嫌われ者の僕

みるきぃ

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腹黒副会長

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【朝霧貴之side】


生徒会の副会長である私がこの世で嫌いなものはあいつ。あのゴミみたいなやつ。そして、学園イチの嫌われ者。本当に顔を見たくないほど嫌いである。生徒会の中で最初に彼をいじめのターゲットにしたのも私。 私は必要以上に彼を嫌った。そう思うようになったのはいつ頃だっただろうか。 



…覚えてない。自然と嫌いになっていった。別に初めから嫌いというわけではなかった。むしろ逆と、そう思っていた自分に吐き気がする。


彼のことを考えれば考えるほどあの嫌な思い出がよみがえる。思い出したくないのに初めて出会った時のことを思い出してしまう。




───
─────

…。





私とあのゴミが初めて会ったのは去年私が一年生の時の10月だった。学園の見学とやらで多くの中学生たちが来ていた時のことである。







──そこで私は彼に初めて会った。






とてつもなく地味な中学生。



ひょろい体つき。チビ。

友達いなそう。頭悪そう。




失礼なほど出てくる悪口。でもその言葉しか出てこない。本当にそれほど地味であった。緊張してるのかビクビクと震えていて、黒のショルダーバッグのベルトを胸の前で強く握っていた。それが最初の印象。その地味な中学生は、学園の中を見学せずその場に止まってるばかり。他の中学生はもうとっくに学園を見学していた。一人だけその場から動かないので逆に目立っていた。


ちなみに私、朝霧貴之は次期生徒会候補者として来年の入学希望者を増やすため、後輩たちに笑顔を振り撒いて学園のアピールをしている。



 
そんな中、あの地味な中学生はいた。しばらく様子を見ていると、やっぱりその場から動こうとせずキョロキョロと周りを見渡し、誰かを探しているようだった。







…仕方ない。私は何もかも完璧主義者。困ってる人にも手を差し伸べてあげないといけない。そう思い、仕方なく彼の方へ歩いていった。





「こんにちは」


こんな地味なやつに声かける優しいのは私ぐらい。誰でも平等に見なくてはいけない。こんな地味な中学生相手にも笑顔をみせる自分はすごいと思った。






「え、あ、…こ、こんにちは」



彼は驚きの反応を示し、ビクビクと震えながら今にも消えそうな声で返事を返してくれた。上から下まで見る。…見れば見るほど地味でダサい。それに着ている学ランの裾が少しあまってる。生まれてきてこんな地味なやつを初めて見たと思う。それほど珍しかった。





「もしかして、誰かお探しでしょうか?」



「あ、…えっと、はい…」



緊張しているのか警戒しているのかわからないけどこんなビクビク反応されるのは初めてだ。私と話せて嬉しいと喜ぶのが普通なのに。それに誰かを探してるってこんな地味なやつにも友達いたのですね。





「そうですか…。はぐれたのですか?」



「ち、違います…。こ、この学園の生徒で…」



「え?」



私は驚きのあまり、笑顔が保てなくなり目が点になった。こんな地味な中学生とうちの学園の生徒が知り合いなんて何かの聞き間違いだと思った。








でも考えて見ればこの学園には私のいる完璧クラスと呼ばれるSクラスの他に凡人たちのクラスがあるのを忘れていた。だったらそこに知り合いがいてもおかしくない。まさかSクラスではないだろうと私は気を取り直して、冷静になった。






「ここの生徒ですか。まだ授業中だと思うので終わってないと思いますよ」



今は全クラス授業中である。なので探すというよりも授業が終わるまで待たないといけない。ちなみに私は学園を宣伝するため免除されているから大丈夫だ。





「そ、そうなんですか…お、教えていただきありがとうございます」



ぺこりと深々と頭を下げる。




「いえ。そういえば、あなたは見学しないのですか?」



そのために、学園へ来たのではないかと思い聞いてみた。




「え、えっと…」



疑問に思っていたことを問うと困ったような顔をした。多分、どこを見学したらいいのか分からないのだろう。







「良かったら私が案内しましょうか?」


察してそう言ってあげる自分は心が広い。




「えっ、そ、そんな恐れ多いです!!」



思いっきり、首を横に振って大丈夫だと言う。





え…?

せっかく私から言ってあげたのに拒否するなんてありえない。断られるとは思っていなかったのでプライドの高い私は腹が立った。






「遠慮しないでください」

やけになる。




「だ、大丈夫です…」



だんだんと小さくなる声。

本気で断るつもりみたいだ。





こんな地味でダサくて、誰からも相手にされないような奴の分際で断るとは何様のつもりですか。





外見は笑顔を崩さずうまくやっているが心の中黒いもので溢れていた。悪態ばかりついていると周りからの視線を感じた。







『何、あの地味なやつ』


『何であの方と一緒に…。ありえねー』


『うわー、朝霧さんが汚れるだろ』



あぁ、これか。



…なるほどだと思った。周りからのこれのせいで断ったと理解した。





こんな王子様みたいな見た目の私とこんな村人AにもBにもなれない雑草が一緒にいたら周りはいい気持ちがしないだろう。


まあ、王子様ってのは見た目だけで中身は自分でも自覚があるほど腹黒い性格。







「…じゃあ、少しだけ案内したいところがあるんですがそれでもダメですか?」



断れたなのに一歩もひかない。



文句を言われているのに更に周りの怒りを買うまねをする。






「え、で、でも…っ」


「学園の良さを一人でも知ってほしいんです」



なんて、きれいごとを言う。









…学園の良さ?ないない。咄嗟の思いつきだよ。ホモの巣窟ってことしか教えてあげられない。まぁ、学園の良さを一つでもあげるとしたら私が在籍していることくらいでしょう。そんな学園の良さである私がこんな地味な中学生相手にプライドを汚されるなんて許さない。



「一人でも多くの方がこの学園のこと好きになってほしいんです」



また次々に出てくる思ってもいない言葉たち。実際のところ学園の株なんてどうでもいいのが本音。ただ、こんな地味なやつ珍しくて面白そうだから話しかけてあげてるだけ。




困らせることが大好き。まあ、自分のプライドのためといったほうがしっくりくるけど。




「…私が案内するのはやっぱり嫌でしょうか」


最後の台詞でとどめをさす。




「い、いえそんなことないです!ただ僕なんかに…なんて」



「気にしないでください。私が案内したいだけですから」



「あ、えっと…じゃ、じゃあ…少しだけ。その申し訳ないんですが…よろしくお願い、します」





やっと折れてくれたみたいだった。半ば無理矢理だったけど私を断るなんて百万年はやい。




「良かったです。では、行きましょうか。ついてきてください」



私は適当に学園を案内することにした。暇潰しになるでしょう。キャーキャーと騒がれるより静かな方がいいですから。





「は、はいっ」


遠慮がちに返事をかえし、私の後ろを5メートルあけて歩き出した。どんだけ遠慮しているんですかと笑いそうになった。








やっぱり、見た目からしておかしい。私にとっては未知な生き物である。






「この中庭を抜けると綺麗な花がたくさんあるんですよ。オススメの場所です」



まあ、どこにでもあるただの花壇ですけどね。



やたら花が多くて金がかかってるからオススメの場所とか言ってみた。でもどこか落ち着ける場所である。




「そ、そうなんですか楽しみです」


気のせいなのかわからないけど少しだけ緊張が解れたのか雰囲気がさっきよりも明るくなった気がする。そして、中庭は抜けて花壇に着いた。




「ここですよ」



少し遅れて彼も花壇に着いた。




「わぁ、綺麗ですね」


声もさっきより明るくなった。もしかして、花が好きなんですかね。




「そう思ってくれて光栄です。この花たちを見ていたら悩みなんてすぐ消えちゃいませんか?」



完璧主義者の私でも完璧なんて忘れさせてもらえる。





「そうですね。元気が出てきます。…あ、あの…も、もしかして今悩みとかあるんですか?」



「え?」


「あ、いや…な、何でもないです…初対面の僕なんかがごめんなさい!」



と言って、慌てて花に視線を戻す彼。




悩み…。


悩みなんて、私には。





「ありますよ」


少し困らせてやりたくなって言ってみた。






「な、なんか無理に聞いちゃってごめんなさい」



「いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください。…あの、少し尋ねたいんですが、私の笑顔どう思いますか?」




「え、笑顔ですか…?」


急に意地悪な質問をする。   



「はい、素直に教えてください。それが悩みなんです」



さて、彼はなんて答えるのか。別に笑顔が悩みではない。ただ気になっただけ。






「え、えっと…ぼ、僕なんかにも笑顔で接してくれて……す、素敵な笑顔だと思います」







………は?自分で質問しといてあれですけど偽の笑顔、作っている笑顔が素敵なんて、バカですか。やっぱり、この地味なやつでも他のやつらと変わらないか。変わってる見た目だからちょっと違うこと言ってくれると期待していた私が馬鹿だった。







「あなた馬鹿ですか。笑顔なんて、作ってるんですよ」



つい、ぽろっと本音が出てしまった。まずいと、口を押さえても言ってしまったものは変わらない。




「あの、今のは…」


何でもないです。と、訂正しようとしたけど彼が先に口を開いた。







「じゃ、じゃあ…、

本当の笑顔はもっと素敵なんですね」






「……え?」




不意打ちで顔が一気に熱を帯びた。






い、今なんて…予想外の答えに私は聞き返した。何をさらっとそんなこと。天然ですか、なんですか。よく考えたらわ、私は完璧だからそんなこと言われるの当然じゃないですか。


何、今更これくらいで動揺して…。らしくない。




「つ、作っていたとしても…本当の笑顔だとしてもどちらもあなただと思うので、ぼ、僕は素直に素敵だと思いました。…す、すみません!!生意気すぎました!」



彼はハッとなって何回も頭をさげて謝る。震えているのが伝わってくる。だけど、それより今、そんなの考えてる余裕がない。





どっちも私…?…それは口説き文句ですか。
 




「ば、馬鹿じゃないですか。意味がわかりません」



初対面で素敵なんて言葉…。自分でもなんでこんなに照れているのかわからない。さっきよりなぜか心臓の鼓動がはやくなった。…なんで嬉しいって思って。

 



「ぼ、僕なんかが…偉そうにごめんなさい…っ。で、でも本当に素敵だと思いました」





「はっ、な、な、に言って…。あなたもそんなダサい眼鏡せず、わ、私に笑顔見せなさい。それで私も感想言います」




そしたら、おあいこだ。こんな恥ずかしいこと言われるなんて思わなかった。恥をかいた気分になる。




「えっ、そ、そんな見せれるものでは…っ」



大丈夫ですと困ったように断る。




「笑顔なんて簡単じゃないですか」


自分でも思うほどしつこい。





「ぼ、僕の笑顔なんて…きっと気分を害します…っ。だからそんなことしなくても…」



「そうだとしても見ないとわかりません。コレとりますよ」



彼に言われた言葉が自分でも思った以上に恥ずかしくてその恥ずかしさを隠したくてとった行動だった。自分でも何をやっているのかわからない。



「あ、ま、待ってくださいっ」



そんな彼の言葉を聞かず無視してダサい眼鏡に手をかけた。









「だ、だめです…」


「ちょっと手が邪魔ですよ」



眼鏡を取ろうとしたけど押さえてとれない。ただ私に笑顔を見せるだけでいいっていうのに。…地味なくせに生意気ですね。







「…わかりました。諦めます」


「よ、良かったです…」




私は諦めたフリをして、彼が手をおろした瞬間、その隙に眼鏡に再び手を伸ばした。頭を使うってこういうこと。そして、簡単に奪いとった。単純な人です。







「え…?」


一瞬、妖精が見え、私は何かの見間違いだと思って眼鏡をかけ直してまた外した。そこにはとても綺麗な顔立ちをした少年がいた。






「だ、誰ですか…?」


その言葉が一番最初に出た。こんな…綺麗な顔をした人初めてみました。あの地味な彼は一体どこへ消えたのかと頭の中混乱した。






「め、眼鏡かえしてください…っ」



花の風景をバッグに泣きそうな顔をした妖精さん。め、眼鏡…?



「………え」


私はそこで現実を知る。





「あ、あの…」


「ありえません!」



「え?」


私は口を押さえる。いくらなんでもありえません。







さっきの地味でダサくて友達いなそう奴がたった眼鏡をとるだけで、こんな…こんな…妖精のように…っ。信じられない。




「か、返します」  


確かめたくて一度眼鏡を返した。





「よ、良かった…」


彼は眼鏡を返されてとても安堵した表情になり、すぐに眼鏡をかけた。安堵する表情がとてつもなく可愛かったけどすぐにドン底に落とされた。







「……嘘でしょ」


もう信じざるを得なかった。これは詐欺です。それに何ですか。さっきから心臓がうるさい。胸に手をあて鼓動がはやく伝わってくる。どちらも同じ人とは思えない。今まで見てきた中で地味でダサくて今まで見てきた中でとても綺麗で可愛くてそして、言うことが素直で健気で私を惑わせる。ただ笑顔をみて感想言って終わりという予定だったのに。こんな誰かに揺れるなんて…初めだった。



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