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無口ワンコ書記
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しおりを挟む【瑞希side】
俺はトイレから慌てて飛び出した。あー、危なかった。うるさい心臓に手をあてる。そして、先程のことを思い出した。せっかく、俺が放課後デートに誘ったのにあおいのやつ断りやがった。俺より大事な用事があるとか許さない。イラッとして無理矢理あおいの手を引っ張り連れて来たのがトイレの個室。あおいに蓋をされた便器の上に座るよう促した。
それからもう一度、『もう一回言うけど、今から遊びに行こうぜ!』とあおいの肩に手を置いた。なのに今にも泣きそうな震えた声で『ご、ごめんね…。こ、今度じゃだめかな…?』なにそれ。俺が二回も誘ったのに。もう無性に怒りが溢れてグイッとあおいの頭を押さえて細くて真っ白で綺麗な首筋を噛んだ。最後に舌で舐めて口づけをした。やばい。そこからゆっくりと離れると首筋には赤く俺の歯形がついていた。
あおいは俺のって印をつけてしまった。あおいは何がなんだかわからない様子で震えていた。
…痛かったよな。
すぐさま、あおいには守るためのおまじないと言って謝り、震えて怯えている体を抑えた。
守るための…おまじない。
別に嘘じゃない。
しかもありがとうなんて可愛いこと言われて暴走してしまいそうだった。
だから『おう!あっ仕方ないけど、遊ぶのはまた今度な。一人で行ってくる!ちょっと買いにいきたいものあるし』と、約束をしてトイレの個室から飛び出した。そして、今に至る。あのまま一緒にいたら正直やばかった。場所も場所だし…俺。
しかも怯えちゃって…
あーもう、可愛いなあおいは。
食べちゃいたいなんつって。
あはは!いつか食べるけどな。だって、俺とあおいは結ばれる運命だからな!誰も邪魔できないんだ!
よし、あおいを喜ばすために買い物は首輪でも買っておこう。
俺から逃げられないように。
なんてね。…ふふ、楽しみだなぁ。
それより、あおいのやつ、俺とデート断って他に用事でもあるのか?まあ俺以外の用事とかあったらその時はその時だけど。あーでも理由が何であろうと俺がずっと隣にいたい。だってあおいは俺がいないと寂しがるもんな!全く、可愛いやつめ。よし、ただ体調悪いってことにしておこう!
そう考えごとをして門を出た所でハッとあることに気づいた。お金持ってくるの忘れた!このままでは日が暮れちまうぜ!いつもはお金なんて使わないからそのまま寮に放置。面倒くさいけど仕方ないな。これもあおいのためだし。あー俺優しい彼氏だなぁ。
急いで寮に戻り、財布を持って二度目の門に向かう。やっぱ、寮から帰ったらあおいがいて欲しいな。だけど、あのあおいの幼なじみの奴があおいを独り占めにしていてむかつく。今ので思い出したけど、この前たまたまあおいがいる寮の部屋をうろうろしていたら幼なじみのやつが来て睨まれたし。
まっ、優等生だかなんだか知らないけど、きっとあれは俺の気のせいだと思うけど。早くあんな奴からあおいを取り戻さないとな。首輪でも買ってさ。そんなことを考えながら門に向かっていると、いつの間にか人気のない中庭的なとこを歩いていた。
ここって……ああ!あおいが猫を可愛がってたところじゃないか!うわ嫌な記憶思い出した!何でこんなとこ通ってんだ俺。最悪、最悪。早くここから立ち去ろう、そう思った時だった。
………は?
今、目に映っている光景に目を疑う。
「…はは」
なにあれ。
俺から笑顔が消えた。今見えている光景に殺意が覚えた。
…何で、あおいと煌が一緒にいるんだ?
煌にいじめられている様子はないようだし一体何の共通点があって一緒にいるんだよ。
俺は本当にあおいかどうか確認するためにもう少し近づいてみる。
「はは、」
力なく笑う。やっぱり、あおいに間違えなかった。…あーあ本当あおいは悪い子だな。約束を破るなんていけない。ここにはもう行くなって言ったのに。俺との約束を破ったことと俺以外のやつと一緒にいることに腹がたった。俺とのデートを断って結果がこれ…?はっ、なにそれ。
「っ!」
俺が見ているとは知らずに煌はあおいの首筋に触れやがった。
触るな…
触るな…触るな…
触るな触るな触るな触るな触るな触るな触るな触るな触るな触るな触るな…触るなっ!
二人の話し声は聞こえないけど許さない。何で、何でだよ!なんで俺の邪魔をするんだよ!!会計から書記までなんで俺のあおいに!イライラがおさまらない。
またあの猫がいて俺に気づいたみたいで威嚇してやがる。それで煌が俺に気づいた。
俺は勢いよく走った。…あおいを取り返しにいくために。
「あおいッ!」
大声で聞こえるように名前を呼んだ。
「は、花園…くん?」
「なんでだよッ!」
「いっ」
あおいの肩に手を置き力を込める。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。
「み、瑞希…?」
「うるさいお前は黙れ!」
煌には前に俺とあおいが付き合ってること言ったのに近づきやがって!俺の、俺の邪魔をするな!むかつく!
「あおい来いッ!」
「ぁ…っま、ちょ、ちょっと待って…っ」
あおいの言葉を無視して俺は歩き出す。だけども
「おい!あおいを離せよッ煌!」
煌があおいの腕を掴んでいた。また、あおいに触れやがって
ゴフッ
俺は勢いよく煌の腹を目掛けて拳を一発いれた。すると、お腹を押さえ足が崩れ落ちた。俺って結構強いんだよね。
「ふん、俺の邪魔をするから悪いんだ!!」
「だ、大丈夫…んむっ」
「俺以外のやつなんて心配するなっ!この浮気者!」
あおいの口を押さえて前に進む。
おっと、
「またお前か!」
俺に向かって威嚇してるクソ猫。まじ邪魔。こいつも殴るか蹴るかしようとしたらあおいが後ろからぎゅっと俺の腰に手を回して止める。
「おね、お願い…ぼ、僕が悪いから…な、にもしないで…っ」
弱々しい震えた手。泣いてる顔。
「っ!わかったから来い!」
俺はそのままあおいの手を引いた。
あおいの可愛さに免じて猫には何もしなかったがこのイライラを止めることができない。
連れてきたのは俺の寮の部屋。
ガチャンッ!
「あおいの嘘つき!!俺との約束破った!!!」
ドンっ!俺は怒りがおさまらなくてどうしようもなくてあおいを床に倒す。
そして、前髪を掴み上を向かせる。
「…なんで約束破った?」
「ご、ごめんなさっ」
「あおいは俺のだって言ってるだろ。俺たちの仲に隠し事なんて許せない。しかも俺との約束破るなんて」
「そ、その…っ、ほ、ほんとに…ご、ごめ」
「言い訳は聞きたくない!!聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない!!」
約束を破ったことは本当なんだ。
俺、超傷ついた。
だから、あおいも傷ついてよ。
そう思ったら、ふとあおいの胸に目がいく。大事そうに胸の前で何やら本を抱き締めている。
「……なに、それ」
あおいからその本を奪った。
「え、えっと…そ、その貰って」
「はあ!?」
なにそれ、なにそれ、なにそれ、
むかつく。
余計に怒りが溢れてくる。
「俺以外のやつから物なんてもらうな!!」
パシンッー
「…ッ!」
気づいたらあおいの頬を叩いていた。
俺はあおいの前髪を掴みながら壁にあおいを凭れさせた。
そして
「んンっ」
あおいの声がもれる。思いっきり熱いキスをした。
途中、あおいから奪った本を床に投げつける。視界に入れるだけでイライラするから。
あおいの後頭部をしっかり押さえて角度を何度も変えながら口づけする。
…止まらない。
どうしようドキドキが半端ない。イライラがどこかへ飛んでいったようにキスに集中する。
…気持ちいい。
やばい、なにこれ。
そして、俺はあおいのダサい眼鏡に手をかけてそれをゆっくりと外した。思わずゴクンと息をのむ。泣いて赤くなって潤々した瞳。キスしてと言ってるようだ。目元にキスを落とす。全部、全部俺だけのもの。この目にうつっていいのは俺だけ。
それから何度も何度も…口に、頬に、額に、瞼に首に口づけをした。
「…ンんっ…はぁ」
そして十分満足して、少し落ち着いてからあおいを見る。
「っ!」
我に返った。
赤い頬。乱れた前髪。
泣いている顔。
頬には俺の手形がついていて……
「ああああああ!あおいごめん!!た、叩いてごめんね俺のせいだよね痛かった!?本当は叩きたくなかった!!ごめん!だ、だってあおいが悪いんだ、あおいが……あおいが俺との約束破るから!!!」
ど、どうしよう。
あおいに…!あおいに
嫌われてしまうッ!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!
目の前には小さく震えたあおいの姿。
俺が…?
俺がそうさせたのか…?
「うわあああああ俺は悪くない悪くない!!」
現実を受け止めたくなくてその場から立ち去った。
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