嫌われ者の僕

みるきぃ

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チャラ男会計

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学校が休日である土曜日。


「あおいはいつも偉いね」



ゆうが感心したように僕に言った。別に僕は感心されることなんてしていない。ちなみに今は玄関で靴の靴ひもを結んでいる。



「そんなことないよ。じゃあ行ってきます!」



「うん。なるべく早く帰ってくるんだよ」



「うん!」



靴ひもを結び終え履いて部屋から出た。ゆうはいつも優しい言葉を僕にかけてくる。それで頑張ろうという気持ちが倍に増えるのだ。ゆうの言葉は魔法みたいだ。

今、僕が向かっているのは自分のクラスであるZクラス。毎週土曜日にはいつも一人でこうやって、机とか拭きに行っている。

基本、Zクラスは誰も掃除はしない。正確にいうとやる人がいないのだ。少しでも皆の役に立てればと思って陰で頑張っている。それしか僕はできないから。



「おーーい!!あーおーい!!!!」



すると、ダッダッとすごい勢いで誰かが走ってきた。僕の名前を呼んでいるその声には聞き覚えがあった。



「あ、花園くん。おはよう…こんな早くにどうしたの?」



「ちょっと早起きして廊下を走り回っていたら、あおいを見かけたから吹っ飛んできたんだ!」



「そうなんだ…ありがとう」



花園くんは、誰も差別なんてせず、こんな僕にまで話をかけてくれる。そ、それに…と、友達だからこうも心が温かくなる。嬉しい。



「そういうあおいは何してんだ?」



「ぼ、僕?僕は…その今からクラスに行こうかと思って…」



「クラス?も、もしかして、俺に内緒で誰かと会う気とかじゃないだろうな!!許さないぞ!!!」



「え、!?そ、それはないよ。ちょっと机とか拭いたり掃除したりするだけだよ」



「あー、まじビビった。それなら安心だ!!てかあおい掃除好きだな~!」




「う、うん。好きだよ」


僕がそう伝えたら、急に顔を赤くする花園くん。




「…や、やばい。俺が好きって言われたみたいで妄想したら興奮してきた。あ!そうだ!!俺も一緒にZクラス行っていいか?」


目をキラキラと輝かせながらお願いと頼まれた。



「え、で、でも…」



「別に気にすんなって!ほら、行くぞ!!」



手をぎゅっと握られ、僕は断ることはできずにゆっくりと頷いた。


Zクラスに着き、花園くんは握っていた手をゆっくり離した。



「な!あおい!!もしかして土曜日はいつもここに来て掃除なんかしてるのか?」




「う、うん。そうだよ…」


僕は返事をしながら、ベランダに出て干してある布巾を取った。



「そっかー、だから月曜日、いつの間にか綺麗になってるって思ったのはそれか!」



綺麗になってる…嬉しいな。




「ありがとう」



そう言われて、掃除をして良かったと思えた。



「あ!そうだ!眼鏡外してもいいか?」


花園くんはそう大声で言い、僕の横に来た。




「え、そ、それはちょっと…」



人前で外すのはできない。でも、実は毎週土曜日いつもここに掃除をする時は誰も見ている人がいないから外している。そしたら、眼鏡も曇らないし、掃除がはかどる。

だけど、人前では外せない。素顔なんて見せられないよ…。



「何でだよ!!俺が外せって言ってんだ!外せよ!」



花園くんは前のめりになって前から僕に近寄る。



「え、っと…そう言われても」



僕は自然と後ろの机に手をつける形になった。




「なぁ…いいじゃん!俺らそーいう関係だろ?」



「で、でも…」



そーいう関係って…友達だからってことだよね。


だけど、僕の顔なんて見ても不快を与えるだけで面白味もないよ…。



「は、花園くん…痛いっ」



僕の今の体勢は、背中と机がくっついている状態で足は軽く浮いている。上からは花園くんに挟まれ、両腕も押さえつけられて逃げ場がなかった。



「あおい!誰のものにもなるなよ。俺だけ考えていればそれでいいんだぞ!わかったか!!」



「ちょ、あ、は、花園くんっ!」


スルリと眼鏡を奪われた。その瞬間、視界がぼやける。花園くんがどんな顔をしてこっちを見ているかわからない。


僕は顔をなるべく見られないように横を向いた。


「あー!逸らしちゃだめだろ!!こっち向け!俺を見ろよ!!!」


クイッと戻され、うっすらとした視界の中、花園くんと目を合わせることになった。


すると上からゴクン、と息をのみこむ音が聞こえてきた。ほら…やっぱり、僕の顔が酷すぎて何も言えないんだ。



「は、花園くん…も、もういいかな…っ?」




「…やばい。下半身がおかしくなりそうだ!!」




「え?」




「あ!この眼鏡は俺が今は預かっておく!!」




花園くんは、そう言って僕から少し離れて眼鏡を自分のポケットにしまってしまった。

僕は床に足をつけて、花園くんの元へ行く。



「は、花園くん…め、眼鏡…っ」


人にこんな顔を見られるのは嫌だ。返してもらわないと…困る。



「今の顔すごくいい!!やばい俺って結構Sっ気あったのか!!」





「…っ」

ど、どうやったら眼鏡を返してくれるんだろ…。


「…返してほしい?」


花園くんはいたずらっ子みたいにニヤリと口の端をあげた。




「か、…返してほしいです」



コクりと、頷く。ほ、本当に返してくれるのかな…?




「じゃあ、あおい!返してほしければここまでこい!!」




「え、は、花園くん…!?」



花園くんは、僕から逃げるように離れていく。





「今、取り返さないと一生返さないってきーめたっ!!」



え!?



「ま、待って…花園くん!」


う、嘘。一生なんて…それはとても困る。僕は、返してもらうために花園くんのあとを追う。

だけど、僕の体力と運動神経じゃ花園くんには到底敵わなかった。




「はぁはぁ…も、う無理…っ」


もう息があがって自分の体力の無さにはお手上げ。地面に崩れ落ちるように尻餅をついた。


「あーー!もうギブアップかー!!もうちょいイチャイチャしたかったのに!」



花園くんはそう言いながら僕のところまで来てくれた。




「ご、ごめんね…っ、ぼ、僕体力無くて…っ」




「しょうがねぇな、全く!!眼鏡はちゃんと後で返す!それよりちょっと立てるか?」


花園くんは、僕の様子を伺いながら手を差し伸べてくれた。



「う、うん!な、なんとか…っありがとう」



僕は花園くんの手を掴み、ゆっくりと立ち上がった。







「、わっ!」



立った瞬間、突然花園くんは僕の顎をクイッとあげた。






「…どうしよう。すっごく今キスしたい。…いい?」




「え?」





キ、ス…?耳を疑った。




ガラッー



唖然としたまま、急に僕と花園くんしかいなかった教室の扉が開いた。


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