手から伝わったきた自分の鼓動のはやさに驚く。い、意味わかんね…。とりあえず、いろいろ合ったから疲れてんだろうなと思い、リビングにいた母さんに声をかけた後、自分の部屋に直行して休むことにした。



―――――

―――――――

―――――――――

……。




「ふぁ~…」

何回目の欠伸かわからない。




「岬ちゃん、ずっと欠伸ばっかりしているね。寝不足?」


ただ今、学校の休み時間。前の席に座っている金太郎がこっちに体を向けて話しかけてくる。昨日はあまり寝付けなかった。なので、おかげで欠伸が止まらない。


「ただの寝不足」

と、素っ気なく返事をして俺は寝る体勢に入った。


「寝不足かー。なら、子守歌でも歌ってあげようか?」




「そういうの大丈夫」

すぐさま、拒否しといた。子守歌とか堪ったもんじゃない。静かにしてほしい。


「岬、また寝てたら怒られるぞ」



「えー、今は休み時間だからいいじゃんかー…」




大悟までも俺が寝るのを邪魔する。寝不足なのに…。実はさっきの授業の時、爆睡してたので先生に注意された。そういや、俺一度寝たら起きないんだよな…。一応、反省はしている…。なんて、のんきに考えながらも偉いことに寝るのを我慢した。

そして、今。

「姫ーーー!待って!!なんで、逃げるの!?」




なぜ、こうなっている…!?昼休み、トイレを済ませて出たらこのありさま。翼先輩が、すごい形相で走ってきた。俺は、もう関わりたくないので逃げている最中。


「なんで、逃げるの?避けないでよ。俺なんかしたー!?」

後ろから大声でそう聞こえるがお前が昨日、ホストクラブに連れていったせいで俺は、酷い目に合ったんだからな。もうこれ以上、関わるのはごめんだ。さっきから、かれこれ走っていたせいかそろそろ体力が…。普通に息が吸いたくなってきた。…やばい、もう限界だ。走るペースが遅くなった。そして、悪夢はやってくる。



「ふふっ。姫、捕まーえた!」


後ろからぎゅっと包み込まれる。それも逃げないようにがっちりと抱き締めている。頼むから…はぁ、勘弁してくれ。


「何の用ですか」


「何で電話しても出てくれないの?メールもしたのに返信くれないし…」


翼先輩は、シュンとなって、ゆっくりと俺を羽交い締めにする。…ちょ、苦しいわ。あー、あの迷惑メールか。電話なんて、しつこかったからシカトしてた。それ、お前だったのか。


「もう、関わりたくなかったので」

そう正直に言ったら、急に真正面を向かされる。


「関わりたくないとかそんな無理なこと言わないで。俺泣いちゃうよ?」


と、子供みたいなことを言ってきた。




「ご自由にどうぞ。それにもう命令は聞いたじゃん」 


「それはそれ、これはこれじゃん!」


「意味がわかりません。あ、でも一つ感謝していることは、咲さんに会わせてくれてありがとうございます」


あの美人で優しい女の人は初めてだ。もう一回会いたいな…。


「別にいいよ、あの女のことなんか。俺だけを見てよ」


額をちょんと指でつつかれる。咲さんに対してあの女って…!こいつ、身の程知らずだな。


「もう、俺帰ります」

来た道をまた戻ろうとした時、スッと手を掴まれた。



「何ですか?手ぇ離して」


全く、しつこいな。




「俺の話を聞いてく…がはっ!」





突然、翼先輩の悲痛の声を漏らし、一瞬にして、手が解放された。そう、翼先輩が何者かによって飛ばされたから。そして俺は、ふわっと誰かの胸の中におさまった。落ち着くこの安心感…。まさか…っ。


「岬、大丈夫か?セクハラをうけていたみたいだが」


やっぱり、大悟だった。…って、俺!落ち着く安心感ってなに!?



「いてててて。おい、急に何すんだ!セ、セクハラだと!?」


翼先輩は立ち上がり、大悟を見るなり睨み付ける。…大悟の蹴りは絶対痛いと思う。前にドアを壊したからな。



「そう、セクシュアルハラスメント」


「いやそんなん聞いてないから!…ガハッ」


大悟のパンチが見事にストレートに翼先輩の顔面に食らった。…あちゃ~…痛々しい。


「ってぇ!!急になぜお前も殴るんだよ。用意していたイチゴケーキは無くなるし、姫消えるし、淳さん怖いし殴られたし」


あの日の出来事をぶつぶつ何か言っている。


「なにごちゃごちゃ言ってんだ。あの雑魚に殴られるとかダッサ」



大悟言う雑魚とは淳兄のことだろう。おい。大悟一応、先輩だぞ、一応。それに生徒会。あーほら、見ろ。翼先輩がむきーって牙をむけている。大悟お前、やっぱ強いな。なんて感心していると突然大悟が俺の手を握りだした。


「大悟…?」

どうしたんだ…?急に手なんか握って…。


「おい。これ以上、岬に近づくな」


 翼先輩に向けて怒鳴るように言う。 
 

「は?王子だか何だか知らないけど、お前に関係ないだろ」



翼先輩もキレ気味。



「関係大有りだ。勝手に岬を危ないところに連れて行きやがって。俺は、岬が大切なんだよ」



握っている手が強くになった。え…?大悟の言葉に俺は、無意識に顔がボワッと熱を帯びた。俺が…大切?ドクンとまた、心臓がうるさくなる。大切って過保護だからなのか…?



「それに岬も嫌がっている。そうだよな?」



「え、あ、うん!」


 とりあえず、肯定の言葉を投げ掛けた。咄嗟に話を振られて困ったけど、確かにこれ以上関わりたくないのは本当。翼先輩と絡んでいたら悪いことが起きそうだ。



「無理。姫ともっと関わる」

翼先輩は、すぐに断固拒否した。そして、俺の横に来て腰に巻きついた。


「ちょ、翼先輩…何してるんですか」


半分呆れた状態で、翼先輩に問いかける。暑苦しんだけど…。




「相変わらず、姫は細いね。どっか食べに行こうか」




「遠慮します。それと、いい加減姫って呼ぶのと抱きつくのやめろ」



そう言ったのに、やだ~とか言ってスリスリとされるのは、苦痛の他ない。でもすぐに変な鈍い音と共に厄介者は、退いた。…いや、退かされたと言った方がわかりやすい。





なぜって?

わかるだろ?







「しゃしゃるな、ボケ。人の話聞いてたか?近づくなつってんだよ」



そう、大悟だ。先程よりもドスのきいた低い声で黒い空気を放っている。


「ぼ、暴力反対だ。何で俺が姫に近づいたらダメなんだよ」




「自分を呪え」



「なにそれ!?」



大悟は、まだ俺の手を握ったまま翼先輩と争っている。翼先輩は、俺が嫌がっているっていう話をちゃんと聞いていなかったみたいだ。たく、都合のいい耳してやがる。


「岬」

 
すると、大悟が俺の名前を呼んだ。何時にない、大悟の熱のこもった眼差しに、ぞくりと背筋が震える。殺気はどこに行った?と思わすほどの変わりようだ。どう言葉を返したらいいか戸惑う俺の表情を見て、大悟は、小さく笑った。『ちょっと耳かして』と苦笑する大悟に自然と入れていた肩の力を抜いた。そして、耳を身構えてた。


「少しの間、目を閉じてろ」


大悟の言葉通りに目を閉じたら、その途端に、翼先輩のまたも痛々しい声が聞こえてきた。大悟のやつ、派手にやってるな…。多分、目を閉じてる意味ないかも。いやない。だって、音だけでわかってしまうし、想像できちまうよ、これは。それに器用だよな。俺と手繋いだままだし。



「さぁ、戻るぞ」

大悟は、何事もなかったように俺の手をやんわりと引いて歩いて行った。最後に見えた翼先輩は、地面に転がっていた。


大悟に手を引かれながら、管理棟のところを通っていると急に大悟が立ち止まる。そして、体をクルッと俺の方に向けると、顎をクイッと上げさせられた。



「岬、キスしよっか」



「……」




ん?今なんと?



“キスしよっか”

ちょ、はああああー!?理解したら、自然に紅くなる頬。


「ちょ、急に何?どうした。変なものでも食べたのかよ!?」




びっくりするわ。急におかしなこと言うから。


「ここ、ひとけもないしさ…ね?」




「何が“ね?”だよ!」


急なことで頭が混乱してしまう。





「だから、…岬の唇、俺にちょうだい? 」




「いやいや!あげません」

バッと、自分の口元を両手で押さえる。どうしたんだ、大悟。頭でも打ったのか?正気ではないことは確かだろう。だって、よく考えてみろよ。俺とキスしたって、何の得にもなんねぇぞ。それに俺がしたくない。


「その前にさ、何で急におかしなこと言ったか教えて」


これは、 絶対遊ばれるぜ。 それか、ただ俺の反応を楽しんでいるだけとか。


「もう、我慢しないで行動に出ることを決めたから。ほら、手退けて邪魔」



「えっ」

考えていた予想と全く別のもの。え、なにこれ?顔が近いんですけど…っ!?でもちゃんと手で唇は守っている。


「み・さ・き?手を退けようか」



久しぶりに聞いた。人の名前を区切って呼ぶやつ。て。今はそんなこと考えてる余裕がない。




「だ、だだだ大悟!!一回、冷静になれよ!」



「んー?冷静だけど」

いや、そうは見えないって!目がバッチリと合っている。



~っ。

なんかいろいろ堪えれなくなった。



「もうこっち見んなっ」

直視できなくなり、大悟の背中に回りぎゅっと後ろからシャツを掴んだ。



「岬?」

それでも、大悟が動くから抱きついて身動きをとれないようにした。



「だから、こっち見んなって言ってんだよっ」

大悟の背中にぎゅっと抱きつきながら叫ぶ。 


「なんで後ろに隠れるの?しかもこっち見んなって何?」



「は、恥ずいからに決まってるだろ。…文句あるか?だって大悟、いつもと違って変だし、調子狂うし何なんだよ、一体もう。意味わかんねぇ…」


俺は、おでこで大悟の背中をドンドンと二、三回攻撃した。でも大悟は、まさかの反応なし。えっ?…無言ですか。たち悪いぞ、おい。顔が見えないから、大悟が今どんな顔してるかわからないけど。

あっもしかして、今ごろ、失態に気づいたとか言わないだろうな(笑)キスとか冗談言うから、それはさすがにやり過ぎだって。クスクスと笑っていると、
 

「っ、おっと…え?」


なぜか、正面から抱きしめられている。笑っていたせいで、抱きしめる力が弱まったってあっさりと、体勢をかえられてしまった。そして、大悟はゆっくりと俺の頭の上に顎を乗せた。なんだ、これ。どゆ状況?ハテナマークが浮かぶ。


「岬、お前可愛すぎだから」



「はっ?」


大悟が発した言葉に余計意味がわからなくなる。どこに可愛い要素があったんだ!?


大悟、今すぐGo to the hospital。 (病院に行け)。

真顔でそんなことを思っていた。



「狙ってるでしょ。そうでしょ。反則だよ、それ」




「何を?」


大悟、主語をプリーズ。


「あー、可愛い。よし早速さっきの続きでもしよっか」


俺の顔を押さえつけニコッと笑う大悟。


え。さっきの続きってなに。冷や汗が背中に流れる。再び、変な行動にで出す大悟。


「ちょ、待って」

何考えてんの。とにかく、押さえつけられている手を放してもらいたい。


「何秒?」



「な、何秒とかじゃなくて、待てって言ってんだよ」

時間制にするのやめろ。キッと睨んだら、大悟は優しく微笑む。あ、…まただ。また俺、ドキドキしてるじゃん…。ただ、大悟と目が合っているだけなのに…おかしすぎる。頬を掴まれたままの体勢で顔をうつむけた。



「どうした?下を向いたりして…拒むとか禁止だよ」

大悟は、俺の異変に気づきすぐさま、無理やり上を向かせる。



「…こ、こっち見んなって…っ!」



俺は、視線を逸らす。きっと、今真っ赤になって変な顔しているに違いない。そんなみっともない顔、恥ずくて晒せねぇよ…。なんて思っても、大悟はお構い無しに超見てますが。


「岬…」

俺の名前を呼んだと思った瞬間、大悟の胸におさめられていた。気づいたら、腕の中に閉じ込められている。すぐさま、え?ってなる。


「く、苦しいぞ…大悟くん」

そう突っ込みを入れた同時にふと耳を澄ませた。あ、あれ…?大悟の心臓もドキドキいっている…?顔が大悟の心臓辺りに押さえられているため、音が聞こえてきた。もしかして、この心臓のはやさが通常なのか?今までに、こういう免疫がないからわからないけど…。 


「なぁ…大悟。早く教室戻ろうぜ」



「なんで?」



「なんでって…お前、そろそろ鐘鳴るし、常識わからないのか?」


ちゃんと時間は守らないと!


「そっか。残念」


俺を離して残念そうにしながらも、いつも大悟に戻った。ん…?今は別に何ともない。やっぱりあのドキドキしたのは疲れだったのか。 そして、俺たちは歩き出した。


「なぁー、大悟。どうでもいいことなんだけどさ」


「うん。なに?」


「翼先輩の前で言ったこと、大悟が過保護だから言ったのか?」



なんか、俺が大切だとかどうとか言ってたやつ。適当になんとなく聞いてみた。 



「あー、あれね。何言ってんの。…“岬”だからでしょ」


スラッとそう答える。








え…?


「あ、そ、そか」






なにこれ。過保護とかそういうのじゃなくて俺だから…大切?


うわっ。どうでも良かった話だったのにまたドキドキしてやがるぜ俺の心臓は。もしかして死に近づいている証拠なのか?何それ、嫌だ。足が止まり、頭を押さえる。


「岬、どうした?」


大悟に相談しよっかな。バッと顔を上げる。


「あのさ、さっきからずっと俺の心臓がおかしんだ…。大悟を見ているだけで衝撃みたいのが走るっていうか…やっぱり、これ病気だったりする?」


不安要素がたっぷり過ぎる。でも早期発見が肝心だ。



「その衝撃って、俺に対してだけだよね?」



念のためみたいな感じで聞いてした。





「え、ああ…うん」




…言われてみれば、そうだな。





え?



じゃあ、

これってさ…



















ただ、俺の体が大悟に対して、拒絶しているだけなのか?なんだ、そうだったのか。冷静に思った。そんな俺の様子を見て大悟がなぜかイラつかせていた。


「気づてないみたいだから、もっとおかしくしてやる」


「えっ!?」

ちょ、お前鬼じゃねっ!?俺の弱点に気づいたって、感じなわけね。くそぅ。新たに発覚してしまった弱点。


グイッー

チュッ。

不覚にもポカンとなる。い、今俺…チューされた!?正確にはおでこにだけど。それでも、心臓がおかしくなる。


「今日はこれぐらいにすっか」



と大悟は悪戯に笑う。心拍数、今やばいんじゃねぇか。…待て。今日は、このぐらいって次があるのか!?そんなの怖いこと企むな。まじで鬼じゃん。あとは、罰とかなんとか言われて手を握られた。嫌がらせ?でも…。もう、なんつーか、ドキドキが止まらない。……この胸の高鳴りの本当の正体は俺にはまだわからなかった。













あれから、数ヶ月が経った。もう6月の後半に差し掛かっている時期。ということは…つまり。ある行事が近づいているのだ。あれだよ、あれ。学園祭が。あ、でもまだ俺たちクラスは何をやるか何も決まっていない。一応言っとくけど、別に俺は大人なので子供みたいにワクワク楽しみにしているわけじゃないぞ。断じて。ほらほら考えてみろ。ましては、男子校の学園祭だぜ?この俺が燃えるわけないだろ。

はっ、なんだよ!?…べ、別に女の子が来るのを楽しみだとか思ったりしてねぇし。ば、ばっかじゃねぇの…。





な、なーんてね。はい、嘘です。冗談です。正直に言います。実際はこれが本音(狙い)ですよ。だから、内緒ということにしといてください。てか、忘れて。そして俺は今誰に対してそれを言ってんだ。馬鹿馬鹿しい話だな。はぁ…あくまで学園祭の目的は女の子だ。そう、燃える動機は女の子。



「みっさきちゃ~ん!!!おっはよーー!」


朝からうざいくらいテンションの高い歩くスピーカーが現れた。


「チッ」



「え!?まさかの挨拶それ!?」


朝からそんなテンションでエネルギー減らないのかと歩くスピーカーこと金太郎に感心する。


「ねっ!岬ちゃん聞いてよ!」


「どうした?」

熱のこもった眼差しに少しビビる。


「今日、一体何の日か知ってる?」


…きょ、今日?


「知らないけど、何かあるのか?」

そう言った途端、金太郎は、ムッ頬っぺたを膨らませる。


「岬ちゃんたら!もう自分の彼氏の誕生日も覚えてないなんて!」


…は。

そういや、昨日からヤケにうるさかったな。なるほど、それが原因だったのか。あと相変わらず、変なこと言うなよな。それスルー決定。




「誕生日なの?」

「そうそう!(彼氏はやっと認めたか)」




なんだ、その目は。わかった。言ってやるよ。



「まぁ、おめでとう」

俺だって、ちゃんと祝ってやるんだ。


「え!?岬ちゃんの口から今っ!!」


「ハッピーバースデー」


発音いいだろ?喜べ。と、心の中で偉そうな態度をとっていた時。


「ズキュン」

金太郎は、最後にそう言い残してバタンと音を立てて倒れやがった。す、凄い音だったけど、大丈夫か…?急に倒れるとか貧血だろ。普段から、鼻血出すせいだぞ。そう思ってるそばからなんか、もうすでに鼻から鼻血出してるし。すると、ガタンと隣に座っていた大悟が立ち上がった。



「ちょ、だだだ大悟…し、下」


俺は、大悟の靴の方を指差す。思いっきり、金太郎のお腹踏んでるぞ。


「あ、これか?もちろん…Happy birthday」

待って。俺より発音良すぎじゃんっ!

まったく、そんなネイティブに言うなよ。俺が惨めになるだろ。て、違う違う。問題はそこじゃなかった。踏まれているにも関わらず動じなくて起きない金太郎は、すごいと思う。ある意味尊敬するわ。リスペクト。それから数分後して金太郎は、やっと気を取り戻したらしく体を起こした。



「~ってぇ。なぜかお腹が痛い…」

すぐさまお腹を押さえる。そりゃそうなるわ。さっき大悟が思いっきり踏んでいるシーンが浮かんだ。拷問だな。


「別にこんな痛み大したことない!それよりも、岬ちゃんの口からまさかおめでとうが聞けるなんて最高に嬉しいよ」


満面な笑みを浮かべている。



「そこまで鬼じゃないし」



てか、大したことないってお前すごいな。体、鉄でできているのかよ。すると突然、金太郎は奇妙にも口を尖らしていた。


「なに?」


「え!?もっとこうないの…っ(チューとか!)」


とか、言いながらジェスチャーをしている。だからなぜ急に口を尖らす?あ、もしかして、プレゼントがないから拗ねているのか?たく。


「欲しいものは?」

まあ、多分買ってあげないと思うけど一応聞いといた。


「え!?望みきいてくれるの!?」



目を見開いて驚いている。


「ああ、まあな」


言っとくけど、“聞く”だけだからな。俺、お金持ってないし。金太郎は、コホンの咳払いしたあとなぜか言いにくそうにモジモジし出した。そして、決意を決めた顔をする。


「じゃあ…パンツが欲しいな」


はっ…パンツだと?プレゼントに、パンツ…?正気なの?もっと高いの言うと思ったけどなぜパンツ。


「普通に自分で買えるだろ」


「いや、そうじゃなくて…その岬ちゃんが今はいてるやつとか貰えたらなって思ってさ」


は?


「俺が今・・・はいてるの?」


俺は首を傾げて金太郎を見た。何を言ってるんだ。

すると、金太郎は両手で顔を隠して


「ゴメン!岬ちゃん、そんな綺麗な目で俺を見ないでくれ!そんな澄んだ瞳で汚れた俺を見ないでくれー!俺が悪かった」


そう言うと金太郎は教室の隅の方に移動し体育座りで膝を抱えて下を向いてしまった。そして、恒例のきのこを栽培し始めた。おい農園じゃないぞ、そこは。…いったい何がしたかったのだ?謎だ。大悟は軽蔑と同時に哀れむ目で金太郎を見ていた。 まぁ、さすがにパンツは冗談ってことだよな。俺は、何かないかなって思いながらズボンのポケットに手を突っ込む。すると、棒つきキャンディーが二個出てきた。…そういや、今日来る時に近所のおばさんから貰ったっけ。二個のキャンディーを見て、金太郎の方を向いた。あ、もうなんか可哀想だからこれあげよ。いまだに教室の隅で、きのこを栽培している金太郎の所まで行き



「これやる」

二個のキャンディーを差し出した。


「く、くれるの?」


「…不満?」

「いや満足!!!」



パアっと、表情が明るくなった。そして、キャンディーを受け取る。さっきまでは、顔死にそうだったのに全然印象が違う。


「もう岬ちゃん、大好き」

次は涙を流しながらお花を栽培してやがる。だからいろいろと栽培すんな。ここ一応、教室だから。…もう他人のふりしよっと。


―――――
―――――――
――――――――

……。



金太郎のおふざけから真剣な話へ。HRを使って、学園祭の話をしている。


「はい、1-Aは学園祭なにやるか決まったか?」


先生が教卓の上で手をつきながら皆に問いかける。うーん……学園祭のクラスの出し物ねぇ。なんか、俺がかっこよく見せれる出し物がいいな。そういうのがいい。と、考えてる時だった。


「先生~!はいはい!!」


前の席の金太郎が勢いよく元気な声で手をあげた。


「おっ滝本、いい提案があるのか?」


「はい!えっと、お化け屋敷とか屋台とか定番なんで、俺的カフェがやりたいです!!」


金太郎は、スラスラとそう告げていく。カ、カフェ…?クラスが少しざわついた。


「なるほどカフェか。それも定番だと思うが」

先生からの鋭い突っ込みをうける。カフェも定番なんだ。俺、あまりそういうの知らないからわからない。



「この男子校には花が足りないと思うので、“一部だけ”メイドでカフェをやりましょう!!(岬ちゃんのメイド姿…ハァハァ)」


金太郎がいつもと違って積極的であり、粘っていることに少し感心した。脳内、何を考えているか俺にわからないがそんなにカフェやりたいのか?いや、花なら教室の隅に咲いてるぞ。お前がさっき栽培してただろが。

それに、メイドってなに?俺の頭ってつくづく田舎なのかもしれない。



その、金太郎の発言を聞いたクラスメイト達の反応は、

《姫のメイド姿…ゴクン。》

《賛成に決まっている。見たい ハァハァ》

《想像しただけで抜けるよ》


と、訳のわからないことを言っていて盛り上がっていた。え…?いつの間に皆急にやる気になってるし。どうしたんだ、一体。



「先生!俺、今日が誕生日なんですよ」

金太郎は、今日が誕生日ということ理由に都合よく使いだした。そんなんで、先生がOKするわけないだろ。


「そうか、それを早く言え。よし。1-Aはカフェな」





えっ!?そんなんでいいのか…?普通、クラスの意見聞いて多数決とかとらないか?この先生、おかしすぎる。いや、待てよ…?俺は考えた。

カフェって確かさ…女の子に人気じゃね!?てことは、女の子の客が増えるってことだよな?俺の目の色が変わる。皆、それでやる気になっていたのか?危ない、俺だけ気づかないところだった。

でかしたぞ、金太郎!!お前って、たまには良いこと言うじゃないか。見直した。コクコクと頷く。俺は、皆と違う意味で楽しみだということは知らない。


「じゃあ、さっそく杉本。集まりに行ってこい」


「はい?」

そして、先生は、俺にわざわざプリントを渡しにきた。え?俺は、きょとんとなる。どゆこと?


「今から、各学級学年の集まりがある。クラスの委員長だから行ってこい」


「い、今から…?」


またなんて急な。油断していた。そういや、俺委員長だったな。正直、もう忘れてかけてた。そのあと、先生から学園祭についてのプリント類をまとめられて渡された。なぜか、ちゃんと話を聞いてくるようにと念を押される始末。少しムカついた。俺だって人の話くらい聞ける。


「じゃあ、行ってきまーす」

プリントをとんとんと整えて右手に持ち、椅子から腰を離した。それと同時にガタンと大悟も立った。



「先生、俺も一緒に行ってきます」


肯定の言葉で、俺の後ろから着いてくる。お、おい…大悟。先生が呆れてるだろうが。


「だめだ。会議室は限られた人数しか座れない。あと、杉本を自力で行動できるように子離れしなさい」
  


…今聞こえたのは、幻聴だ。うん、妖精さんの言葉に違いない。くそ。ちゃんと、聞こえたわおい。

子離れってなんだよ。腹立つ教師だな。でもわかる。大悟は親オーラを出しているから俺が子だと勘違いされているだけってこと。


「岬。10分だ」

大悟は、しょうがなく諦めたようでしぶしぶ椅子に座った。



「馬鹿か。ちゃんと俺が帰ってくるまで大人しく待ってろ」



このクラスのかっこいい位置に立っているリーダーだぜ?俺は。言うことを聞きやがれ。と、心の中で決め台詞を発散しまくった。その前に、にやけそうな顔を引き締めないとな。

俺が出て行った後、『姫、早く戻ってきてー!』とクラス中が大悟の殺気で怯えていたとは知らない。



ゾワッ。

「今、急に寒気が…っ」

うー、そんなことより早く会議室行こっと。




――――――――
………。





会議室に着き、各指定席に座った。うわー、緊張するこの空気。


「はい。集まってもらったのは他ではなく学園祭についてです」




先生が進行を務めた。そして担任から渡されたプリントを回収され、いろいろと説明に入っている。

そんな最中。


「遅れました」

一人遅れて入ってきた。その人は、短髪で身長スラッと伸びていていかにもスポーツマン。 顔も悔しいくらいにイケメンだ。しかも爽やかオーラを出している。どう見ても先輩だな。


「本田くん、遅刻ですよ。早く空いてる席に座りなさい」


はいと、返事をした爽やか先輩は周りを見渡した後俺の横の一つ空いている席に向かって来た。なんだ?何か、周りがやけにうるさい。きゃーっとか黄色い声とか聞こえるんだけども。


「ねぇ、君。隣、座ってもいいかな?」



そしたら、俺に話しかけてきた。

と、隣…?


「あ、どーぞ。お構い無く」


この人案外、ちゃんと礼儀がなっているイケメンだな。イケメンは、態度が悪いと偏見な目で見ていた自分が恥ずかしい。



【陸人side】


俺の名前は、本田陸人。スポーツは何でもできるし、超得意。そして家は、超がつく程の金持ち。だってあの有名な本田財閥の御曹司であるのだから。

ちなみに、生徒会会計を務めている。

…そんな俺が人生初一目惚れをした。しかも、相手は同じ男。入学式の前の日に生徒会の仕事で一年生の名簿をペラペラと捲っていた。その時、一人の男の子に目が止まったんだ。名前は、“杉本 岬”。やばい…めっちゃタイプだった。何時間もその名簿を眺めていた。この子が…ものすごく欲しい。たまらなく欲望が渦巻いた。会ったことも話したこともないのにって自分でもおかしいと思った。


…でも。写真越しでもキスしたくなるこの可愛さ。例えるとしたら絶世の美少女…いや、美少年。そう言った方が妥当なのかもしれないがこれはさすがにやばいって思った。下ネタになってしまうがすぐ勃起の域だ。好きだってすぐに自覚を持てた。だって、初めて手で触らずに写真を見ただけで勃起した。俺はただこの子の顔と名前だけ知っているだけ。入学式が終えてもう数ヶ月が経っているにも関わらずいまだに接点なし。今日こそは!とか毎朝言っているけど成果なし。





でも、もしものためにここ数日間、『好きな子の口説き方ベスト100』という本を毎日欠かさず読んでいる。もう、全て暗記したくらい。…あぁ、悔しい。生徒会の中で俺が先に目をつけたのに会長の帝や書記の下半身野郎は、もう岬ちゃんと関わりをもってる。まあ、副会長の肇の場合は例外だけど。通っている美容室で彼氏持ち?の女の子(実は女装した岬)が気になってるとか言ってたから安心だとは思うけどそう、問題は奴らだ。

勝手に横取りしたら許さねぇって言ったのに!!帝は、自分が誰かに惚れるなんて『そんなの世界が滅びるくらいありえないから』とか言ってたんだ。何だよ、それ。今じゃ『アイツ面白いな。す、好きではないが下僕ぐらいにはしてやろう』とか言ってる。ふざけるな。気づいてないみたいだけどお前絶対好きだろ。そして、下半身野郎(翼)は、鬼ごっこの時に岬ちゃんを捕まえてお願いを聞いてもらったみたいだ。くそっ。羨ましい。

俺なんて…俺なんて…一度も関わったことがないのに。噂では、岬ちゃんを溺愛している王子?がいるみたいで、狙うやつは容赦しないみたいって聞くから恐ろしくて近づきたいけど簡単には近づけない。


はぁ同じ学園内にいることは確かなのに…っ。あー、涙が止まらない。俺ってば、自分が思っている以上にヘタレかもしれない。そうして、現在。今は、これから学園祭に向けての話し合いがあるみたいだから会議室に向かっている。俺は、生徒会代表として参加しなければならない。



「遅れました」


結構、時間が過ぎてしまっていたみたいだ。申し訳ない。

 
「本田くん、遅刻ですよ。早く空いてる席に座りなさい」 


はい、と返事をして周りを見渡した後一つ空いてる席があったので足を進める。



『あ!会計様だぁ~』

『きゃーっ』

『かっこよすぎて目眩が…っ』

ヒソヒソと黄色い声が飛び交う。しょうがないか。でも、普段と違って声のボリュームが小さくてよかった。



「ねぇ、君。隣、座ってもいいかな?」

俺は、微笑みながら隣の子にひとこと言った。



「あ、どーぞ。お構い無く」


そして、隣に腰をゆっくり下ろした。

さてさて、このプリントを提出しないとな…







…んっ!?ちょっと待って。

い、今…いいい今!!!!急にドキドキし出した。間違いない。隣にいるのって、本物の岬ちゃんだよね!?よ、横向けない。う、嘘だろ。ドッキリか?カ、カメラは…ないみたいだな。え??それじゃあ、これマジのやつ!?何考えすぎて夢見てんの俺。乙。目を覚まそうと頬をつねったが痛かった。てことは、本当!?やばい…どうしよう。嬉しいすぎる。やっと念願叶って出会うことができた。今、半径1メートル以内にいてそして俺の隣に座ってる。

なに、この美味しい話。しかも今、ファーストコンタクトしたよ。やばい…やばい!!


『あ、どーぞ。お構い無く』だって。声超透き通っているし可愛いよ、ハァハァ。そうだ!!あれが試される日がやっときた!!

『好きな子の口説き方ベスト100』!!





最初、なんて言おっか、『僕のハートは君の瞳にレボリューション!!』とか?いや。これはやめておこう。こんなノリノリで言えないし。しかも馬鹿っぽい。


じゃあ、これはどうだろうか。

『君の瞳はキラキラ星』うーん。子供っぽいな、やめとこう。あっ!あれがいいな!!


確か57ページに載っていた『たとえ世界中の全ての人を敵に回しても僕は君を守る』あ、これはさすがにクサイ?ほらもっと、こう。頭がいい感じと大人っぽさを見せたいよな。やっぱり、あれしかないのか…。とっておきの。




口説き文句でNo.1を飾った『君の股間に俺のワインを乾杯したいんだ』



……。

変 態 か 俺 は 。絶対、引かれるわ!くそくそくそくそ。こうなることが事前にわかっていたらちゃんと復習してたのに!頭の中ぐるぐるさせていた。





【岬side】

あー、えっとこの人何考えてるんだろう。ポーカーフェイスだから読み取ることができない。先程、遅刻して俺の隣の椅子に座った爽やか先輩。さっきから、声をかけてるんだけどなかなかこっちを見てくれない。というか、気づいていない。


「あ、あの…?」

仕方ないので肩をとんとんとした。


「えっ!」

やっと、反応したか。


「あの、先輩?せ、先生が早くプリント持ってこいって呼んでますよ?」


俺は、あれあれと前を指差す。


「あ、わわ忘れてた!あ、ありがとうううう!(肩触られたああああ照)」


先輩は、礼を言って大急ぎで先生にプリントを渡しに行った。…なんか抜けてるな。ぼーっと爽やかな顔して、何、考えてたんだか。それからすぐに戻ってきた。


「さ、さっきはありがとね。えっと君の名前は?(まあ知ってるけど照)」



白い歯を見せて、爽やかに笑った。うわ、この人マジ爽やかでできてるじゃん。でも、悪い人では全然なさそう。


「あ、えっと杉本岬です」



「杉本岬…、OK覚えた!な、何て呼べばいいかな?(ハァハァ)」


「何でもいいですよ。それと先輩の名前は、何て言うんですか?」


先輩の息づかいなんか、荒くなってるようなそうでもないような。ま、気にしないでおこう。


「じゃ、じゃあ、岬君って呼ぶね。俺は、本田陸人」


「本田先輩ですか…。覚えました」



悔しいけど名前まで爽やかだな。しかも、初めて“岬君”って“君付け”されて呼ばれたよ。ちょっと、嬉しいかも。少し、口角が緩んだのはスルーで。


「(表情エロ!)そ、そんな本田先輩とか固く呼ばないで普通に陸人って呼んでいいよ(てか、ぜひ呼んで)」


「あ、えと、それは恐れ多いです…?」


もう、顔負けしてるんだ。先輩じゃなくても敬意を払うわ。



「そ、そか…それは残念。でも、苗字じゃない方がいいな」



眉を八の字に寄せて、残念そうな顔をする。


「えっと、じゃあ…、陸人…先輩っ?」


「……」


…あ、あれ?無反応だ。手をかざしてみても反応がない。やっぱり、生意気だった?実はさっきのはもしかすると言葉のあやってことだったのかな。うわっ。超面倒くせぇ!!


「す、すみません…。俺、生意気言っちゃって…」


「な、なななんで謝るの!?全然生意気じゃないから!むしろそう呼ばれて嬉しすぎて、飛んじゃってただけだから!!」


意識を取り戻した先輩は、ものすごい慌てよう。


「そ、そうなんですか…?それは良かったです?」


何、俺どう反応したらいいの。でも、見た目爽やかなのに中身なんていうか…抜けてるよな。


「失礼ですけど先輩って、いくつかネジが外れていますよね」


思ったことをつい声に出したことに不覚にもクスッと笑みがこぼれてしまった。



「えっ嘘!?あぁ笑顔まじ天使!写真撮りたい…あ、べべ別に変な意味じゃなくて!!てか、そう見える!?い、一応、こう見えて生徒会の会計やってるのになぁ…」



「え。…ちょっと待って。せ、生徒会…?」

その言葉を聞いて俺の顔から笑顔がなくなった。



「あ、あれ?言ってなかったけ?そうだよ。俺、生徒会役員」


の、のののののののおおおおおおおーーーーー!!!せ、生徒会だと…?関わりたくないNo.1集団の一人だと…っ!?だんだんと、青ざめていった。だって生徒会には、人を見下す悪いやつしかいない。今までの経験が証拠だ。ああ、俺、落ち着け。やばい頭痛してきた。



「み、岬君…大丈夫!?」

俺の様子がおかしいことに気づいた陸人先輩は、背中を心配そうにさすった。

え…っ?

「も、もしかして、気分悪いの?大丈夫?」


俺の顔色を伺い、何度もさすりながら聞いてきた。案外、いい人…?生徒会の中にもまだマシな奴がいたのか。


「だ、大丈夫です…。突然、すみません。…先輩は、他の役員とは違って優しいんですね」


「えっ!?ややや優しいっ!?」


陸人先輩はボワッと顔を紅く染め、おどおどし出した。『きゅ、急にどうしたの!?』と慌てふためいている。


「はい。ちょっと勘違い?してました」


「か、勘違い…?」


「ちょっと口悪くなりますけど、今日まで生徒会の連中まじうぜぇって思ってました」


「えぇぇ!?」


陸人先輩は、目を見開いたと思ったらすぐにガクリと肩を下ろした。


「あ、でも陸人先輩だけは、別にそう思ってませんよ。他の生徒会のやつらです」

肩下がってるの見て、一応可哀想だからフォローした。傷つきやすいタイプなのか…?


「お、俺だけ…?」

「まぁ、はい」


他の生徒会よりはね。本音言うと、目立つからできるだけ長く一緒にはいたくない。たまに程度なら丁度いいかも。まあでも、さっき心配してくれたのは、素直に嬉しかった。


「よ、良かったぁ…」

先輩は、息を深く溜め込んで ホッと吐いた。そ、そんなに人に毛嫌いされるのは嫌なのかな?生徒会ってよくわからん。それから他愛もない会話をしていたら学園の話し合いが終わっていた。
 

―――――――
―――――――――
―――――――――――


………。




陸人先輩の出会いから何週間か経ち今はもう、7月の上旬。待ちに待った学園祭当日!!開幕だー!!!女の子ー!楽しい学園さry… 

と、朝まではこんな感じに喜んでいた。



「うん。はい断る」

俺は、にっこりと笑顔で目の前にいる金太郎に対して怒りを抑えながら丁寧に断りを入れた。


 「な、なんでー断るの!?」


「嫌なものはいーや!!絶対嫌だ!!」


ただいま悪戦苦闘中。頑固拒否る。


「皆、この日ために頑張って来たんだよ?」


「はっ!?知るか!!何で男の俺があんなもん着なくちゃいけないんだ!」



でかい声で周りを気にせず激怒する。教室は、カフェらしい雰囲気を出していて、『よくできてるなぁ』なんて、感心しているそばから急に金太郎が来ていかにも女が着る服装らしきものを手に持ってこれ着て、とお願いされた。ふざけんなって話だ。それは、黒の生地にフリフリしたレースの丈の短いスカートでおまけに、白のエプロン?みたいなのがついていた。他にはラインがはいった黒い可愛らしいリボンと、頭の飾りものや黒と白の縞模様の膝上ハイソックス。ご丁寧に黒のヒールの靴まで。

……ふざけてるだろ?皆、何楽しそうに作ってんのかなー?みたいなことは思っていたけどまさか俺に着せるために作っていたって考えるとゾッとする。クラスで展示するやつだと思っていた。まさか、当日にこうなるとは。



「これでギャグでも狙ってんのか!?しかも何で着るのが俺なんだよ!」


「だって、一着しかないし」


「だったらお前着ろ!!」


ビシッと指差す。そしたら、金太郎は気持ち悪いくらいニヤける。


「何言ってるの~?あのサイズじゃ俺ははいらないよ~」


「ぶっ殺す」


殺意が芽生えてもおかしくない動機が十分に揃った。


「まあ、そんな怒んないで。それ着たらお客さんにモテモテだよ~?」


お客さんに…っ?イコール女の子!?くっ。


「そ、そんな誘惑につられると思ってんのかっ。…大悟、お前からも何か言ってくれ」


最終的に大悟に助けを求めた。でも大悟は、怪しげに俺の両肩に手を置いてニヤリと笑った。


「悪いが俺も岬がそれ着るの激しく見たい。他のやつには見せたくないけどこれでしか、もう見るチャンスはないと思うし、諦めろ」


何、その笑顔。俺には仲間がいない。すると、周りがざわざわし出した。


『え…?姫、着てくれないの?』

『俺、寝る間も惜しんで頑張ったのに…そか…』

『そかそか…。あれ何か目から汗が…』


ヒソヒソ俺に聞こえないように言ってると思うけど丸聞こえだからね。くっ、くそ~っ。つまり、俺がそれ着ないと台無しになるってことか?


「岬ちゃん、もう始まっちゃうっ!」


金太郎が気持ち悪いくらい目をうるうるさせている。


「く、くそ~っ!少しの間だけだかんな!」


もうヤケクソだった。俺に対しての皆の扱いが酷すぎるワロタ。着替えを終えてバッチリ、メイクまでさせられた。


「言っとくけど、これで客にモテるって本当だろうな?」


一応、そこ重要だから聞かないと。…てか、またこの足のスースー感を味わうことになるとは考えもしなかった。


「だからそうだって~!あと、他のクラスにはそんな格好しているのが岬ちゃんだなんて誰も知らないから~」


「から~じゃねーよ!もし俺だってバレたら責任取れんのかよ!」


さっき、メイクする代わりに約束を交わした。俺だってバレないんだろうな。バレたら、俺ただの変態だぞ。それだけは嫌だ。ただ今、女装もといメイドというやつになっています。


「大丈夫!そんなヘマはしないさ!それに、もし バレたら責任はちゃんと取ってやるよ!」



「言っとくけど俺の精神的苦痛含め、プライドを傷つけた慰謝料は高いから」


「だ、大丈夫。体で払ってやる!!」


「超いらねー」


暴力で解決?しようとするとかMかよ。



「な、何だと!?俺の素晴らしいボディを好きにして良いんだぞ!」



「このドMめ。ハゲ!金太郎ハゲ」



「ハ、ハゲって二回も言うなよ!俺のガラスのハートがハゲる(傷付く)じゃんか」


「ゴメン!頭ツルツル」


「いやいや、意味同じだから!…でも、岬ちゃんから貰う言葉は全部俺の宝物だよ!」


「お前、毒きのこでも食っただろ」



でも金太郎とのこうしたバカなやり取りや会話は結構好きだ。面白くて自然と笑顔になるから。 でも限度を知らないからウザい。するとずっとさっきから、じーっと俺をガン見していた大悟が口を開いた。



「…岬、可愛いな。ホント嫁にしたいくらい」

近づいてきて、俺の耳元で囁いた。




「っ?!」

ビクッとする。だ、だから俺耳は弱いんだって!!それに嫁とかなんなんだよ、もうっ。



「岬、顔赤い。…なんで?」


ニヤっと口の端を上げて聞いてくる。意地悪過ぎんだろ!!


「だ、だってお前が耳元で囁くから!」


俺は、左耳を押さえながら反論する。

「本当にそれだけ?」


「面白がんな!!」


もうやだやだ。俺が大悟恐怖症という弱点を知ってからスキンシップっていうか…甘い言葉を囁いてくるのはやめてほしい。本当心臓に悪い…。大悟は面白そう笑いながら俺の頭をポンポンと撫でる。子供扱いされてる俺としては勘に触る事この上ないが、なんて返したらいいか言葉が見つ からない。とりあえず無視決定。そうしたら黙り込む俺の髪を弄り出しニタニタしてる。大悟のこのバカにした態度、スゲェームカつく。

…べ、別にいつものことだけど。


かれこれしている間に学園祭が開幕した。教室の窓から顔を出して校庭の方を見ると、驚いてしまうほど人で溢れていた。という所までは一応、順調だ。だがしかし、なんだよ。今俺は、見えてる光景に自分の目を疑った。


「おい。お前のその格好なに?」


金太郎の肩をたたいて聞いた。


「え?そりゃあ、どう見たって執事だよー!どう?カッコいい?」


顎に手をおき、ポーズを決めている。かっこいいなんて、絶対言わない。


「そんなことより、何でお前がそれ着てるんだよ」


俺は、こんな醜態を晒してるのにも関わらずお前はなんて男らしい格好をしてるんだ。おかしいだろ。差別という言葉が頭の中で飛び交う。すると金太郎は、キョトンとし首を傾ける。



「だって、俺かっこいいじゃん」

「うざ!」


なに、その当然なこと聞くの?って顔。憎たらしくてたまらない。なにやら、ちょんちょんと俺の肩にも違和感が。


「うわっ!」

バッと後ろを向くと、金太郎と同様で大悟も執事という格好していた。




「うわっ!って何?あー、俺がかっこよすぎてビックリしちゃったのか」



と、笑みを浮かべた。勝手に、解釈するのやめろ。

かっこいいとは、言ってやらんが


「別にビックリしてねぇし。でもムカつくけど、似合ってるな」


それくらいは言ってやろう。そしたら大悟は、口を押さえながら『もう反則…』と呟いていた。もう、訳のわからないやつは放っておこう。それより早く俺は、女の子にチヤホヤされたい!!!!そのために我慢してこの格好をしているんだ。



―――――
……。


そうして俺たちクラスのカフェがオープンして1時間が経過した頃俺はやっと気づいた。

だ、騙された…!騙された騙された騙された騙されたあーー!!!全部、あいつら(大悟と金太郎)に女の子奪われた!!!!うわ!女の子たちと楽しそうに話してやがる!!何がこの格好したら女の子にモテるだ。全然じゃねぇか!あぁはいはい…そうか。よく、考えてみればそうじゃないか。こんな女の格好して女の子にモテるはずないだろう!何アイツに流されてんだ俺は!!つまり。自分が女の子にモテたいから俺にこんな格好させたんだな。俺がかっこよすぎて自分がモテなくなると思って。


ものすごく腹を立てていると、

「あ、そこのメイドさ~ん」


友達連れの一人の男が俺を呼んだ。畜生。しょうがねぇか。


「はい。何ですか?ご主人様」



く、何でさっきから男ばっかに呼ばれるんだよっ。しかも『ご主人様』って何だよ。と自分が言った台詞に突っ込みをいれる。でも皆がメイドは客に対してそう呼ばないとだめって言われたし…。もしこのせいで売り上げ落としたら全部俺のせいになるから怖くてちゃんと守ってる。もう…辛すぎるだろ、これ。


「うわー!すっげぇ可愛い。ねっ君名前は?」


「え?あ、杉本ですけど…」


早く注文言えクソが。その髪むしってやろうか。何ニヤニヤしてんだ、この野郎どもは。



「杉本ちゃんって言うんだ~!でも驚いたな。ここって男子校って聞いていたけど、ちゃんと女の子いるじゃん。俺騙されたわー」


…は?女の子なんているわけねぇだろ。コイツ、バカか?


「あ、あの…ご注文は?」



何よりもこの笑顔を絶やさない俺って超紳士だと思う。一応、客だから言葉遣いには注意しているのだ。


「杉本ちゃんの連絡先が知りたいな!今度俺たち皆でどっか遊びにでも行かない?」

なぜか俺の手をイヤらしく握ってきた。


「は?」

何勝手に触ってんの。俺、注文聞いてんだけど。


「ちょっとお客さん」


「っと」


俺が絡まれてるのを見てなぜか苛立ちを放った大悟が急に来た。そしたら、急に手を掴まれ、バランスが崩れそうになったが大悟が支えてくれた。


「えっと何ですか?俺たち今、杉本ちゃんとお喋りしてたんですけど」


『邪魔しないでくださーい』と客の男はそう言って大悟をものすごい目付きで睨んでいる。


「お喋り?は?注文しろやコラ。あと、勝手に人のもんに触らないでくれますか?」


大悟は顔はすっごく笑顔なのに目が笑ってないし、何よりも声がとてつもなく怖い。一応言っとくが大悟よ。俺は、物じゃないぞ。相手は、客なのに態度悪いすぎる店員どこにいんだよ。マナーはどうしたんだと不思議に思いながらも後の流れは大悟に任せる。だって、責任取りたくねぇし。



「チッ。やっぱり彼氏いたのかよ。くっそ」


さっき俺の手をイヤらしく握っていた男が悔しそうに小さな声で吐き捨てた。そして、急に席を立った。


「もう他のとこ行こーぜ。あ、杉本ちゃん、別れたら俺の所にいつでも来ていいからね」



バイバイと、言いながら呆気なく友達を連れてクラスから出ていった。おい。…どういう意味だ。今の詳しく教えろ。まあ、別にどうでもいいけどとすぐに考えるのを投げ出した。奴らが去ったあと俺は、我に返った。



「って。おい大悟!お前何してくれてんだ」


「何って…殺したいくらい超ムカついたから」


「な、なんだその怖い理由は。い、一応相手は客だぞ!」


そりゃあ、俺だって注文なかなかしてこないからムカついたけどすぐキレるような小学生なレベルじゃない。


「そんなのどうだっていい。あれ、エスカレートしたらセクハラまでいくから事件にならない前に止めといた。てか、俺は岬に触る時点でセクハラとみなすから」


「意味不明だけど何上手くまとめようとしてんだよ」


これで、もし担任とかが見てたら即アウトだから。


「え?もしかして岬、あいつらのこと庇ってんの?」


「庇うとか意味わからない。客だろ?」


「あー、まじ嫉妬で狂いそうだわ。岬にそんな格好させないで我慢して反対すれば良かった」

大悟ははぁ、ものすごく深くため息を吐いた。大悟の考えていることは本当に読めない。あと、重要なことを言うのを忘れかけていた。


「それに大悟。お前、鼻の下伸ばして女の子とイチャイチャするな…ムカつく」


羨ましいなんて、別に思ってないけど、見ているこっちは腹立たしいほどムカつくのだ。…べ、別にー?羨ましいとかこれっぽっちも思ってませんけどね。そんな不貞腐れている俺に対して、大悟は、嬉しそうに微笑んだ。



「…もしかして嫉妬してるのか?」


「は?」



嫉妬…?なめやがって。まぁここは、正直に言ってやる。


「あーしてるわ。死ぬほどしてる」

羨ましいと思ったことを認めることになるがもうそんなのどうでもいい。だって、女の客とられちまったからな。お前のモテさに嫉妬してしまうわ。大悟の様子を伺っていると無言でなぜか、満足そうに俺の頭をよしよしと撫でている。…うわぁ~、なにこの人。たちの悪い腹黒さんだな。

満面な笑みの大悟に対し、俺は気分が悪く睨んだ。すると、突然大悟はぎゅって俺を包み込むように抱き締めた。


「おい、ここクラス。なぜ抱きつく」


息苦しいし、しかもお前の客が俺を睨んでいるじゃないか。お前のせいで可愛い女の子に睨まれるとか最悪…。


「だって、珍しく岬が可愛い嫉妬してくれているんだもん。つい抱き締めたくなった」

ついじゃねぇよ。

 
「離れろ。はいはい俺は、十分お前のモテサに嫉妬してるから離れろ」




適当に言葉を投げ掛け離してもらおうとした。…嫉妬は可愛くねぇだろ。逆に醜くすぎるわ。すると、大悟は視線を下に向けて俺の顔を覗く。


「…え?そっちの意味で嫉妬してたの」

大悟は、心底残念そうに俺を睨むよう表情が消えていった。…なんだ?急に雰囲気が怖くなったぞ。そっちの意味で嫉妬って何だ?たくっ。怖いから真顔で睨むなよ。慣れているのに少しビビってしまう。


「おかげで、自惚れたじゃねぇか。全く見た目に似合わず、女好きめ」


大悟はため息を吐きながら、俺のおでこにチョンと人差し指で触る。 



「は?」



…今もしかして、ケンカ売られたのか?それとも文句かコラ!!男なんだから女の子は大好きだ。女の子ってやわらかそうだよなってたまに考えてしまうほど俺は、女子不足。そんなことも知らない大悟に対して少し殺意を覚える。


「やっほー!ちょっと俺の岬ちゃんとイチャイチャしないでくれる?」

軽いノリで俺と大悟の間をわって金太郎がやって来た。俺は、金太郎の顔を見てピンと苛立ちが過った。



「あっ!お前ッ!!!よくも俺を騙したなっ」

俺は、背伸びをして金太郎の胸ぐらを掴んだ。




「え?ちょ、岬ちゃんどうしたの?なにこの嬉しいプレイはwww」


「は?なんだそれ。それに、今更とぼけたって無駄だぞ」



俺は、金太郎を殴りたくてたまらない衝動に出ている。


「岬ちゃん、ちょっと落ち着こうか。一体、急にどうしたの?」

「お前言ったよな?この格好したら女の子にモテるって」


なんだよ。全然モテないじゃないか!お前らばっかモテやがって。



「あ~。確かにそう言ったけど、俺、一言も“女の子”にモテるなんて言ってないよ?」


「はぁー!?」

俺は、先程の金太郎の言葉を思い出す。


『それ着たらお客さんにモテモテだよ~?』


…うん。ごめん。確かに言ってなかったな。俺は、お客が女の子限定で勘違いしていただけだった。




「でも男にモテたね」

「それ嬉しくねーし」

俺もそろそろ、教室の隅っこできのこを栽培しないといけない時期になったのか。



「でもそいつら、岬ちゃんにベタベタしてたじゃん?超ムカついたけど、客だから我慢した俺を褒めて」


金太郎は、そう言いながらしゃがんで頭を俺に向けた。撫でろと…?



「意味わからんわ。とりあえず、胸ぐら掴んで悪かった」

俺は、そっぽを向いて教室に新しく客が入ってきたので接客に戻った。『ちょっ、岬ちゃん!』って言う金太郎の声が聞こえたが聞こえない振りをした。でも大悟と金太郎もすぐにお客さんの女の子に呼ばれた。ちっ。悔しいけど羨ましい。



「あの~、メイドさん」


「あ、はーい!」


俺もさっそく呼び出しを食らった。主に男の客にだが。 


「えっと、これ下さ…ってあれ?お前もしかして杉本…?」


「え?」


俺の名前を知ってたみたいだから誰?と思って、客の顔をまじまじと見た。




うわ。

「げっ。…最悪」

「何だよ、げって。久しぶりだな」

忘れたいけど、忘れもしない。こいつは、紛れもないあの早川だ。中学3年の時代、同じクラスで席が隣だった時、超嫌がらせしてきたやつ!!なぜ、お前がここにいるんだ。忘れもしないあの屈辱。あれは、俺がまだ青羽中学校の生徒だった話。





~回想~
 

――――
―――――――
――――――――――

……。


俺が嫌いなら話なんかかけてくるな。そして、幼稚なちょっかいとか出してくんじゃねぇよ。

中学3年生の春。いわゆる受験シーズンでピリピリしている時期だ。

それなのに、今、社会の授業中…

「おい、杉本。お前の頭で高校合格すんのかよ」


そう、俺に向かって嫌みを言ってくるコイツは、


「うっせぇ、早川!!今、江戸幕府の成立覚えたつうのに!」

奴は早川。下の名前は忘れた。
 
あーなんだっけ。天下分け目の戦い…あ、そだ!関ヶ原の戦いだ!


「ほんとかよ。じゃあ、江戸幕府を開いた人物は?」


「それくらい知ってるわ!!織田信長!!」


「はずれでーす。正解は徳川家康さんでしたー。あとちゃんと“さん付け”しろよ」



「はぁ?そうやって覚えて、間違ってテストで書いちまったら△になるだろうが!それか得点なし」


「さんつけろ。友達か?」

コイツ、まじいちいち腹立つ。突っかかってきやがって。



「早川、お前。俺に半径3メートル以内で近寄んな」


「それはムリだなぁ。隣同士ですからねー」


とか、にやにやしながら俺の頭をよしよしと撫でる。く、くそぅ。なんと言う敗北感。まだ大悟が隣だったらよかった。席替えで遠くに離れてせいせいしていたが早川より大悟の方が断然マシだということがわかった。お気づきだろうが俺は、完璧早川に舐められている。そして、ある日の放課後。俺は“早川”のせいで先生に説教を受けていた。

「なんで、俺まで先生に怒られないといけないんだッ!」

先生の説教が終わったあと隣でスカした顔をしてる早川を睨んだ。


「何でって、杉本がしょっちゅう俺に話しかけてくるからだろ」


「はぁー!?俺がいつお前に話しかけた!!」


「いつって毎日だろ?おかげで俺まで先生におしゃべりを控えなさいって注意されたじゃねぇか」


「お、お前、どの口が言ってんだよ!!」


「この口だけど」



「人間やめろよ」


「ワン」


「おぉっ、人間やめて次は犬になるのか~。…ってバカ野郎」


「ははっいいね。そのノリツッコミ」

 どうでもいいわ。ツッコミ極めたくねぇし。てか、笑うなし。



「お前、俺を舐めてるだろ。ああん?進路も近いって言われたのに…ここで指導されるとかたまったもんじゃない」 


俺は、深いため息を吐いた。これで高校受験通らなかったらお前のせいだからな。



「進路…あ、そういや、お前高校どこにいくんだよ」


思いだしたのかのように、俺に聞いてきた。


「は?ぜってぇ、教えねぇ」

受かるかどうかわからないけど受験ライバルを増やしてはいけない。


「えー。なぁ、教えろよ」


「しつこいな。まあ、あえていうなら女子がいっぱいいそうなとこ」


そう、その名は早乙女学園!!!!ここが男子校だと知るのはまだ先の話。


「ふ、ふーん。別に興味ねぇけど」


「あっそ。じゃあ聞くなアホ」

 
「ほ、本当どうでもいいし!この女顔!めちゃくちゃ俺の好みなんだよ」


「は?」

「い、いや、ちがくて、このチビチビ!」


急に顔を赤らめ、そう文句を言いながら走って逃げやがった。は?俺にチビだと…?しかも二回も言ったぞ。マジあいつ嫌い。心は大きい俺に対してふざけたこと言いやがって。あぁ、人が気にしていることをスラッと…っ。俺は、小学生なんか相手できねぇわ。そして、運良く次の席替えで離れ関わりが薄くなり、俺は静かに受験勉強ができた。


これが早川との最悪の思い出。


~回想終わり~



もう、中学の頃の記憶は思いださないでおこう。


「しっかし。杉本お前さー、変わらないよなー全然」


「うざ」

早川は、悪気もなくズバズバ言ってきた。変わらないってなんだよ、変わらないって。少しは、成長したし。内心、文句を早川に対してぶつけてた。


「てか、女の子がいっぱいいる高校行くとか言ってなかったっけ?」


「う、うるさい」


傷口を抉るな。今でも後悔してるんだ。せっかくの青春を台無しにしてしまったからな。


「ここ男子校じゃん。やっぱ、杉本ってばかだな」

「もう帰れ」

「それ客にいうか?普通ー」


「か、え、れー、か、え、れー」

手でリズムをとりながら、俺は帰れを連発する。


「まるで幼稚園児だな」


「っな、なんだと…っ?」

今の俺の行為そんなに幼稚過ぎた?恥ずかしい。



「なぁなぁ、早川。この子と知り合い?」


「そうだよ、紹介しろよ」


すると、さっきから俺達の会話を聞いていた早川の友達らしき二人が早川ににやにやしながら訪ねてきた。


「あ…?こいつか?別に知り合いとかじゃねぇけど」



……。

相変わらず、お前いい性格してるよな。



「えー!もしかして紹介してくれねぇの?」


「あぁ、こんなに可愛い子だもんな」

そっかそっかと残念そうにする友達二人。


「お前ら、言っとくけどコイツ男」


俺を指差しながらそう言った。



「えええー!?嘘だろ」


「早川、そんな冗談笑えないって」


そこ驚くとこか?どう見たって、俺男じゃん。



「本当だって。…な?杉本」


おいおい早川くん。そこ、俺に振るか?まあ、こんな女みたいな格好しているから勘違いしてるだろうけどさ。


「はい。男ですけどなにか?」

もう俺の口調はイライラ気味だった。自分でもわかるくらいに。なぜいちいち俺の口から確認しなきゃいけねぇんだよ。腹立つ。もう帰れ帰れ。心の中で『シッシッ』と追い払う。
 

「うっそ~。超可愛いじゃん」


「そうだよ。じゃあ証拠に胸とか触らせてよ俺、君なら男でもいける。てかOK」


「お前らそれセクハラ。俺だって触ってねぇのに」


早川の言葉に、『ちぇー』とか拗ねていた。つか、『俺だって』とか何だよ。ツッコミ所が満載だぞ。ま、早川は、昔から頭がおかしい奴だから触れないでおこう。俺は、自分の優しい気遣いに感動した。やっぱ、俺って素晴らしい。などと、自分を褒めまくっていた。



「そういや、早川はどこの高校行ったんだ?」

俺がそう何気なく聞いて見たらかなり嫌そうな顔をした。



「ふっん」


うわ、早川が超拗ねてる。きも。


「あー、別に答えたくなかったらいいけど」


もしかして、高校行けなかったりして(笑)



「登川」


「え?」


「だから登川高校」



ん!?登川って、あの!?聞き間違いとかじゃない。確かに登川高校って言った。目を見開き驚いた。



「お、お前よくも女の子がたくさんいるとこにっ」


う、嘘だろ。何で神様はこんなに差別をするんだ。もう、悪いことが起きると全て神様のせいにするのは俺の癖。もう俺の人生ほぼ神頼みなんだよ。


「だ、だって、お前がそこ受験すると思って…だけどお前ここ受験するし意味わかんね」



「それはっ!」


だから、傷口を抉るなって。結構こう見えて、気にしてるんだぞ。



「しかも俺!登川の調理科何だぞ!?恥ずかしいわ」


「は?どうしてだ?」


こういう奴に贅沢ものって言うんだよな。



「クラスほぼ女子。男子はコイツら合わせてたったの6人」



「うわ、自慢すんな」


羨ましいじゃないか。



「ハーレムなんか期待してねぇよ。俺は好きな奴と一緒だと思ってたんだ」


「好きなやつ?」


早川って、好きなやついたんだ。てか、お前の恋愛事情なんか知りたくないわ。


「は、は?なに?杉本俺のこと気になってるの?」


「いや、全然まったく」


これっぽっちも。ただ聞いただけだし。できたらこの場から消えてほしいなって思ったりしちゃったりしてます感じかな。


「し、仕方ないな…。ヒントだけ教えてやる」



「はぁ…」


勝手になに話進めてんだ。


「小さくて、可愛くて。久しぶりに会ったらものすごく可愛くなってて閉じ込めたくなるやつ」


「へぇーいいな。紹介しろよ」


「いや、紹介っていうかそれは無理だな…」


早川は、似合わず困った顔をする。



「やっぱ、早川はケチだな。」


「や、ヤキモチ妬くなよ」


はっ?何言ってんだ。


「意味不明。お前が誰と付き合おうと俺には関係ねーし」


なんというか早川に先を越されるとなると屈辱だな。


「相変わらず頑固だな。そんで俺、料理うまくなったし今度食べにこいよ」


「へー」

はっきり言って ど う で も い い 。


「数ヵ月だけしか習ってないのに俺ってば、もうプロ級だよ」


「へー」


はっきりはっきり言って ど う で も い い 。


「まあ、一番得意なやつはイチゴを使ったやつかな」



「へー」


はっきりはっきりはっきり言って

ど う で も …



よ く ね ぇ ! ! !え!?…イチゴ!?


「イチゴ使ったやつ!?今の本当か?」


「そうだけど。…え?なに杉本イチゴ好きなの?」


何を言っている。俺はイチゴを愛した男だぞ。



「大好きだ」


「~ッ!」


正直にイチゴが大好きなことを伝えるとなぜか早川が顔を赤くした。…なんかうざいな。


「早川ー、どうした?」



俺は、早川の顔の前で『おーい』と声をかけながら手を振った。反応なしだったから余計に腹が立った。一発殴った方がいいのかなって思ったけどやめといた。問題沙汰は増やさないで置きたいからな。



「やっぱ、杉本ってお子ちゃまだよな」


早川は、やっと口を開いたと思ったらまた人をバカにした言葉を発した。


「うざ。てか、できたらイチゴケーキよろしくな」


そこんとこ、ちゃんと伝えとく。それにイチゴにお子ちゃまとかねぇし。




「おう、鍛えとくわ。…はっ、はぁ!?べ、別にお前が美味しそうに食べる姿が見たいとか考えてねぇし」



「あっそ。それはそれで早く注文しろや」

今は、雑談なんかしている場合じゃないのだ。早く貴様から金を巻き上げないと。


「あ、そうだったな。じゃあ、ここの人気やつ頼む。お前らもそれでいいか?」


早川の言葉に友達二人は『おう』と返事をした。よし、ひとまず金を巻き上げれそうだ。


「はい、かしこまりましたー」


ペコッと礼をしてすぐさま厨房へと向かった。ふーっ。やっとあの場から離れることができたぜ。もうアイツと関わりたくねぇな。まっ、イチゴの件は例外だが。そして、厨房へと足を運ぶと一人のクラスメートが声をかけてきた。




「岬ちゃん、お疲れさま。先に休憩入っていいよ」


「お疲れ。おっ!まじ!?やったー!さんきゅー…え、えっとー、山田くん!!」


「か、川田だよ」


「そうだった!わりぃ、川田くん!」



ちっ。惜しい。山と川ってもうどっちでもよくねぇか?それよりラッキー。俺がアイツらより先に休憩もらっちゃった。カーテン越しに大悟と金太郎の姿を見ながらざまぁみろ。と言ってやった。早川たちは、川田くんに任せよう。俺は…その間、お、女の子でもナンパしにいこうかな…。あ、いやいやだめだ。すぐに首を振った。第一この格好だし無理なのは確実。絶対、女装趣味の変態野郎と思われる可能性高め。やっぱ、安全第一だな。やめておこう。

とりあえず、色んな所一人で回って見ようかな?せっかくの学園祭なんだし。


――――――
――――――――
――――――――――

……。



適当にぶらぶら歩いていたらさっそく厄介なやつにつかまった。


「しつこい。…ストーカー?」


「まあ、そんなピリピリしないで。てかてか!可愛いね姫のそのメイドの姿。まじ萌え萌えきゅん」   


指でハートを作っている、チャラ男こと、翼先輩。…画的に危ない。


「引くわ~」

無視して歩くと後ろから抱き締められる始末。


「姫!引かないで!!」


そうさせてるのはお前でしょうが。


「通報しますよ?邪魔」


「ちょ、携帯しまおうか!!」


「じゃあ、離せ」


『わ、わかったよ』と言いながらしぶしぶ離してくれた。…と、思ったら。

「ねぇ姫~!ウサギのこと調べたら面白いことがわかったんだ!聞いて~」



なぜか、話を聞かされる立場に。…なんだ、これ。



「……なんでそんなこと調べてんだ?」

早く終わらせたいため、話を聞くことにした。



「何となくだよー!でね、ウサギは、性欲旺盛で、オス同士で交尾することもあるんだって…!」


「……?」


…どういう意味だ?話についていけないため『そうなんだー』って頷いておいた。



「だから姫!そういうわけで、はいどーぞ!」


「は…?」


翼先輩は、超笑顔でウィッグ付きのウサ耳を渡してきた。お、俺にどう反応しろと…?てか、何となくでウサギ調べてねぇだろ。絶対、これ買うためだろ。ったく。



「ほら、これ被って」



「…っなに」

俺に暇もあたえないよう素早く、無理矢理ウィッグ付きの白いウサ耳を被せた。 当の本人は、満足そうに笑ってやがる。



「あー。あの頃の姫の女装を思い出すよ」


ああ、ホストクラブのやつか。 


「人の黒歴史を…っ!よくまぁ」


俺は、拳を作る。

「あ、そういやこれ忘れてた。最後に、えいっと!」


ポケットから何か出したと思ったら躊躇なく俺のケツをパンッと触りやがった。すると、お尻に違和感を感じ、後ろを振り向くと何やらウサギの丸い白い尻尾が…。もうやだ、この人変態。男にこうことさせるこいつの趣味やばい。学園祭は楽しければ何しても許される日じゃないんだよ。あ、今俺名言言った。

 
「それに俺も黒バージョンのウサ耳買ったんだー!ほら見て」

あら。ちゃっかり、着用なさっている。


「はははっ…」

力なく笑った。この人相手にしているだけで多分、俺の寿命確実に縮んでる気がする。


「俺たちは今日からウサギだよ!ほら、交尾しないと!」


俺の肩を掴み『レッツ!保健室』と訳のわからない言葉を言う始末。…頭、平常じゃないよな、異常だ。と、そう思った時だった。遠くの方から誰かの走ってくる音が聞こえてきた。



「翼、探しましたよ。一体どこに、いってらっしゃった…ん?」


俺をチラッと見た。


「あ、あなたはあの時の!?」


突然やって来て俺を見た瞬間、驚いた表情を見せる顔の整ったハーフ野郎。…この顔はよく覚えてる。嫌な思い出と共に。


「あはは…ども」


どうリアクションしたらいいの。なぜ、このタイミングであの時、咲さんの美容室で会った副会長と会うんだよ。しかも、あの時は完全女装したし、今も同様で女装してる。つまり、この人は俺を間違いなく女だと思い込んでいる。廊下の窓から吹く風が全身に沁みて急に寒気がしてきた。おかげ、 ウィッグ付きのウサ耳が取れねぇ。


「え、なに知り合い?」


翼先輩は、俺と副会長を交互に見る。…お前、気づいてねぇのかよ。あん時、少し絡まれたって話したじゃねぇか。



チッ。

ここはもうしょうがねぇ。



最終手段と言うべく

「ちょ、姫!?」


俺は翼先輩の腕を掴み、走り出した。生憎、こいつが俺のこと『姫』と呼んでくれて有り難い。だって、咲さんが副会長に教えた名前も『姫』だったからひとまず怪しまれずに済んだ。今は、とにかく全力疾走。50m7秒台舐めんなああああああああうらあああ。


―――――
……。



全力疾走をした結果、なんとか逃げ切れることができた。はぁはぁ…。よし。ここまで来れば大丈夫だろう。曲がり角の所でバッと翼先輩の腕を掴んでいた手を放す。だが。…あれ?手が放れないぞ。手に違和感が。

「…あの、何しているんですか?」

翼先輩は、俺が放した途端にすぐ掴んできたのだ。



「何ってそりゃあ、せっかく姫が強引に俺の腕を掴んだのに簡単に放すことなんてしたくないからだよ」


「……」

なんつー理由。言葉が出ないとはこのことだ。強引だったのは申し訳ないと思っているが。変な脳内環境の奴と付き合ってらんね。


「放してもらわないと困るんですけど」

非常に困る。せっかくの休憩なのに色んな所、まわれないじゃないか。暇じゃない。


「俺の方が困るよ。そんな可愛い格好してウロウロされたら狼に食べられちゃうでしょ?」



…。


うん引く。ものすごい引く。とんだメルヘン野郎だ。

「帰ります」



「えっ!?ちょ、姫!」


ここは、もう強制突破しかないと思った。掴まれながらも、足を進めた。

「ちょ、スススストップ!わかったわかったから!」


降参、と聞こえたのでとりあえず止まる。



「早く、放して?」


俺は、不自然にニコリと笑う。そしたら、ぶつぶつなんか言いつつもしぶしぶ放したくれた。ふぅ。解放解放。手が赤くなっているのはまぁ、気にしないでおこう。あー、全く俺ってば優しいな。


「ねぇ、姫。改めて聞くけど副会長と知り合いなの?」


さっきの出来事を聞いてきた。それはそうだよな。そのせいで、走らされる羽目になったんだもんな。


「知り合い?そんなんじゃない。前言っただろ。お前がこの俺を無理矢理、美容室で女装させたあの日にな」


そう告げたら、少し考え、間を置いてから『ああ!』と思い出した顔をした。


「あの時か!だったらアイツ、今も姫を女だと勘違いしているよな」


「そうかもしれない」


いや、絶対そうだけど。うわ、バレた時がやばい。笑われる。あの、人を見下す目。思い出しただけで腹が立ってくる。



「言うなよ絶対」


口止めしておく。


「当たり前だよ。姫は俺だけのものだから」


鳥肌の立つことを言う。



「ひとこと多いです。もうついてくるな」



ふんっと言って、すぐさま全力で走った。そう、50m7秒台。後ろでは、慌てた声で俺を呼ぶ声が聞こえたけど無視。とりあえず、もう関わりたくなかった。俺ってば、すげぇな。こんな格好で全力疾走しているとは…。周りから見たら滑稽過ぎる。それから、上手く逃げ切ることができ、色んな所を回った後教室に戻ると皆が俺の格好見て固まった。そして、大歓声が沸き起こる。なぜなら、ウサギのコスプレをしたままだったから。羞恥。こんな大事なことを忘れるなんてバカだろと自分を貶す。それからは俺を笑い者にするかのように皆、カメラや携帯を構えて撮影大会が始まった。

…俺、許可してねぇけど。唖然となる。盗撮になるよね?訴えても大丈夫だよね?いくら貰えるかな。とか思っていたら、お客の女の子に話しかけられマンザラでもない俺だった。少しばかり、上機嫌になった俺は現金な奴だろう。し、仕方ないだろ…っ!?女の子と話すことが出来たんだから、結果がどうであろうとさ。


「…岬不足」


皆の前で、急に後ろから抱き締めてくる大悟。



「おい!離れろよっ」



そしたら、女の子が引くだろ…って、ん?なんだ、そのキラキラして輝く瞳は。そう女の子の瞳はキラキラとしていて俺たちを見ていた。でも可愛いから、深く考えなかった。

こうして楽しい?学園祭は幕を閉じたのだった。




――――
―――――



…………。





「……きっ!」


「…さき、」



「コラ、岬!起きなさい!!」


雀のさえずりとはまた違って、俺を呼ぶ母さんの怒鳴り声が聞こえてきた。う~まだ…眠い。せっかくの休日なんだ。もう少し寝かせてと、思いながらもまた夢の世界へ。



「あら起きないのね~。あーせっかく岬のためにイチゴ…「何!?起きてるけど!!」



イチゴという単語が出た瞬間、すぐに体を起こした。



「さっさと着替えて顔洗ってきなさい」


「えっ、ちょ、イチゴは…?」


「嘘よ。そうでもしないと起きないんだから」



「え~…!!なんだよ、嘘かよ。期待して損した気分。それにまだ8時なのに急に起こしやがって…」


目覚まし時計は、まだ早い朝8時を指していた。俺が休日にいつも起きる時間は10時過ぎだ。休みの日にこんな早く起こされるなんてこっちからしたら堪ったもんじゃない。気分は最悪だけど、まあいいや。二度寝しよ…。


「二度寝したら、明日からご飯はピーマンだから」



「は、はぁ!?に、にに二度寝なんてしようとか思ってねぇよ!お願いピーマンはマジ勘弁」



俺は、ベッドから床に足をつけ、立ち上がった。苦手な食べ物ピーマン。名前はさ、やけにカッコいいのに味がもう…うん。嫌いな人にはわかるよね、俺の気持ち。母さんは、時々そうやって俺を脅してくる。なんて親だ。


「じゃあ、早く着替えて顔洗ってきなさい。お客さんが来るからピシッとね」


「え?客…?」


「あら、聞いてなかったの?珍しいわね。えぇそうよ。だからきちんとしてね」



「そんなん聞いてないし。珍しいって何?誰かウチに来るの?」


起きたばかりなので、頭が回らない。



「そうよ」


「誰が?」


「淳ちゃん」


「え!?じゅ、淳兄が!?」


母さんの言った言葉に俺は一瞬にして固まる。



「そう。岬に連絡しないで来るなんて淳ちゃんどうしたのかしら。いつもなら必ずと言っていいほどするのにね」


珍しいわ、と言う。




ちょ、そんなの聞いてないって!!

俺は、再びベッドの布団の中に潜り込む。





「あ、岬っ!何またベッドなんかに潜っているの!言ったでしょ、今日淳ちゃんが来るの、起きなさい」




「俺はいないって言って。そう俺はいない」

ブルブルと体が震え出す。淳兄には会いたくない。あの時の記憶が甦る。…何で急に来るんだよ。俺は会いたくないんだ。あの時の淳兄は、怖かった。まるで別人のようだった。それなのに、今日会えと?無理だ。いくら、客が来るって言ったって相手が淳兄だと知ったら話は別になる。


「岬!いいの?明日からピーマンよ」



「嫌なのは嫌だ。どうせ母さんもピーマン嫌いなくせに!」


布団越しからそう言う。今思えば、そうだ。母さんがピーマン食べてる姿を見たことがない。…ま、わからないけど。ただの俺の言い訳に過ぎない。



「な、なぜそれを…」


すると、まさかの返答。


「え…図星かよ!?」


こんなあっさり認めてくるのかよ。だったら、母さんも俺と一緒じゃねぇか!


「え、今、母さんを試したのね!?」

布団をバシバシ叩いてくる。やめて。


「試してないよ。母さんが自分で言ったんでしょ」


「そりゃあ、そうだけど…って早く起きなさいって!」

あ、今話そらした。



「嫌だね。さっきも言ったじゃん。俺はいない」



「何バカなこと言ってるの!もうこれ以上、言うこと聞かないと母さん怒るわよ」


「もう怒ってるじゃん」

「怒ってないわよ。ほら、岬?起きなさい」


「うん。おやすみなさい」

「ちょ、こら岬!」


母さんの呆れた声が聞こえたけど、俺は目を閉じ、夢の中へと行った。




【淳side】


ホストクラブは辞めた。というより辞めさせられた。密告(大悟)により、俺が客を襲ったとオーナーに問い詰められあえなく辞めさせられた。チッ。もうちょっと、岬と暮らす資金を集めたかったのに邪魔しやがって。まだまだ金は足りない。そして今はモデルの仕事で頑張っている。あれ以来会ってないから会いたい。あー、絶対俺のこと怖がっているよな。だって泣いてたし。可愛かったからつい歯止めがきかなかった。あの時少し我慢できていたらと後悔している。手を出すのが早かった。でもあれは自ら“食べてください”と言っているようなものだった。俺じゃなくても誰でもあれを見たら襲ってる。岬と初めてキスした時、めちゃくちゃ気持ちよかった。思ってた以上に柔らかかった。そのまま食ってしまいそうだった。媚薬はやり過ぎたと反省している。でも色気がもう半端なかった。しょうがないくらい、俺はずっと小さい頃から岬が好きだ。 たまらなく好きだ。思春期のお年頃って時も女なんか目もくれず、ずっと岬一筋。俺って笑えるほど一途なんだなって思う。


岬と初めて会った時はそれはもう衝撃が走った。

―――――――
―――――――――
―――――――――――

………。



今から10年前のこと。

俺は当時10歳で小学5年生だった。何でもこなせて、クラスでは人気者の存在。いつものように友達と遊んで帰ってきたそんなある日。母さんがやけに長い電話をしていて、話の内容はわからないけどとにかく笑っていたから盛り上がってるっぽい。俺はそんな母さんを不思議そうに見て横を通ると丁度電話が終わったみたいで超ご満悦だった。



「どうしたの?そんな笑顔で」



「あ、久しぶりに杉本さんから連絡あったのよ!今度、子どものお遊戯会見に来ないかって」



「子どものお遊戯会…?」



「そうよ。淳はまだ会ったことないわよね。杉本さんの子どもの岬ちゃん、初めてのお遊戯会があるらしいから一緒に見に行くわよ」



「面倒くさ」


「いいわね?絶対よ」


「はーい」


拒否権なしね。ここから少し遠い親戚のところに行くみたい。忙しいから会う機会がなかったから久しぶりみたいだ。これが俺の運命をかえるきっかけだった。


そして、お遊戯会当日。

すでに会場入りしている。



「淳~こっちこっち」


と、はしゃぎながらイスに座りなさいと母さんは俺に合図。


「母さん、声でかいって」


周りが母さんの声に反応してこっち見てたし恥ずかしい。そんな俺の気も知らずに呑気に笑っていた。



「ごめんね~。それより、トイレはちゃんと済ませた?」



「うん。今済ませてきた」



そう返事を返して、俺はイスに腰を下ろした。


「あ、そうだ。淳に紹介するわね。こちら杉本さん」



「初めまして。淳ちゃん、大きくなったわね~。もうすっかり男前になっちゃって」


「あ、ありがとうございます」


この綺麗な人が杉本さんか。なんか、一度記憶がない赤ん坊の時に会ったとかなんとか。

「わざわざ遠いところから悪いわね、来てもらっちゃって」



「いえ、大丈夫です。楽しみにしてたんで」



ま、本当は母さんに半ば無理やりだけどね。


『ーーーこれより、青羽幼稚園のお遊戯会を始めます』

それから何分か経ってプログラムの一番最初のあいさつが始まった。 


ちなみに親戚にあたる岬ちゃんという女の子(?)とは俺と5歳差らしい。5歳差か…まともな会話できなさそう。絶対、なつかれたらおままごとに付き合わされるよな。だって、俺イケメンだから。絶対パパ役か彼氏役とかだよ。もしかしたら初恋奪っちゃうかもしれない。自分にすごい自信がありまくりな俺は今までに恋をしたことがない。恋に落とすことは得意だけど落とされるのはこれと言っていいほど皆無。


『この日のために頑張ってきました。では、お静かにご覧ください』


あ、幕が上がった。

今から演じる話のストーリーは『ライオン君とオオカミ君の友情』というオリジナル性溢れる物語みたいだ。よし、早くこれが見終わったら、いつものように空き地で皆とサッカーでもしよ。




『ここに、一頭のライオンくんがいました』


ライオンのたてがみを被った一人の園児が登場した。話の内容では、自分勝手にジャングルを独占しているライオンらしい。




「あら、大悟くんだわ」


杉本さんがライオン役の子供の名前を言った。うちの母さんが『大悟くんって?』と問いかける。


「大悟くんは、岬の幼なじみなの」


「あらそうなの!」


と、他愛もない会話をしていた。


『ある日、狼の家族が知らずにその森に入り込んでしまいました』






すると、5人の狼らしき園児が出てきた。耳と尻尾を付けている。5人のうちの2人は親であと3人は子供みたいだ。

そこで俺はふと、端を見る。


ん…?うそ。俺は言葉を失った。

衝撃が走った。絶対、端にいる一匹の狼、狼じゃなくて子猫だろ。なにあれ、めっちゃ可愛い。超可愛い。他の園児に比べるととても小さい。相手が園児なのにも関わらず、心が乱された。




「あ、岬が出てきたわ」


「どれどれ?」


「端にいる小さい子よ」



「まあ、可愛い!!」

母さんたちは盛り上がっている。どうやら話を聞く限りあの子猫みたいな子が岬ちゃんらしい。うそ…あの可愛い子が俺と親戚?嬉しすぎて口元が緩んできた。ちなみに、ロリコンではないからそこんとこ覚えといて。あの子が岬ちゃんだと知ってなぜか俺は真剣に物語に集中した。



『すると、イチゴ畑に夢中になっていた一匹の子どもオオカミくんが家族とはぐれてしまいました』


あ、岬ちゃんだ。しかもオオカミくんって…可哀想に。“女の子”なのにオス役やらされてるんだ。オオカミね…。あ、さっきも言ったけどごめん。やっぱりオオカミに見えない。とてつもなく可愛い子猫だ。そう思ってるのは多分俺だけではないだろう。



『はぐれてしまったオオカミくんはとうとう泣き出してしまいました』


岬ちゃんが泣き真似をしている。








…ごくん。

思わず息を呑んでしまった。






なんだ、あれ…。ただ泣いている演技をしているだけなのにこうも俺のS心を刺激してくる。俺が泣かせてやりたい…と思った。



『泣いているオオカミくんの声を辿って、誰か草むらの中からやってきました。オオカミくんは泣き止んで誰?と言いました』


めっちゃ怯えてるじゃん。ほんと、擽られちゃうね。


『草むらから出てきたのは、ここの森を独占していたライオンくんだったのです』


『何もわからないオオカミくんは、ぱああと明るくなりました』



岬ちゃんは眩しいくらいの笑顔を見せた。…絶対、会場にいる全員を虜にしたな。俺も今のは完全にやられた。



《あ!あの、ぼ、ぼくオオカミくんって言います。その…ま、迷子になっちゃって、この森から出れる道知ってますか?》


ここからは自分で台詞を言うみたいだ。初めて声を聞いたがあどけなくて透き通っていてとにかく俺のドストライクだった。噛みまくっているということは緊張してるんだな。



《…おまえ、おれが怖くないのか?》


《え?別に怖くないよ?》


《…そうか。おまえみたいなやつはじめてだ。よし、おれで良ければ案内してやる》


《わぁ~っ!本当?ありがとう!!え、えっと…?》



《ライオンだ》



《ありがとうライオンくん!》



『初めて会ったのにも関わらず、心が打ち解けたライオンくんとオオカミくん。それからライオンくんはオオカミくんを案内させるべく手を引いて歩き出した』



あ、あれは…案内というより誘拐だな。そう思いながらも物語は更に進んでいき、クライマックスが近づいた。


『無事森から出ることができ、オオカミくんはやっと家族の元に帰れます』


《ライオンくん、ここまで本当ありがとう。この恩は忘れないよ》


《…さない》



《ん?ライオンくん、どうしたの?》



《いやだ!!帰さない!!》



突然、大声を出す岬ちゃんの幼なじみ。ん?普通は見送ってばいばいみたいで終わりだろ。どうした。それにまだ手を繋いだまま。



『…ちょ、大悟くん。台本通りやりなさい』

と、先生らしき人の声が小さく聞こえた。



《嫌だね。家族の元になんか、帰さない。一生この森で暮らそうな》


うわ。なんだこれ。ライオン病みすぎだろ。



『と、ととというわけで、ライオンくんとオオカミくんは友情の力でまた森へと戻っていきました』


そして、幕がおりた。拍手が起こる。一体…な、なんだ。すごいものを見せられた気がする。感情移入しまくりの幼稚園児って聞いたことない。とにかく話がぶっ飛んでいてめちゃくちゃだった。




―――
……。

そして、お遊戯会が終った。




「お母さん!」



「岬、今日はお疲れ様」



「えへへ。ど、どうだった?」



「すっごくかっこよかったわよ!」



「ほんとー!?がんばってよかった~」


岬ちゃんはお母さんの腰に巻きつきながら甘えていた。なにそれ、超可愛い。俺にやって。


「岬ちゃん?こんにちは」


「?」



突然、俺の母さんがしゃがんで岬ちゃんに挨拶した。おいおい。急に話しかけるから戸惑ってんじゃん。


「岬、挨拶しないとだめよ。こちら蒼野さん」



「こ、こんにちは」



ペコリと頭を下げた。





「それから、隣にいるお兄ちゃんが淳お兄ちゃんよ」




「じゅ、じゅ…じゅんおにぃちゃん?」




「う、うん。こ、こんにちは岬ちゃん」


ファーストコンタクト。じゅんおにぃちゃんだって!!もっと言わせたい。


「今日ね、岬のためにわざわざ遠くから来てくれたのよ」



「あ、ありがとう…ございます!」


俺は母さんと二人してこの子の可愛さに胸がときめいた。


「本当いい子ね~!私も、こんな可愛い娘が欲しかったわ」



母さんは、岬ちゃんの頭をよしよしと撫でていた。



「あ、あの蒼野さん…」


杉本さんが言いにくそうに言葉を濁らした。



「どうしたの?」



「えっと、岬は息子です」






「「えっ」」



母さんと珍しく声が揃った。 

いやいや、え。…息子?




「この子、女の子とよく間違われちゃうのよね。本人に言っちゃダメよ?すぐ拗ねるから」




本当だ。杉本さんの後ろに隠れて拗ねている。てことは同性…?!同じピーがついてるなんて思えない。


「岬ちゃん、ごめんね?そうだ今日の演技とってもかっこよかったわよ!」



母さんは、機嫌を取り直させるために頑張っていた。これぐらいで機嫌なおるわけ…と思っていたらすぐに機嫌を直した。そっか、なるほど。かっこいいと言ったらいいのか。俺は学習した。

 
「あ、岬そういえば大悟くんは?」


「大悟?せんせいに呼ばれた。台本むししたからおこられてると思う」


「怒られてるのね。あーほんと仲良しよね」



つまり、台本無視するくらいの仲の良さを見せつけられたってことか?だんだん腹立ってきた。岬ちゃんが男だって知った今でも俺のものしたいという欲は変わらなかった。ちなみに、ショタコンではないからそこんとこ覚えといて。



「あっ!大悟だ!!」


突然、岬ちゃんが大きな声を出す。その視線が向いているところを見るとさっき演技中にも関わらず台本無視した奴が登場した。




「おばさん。こんにちは」


「こんにちは。大悟くん」




「大悟、なんで台本通りにしなかったんだ?」




「演技でもいやだったから。岬と離れたくない」

すると、堂々と俺の目の前で岬ちゃんを抱き締めやがった。くそ、生意気なガキがッ!!俺より先に岬ちゃんのこと知っている。しかも岬って呼び捨て。負けたくないから俺もこの時から“岬”と呼ぶことにした。俺はお遊戯会が終わった後も家は遠いけど岬の家に遊びに行った。そして、時に少しだけ意地悪して泣かせたり時に楽しくなるほど笑わせたりした。淳兄、淳兄って言って俺のあとを追ってくる岬。本当、それがたまらなかった。



「きょうはなにするのー?」


「今日はコウノコリの絵本を読んであげる」


「おもしろそうー!はやく読んで読んで」



目を輝かせ、尻尾を振っている。気づいたら俺が岬にべったりだった。



――――――――
――――――
――――


……。



そして、今現在20歳の俺。岬に怖がれてしまった。今でもあの時のことを思い出しては、岬に触れたくなる。岬に俺の股間を触らせている時にあの密告野郎が来たせいで全てが台無しになった。なにヒーロー面してんだよ。むかつく。殺してぇ…。けど、捕まったら岬と過ごせなくなるのでそこはちゃんとわかってる。でも許せない。あの常態の岬を拐うとは。絶対、手を出したに違いない。あー、くそ。ここのままじゃ、済ませておけない。


よし、とりあえず会って謝ろう。おばさんには今日来ると伝えておいた。いつもは岬に連絡して行くけど今、連絡したら間違えなく拒否されるからしなかった。岬に会いたい。会って話がしたい。そうこうしているうちにもう岬の家に着いていた。今は玄関の前。深呼吸してゆっくりとインターホンを押す。

数秒後、扉が開いた。



「淳ちゃん、いらっしゃい。さあ入って入って」


おばさんが出迎えてくれた。やはり、岬は出てこないか。少し残念な気持ちになりがらも、お邪魔しますと言って家にあがった。そして和室の部屋に案内され、飲み物とお菓子を出してくれた。



「淳ちゃん、久しぶりね~」



「はい、久しぶりです。最近仕事が忙しかったんでなかなか来れませんでした。…急にお邪魔してすみません」




「全然平気よ。そうだったの?大変ね~。それにごめんね。今、岬部屋で閉じ籠っているの」




「岬が…?」




「朝からずっと起こしに行ってるけど、なかなか起きなくて…もしかして、岬とケンカでもした?」





「そ、そんなところです…」



「あ、そうなの。あの子、頑固だからごめんなさいね」



「いえいえ、なんか俺が悪いっていうか…」


部屋に閉じ籠るとは…そうきたか。そこまで考えていなかった。このまま岬に会えず、機会を逃すのはいやだ。そして俺はある決心をする。



「岬と仲直りしたいんで、部屋に行ってもいいですか?」


自分で起こしに行くというアイディアが浮かんだ。





「そんな悪いわ」



「大丈夫です。どうしても謝りたくて…」

止めても行くけど。強行突破あるのみ。


「でも岬、どんな手を使っても起きないわよ?」 




「でも頑張ります」

今日は、絶対何がなんでも岬と会う。しかも今、同じ屋根の下にいるのに会わずに帰りたくない。おばさんの許可を貰ったところで俺は2階にある岬の部屋に移動した。







コンコン

2回部屋の扉をノックする。でも、返事や反応がなかった。本当に寝てるのか?もう午後1時だというのに。チッ。どうするか。ドアとか絶対、鍵がかかって…ん?



「あ、開いてる…?」

警戒心の欠片もねぇ!驚きのあまり腰が抜けた。全く、相変わらず無防備だ。はぁ…とため息を吐いたけどでもそのおかげで入ることができる。そうして恐る恐るゆっくりとドアを開けた。


「岬、いるか…?」


すると、ベッドの上に小さな膨らみが見えた。良かった…いた。ホッと安心する。その方からスースーと規制正しい寝息が聞こえたからやっぱり寝てるんだと改めてわかった。チック、タックと時計の針の音が聞こえるくらいの静かさ。この状況で気持ちよく寝ているのを起こすって最悪なパターンだけど仕方ない。俺は、ベッドまで行ってそのまま腰を下ろした。そして、岬の体を優しく揺すった。



「岬、起きろ」


そのあとも揺するがなかなか起きない。

ピクリともしない。



「…岬…………チュっ」



つい、我慢できなくて布団を捲り岬の首あたりにキスをおとす。久しぶりに触れる感触がなんとも柔らかくて止まらなくなる。その白い透き通った肌が俺を誘惑してくる。



【岬side】


深い深い夢の中。チクっと、首筋に痛みが走った。



「い、いてぇ…」

あまりにも痛かったので目が覚めてしまった。首を押さえながら、蚊に刺されたと思って起きてみればびっくり。


「え…?」



「おはよ、岬」





ちょ…。へ?

なにこれ夢…?


今、目の前ににっこりと微笑んでいる淳兄が見えるのはきっと悪い夢だよな?そうに違いない。でなければ何と言うんだ。起きた瞬間、淳兄の顔が視界にあった。これほどまでに、恐ろしい目覚めをしたことがない。


「な、なんで…俺の部屋にいんの」


やっと出てきた言葉がそれだった。なんで、今一緒のベッドの上にいるのか不思議でたまらない。今日、来るとは母さんから聞いていたけど何で勝手に部屋に入ってきてる?


「おばさんに起こしてもいいと許可をもらった」




「母さんが…?でも何しにここに…」



母さんのやつ~っ、勝手に!!


「岬に会いたかったから」



「俺は会いたくない」



淳兄から顔を逸らして、窓の方を向く。


「それで用があってきたんだ」



「別に俺にはないけど」




「俺にはあるんだ」




…なんつー、しつこさ。俺はバレないようにこっそり、ポケットから携帯を取りだす。とりあえず、画面は見ないで指で操作いく。慣れた手付きで俺は電話のアプリを開き、“篠崎 大悟”と書かれてあるのをタッチした。



「え?」


すると、俺の携帯が宙に浮いたと思ったら取り上げられたことに気づいた。


「はいこれ没収」


すると、すぐに通話をキャンセルされた。えっ。助けを呼ぼうとしたけどダメだったみたいだ。ニヤリと悪魔の顔をした淳兄が俺の顔を覗く。


「岬は全く悪い子だね」


「…っ」



「あー、怯えちゃって…可愛いね」



「こ、こっちくんな!」



ぎゅっと布団を掴む。



「そう言われたら、余計来たくなるでしょ」

あの時の淳兄が甦る。こ、怖い。自分でも気づかないうちに震えだしていた。人が違うようで本当に淳兄なのかと疑ってしまう。や、やだ…。


「岬…?」



淳兄の手が近づいてくる。





「…っ」

俺は強く目を閉じた。きっと、殴られる。そう思っただけで恐怖が襲ってきた。…あ、れ?なにもこない?不思議に思った俺は片目だけ、うっすら開けた。そしたら。


「…何?俺が岬に暴力振るうと思ってるの?」

と、笑われた。


「え…?」


「今日は、岬に用があるって言ったでしょ」


いつも通りの淳兄。その柔らかくて優しい笑顔は俺が知っている淳兄だった。それを見て安心したのかわからないけど震えがいつの間にか治まっていた。こ、怖くない…?



「……」


俺はよくわけかわからなくなって無言で淳兄をずっと見た。


「岬。そのまま聞いてほしい」

淳兄は、真剣な顔つきになった。俺はコクりと頷く。


「あの時のことは、ごめん。謝って済む話じゃないが本当に悪かったと思っている」




深々と頭を下げられた。



「じゅ、淳兄…?」


こうやって、まさか謝ってくるなんて考えもしなかった。


「岬の気持ちも考えないで本当悪いことした。嫌われて当然だ」



「…」


どう反応したらいいかわからない。けど、淳兄がしたことは簡単に許せない。



「だけど、俺は…初めて会った時から岬のことが好きなんだ」


「え?」


今、好きって言われた。す、好き…?ありえない。てっきり、俺のことが嫌いであんな酷いことしたと思っていたけど…それは違うのか?到底信じられない。


「俺は岬のことになると余裕なくて、ついかっとなってしまった。ごめん…あのときは嫉妬で狂っていて自分を見失っていたみたいだ」


「…余裕?」

寂しそうな目。見たことがない。少し落ち込んでいるようにも見える。淳兄からそう簡単に謝ってもらえるとは思ってなかったし第一、起きたばかりだから頭も回っていない今、何て返せばいいのかよくわからない。それに余裕がないということはどういうことだ?


「後悔してるんだ…。怖い思いをさせてごめんな?」


こ、こんなに謝る淳兄は初めてみた。いつもだったら、少しケンカしても絶対謝らなかった淳兄が今こうやって謝っている姿を見ると珍しく感じる。



「許してほしい…」



すると、俺を包み込むように前から優しく抱き締めた。



「じゅ淳兄…?」

急に抱き締めるなんて驚いた。離せと言いたいが謝っている人に対して失礼かなとも思った。若干、好感度を気にしながらさりげなく淳兄の腕をとく。許してほしい…か。そんなこと言われたって…



「もし、俺が許さないって…言ったらどうするの?」


俺って結構、根にもつタイプなんだ。そこんとこ、重要だからさ。


「うーん。その時は、許すまでこの部屋で一生二人っきりでいる」


「は?」


「そして、岬を縛り上げ嫌でも許してもらうまでだ」


し、し………縛り上げる!!!???

淳兄のことだからやりかねない。






「よし、待て。わかった許す」



あっさり許した。このとき本当俺ってば、本当単純だと思った。だって、縛り上げるとか怖いこと言うんだぜ?半分、脅してるのと一緒だ。これって脅迫罪で訴えられるんじゃ…?


「そっか…なら良かった。来たかいがあったよ。俺はただそれだけ伝えたかっただけだから(まあ俺の告白には気づいてないみたいだがな…)」



そう言って、淳兄は腰をあげベッドから退いた。


「また今度、ゆっくり話そうな。もうちょい居たいけど、今から俺仕事入ってるからさ」


残念といった表情を浮かべる。わざわざ遠くから謝りに来てしかも仕事まで入っていたのかよ…。本当、何考えているのかさっぱりわかんねぇ。

「じゃあまたな」


俺の頭をくしゃくしゃ撫でる。



ただえさえ、癖っ毛なのに…っ!

 


「あぁ、もう来るなよ」


髪を整えながら適当に返事を返す。  


「冷たいな。これだからツンデレは…」

ごちゃごちゃしつけぇな。

「許してやったんだから早く帰れっ!!」

すると途端に、淳兄が怖い顔をして俺の元に寄り頬っぺたを強く掴みやがった。


「ああん?誰に向かって言ってんだ?」


「ご、ごごごめんなさい!ちょ、調子に乗りました!!し、仕事頑張ってね」


「可愛いこと言いやがってまったく…。珍しく威勢がいいな。まあ、いい。次は覚悟しておくんだな」



ニヤリと笑って、やっと離してくれた。






「は、はぁ…」



た、助かった。それにしても痛いじゃんかよ。俺は淳兄の背中に向かってベェーと舌を出しパタンとドアがしまったのを確認した。やっと、出て行ったか…。おかげで静かになった。これでもう少し寝れる。つか、今何時だ…?時計を見る。


「1時43分…」



…えっ!?もうそんな時間!?でも、まだ眠たい。けど寝過ぎるのもよくないって聞いたことあるし…。とりあえず、シャワーでも浴びるか。そして、俺はシャワーを浴びに浴室に行った。


――――
――――――



……。





「ふぅ…さっぱりした」



部屋に戻り、タオルで髪をふく。



コンコンー

すると、突然部屋のドアをノックされた。


「母さん…?」



さっき、買い物行くとかなんとか行ってたのに…もう帰ってきたのかな?


ガチャッと勝手にドアが開く。



「岬」


「母さん、買い物じゃなかったの…て、大悟!?」



俺の名前を呼び、そこに立っていたのは大悟だった。



「なんで、大悟がここに…?どうしたんだ?」


髪をふくのを忘れ、ポカンとなる。大悟は怒った様子でズカズカ入ってきた。



「どうしたじゃないだろ。自分から電話かけといて、何で電話かけ直しても出ねぇんだ」



「電話…?」



あっそういや、淳兄に途中できられたけど確かに助けを求める電話をしたな。俺は、机の上に置いてある携帯をとる。っ!?ロックを解除した途端、目を見開いた。ちゃ、着信履歴の件数がやばいことなってるぅー!? 全部、大悟からだった。


「岬になんかあったと思って心配した」


「ご、ごめん」


心配性な大悟のことをわかっていながら忘れてた。家まで駆けつけてくれるなんてすごいいい奴すぎる。


「GPSだと岬の家だし、急いで家を飛び出してきた」

それで俺の居場所がわかったってことか。でも、そろそろGPSを解除してほしいなーって思ってたり。居場所が特定できるって怖いよ。大悟に支配されてる感が半端ない。


「で、岬。何で俺に電話したの?」


その言葉にギクリとなった。ま、まずい。大悟に淳兄のこと言ってもいいのか?だって、昔からあの二人ケンカしてたし…。


「べ、別に何も…」


「何もってわけないよな?俺から目を逸らすな」




「い!いい痛い!!お願いだから頬つねないで」



「正直に言うか?」



「い、言います!!言うから!!」



スッと離してくれた。いてぇ。あぁ、…頬いてぇ。強くやりやがったな大悟のやつ…。頬を擦った。



「岬、そういう時間稼ぎはいいから教えて?」



「じ、時間稼ぎって…!本当に痛かったんだぞ」




「はいはい。俺が悪かった悪かった」




子供をあしらうような感じで謝られた。





「で、用件は?」



さっそくか。




「えっと…。じ、実は…淳兄が突然家に来てさ」




「は?あのクズが家に来てたのか?何もされてないよな?」


淳兄をクズ扱い。さすが大悟といったほうがいいだろう。


「う、うん。されてないけど…謝罪された」



ちゃんと正直に話した。そしたらどんどん大悟の顔色が険しくなっていく。やっぱり、大悟に淳兄の話はしない方がよかったのかな…。


「謝罪ってあのときのことか」




俺はこくりと頷く。


「よくもまあ、岬にあんなことして顔を出せたなあのクズは」



鬼のように豹変している時の大悟は一番危険なやつだ。あまり、刺激しないようにゆっくり話を続ける。


「えっと、それもそうなんだけど…許してくれないと一生この部屋にいるとか言われたから許した…あはは」



すると、コツンと小突かれる。



「い、いてっ!」



すぐに額を押さえる。ぼ、暴力反対!!

「岬バカなの。あんな奴一生許すなアホ」


す、すごい言われよう…。




「あ、はいそうです…俺はバカでアホです…」


な、何とでも言え。今の俺にプライドなんて言葉はないから。でも内心そう思う自分が辛い。半泣きになる。



「でも…」



大悟はそう言って手を伸ばし俺の髪に触れたと思ったら耳にかけた。


「すぐ許すところも岬のいいところだよね」


「え?」


一瞬、ドキッとした。まただ…この変な感じ…。なぜだかわからないけど、電気がビリッと走る感じ。さっきとは違って柔らかい笑顔で俺の頭を撫でている。確かに今…褒めたよな?


「大悟…」

しかし、それも一瞬だった。


「まあそれが仇(あだ)となるけどね」




「え。」



その一言ですぐにまた鬼の大悟に戻った。さっきの笑顔はどこに行った?と思うほど。とりあえず、早く話を終わらそう。


「それで危険を感じて、大悟に電話したって感じです…はい」



終わり。おしまい。ちょっと、大悟が怖くて後半敬語になる。



「へー?」


なんか、疑っているみたいだ。無理矢理終わらせたの伝わってしまったのかな。



「でも、本当に許したら帰ったくれたし別に何もされなかったよ?き、来てくれてありがとな…」



うつむいた。どうしよ…大悟の威圧感に目が合わせない。もう絶対前世この人鬼だよ。まあ、本人には恐ろしくて言えないけど。すると、大悟は何も言わずに俺の横を通りすぎて行く。



「だ、大悟…?」



俺は不審に思って振りかえって目線を追う。大悟は俺のタンスを開けるとタオルを取り出して近づいてきた。


「いつもは癖っ毛でふわふわしているのに、今は濡れてストレートになっている岬って色気あって更に可愛い」





「……ちょ、だ、大悟!?」



頭にそのタオルを被せてワシャワシャとされる。なにこれ…。


「ちゃんと髪乾かさないと風邪引くだろ」




「あ、うん…」

タオルでワシャワシャされるとなんか気持ちよくて眠りそう…。さっきまで不機嫌だったのに今は…その。大悟って本当…突然お母さんみたいになるよな。そこが大悟のいいところとかなんて絶対言わないけどね。タオルで気持ちよくワシャワシャされていたら突然、大悟の動きが止まる。





「…?」



不思議に思って大悟の顔を覗く。





「…本当に何もされてないんだよな?」


まだ心配してたのか。


「うん、されてないよ?」

「じゃあさ、」



「?」

大悟の指が俺の首筋に触れる。



「この痕はなに?」



「え?」


…痕?意味がわからなくて頭にクエスチョンマークを浮かべる。


「赤くなってるけど」




「まじ?蚊にでも刺されたのかな…」



でも痒くない。赤くなっているなんて自分で見ることなんてできないから気づかなかった。


「なに言ってんの。どう見ても歯形があるじゃん」




「歯形…?」



うそ、歯形なんてついてんの。歯形なんて一体いつ…あっ。もしかして、俺がぐっすりと寝ていたあの時急に首筋に痛みを感じた。そして、痛くて飛び起きたら淳兄が…。てことは、この歯形って…。






「み・さ・きちゃん?」


理解したところでまた鬼が降臨していました。まず、話せばわかるよな。


「だ、大悟…?不可抗力って言葉知ってるか?」



「それで?知ってるよ」




「多分、俺が寝ている隙に…ヒャッ」





大悟が俺の首筋を舐めた。





「だ、大悟…?ちょ、」


急に何すん…



「少し黙ってろ」

一度ならず二度までも噛みつかれたのは言うまでもない。人の首筋を噛むの今流行っているわけではないよな…。吸血鬼か。おかげで首が痛い。強く噛んだな…。それから消毒したあとに気が済むまで首筋を舐めたり噛まれたりして大悟は帰った。おかしなことに心臓がドキドキしていて止まらなかった。もうその時の俺は変な声が出まくって押さえるのに必死でビビっていた。



大悟が帰って何時間か経過したあと俺は一階のリビングでテレビを見ていた。 



『はーい。あなたの心を暴いちゃうぞTVが始まりました』


リモコンでチャンネルをかえたら占い的な心理テストみたいなのがやっていた。内容はよくわからない。でもよく当たるみたい。気になったので見ることにした。机に置いてある飴を取り出してそれを口に含み舐めた。ちなみにイチゴ味。暇だったのでその心理テストみたいなのをやってみることにした。





『まず【1問】 自分にピンチが起きたとき、すぐに助けにきてほしい人の顔を思い浮かべてください。もしくは助けたいと思う人は?』


すぐに大悟の顔が浮かんだ。強いし頼りになる。そして、いつも助けられているから俺も助けたいかも。


『【2問】近くにいるだけで心臓がこうドキッとなったり衝撃みたいなのが走る人はいますか?』


次々と出される問題。ほぼ、全部大悟が当てはまった。なんか、怖いな。全部俺に言われてるような感じがする。そして全部の問題が終わったところで回答するみたいだ。



『この問題に当てはまる数の多い人こそズバリあなたの好きな人でしょう!』



「え」

俺は固まった。


「す、すすす好きな人!?」



びっくりして舐めたばっかりの飴をごくりと飲み込んでしまった。なにこの心理テスト!?俺は頭を押さえる。





ガチャー



「あら岬どうしたの?頭を押さえたりして」



今、リビングに入ってきた母さんに 不思議に思われた。


「べ、別に」


「別にって、全く素っ気ないわね。あ、それと買い物から帰る途中、大悟くんに会ったわよ」


「だ、だだ大悟に!? 」


さっきまで大悟のこと考えていたから母さんの口から大悟という言葉が出て驚いてしまった。



「なにそんなに驚いて。ああ、いつ見ても大悟くんって本当にかっこよく成長したわね。彼女とかいないの?」




え?


「か、彼女…?」




大悟に?今までずっと一緒にいたけど大悟に彼女がいたことなんて聞いたことがない。言うのもちょっと気が引けるけど大悟はすっごくかっこいい。逆に彼女がいないって珍しいくらいだ。


大悟に彼女がいるなんてそんなの…


「わからない…」

でも聞いたことないからいないと思う。母さんは『あらそうなの?』って言っていた。



俺…すっごい勝手だけど今大悟に彼女ができた想像をしただけで腹が立った。むかついた。先を越されるのが嫌というわけではなかった。ただ、嫌でしょうがない。

もしかして、俺って大悟のこと…本当に好きなのか?もちろん、恋愛感情として…。う、うそだ、きっと何かの間違い。手で顔を覆う。



かぁぁぁあ。 

心臓がドキドキうるさい。今まで大悟は幼なじみで頼りになる存在だった。急にそんなのわかってもどうしたらいいのかわからない。どうしよう…大悟男なのに好きだ。


大悟の近くにいるとドキドキするし自分じゃいられなくなる。やばい…これって。自覚すればするほど心臓が変にうるさくなる…。…こんなの俺らしくない。なんで、今まで気づかなかったんだよ…。首筋を触る。大悟が触れた箇所が痺れるように熱い。しかも、心理テスト全部大悟が当てはまるとかどんだけ好きなんだよ…っ。 

 
好きと自覚してしまった今日大悟のことで頭がいっぱいいっぱいだった。





―――そして今、ゆっくりと歯車が動き始めた。



大悟を好きと自覚してから数日が経った。今は学校の2時間目が終わった休み時間。そして俺は最近、おかしすぎる。





「岬。おい岬」


「え、何。どうした…大悟」


「どうしたじゃない。最近、ずっとぼーっとしてるぞ」



「そ、そう見える?気のせいじゃない?」



「見える。しかもなんで顔赤いの」


「う、うそ!?」


うわ、何で俺顔赤くなってんの。両手で頬を覆う。


「もしかして熱でもあるのか?」


「い、いやないから…ひゃ!」


大悟のひんやり冷たい手が俺の額に触れる。もうなんだこれ…ドキドキしてぎゅっと目を瞑った。は、早く手退けろよ~。そう、俺はあれから大悟のそばにいるとドキドキ止まらなくなっている。はぁ…自覚した途端ずっとこんな。いつもの俺ってどんなだったんだ。冷静になれと心の中で唱えるけど逆にどんどん悪化していくばかり。考えないように努力しているけど無理だ。考えてしまう。隣に大悟がいるせいだ。



「お前、ちょっと熱いな。この前、髪乾かしてなかったせいだろ」


「は、はぁ!?そ、そんなことない!」


「嘘だ、じゃあ何で顔赤いし少し熱あるわけ?」



「うっ、し、知らない」


ふんっと視線を大悟から逸らす。

もう自分変。





「どうしたの~岬ちゃーん!」


「げっ、金太郎」


視線を逸らした先には能天気な金太郎がいた。





「え今、げっ、って言った?酷いよ岬ちゃん!」


「言ってないよ」


「うそ!言った!!」




「おい、岬。どうしてこいつには普通に話してんだ?俺の時とは明らかに違うぞ」


ギクッ

だ、大悟のやつ勘が鋭い。





「え、なになにもしかしてお二人ケンカ中?ラッキー、岬ちゃんこんな奴放っておいて俺の胸に飛び込んでおいで、さあ」


バサッと手を広げる。

相変わらずだなこいつは。









「俺と岬はケンカなんてしてねぇよ。てめぇはきのこでも栽培してろ」


「はぁー!?なんだとー!きのこなんてそんな毎日植えるかよ!」



「金太郎、うるさい」


「えっ、岬ちゃん…」


しょぼーんとなって教室の隅できのこを栽培し始めた。




きのこ毎日っていいほど植えてんじゃん。

さっきの言葉一体何だったんだよ。かっこわら。




そんな金太郎をよそに3時間目をつげる鐘が鳴った。ナイスタイミング鐘。今、大悟と話したら心臓が爆発しそうだったし。

3時間目はHR。明日から夏休みに入るから過ごし方について話すみたいだ。あと一学期の通知表も配るらしい。夏休みに入って長く休めるのはいいけど楽しみを崩すようなそんな通知表はいらないよ。俺、頭はこれっぽっちも自信ないだよね。きのこ栽培から帰ってきた金太郎がこっちを見る。



「ねぇ、岬ちゃん俺と一緒にデートしない?」


「しない」


「そんな即答しなくても…っ!これだからツンデレさんはもう」


「……」


「岬ちゃん黙らないで、その目は何!?そんな目で俺を見ないで」



「ごめんごめん覚えていたらね」


「もう岬ちゃん大好きっ!これが飴と鞭かぁ」



「はいはい」


もう金太郎のテンションについていけなくて軽くあしらった。






──
────
──────


……




そして、担任から通知表が配られた俺は中身を見ないでいる。家に帰ったら捨てよう。そして無かったことにしよう。そう思って机の引き出しにしまおうとしたときだった。


「あっれ~?岬ちゃん通知表見ないの?」


ギクッ

「は、はぁー!?も、もう見たし」


俺のバカ。

明らかにギクリとなってしまった。




「嘘だ~、俺ずっと岬ちゃん見てたも~ん」



「お、お前の目が節穴なんだよ」



「へぇ~、もしかして岬ちゃん通知表見るの怖いの?」


「は、は!?こ、怖くねぇし」


「じゃあ見ないの?」



「…っ」



クソ金太郎~ッ。


俺はゴクリと息をのんで恐る恐る机にしまった通知表をとりだし、ゆっくりと評価の部分のページを開く。





────────

杉本岬

数学2
英語3
現代文2
日本史3
家庭科3
体育5
保健体育1
生物2
音楽3

────────


や、やったーーーー!!!

体育評価5じゃん!!!



思っていたよりいい評価で驚いた。




「あれ、岬ちゃんなんか嬉しそうだね~」


「うん!結構良かったぜ」




「じゃあ見せて~」



嬉しくて鼻が伸びている俺はほれほれと通知表を金太郎に渡してしまった。





「ぷははっ、岬ちゃん超可愛い!!」


「おいっ、てめえ何笑ってんだよ!」



「平均2.6だよ~可愛いなー、しかも保健体育1ってもうっ鼻血もんだよ」




「バカにしてるのか!!だったらお前のも見せろよ」



俺は笑われたこととバカにされたことにむかついて奴のを要求した。人のことばかり言いたい放題言って自分はどうなんだよ。はいどうぞ~と渡され、すぐさま確認する。


どうせ、金太郎は俺より下のはず!



────────


滝本太郎

数学3
英語3
現代文3
日本史3
家庭科3
体育5
保健体育5
生物3
音楽3
 
────────


5が二個!?金太郎のくせにっ!しかも3が多!




「ちょ、ちょ岬ちゃん!?人の通知表そんなグチャグチャにしちゃだめでしょ」


「お前、授業中寝てるじゃん!!なんだよこれ先生贔屓しやがって」



「俺やればできる子なんだよ~岬ちゃん!」



「嫌味か!」



俺だってやればできる子だって言われたことはある。ちくしょう、理解力の問題だよな。もう家に帰ったらソッコー捨ててやる。





「岬、教科に一つ5があって、成長したな」



「だ、大悟…お前っ」


ドキドキするけど、やっぱり大悟は話のわかるやつだ。




「ち、ちなみに大悟はどうだったんだ?」


「ん?俺か?俺はいつも通りだよ。岬みたいに評価が上がったっていうのはないし」



「ま、まじ!?」

正直、信じられなかった。大悟頭良さそうなのに実は俺より頭悪かったのか!?




「なーんだ!お前頭悪かったのか~、岬ちゃん天才の俺の胸に飛び込んでおいで」


本日二回目のそれ。


でも大悟が評価低いってありえない。




「ちょっと大悟それ見せて」


俺は机に置いてあるものを指差す。


「あ、これか?いつも通りの結果だぞ」



「いいから!」


俺は渡された大悟の通知表を見る。





「……」


「岬ちゃんそんな紙を見つめたまま黙ってどうしたの~?もしかしてオール1だったり…え?」 



俺と金太郎はこの紙切れに書かれている数字に目を疑った。





 ────────

篠崎大悟

数学5
英語5
現代文5
日本史5
家庭科5
体育5
保健体育5
生物5
音楽5

 ────────






「大悟てめぇオール5じゃねぇか!!!何、頭悪い雰囲気出してんだよ!」


やっぱり、おかしいと思ったんだ。確かに5なんて上がりようないけど、これがいつも通りって超むかつくくらい羨ましい!!これは脳のつくりが違うのか!?オール5なんて……さっき5一個あったくらいで喜んでいた俺が惨めすぎるだろ。



「でもまだ一学期だからこれからどうなるかわからないからね、そんなすごいことじゃないよ。それに岬、お前はこれから伸びる」


大悟はよしよしと俺の頭を撫でる。



「っ」



こ、こんな優しい大悟はなんか怖い…。ちょっと馬鹿にされてる気がするけどもうドキドキがやばくて考える余裕がない。




「もう髪が乱れるだろ…離せ」 


「岬、何また顔赤くなってんの」


にやりと口角をあげて、悪戯っ子のような顔をする。



「う、うるさいな!もう俺寝る」


この心臓の音に気づかれたくなくてすぐに寝る体勢にはいった。こいつの隣にいると心臓に悪い…。俺、やっぱ日に日に悪化していっている。小さい頃からずっと一緒で急に男から好きだって言われても気持ち悪いだけだよな…。胸が痛くなる。



あーもう考えたくない寝よう。俺は、隣で大悟が何か話している声を無視してそのまま目を閉じた。



───────
─────────

………。



もう消えた俺の通知表のことは忘れ去り、今は夏休み真っ只中!






「うーん!今日もいちご日和だ!!」



夏休みに突入し、課題とは目を背け俺は家から近いスーパーで買い物に来ている。



ふふ、いちご、いちご~。




ちなみに本物の生いちごは夏は旬じゃない。

店に置いているのが滅多に少ないし、あったとしてもちょっと値段が高いから手が出せない。


だから、生いちごはお預けで今はいちご味のお菓子をたくさん買い漁っている。





毎日っていいほど買いに行っているから暇をもてあそんでいるって母さんに言われたけどそんなの気にしなーい。いちごの旬はまだだけど、俺にとったら毎日が旬なんだ~。この日のためにいちごの貯金箱にお金をたくさん貯金していて良かった。





「うわっ!コレのいちご味あったんだ!!」


新商品のお菓子にすぐ飛び付いた。


一人言がすごいとか、そんなん周りになんて気にしないよ。



あー、やば。

天国。ここはまじ天国!!



家帰ったら何から食べようかな。

もう帰りながら食べようかな。


あーもうどうしよう!いちごちゃん!!!!手にはかごを持ち、かごの中はいちご味のお菓子だらけ。やべ、唾液の分泌が促進されまくりだぜ。もういちごにメロメロな俺は知り合いに今の姿見られたら確実変人扱いされる。ま、今はそういうの気にしている暇はないけどね。



「よっ、そこのお嬢ちゃん。このいちごあげるから俺とデートしない?」


とん、と後ろから肩に手が置かれた。誰だ?邪魔をするのは。ふと、小さい頃、母さんに言われたことを思い出した。



『いい?岬。絶対にいちごあげるからって言われてもついていっちゃダメよ』

『はーい』




これは物で釣って誘拐するっていうアレか。



ったく、俺を何歳だと思ってんだ。


バッと、騙されないと振りかえると



───ドクンと鼓動を打った。





「え!?だ、大悟かよ!な、なんでここに」


「そうだよ、岬。俺の低いボイスどうだった?」



「ぜ、全然大悟だってわからなかった…」


いつもの声と違かったため、誰だか本当に気づかなかった。




「今日岬んちに行ったらおばさんに聞いたぞ。最近、いちご味のお菓子を買い漁っているとな」



「べ、別にいいじゃん!好きなんだから」



「ふーん。…じゃあ、俺のことは?」



「は、はぁっ!?きゅ、急に何」



「俺のことは…好き?」



「お、お前、ななな何言っての!意味わからない」



も、もしかして俺の気持ち気づかれてる?いやいや、そんなわけない。何だって俺はポーカーフェイスなんだからな。バレてるとかそんなのありえない。あーくそぅ…。絶対、夏休みの間大悟には会わないって決めていたのに。



だって、会うだけで動揺してしまうじゃん俺。





 




「おい岬。無視すんな」


「し、してないじゃん」



悪魔が降臨してしまいました。

すっかり、大悟がすぐに不機嫌になるという性質を忘れていた。




すると、大悟が俺のかごの中に入れたお菓子を一つ勝手に取り出した。




「おい!大悟返せよ」

いちごの恨みは怖いぞ。




「こんなものよりさ、もっと俺を意識しろよ」



「は、はぁ!?」



俺の反応を見た大悟は気分が良くなったように鼻歌を歌ってかごの中に戻した。



ま、待って…今俺どんな顔してたの? 

もうやだ、恥ずかしい。


突然、変なこと言うし、俺は大悟に洗脳されていく。大悟の手のひらで転がされているみたいでやだ。あー早く帰ってお菓子を食べよう。大悟にこれ以上構っていたら色んな意味でおかしくなる。




…やっぱ、大悟にはバレてるのか?


いやいや、本当にそんなはずはないよな。





「岬、もう帰るのか?」


「う、うん。買いたいもの決まったし」




そして、大悟!お前もさっさと帰りやがれ。


今の感じだと調子狂う。




俺は大悟を放っておいて、急ぎ足でそのままレジへと向かった。





 




だけど大悟は俺が会計が終わるまでレジの近くで待っていた。一体、大悟は何しに来たんだ…。そして帰り道、無理矢理俺の荷物を持って一緒に帰ることになった。




もうなんだよ、これ。

好きって自覚したら大悟がさりげなくやる仕草までドキドキしてしまう。



きっと、男に好かれても大悟は嬉しくねぇよな…。


胸がもやもやして気持ち悪い。



「なぁ、岬」


「…」


「おーい、岬」



「へっ!?何?」


耳元で囁かれて気づく。

うわっ、大袈裟過ぎたよな今の反応。




「岬、最近ずっと上の空だね。なんかあった?」


「い、いや別に何も。で、なに?」



「ふーん、ならいいけど。今週の土曜日暇?」



「今週の土曜日…?まあ、何も用事ないけど」


「じゃあ、一緒に夏祭り行こっか」



「え!?夏祭りあんの!?」



「そうだよ。いつもは8月の終わりにやってたけど今回は8月の始めにやるみたい」



「し、知らなかった…」


「だから、一緒に夏祭り行くから。理解OK?」



「い、いえす」



そういえば夏祭り…去年もいったなー。

なつかし。




「また連絡するからな。じゃあな」



大悟は俺に荷物を渡し、手を振って帰っていった。





ん?待てよ、夏祭り…大悟と二人で!?どうしよ!?俺、流れでいえすとか言っちゃったよ!やばい。またどんな顔して会えばいいんだ。家の前で、かああっと赤くなって10分くらいずっと立っていた。



うだうだしているうちにもう夏祭り当日。

やばい。緊張してきた。なんか、二人っきりでデートみたいとか考えてしまう重症になってる。





「岬ー?この浴衣どう?」



「えー!やだよそんな女もん」



「あら、お母さんに反抗する気?」



「するよ!普通の前の甚平でいい」


「この浴衣絶対に大悟くん好きそうなのになー」



「し、知るか!か、勝手に決めるな!」



「いいから着てみなさい!」



「やだ無理」



「あーそうだ。いちごのお菓子そういえばたくさん買っておいたんだ」



「はいはいわかった。着るだけだからね。これ着てはいかないから」




母さんの甘い誘惑に釣られてしぶしぶ女物の浴衣を着た。






うわ、最悪。

なんか、下スースーする。





「母さん着たけど…ってうわ何でもう大悟がいるんだよ」



「岬が着替えている時に今来たのよ」




大後は、前髪をあげていて色気が半端なかった。



うわ、大悟ちょーかっこいい。やばい、俺これ以上見れねぇ。あーあー!もうなにときめいてんの俺!前もそんな感じだったじゃん。




「岬?そこに突っ立ってないで早く浴衣姿見せなさい」


「わ、わかったよ」




恥ずかしいけどこれもいちごのためなんだ。




「岬、お前超かわいい」


「だ、大悟…うるせっ」


「岬、もうそれで行きなさいよー!」


「やだってさっき言ったじゃん!」


こんな恥ずかしい格好誰にも見せられねぇよ。




「まあ、頑固ねぇ~、大悟くんからもなんか言ってよ」


母さんは大悟に助けを求めた。



「俺にとっては岬の浴衣姿とても良いと思うんですけどやっぱ誰にも見せたくないですね俺だけが知っていたいです」



「だ、大悟…な、なに言って…」




サラッとそんな台詞吐くなよ。

こっちの気も知らないで。



「うーん、そうねー。この子ナンパされそうだしねぇ男に」


「はい、それはちょっと嫌ですね」


「仕方ない、岬!甚平出してあるからそれ着て行きなさい」


「最初からそのつもりだよ!」 



もう母さんは面白がって。浴衣を脱いで用意してくれた甚平に着替えた。








────
─────
──────



夕暮れになり、辺りが薄暗くなってきた。


俺たちは、さっき家から出たばかりで最後の最後まで母さんに浴衣を着て行ってと言われ続けたけど無視した。


母さんの趣味はどこかおかしいのだ。






数分歩いて周りがザワザワと賑やかになってきた。




「あーやっぱ、混んでる」


俺はあまり人混みが好きじゃない。


祭りだからしょうがないけど。





「岬、迷子になるなよ」


「はっ、ならねぇよ!そういう大悟が迷子になるんだろ」




「俺は迷子にならない自信はある。ま、俺が岬を見失うわけないけど」



「な、なんだそれ」


そんな恋人っぽいこと言いやがって……ん?そういや、大悟っていつもこんなんだよな…。やば、普段通りのことなのに俺の頭は恋愛モードだ。


あーやだやだ。





「ほら、岬」


大悟が急に手を差し出してきた。



「えっと、俺…大悟にお金借りた覚えないけど…」


「ったく、その意味じゃねぇよ。……こういうこと」



ぎゅっと、右手を握られた。


「えっ!?ちょ、ちょ、なにして」



「念のため」


「だ、誰が迷子になるか!」



あぁ、もうどうしよう。


何でこいつは急に手なんか繋ぐかな。



大悟の握る力が強いから簡単に手をとくことなんてできなかった。

どうか、このドキドキが大悟に伝わりませんように。あっ、大悟の手すげぇ温かい。








好きになるって人をおかしくさせる。


前まで普通だったことが今じゃ全然違うことのように思えたり。





俺は元から女の子が好きだ。


でも、実際は好きになったのは違った。



別に男が好きとかそんなありえない。


ただ好きになったのが大悟だっただけ。
 
大悟だから、好き。





やばい。

おいおい変なこと考えるな。



余計ドキドキが伝わってしまうだろ…。



視線を手に向ける。




…ほどけない手。

大悟のその温もりが俺をまたおかしくさせる。






繋いだばっかだけど

無理だ…っ。





「だ、だだ大悟、お、お俺、暑くなってきたから手離してもらってもいい?」



「はぁ?」


「い、いやその…じゃ、じゃあ大悟のこの袖を掴んでもいいか?」


何とか手を離してもらって冷静を取り戻したい。





「なんで?まあ、別にいいけど」


「だ、だってほら俺、手汗ひどいからさ」



「手汗?わからなかったけど」



「俺にはわかるの!ほら、早く前進む!」



ビシッと人差し指を前に出す。



これ以上、俺をおかしくさせないでくれ。





心臓、ほんとお前静まれよ。

大丈夫か俺…。










もう祭りどころじゃない。

誰かヘルプミー…。








歩いていくと、祭りを示す提灯が眩しく光っていた。それに色んな音が混ざって賑やかでさすが祭りだな、って思った。





「岬、なんか食べたいものある?」


「え?あ、…うーん、大悟は?」



お腹は空いているけどいろいろありすぎて最初なにから手につけたらいいかわからない。種類は豊富だ。たこ焼き、焼きそば、焼きとうもろこし、焼き鳥など他にもたくさんある。甘いものは、りんご飴、わたあめ、チョコバナナくらいかな。




あー、屋台からいい匂いがしてくる。

どれも美味しそうだ。





「じゃあ、とりあえず屋台行ってみよっか」


「あぁ、そうだな」



実際、見て食べたいものを買った方がいいよな。俺たちは、近くの屋台に足を向けたとき突然、誰かの声で遮られた。







「杉本と篠崎じゃん!!」



急に名字で呼ばれ、知り合いかと思って声をした方に顔を向けると見覚えのある奴らがいた。







うわ、地元メンばっか。

そこにいたのは中学の頃の同級生たち。




「おお!なつぅお前ら」


「嘘つけ。早川、この前学園祭来てただろ」



「へへ、バレたか」



バレたかって…。

面倒くさい奴だ。

そこにいたのは以前、学園祭に来てた早川。他3名は来てなかったけど一応、全員、中学の頃の同級生だ。名前は覚えてないが。


てか今、気づいたけど早川、プ○キュアのお面被ってるし。 顔の横らへんに。キモッ。プ○キュアに謝れ!そう、俺は大の早川嫌い。


「岬ちゃん、おひさ~。篠崎も相変わらず憎いくらいイケメンだねー」


「そりゃ、どーも。岬とは今もラブラブでーす」



同級生の一人に大悟は俺の肩を抱き寄せてそんなことをいた。



「だ、大悟、お前…何言って」


ラブラブって、そんな皆の前でありえないことを。



「うわ!岬ちゃん、顔真っ赤じゃん!まじなの!?」


「なにがだよ!じろじろこっち見るな!鬱陶しい」



「あー、岬ちゃんにそんな顔させるなんて…クソ羨ましい!!」



「だろだろ。だからお前ら邪魔。早く帰れよ」


大悟は、シッシッと手で追い払う。




「ちょ、俺ら今、来たばかりなんだからな!そんな早く帰れるか!な、早川!………おい、早川?」



同級生A(名前知らないから)が早川の方を見ると返事がないようだった。俺も早川の方に顔を向けた。




「おい、早川ー?お前どうした?化石になってんぞー」


同級生BもCも早川の顔の前で手を翳す。





「早川が壊れた」


「そうだよなー、こいつ杉本に超会いたがってたもんな」


「そうそう、だってこいつ、岬のこと大好…ぶはっ!」



突然、覚醒した早川によって殴られた同級生C。



「お、お前…な、なに余計なことを口走ろうとしてんだよ!」



「いてぇな!本当のことじゃねぇか」


「そ、そうだけど、そういうことは自分の口から言うのが一番なんだよ!」



早川は声を荒げる。



うわ、周りが迷惑するだろ。

おい。








「へぇ。てことでー、岬ちゃん」



「なんだよ」



「早川がお前に大事な話があるんだってー」



そう言うと、ヒューヒューと訳のわからなく早川以外の同級生3人は盛り上がる。






「だ、大悟…こいつら一体何なの?」


「さあな。こんな奴ら無視して早く屋台で飯食うぞ」



「そうだな。それがいい」




「ちょ、ちょ!勝手に逃げないの!さあ早川、早く言えよ」



「うるせぇ!お前らに言われなくても…」




わざわざ引きとめてなんだよ。

…俺に言いたいことって?こいつ、この世に及んでまだ俺に悪口言う気なのか?だとしたら、懲りないやつだ。俺は呆れたように腕を組んで奴の顔を見る。


もう、かかってこい。




自分で今のかっこいいとか思いながら、仁王立ちする。





「そ、そのす、杉本…あの」


言葉を濁す早川。




「おい。早川てめぇ、マジで殺すぞ」



隣で大悟は指をゴリゴリ鳴らしながら低い声で言った。




おっ、大悟味方になってくれるの。

なんと心強い。


すると、何か決心した早川が俺の前まで来て“あるもの”を俺の口の中に突っ込んだ。







「んっ、」


「あぁ、もう…!杉本いつか俺のチョコバナナも相手にしろよ!!じゃあなっ!」



早川そう意味深なことを告げると、顔を隠すようにプ○キュアのお面を横からずらした。


そして、同級生に早く立ち去るぞ!と言って人混みの中消えて行った。













…な、なんだったんだ。


意味がわからなくて早川が言った台詞忘れた。




つか、このチョコバナナなんだよ!!



美味しいから別にいいけど。






てか、隣で大悟がものすごく黒いオーラ出してるんですけど。


怖い。





「岬」


ビクッ


「?」


「…俺にもそれちょーだい」


イライラした状態で言われましても…。





俺が考えている間に大悟はチョコバナナの棒を取り、なんかTVで見たポッキーゲームをするかのように反対側から食べ始めた。





ちょ、ちょ、ちょ、っと



待って!



「ふっ、あ」



だ、大悟

す、す、すとっぷー!!



え?なにこれどゆこと!?











徐々に近づく大悟の顔。

や、やばい…っ。



俺は、耐えきれなくてぎゅっと目を瞑った。けど、それ以上なにも起こらなかった。




…?

恐る恐る目を開けると





「なーんてね。びっくりした?」


半分こになったチョコバナナ。     

もう、大悟のやつ~っ俺で遊んだな。



「悪い悪い。岬が可愛くてついな」


「も、もう知らね!」



本気で、キスされるかと思った。
 

今も心臓がバクバクしている。






「…もしかして期待した?」



はあ!

「だ、誰が!それに大悟よくもまあ、皆の前でそういうことできるよな!」



これは絶対、俺をからかって楽しんでるに違いない。だって、そういう顔しているから。


「大丈夫、大丈夫。心配しないで安心して?周りはちゃんとボーイッシュな女の子だと思ってるから」



「なにが安心してだ!俺は、男だぞ!」


女とよく勘違いされるが俺はれっきとした男だ。




「それに、さっき俺たち見てリア充滅べとか聞こえたし。完全カップルに見えるみたいよ、俺ら」



「カ、カップル…って、な、なんだよ」



やばい、まただ。

体中から顔に熱が集中する。どうして、大悟はそんな恥ずかしいこと普通に言えるんだ。俺なんて今やばいぞ。






完全にカップル…か。








どうしよう…それすっごく嬉しいとか、考えちゃうじゃん…大悟のアホ。

あー!もうなんで俺こんな乙女チックな考えしか浮かばないんだよ!




これが恋なのか?!誰か教えてくれ…。

頭の中、整理つかなくて一人で勝手に混乱する。大悟は少し怖いところあるけど、優しいし、何でもできて…何気に女子からの人気もあって。

ほら、こんな祭りの中でも大勢人がいるのに女の子たちは大悟を見て振り返る。そして、顔もほんのり、紅く染まっている。まるで、俺と同じような反応。

…嫌だ。他の人と大悟が付き合うのなんて、嫌だ。想像すると辛くなる。大悟も俺と同じ気持ちだったらいいのに。俺を好きになれ。


…なんて言ったら大悟が困るだろうし。どんだけ嫌な奴なんだよ、俺。ワガママにも度っていうものがあるだろ。自分のことだけしか考えられない自分が本当嫌になる。小さい頃からの付き合いで幼なじみの相手。そして、同じ男同士。俺どうしちゃったんだ。女の子は今でも大好きだ。でも大悟はもっと好きだ。





うわっ。

俺、マジこんな時に何考えてんだよ。



自分に引く。






「…岬?どうした」


「えっ、い、いや別に!なぁ!あれやろうぜ!金魚すくい」



大悟の顔が見れなくて、適当に目に止まった金魚すくいの屋台を指差した。




「いいけどさ。岬今日なんか変」


「い、意味わかんねぇぞ。ほら、行くぞ」



顔を合わせなかった俺に鋭く勘付いた大悟。

俺は、自分の気持ちを早く紛らわしたいため、大悟の腕を引いて歩き出した。




 



お金を払い、あみを3枚渡される。




「よーし、大悟!勝負だ」


周りに小学生がたくさんいるが気にせず、大悟にあみを向けた。



「望むところだよ」



この調子だ。これがいつもの俺だ。普段通りにしていれば、きっと大悟にだって余計な心配かけずに済む。





「あ、岬」


「なんだよ」



「どっちが勝つか勝負な」



「おお!それはいいな!」


それならやりがいがある。




「それにプラス勝った人の言うこと聞くってのは?」


口の端を上げてニヤリと笑うこの笑い方は何かを企んでいる悪い顔だ。



「その話のった!」


でも悪いが俺が勝つ。

へへ、イチゴの何かを頼んでやるぞ。



やる気がより一層みなぎった。




「なめんなよ!俺の技術」


肩の運動をしなければと思い、肩を振り回す。



よし!準備は整った。大悟は覚えてないだろうが昔最高30匹をすくったことがあるぞ!へへ、やったね。






さて、集中するか。

俺は腕を捲り、気合いを入れた。








数分後。



おいおい。

まてよ…。





「…おじさん、このポイ(紙)強度どのくらい?絶対に弱弱でしょ」



「岬、おじさんに失礼なこと聞かないの」


大悟にすぐに叱られる。

おじさんというのはここの金魚すくいの人。



めっちゃ苦笑いされた。






だって…。

全部破れちゃったし、おかしい。




水につけた瞬間破れたぞ。

金魚さんもビックリ。



俺がすくったのはまさかの0という…。








金魚すくいってこんな難しかったっけ。


いやいやいや。


異議あり。






「岬、拗ねないよ。ほら、俺のあげるから」


俺の空っぽの容器に一匹金魚が泳ぎだした。




「え?」

大悟の顔を見る。



「俺だって一匹しかすくえなかったから、それ岬にあげる」



これで岬の勝ち、なんて言って頭を優しく撫でた。



「お前どこまでイケメンなんだよ!」



大悟の優しさに、拗ねてた自分が恥ずかしくなった。よくあれで一匹とれたな。それより、自分のを譲って俺を勝ちにすることは必然的に大悟の負けが決定すんだけど…。




「いいの?大悟の負けで」


大悟の勝ちだったのに。

なんか、申し訳ない。



「うん、いいよ。岬にならどんなお願いもされたいし」



は、!

「な、なんだよそれ!ぜ、贅沢なお願いするからな!」




なんでそんなことサラッと言っちゃうんだよ!

大悟やっぱすげぇわ。マジ大人。不覚にもきゅんとしてしまった。俺のバカ…。大悟のそういうとこ俺には到底真似できないと思った。それから、一匹の金魚は、おじさんがひも付きのビニールに移して渡してくれた。

そして、金魚すくいから離れまた人混みへと入った時に、大悟が俺の手を握った。



「危ないから繋ぐよ」



大悟は、お母さん的な心を持っているからそういうこと平気でできると思うが俺なんて今緊張しすぎて心臓バクバクなんですけど!この二人の時間、俺心臓もたない…。




「なぁ!次、射的やろ!早く!」



ドキドキするな!

俺は体を動かして、この気持ちを抑えたい。



それから、射的、的当て、輪投げ、くじ引きなどなど、ぶっ通しでやっていく。





「大悟早く次行こうぜ!」


「岬待って、休もう」



「あ、あれ入ろうぜ!おばけ屋敷」


「怖いくせになに言ってんの」



ギクッ

「…やめときます」


おばけ屋敷の恐ろしさを想像すると、軽い気持ちで入ってはいけないと思った。






「あっちで休も」


空いているベンチの方を指差す。


そうだよな。

大悟のことも考えなきゃな。



俺に振り回される身も可哀想だよな…。



コクリと頷き、二人でベンチに座った。





「岬、なんか飲む?」


「いや、俺は大丈夫!大悟は?」



「俺も大丈夫」




なにこの空気。いくら屋台のゲームとかで気持ちを紛らわすっていってもこれじゃあ逆効果だよ。

また、心臓が…。お互いなにも発しないままでいると、周りの人数がまた増えて行った。今俺たちが座っているところが花火が綺麗に見えるスポットらしい。





「ねぇ、岬」


俺たちの空間だけ静寂が流れていたがそれを大悟が破る。




「今日さ、俺といて楽しくない?」


「え?」


なに言ってんの…。俺、大悟とデートしている気分でめちゃくちゃ楽しいけど。めっちゃドキドキしてますが。


「だってさっきから岬、下向いてばっかでつまらなさそうだし。今日の岬やっぱりなんか変」


「ちがっ…そんなことない」


まずい。自分のことばかりで余裕なくて大悟に変に誤解されてしまった。俺、ほんとなにも考えていなかった。


「なんかあったらいつでも俺に言っていいよ」


「大悟…」




確かに今日の俺は変だ。大悟と一緒にいるだけで自分じゃいられなくなるし…自分でも十分おかしいのはわかってる。平然と装っても無理だって。誤魔化しきれないこの気持ち。


「そろそろ花火始まるね」


空を見上げて前を向く大悟。

そっちじゃなくて、今俺を見てほしい。



今、言わなきゃ、お前が好きだって。ちゃんと伝えないと絶対大悟に届かない。今のこの幼なじみの関係をずっと続けられない。





嫌われたっていい。

別にそれ以上のことは求めてない。



求めたら、きっと大悟に迷惑かけるだけだし。

気持ちだけ伝えたい。








「なぁ、大悟!俺を見てくれよ」


こっちを見て欲しくてゆっくり大悟の袖を掴む。

体も声も震えてる。




「…岬?」




お互い視線が揃う。目を合わせるだけでこんなにも緊張するなんて。 








「今、贅沢なお願い聞いてもらっていい?




その…








俺、お前のことがす、好きっ…だ」



この気持ちに嘘はつけない。告白した途端に、タイミングよくバンッと花火の音が鳴りそれとともに大悟が俺を抱きしめた。大悟が今どんな顔してるのか、どんなこと考えているのか怖くて知りたくない。






「岬…。今のほんと?」


花火の音が鳴り響いてる中、抱きしめられていて声がよく聞こえる。




「そんなこと冗談で言えるか…」


「夢見てるみたい」


大悟がこれでもかってくらい強い力で俺を抱きしめてくるもんだから自然と震えも止まっていた。でも、絶対俺の鼓動早くて大悟にも聞こえそう。どんな顔してこれから大悟のこと見ればいいんだよ!もうこのまま時間が止まればいいのになんて考えてしまう。でもその願いはすぐに終わった。ゆっくり、大悟が力を弱めてお互いの顔がとても間近にある。


俺は目を合わせられない。



「岬」


「なに」



「目合わせて」



「いやだ」


「なんで」




「な、なんでも!」


はじめての告白に戸惑う。

こんなの学校でも習わないって!もっと勉強して自分を磨いてから告白すれば良かった。



「俺たちやっと両想いになれたのに」


「へ?」



大悟が意味深なことを言って、思わず目が合った。





大悟…?

大悟の顔がとても嬉しそうで、少し照れたような表情で俺を見ていた。





「なに驚いてんの」


「だ、だって、大悟が急に…両想いにとか」



「俺、岬のこと好きだよ。だから両想いじゃん」




「えっ!?」



俺の反応に大悟が笑い出す。





 

 




「なんで笑うんだよ!」



それより大悟が、俺を好き?

俺たちが両想い?






急な展開に頭が回らない。

こんな都合がいい話なんてあるわけ…。





「岬、もしかして気づいてなかったの?」



「なにがだ」


「俺が昔から岬のこと、好きだって」



「当たり前だろ!だって俺から告白したんだから!」



普段使わない言葉にまた恥ずかしくなった。手で顔を覆う。真っ赤になるのが自分でもわかる。





「なに言ってんの俺が先だけど。しかも何百回も告白してるし」



「なにそれ!俺知らない」



前から大悟に告白されてた?

いやいや初耳だ。






「岬は友達としての、好きとかしか捉えてなかったから気づいていなかったかもね」



「そんな…。大悟、ごめん」



「別にいいよ。岬から可愛いお願いされたから。その願い事俺得だったから金魚一匹岬にあげて良かった」



大悟が満面の笑みを浮かべる。



「大悟…」



「俺はいつでも昔から岬のこと思っているから」




何でそんな嬉しいこと言ってくれるんだよ。


てっきり、今頃振られて、気持ち悪いとか言われて…なんて思っていた。








「大悟…っ!俺、誰にもお前のこと渡したくない」



恥ずかしくて目線をそらし、手の甲で口元を隠す。



「それ、こっちのセリフ」



やばい。


俺、幸せだ。




 

 





「もしかして今日一日変だったのは俺のこと好き過ぎたせい?」


「だ、だったら何だよ」



「いや、嬉しいなって」





俺の方が嬉しい。








「ねっ、キスしていい?」




周りに人が大勢いるが花火に夢中で誰も見ていない。





「好きにしろ…っ」



そう言って目を閉じた。

聞いてくるなんて、恥ずかしいやつだな。






そして優しくお互いの唇が重なる。















「これからも岬のこと守るから」



「な、何言ってんだ、俺は男だぞ!自分の身は自分で守れる」



「はは、岬らしい」



「なんだよ」


馬鹿にされたのか?







「愛してる」


「え、お、俺だって……い、イチゴの次に愛してるぞ」



急に愛してるなんていうのは反則だろ!




「さっそく浮気ですか」



「ちげぇよ!」






「じゃあ、イチゴと俺どっちが好き?」





「どっちも好き」


うそ、大悟が好きだよ。


「今はそれでいいか。いつかイチゴを超えるから覚悟しとけ」


と、額にキスされ、祭りの夜、花火越しに俺たちは今日から幼なじみではなく恋人になった。





【完】




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