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◆シンデレラにはなれない。
しおりを挟むシンデレラ受け
ユエル
王子攻め
ラト
◇◇◇
───昔々、灰被りと呼ばれている美しく心優しい少年がいました。
6年前、大好きだった実の母が亡くなって今まで父と二人で暮らしていた。
父は僕のためを思ってか新しい女性と再婚した。その女性には二人の娘がいた。
僕なりに新しい母親に気に入られるため頑張った。
だけど、いつも僕に対してきつくあたり実の娘二人だけを可愛がった。
二人の娘は僕より年上で父がいないときには召し使い扱い。
こんな生活が続いたある日のこと悲劇が起きた。
突然の父との別れ。突然の死だった。
もう僕はこれからどうやって過ごしていけばいいのかわからない。
唯一の光だった父も失い、僕にあと残っているものは何……?希望すら失った。
「いつまで拭き掃除をしているんだよ、この服を早く洗いなさい。それから皿洗い、暖炉の掃除も忘れるんじゃないよ、いいね?」
「は、はい…」
言いつけられた仕事を終えるのはいつも夜更け。
寒くて我慢ができなくて火の消えた暖炉の灰の中にうずくまり、凍えた体を温めるのが日課となった。
僕の名前はユエル。年は今年で16歳。実の両親はいない。
屋根裏部屋で暮らしている。
前は寒くて暖炉近くで寝ていたが今は屋根裏部屋を掃除してそこで寝ている。
僕が前に使っていた部屋は二人のお姉さまの部屋になっている。
「おばさま、今日は食材を買いに町に出かけてきます」
椅子に腰かけて化粧に夢中な父が再婚した母にそう声をかける。
多分、話を聞いていない。だけどいつものことだし仕方がない。僕は少し離れた町に買い物をすべく馬にまたがって出発した。
今日はお姉さま方の注文でカレーを作らないといけないから必要な豚肉を買いに行かないと行けない。野菜は家の庭に育ててあるから大丈夫。
帰ってきたら汚れた洋服を洗濯して干さないといけない。そうしないと怒られるから。
馬から降りて近くの森に入り、逃げないようにするため木にロープを巻き付けて、持ってきたニンジンを馬にあげる。
「少し買い物に行ってくるから待っててね」
よしよしと撫で僕はかごを持ち、町へとここから歩いた。
この国の町は、活気ある町で町の中心にはお城がある。そこには僕と同じくらいの年の王子様が住んでいるみたい。一度お姉さま方がそう話をしているのを耳にしたことがある。
「あら、ユエルちゃんこんにちは。お買い物かい?」
「はい、ちょっとお肉屋さんに用がありまして」
「そうなのかい。いつも偉いね~。私もこんなものすごく可愛くて優しい女の子が娘だったら良かったのにね~」
「そ、そんなことないですよ」
「また、ここに顔だしな」
「はい。ありがとうございます。では」
手を振って後にする。
さっきのおばさんは果物を売ってるお店の人。僕は女の子によく間違えられる。母によく似ていて背も小さいし声変わりしてもまだ声が高い。
あのおばさんは僕が男だって知ったらどう思うかな?
だから、いつもなるべく顔が見えないように下を向いて歩くのが癖になってる。
ゴーンと鐘が鳴った。
早く、お肉を買って帰らないと。少し小走りでお肉屋さんに向かう。
すると、
ドンッ!
前から衝撃が走った。
「~っ」
僕は声にならない声を出し、誰かとぶつかったみたいだってことに気がついた。
「すまない。大丈夫ですかお嬢さん」
尻餅をついた僕に手を差しのべてくれた。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます……あなたこそ大丈夫ですか?」
「はい、僕は大丈夫ですよ。ただあなたが無事で良かった」
そこには背の高いアッシュブラウンヘアーの男の人がいた。
「前見てなくてごめんなさい。では、ちょっと急いでいるので失礼しますね」
「あ、君待ってくれ」
「え?」
「急いでるのに止めてすまない。君の名は何と申す」
名……どうしよう。この人僕が女の子と勘違いしているよね。
でも、急いでいるし黙っていたら変だ。
「ユ、ユエルです…」
「ユエル…。良い名だ、覚えたぞ」
「えっと、あなたは…?」
「え、僕かい?」
そう聞いたら驚いた表情をした。僕なんかおかしなこと聞いたかな?名前を聞いただけだよね。
「おっとすまない。僕はラト。またあなたに会いたい」
「あ、ありがとうございます…」
どう反応していいかわからなくてとりあえず会釈をして急いでお肉を買って森へ行き、馬に乗って帰宅した。
「遅かったじゃない。ユエル」
「す、すみません。ラヴィお姉さま……今からご飯の支度をしてきます」
ラヴィお姉さまは一番上のお姉さま。
甘いものに目がない。
僕は帰ってきたばかりだけど大慌てで準備をする。
カレーを作っている時に今日のことを思い出した。
あー、あの男の人には悪いことしたな…。
いくら尻餅をついて倒れたのが僕だからってあの人だって痛かったはずなのに僕はあっさりとその場から立ち去ってしまった。
「ユエル早く、私お腹ぺこぺこよ」
「はい、ラヴィお姉さま」
「ユーエールー、私のお洋服ちゃんと洗った?」
「ご、ごめんなさい。ご飯を作り終えたらすぐにやります」
「全く行動が遅いんだから」
二番目のお姉さまはリーナお姉さま。
おしゃれが大好き。
僕は動かす手を更に早くした。
【ラトside】
この国の王子。
今日は素敵な出会いをしてしまった。
あんな可愛くて綺麗な人は初めてだ。
何より瞳が綺麗で優しい。
心をすぐに奪われた。
これが一目惚れというのか。初めての気持ちに心がどうも落ち着かない。どうしよう、あの子にもう一度会いたくなってきた。
でもユエルという名前しか知らない。
まさか僕の名前を知らないなんて驚いたけど世間知らずの純粋の女の子なんだなと思った。
はぁ…会いたくてたまらない。
僕は窓から外を眺めながら考えていた。
「ラト」
「はい、何でしょう父上」
「お前にそろそろ婚約の話が出ておって」
「婚約?」
「だから隣の国のソフィア王女とどうかなと考えておるんじゃが」
「いえ父上、僕は」
「なに?他に好きなおなごでもおるのか」
「はい。実は今日町に出ていたところ、一目惚れした女性がいまして」
「ほぅ。名は?」
「ユエルです。それしかわかりません」
「では調べるか」
「いいえ、そんなことはしなくても大丈夫です僕に良い考えがありまして……」
【ユエルside】
「ねぇママ聞いた?お城の王子様が花嫁を選ぶために町全員の女性が舞踏会に招待されたらしいわよ!!!」
ラヴィお姉さまの声が家中に響いた。
「うそ!?」
「ラヴィそれは本当なの?」
おば様とリーナお姉さまは信じられないと驚いている様子。
「ええ、間違いないわ」
「そうと決まればユエル!!!」
「は、はい」
「今すぐドレスを三着用意してきなさい」
「えっと、い、今からですか」
この国の王子様がお城で舞踏会を開くことになったらしく、三人はとても喜んでいる。
ドレスと急に言われても、今は台所にある皿や鍋の片付け中。
「今からに決まっているでしょ。ほら、早くしなさい!」
「わ、わかりましたっ」
僕は片付けをしている手をとめ、準備をし馬に乗って町まで大急ぎで出かけに行った。
……王子は急になんで舞踏会を。
でも町全員の女性の中から花嫁を選ぶって凄いことだよね。
言葉を失っちゃう。
王子様がやることはスケールが違う。
きっと、舞踏会って美味しい食べ物とかたくさんあるよね…。
いいなぁ。僕も行きたい。もう長くお腹いっぱいご飯を食べてない。
僕もお城に行って美味しいものを口にしたいな…。
おば様に付き添いとして行けるかどうか後で駄目元でも聞いてみよう。
そして家に帰っておば様にお願いしてみたところ見事予想通り却下された。
おまけに『こんな汚い格好をしているお前が私たちの付き添いとして?冗談はよしなさい』と言われた。
…現実はそう甘くないよね。僕は首をガクリと下げた。
月日は流れ、舞踏会当日。
「ユエル!!ここも手伝って」
「はい、ラヴィお姉さまの着付けを終えてからすぐに手伝いますね」
「ちょっとユエル、もう少しきつく締めて」
ウエストを細く見せるためにコルセットで限界まできつく締める。今はお化粧やドレス選びに夢中。
「ユーエール!早く私のも」
「はい、今から行きます」
ラヴィお姉さまの着付けがようやく終えて、次はリーナお姉さまの着付けを手伝う。
「このティアラどうかしら?」
「とてもお似合いですよ」
「ふふ、まあ私だから似合うに決まっているけどね。おほほ」
小指を立ててリーナお姉さまは嬉しそうに喜んで鏡を何回も確認していた。
「ラヴィ、リーナ支度はできたの?」
「えぇ、今終わったとこよお母様」
「これで王子の心は私のもの!うふっ」
「何言ってるの、王子と結婚するのは私なんだから」
「リーナには無理よ。私の方が色気があるんだから」
ラヴィお姉さまは強調するように胸をつき出す。
「二人ともうるさいわよ。それから絶対にあなた達の二人の中から王子のハートをゲットするのよ」
「「もちろん!!」」
いつもになくやる気っぷりを見せる二人。
あ、そうだ。
「あの……おば様」
「あ?なんだいユエル」
「この前僕が汚い格好だから舞踏会には連れて行かないと言いましたよね?じ、実は僕なりに父のものを僕ぴったりにサイズを合わせて作り直したんです」
僕はそう言って、毎晩遅くまで寝るのも惜しんで作った燕尾服を見せる。
これならきっと。
「あははは。この子何を言っているのかしら」
僕の期待とは裏腹に嘲笑うかのように冷たく笑った。
「え…」
おば様は手に持っていたワインをその僕の燕尾服に躊躇いもなくぶっかけた。
な、なんで
「いい?何があってもあなたは連れていかない。ったく、こんなものまで作っちゃって身の程を弁えなさい」
おば様の目はまるで最初から僕なんて連れていく気なんてさらさらなかったんだと言っているように見えた。
「ユエルもしかして私たちと一緒に舞踏会行きたかったの?でも残念ね~。もうそれ雑巾になっちゃったね」
「お母様もラヴィお姉さまもひっど~い。ユエルがこんな可愛い顔して泣いているわよ。おほほ」
「何で泣いているのかしらね。あなたは家でお留守番なの、わかった?」
「…っ」
自分が泣いてるなんて言われて気づいた。
こ、こんなのあんまりだ。せっかく父のもので作ったのに…。
「聞いてるの?」
「わ、わかりました…っ」
涙を拭き、頷いた。
ほんと酷い…。
ぎゅっとワインで汚れた燕尾服を抱き締めた。
美味しいものを食べたいとか夢を見ていた僕が悪い。
最初からわかっていたこと、
そしたらこれも汚れずに済んだのに。
「「じゃあユエル行ってきまーす」」
お姉さま方は声を揃えて家を楽しそうに出た。
「あなたは掃除でもしてしっかりお留守番しているのよ」
はい、と頷ぎ、おば様たちはどこかで雇ってきた付き添いの男性と共に舞踏会が行われるお城へと向かった。
一人ぼっちのお留守番って寂しい…。家の中に戻って、ため息をつく。
燕尾服を洗ったが余計にワインの染みが広がって汚れていった。
少し休もうと屋根裏部屋の自分の部屋に行き、ベッドの上に腰をおろした。
「僕も行きたかったな…」
そう思うとまた涙が込み上げる。
そもそも男だから無理か。
その時だった。目の前がキラキラと光だしたのは。
「心優しいユエルよ、お前を舞踏会に連れていってあげよう、さあ私についておいで」
「えっと、あなたは…どうして僕の名前を」
驚いた。
急に現れたおばあさん。
一体どこから現れたんだ。
「まあいいから私についておいで」
よく分からず連れてこられたところは家の畑だった。
「ユエル見ておくんだよ。それ~」
何やら杖でかぼちゃに触れると、金色の豪華な馬車へとなった。
「な、なんで」
なにこれどうやったの。すごいよ。
僕は夢を見ているんじゃないかと自分の目を疑った。
そして、ネズミは馬にネコは御者へと変わっていった。
「さぁ今度はお前のドレスじゃ」
「…ドレス?」
僕は男であるからドレスなんてと思っていたら、みるみるうちにボロボロの汚れた格好から美しく綺麗なドレスに変わっていった。
それに加えて腰ぐらい伸びた髪の毛。
見るからに女の子。
「あ、あの…僕男…」
「なーにそんなのバレやしないさ。こんな可愛くて素敵なお前だもの。ほら、これはガラスの靴私からのプレゼントじゃ」
とても高そうなガラスの靴。
「こ、これ僕がいただいてもいいんですか?」
「もちろんじゃ。あ、だけどユエルや。一つだけ約束しておくれ。夜中の12時までに必ず帰ってくるんだよ。そうしないと魔法は解けちゃうから。いいね?」
「は、はい、ありがとうございます。魔法使いのおばあさん」
夢のような感じだ。
これで美味しいものがお腹一杯食べられるの?
どうしよう嬉しい。
◇◇◇
う~ドキドキする。
お城の中に入って、視線が妙に突き刺さる。
しかも今までに感じたことのないような感覚で下がスースーする。
僕が男だってバレてないよね…?
ちょっと怖くなってきた。
会場の隅には美味しい豪華な食べ物が置いてある。
僕はそのままそこに向かって歩いた。
わぁ、美味しそう。
食べ物が輝いている。
これ、食べてもいいんだよね?
僕は皿を手に取り、一口食べてみる。
どうしよう…すっごく美味しい。
幸せだ。
それから食べたことのないものを口にしていった。
すると、数分して肩をとんとんされた。
「は、はい?」
「ようこそいらっしゃいました。僕と踊っていただけますかユエル」
「え、あなたは、あの時のどうして…?」
「はは、あなたはとても面白い方だ」
「え?」
「改めて自己紹介をさせていただきます。この国の王子のラトです」
「お、王子!?そうだったんですか…本当に失礼なことをしましたごめんなさい」
「いえ気にしないでください。髪はどうしたんですか?」
「えっと、これはかつらです…」
「そうですか。でもお似合いですよ。僕のことは王子じゃなくてラトでいいです」
「ありがとうございます…わかりました」
「さあ、踊りましょう」
突然現れた姫君に周りはその美しくしさに視線が奪われ夢中だった。
ゴーン
鐘が鳴った。
ラトさんと踊っている途中で魔法使いのおばあさんの言葉を思い出す。
『───夜中の12時までに必ず帰ってくるんだよ。そうしないと魔法は解けちゃうから。いいね?』
どうしよう忘れてた。
「ラトさん今日は楽しかったです。ありがとうございました。お、おかげで楽しい思い出になりました。私はもう帰らなくてはなりません。…ではさようなら」
「ユ、ユエル!?」
急いで馬車へと向かう。
ゴン
「あッ!」
階段をおりている途中軽く転んでしまった。
その衝撃でガラスの靴の片方がとれてしまった。
「ユエル!!待ってください」
どうしよう。考えてる暇もなくそのまま全力疾走で走って馬車へと乗った。
ご、ごめんなさい。
ラトさん。
お城の時計が12時を告げ終えると、魔法は何もかも解けてしまった。
かぼちゃもネズミもネコも
ドレスも髪の毛も……
唯一残ったのはとても綺麗な片方のガラスの靴。
あとはボロボロの汚れた格好。
このガラスの靴の片方は置いてきてしまった。
魔法使いのおばあさんに申し訳ないことをしたな…。
でも、仕方なかったよね…。
あのままだとこんな格好晒すことになっちゃうから。
そうだ。早く家に帰らないとおば様たちが帰ってくる。
僕は大急ぎで家に帰った。
そして、今日のことを思い出した。
夢を見ているみたい。
今日は本当に楽しめた。
美味しいものもたくさん食べた。
まさかあの時町で出会った人が王子様だったなんてそんな偶然あるんだと驚いた。
【ラトside】
ユエルのことで頭がいっぱいだった。
「もう一度話がしたい。そしたら僕のお嫁に来てもらう」
しかしユエルがどこの誰なのか分からない。手がかりといえばこの小さなガラスの靴だけ。
「そうだ。良い考えが浮かんだ」
僕はユエル探しにガラスの靴にぴったり合う人を探し求めた。
だけど、なかなかぴったり合うものは現れず、
ユエルという名の女性は見当たらなかった。
そして、最後の家。
ここにユエルがいなければもう手がかりが何一つなくなる。
僕は家来を連れて最後の家まできた。
「う~っあともう少しで履けるのに~っ」
「ちょっと、リーナそれじゃあ壊れるでしょ。私に代わりなさいよ」
「あらやだ。履けちゃったわ」
「でも少し余ってますよ、貴方も違いますね」
ここにも居なかったか。
最後の希望もなくなった。
「あの、王子少しお茶でもしていかないかしら」
「いえ、結構です。ありがたいお言葉ですが」
俺は礼をしてまた一からやり直しにお城へと戻ろうとした時だった。
「ユーエール。のどかわいたわー」
さっきのリーナという女性がそう呼んだのが聞こえた。
ユエル?
まさか!
僕は再び中へと戻る。
「あら、王子。お茶でもする気になったのかしら?」
「いえ、ちょっと気になったことがありまして」
僕はキョロキョロと周りを見渡す。
「王子、どうなされました?」
家来も再び中へとガラスの靴を持って入ってきた。
すると、
階段から誰かが降りてくる足音が聞こえてきた。
「リーナお姉様、冷蔵庫に紅茶が置いてありましたよ…ってえっと」
僕は心の底から嬉しいという感情が溢れだした。
最初に出会った頃のユエルの姿だった。
あぁ、可愛い。
いつ見ても心が奪われる。
「ユエル、あなたは部屋に戻ってなさい」
「す、すみません!」
せっかく会えたのに。
「ユエル待ってくれ!」
僕はユエルを追うため階段をのぼる。
君じゃなきゃだめなんだ。
「ちょっと、王子どういうこと!?」
さっきガラスの靴を履いていたお姉さんたちも慌てて僕たちを追ってきた。
「ユエル、君もガラスの靴を履いてくれないか?」
「王子!?ユエルはいいのよ!」
「そうよ!ユエルは関係ないの!」
「少し黙ってもらえませんか。僕はユエルに聞いてるのです」
ユエルを隠していたことに苛立ちがおさまらない。
「え、えっと…ご、ごめんなさい」
「どうして謝る?なぜ僕を拒む?」
「だ、だって…」
「お願いだ。とにかく履いてくれ」
「わ、わかりました…」
半ば無理矢理でもガラスの靴を履いてもらい、僕のものしたかった。
やっぱり、この優しい瞳は僕が探し求めていたユエルで間違いない。手を引き、一階の家来のいるところに連れてきた。
【ユエルside】
言われるがままに履くとぴったりと合った。
ど、どうしよう…。
「え、なんで!?」
「どうしてユエルがガラスの靴をっ!?」
おば様もお姉様も目を見開いて驚く。
「おおぴったりだあなたこそ王子の探し求めてる姫君さまに違いない」
王子の隣にいたおじさんがそう言った。
「いえ、姫ではありません…」
「いや、君こそあの時の姫君じゃないか!ユエル」
王子は僕の手を握ってきた。
だけど、僕は横に首を振った。
「いいえ違います。僕は姫でもありません。それに男です」
「おとこ?一体何を…」
「本当なんです。だから…ごめんなさい」
「まあ、その話はお城で」
「ごめんなさい。…ぼ、僕は」
騙していた身であるからお城へと行くとなると恐れ多い。
ラトさんはとても良い人だけど僕なんかが釣り合うわけがない。
第一、男だし…。
「僕は君が男でも構わない。君のその優しい瞳に恋をしてしまった。君のことを考え過ぎて夜も眠れないんだ」
「ラ、ラトさん…」
どうしてこの人はすぐに僕が恐れていた壁を壊してくれるんだろう。
ずっと、僕は一生誰からも思われない天涯孤独な人間だと思っていたけど、僕を見るラトさんの目は温かかった。
「ひゃっ!」
「ということで、ユエルは僕が貰いますね」
ラトさんは僕を抱き上げ、おば様とお姉様にニコッとそう告げたあとお城へと連れていった。
「ユエル愛してる。一生僕のそばにいてくれ」
それから月日が経ち、結婚式をあげ僕はラトさんに毎日毎日愛された。
シンデレラにはなれない、と
そう思っていたけど
たった一人の魔法使いのおかげで
世界は変わった。
そして今は、誰でも
シンデレラのようになれると、
心の底からそう言える。
【完】
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