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もしもの話
天山神影×佐藤あおい ⑤
しおりを挟む【あおいside】
ストーカー、か…。
さっき言われた神影の言葉を思い出した。
記憶なんて思い出さなくても神影が元気ならいいと思っていた。だけど簡単に諦められるほどの気持ちじゃなかった。神影の隣にはさっきの女の人や神影にふさわしい人がいるべきだってわかっているけど、思ったより辛かった。
そして放課後はいつもの校舎裏に来てしまう。また神影が来てくれるとそう思いながら、神影の姿を探す。
もう、来てくれることなんてないのに。
ここは、前までは僕たちの待ち合わせ場所だった。
もう一度最初から神影と恋したいとわがままなことを思ってしまう。
今の僕は、神影に片思いみたいなものだ。
「神影に、会いたいな…っ」
誰もいない校舎裏で、僕の声は誰にも届かなかった。
そしてある日のことだった。この日、僕は図書館の掃除当番だった。本を整理していると、神影の姿があった。神影の周りには人が必ずいる。少し見ない間でとても懐かしく思えた。
そういえば、最初の出会いもこの図書館だった。本当、懐かしいな…。だけど、その記憶さえ神影は忘れてしまった。これ以上、考えてしまうと泣いちゃうので本を片付けるのに集中した。僕は奥の棚を整理しているので入り口付近にいる神影は幸い、僕に気づいてない。
…これが多分、僕たちの本来の距離だ。人気者の彼と嫌われ者の僕とでは大違い。
そんなことを思っていたら、みんな掃除を終え図書館から出て行った。一番、最後に出るのを待っていたため、最後の一冊を棚に並べ終えた。
そして、帰ろうと振り返ると、
「わぁっ!」
振り返った先には、神影がいた。まさかいるなんて思っても見なかったため、声を出して驚いた。その驚いた声が図書館に響き渡った。情けない声を出し、申し訳なく思った。
みんな帰ったと思ったけど、まさか神影がまだ居たなんて…。
「と、突然、大声出してごめんなさい。み、神影…あ、じゃなくて、会長さんも図書館の掃除だったんですね」
会長さんなんて違和感を覚える。上手く話せない。声が震えちゃう。僕、ちゃんと会話できているかな。緊張する。
「お前、本当イラつく」
「あ、…っ、」
「姉貴もお前のことばかり言うし、意味わかんねぇ。大体何で同じ学校にいんだよ。マジ目障り」
「…っ、ご、ごめんなさい…」
顔が見られない。神影だけど、僕の知っている神影じゃない。それは向こうも同じだ。僕は記憶からなくて見るのは初めてなんだ、仕方ないよ。だけど、神影の言葉は重くダイレクトに僕に突き刺さる。何を言えばいいかわからず、少しの間、沈黙が続いた。
それを破ったのは神影だった。
「お前なんか知らねぇし、知りたくもない。仮に忘れていても思い出したくもねぇ」
「っ、そ、そうですよね。ぼ、僕馬鹿だな…っ。今まで迷惑かけてごめんなさい…っ」
僕は頭を下げながら図書館を走って出た。
…泣いちゃう。
そのまま走って向かったのが校舎裏だった。
曇った眼鏡を外し、涙を拭くが次々に溢れてきて拭くのが間に合わない。
「…っ、涙が止まって、くれないや…っ」
その日は、たくさん泣いてしまい、そのまま家に帰った。
記憶が戻ったって神影が僕と一緒にいたいなんていう保証はどこにもない。
卑怯なやり方だけど、僕は神影のことから逃げてしまい、向き合う勇気がなくて次の日、学校には行けなかった。
───校舎裏で眼鏡を外して泣いている姿を他の生徒に見られおり、学校はその話でもちきりだとは知らなった。
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