嫌われ者の僕

みるきぃ

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アンチ王道転校生

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【あおいside】


本当に生徒会はすごい…。食堂を一気に黄色い声に包まれさせるほどの人気ぶり。

 何度も見る光景だけど、いまだにこの外観には慣れない。


「ん?なんか騒がしくなったな」


花園くんも驚いたのか、辺りを見渡していた。


…驚くのも無理ないよね。僕も最初は驚いたもん。でも今は、目をつけられてしまっていつも酷い目に合わされている。だから僕にとっては怖い存在なんだ。


すると、顔をうつむけて自然と震えていた手をゆうが優しく握った。




「……?」



「大丈夫。俺がいるから」


そう優しく僕を安心させた。


「ゆう…っ」



…ありがとう。こんなにも優しいゆうの隣にいてもいいのかな。



「あああ!!何勝手にあおいに触れてるんだよ!」


ビクッ

突然、花園くんは大声を出し、僕とゆうの手を引き離した。



「…瑞希!」


その瞬間、誰かが花園くんの名前を呼び、周りが悲鳴をあげた。



「ん?あーー!お前貴之!!」


「そうです。覚えててくれて感激です」


そこにいたのは嬉しそうな顔をした生徒会の副会長だった。


…も、もしかして二人は知り合いなのかな?


そう思ってると二回目の悲鳴が巻き起こった。それは副会長が花園くんに抱きついたからだ。



「おーい!貴之~、その子が例の転校生?」


副会長のあとに続いて会計が興味津々気味にそう言った。



「はい。瑞希には惚れないでくださいね。私が先に見つけたので」



「おい、もう貴之苦しいぞ!離せ!!」



「あ、すみません。つい嬉しくて…」



「謝ったから許してやる!あ!お前誰だーー?初めてみる顔だな名前教えろよ!俺は花園瑞希ってんだ!」



「瑞希だめです。セフレがたくさんいるチャラ男には近づいたら妊娠します」



「セフレ…?お前そんなのいるのかよー!!セフレなんかやめろよ!!お前は本当は寂しいだけなんだろ!?」 



「はは!なにこの子超おもしろい!そんなこと言われたの初めて。俺は生徒会会計の來城祥だよ~よろしくね」



「おう!祥だな!!あ!お前も初めて見る顔だな!名前教えろよ!!」


花園くんは次に生徒会の書記に声をかけた。


「……お、…れ…煌…」


「よし、煌だな!よろしくな!!」



「お、…れ…の…言葉…は……わか…る…?」



「おう!当たり前だぞ!!」



「うれし……瑞希…気に…入った…」



「祥までじゃなく煌まで…!私が先に見つけたのですよ!!」



「そんなの関係ないじゃん~」


「…関…係……な…い」






「――――おい、お前らうるせぇぞ」




そこに会長の低い声が響いた。



「あー!お前誰だよ!!」



花園くんは、会長を指差して大声を出す。



「あぁ、こいつが例の転校生か。お前ら、こんなうるさい奴がいいのか?趣味わりな 」



「俺はうるさい奴って名前じゃない!失礼だぞ!!花園瑞希だ!!」



「ほぅ、俺にそんな口聞くとは…面白い。俺は天山神影だ。気に入った」



 「んんんー!?」


目の前に繰り広げられているのは会長と花園くんのキスシーン。

悲鳴が食堂を包み込む。



ガンッー


「…いってぇ」


すると、会長が地面に腰をつき、吹っ飛ばされた。

その時の食堂内に響き渡った叫び声といったら地震さえ起きそうな勢いだっ た。 



「お前気持ち悪いぞ!!謝れよ!」



「はは、この俺様を殴るとは…」




会長は殴られた箇所を触って立ち上がる。




「もう気分が悪くなった!!あおい行くぞ!」



「…、っ…!?」



花園くんが急に僕の左腕を掴み、歩き出そうとするがもう片方の右腕をゆうが掴んでいたためその場で佇む形になった。



「あれ?何でそこに嫌われ者がいるわけ~?」



「ははっ、根暗じゃねぇか」



生徒会は僕の存在に気づいた途端、目が鋭くなった。



「ん?お前らあおいと知り合いなのか?」


花園くんは足を止めてそう聞いた。


すると、会計が急に笑い出す。



「ははっ、俺らがこんなやつと知り合い?じゃないよ~」


「ありえませんね。ただの暇潰しの道具ってとこです」


副会長は汚いものを見るかの目で僕を見た。

暇潰しの…道具…っ。


わかっていたことけど堂々と言われて悲しい気持ちになる。


さっき、花園くんに殴られた会長も僕を見るなり嫌な顔をすると目の前に来た。

会長は僕の顎をクイッと痛いくらい強い力であげた。




ビクッ

「お前が瑞希の何だか知らねーけど、俺様の瑞希と関わるな」


「…ご、…ごめんな…さいっ」



会長の低い声に恐怖を覚えながらも謝った。当然、目を合わすことなんてできなかった。


僕には謝る他選択肢はない。


「もうお前らなんなんだ!!あおいが道具とか何意味わかんねーこと言ってんだ!あおいは俺の親友だぞ!」


花園くんは、さっきよりも僕の左腕を強く掴みながらそう言った。


「瑞希すみません。でもこんな人と一緒にいると瑞希まで汚れます」



「そうだよ~。こんな奴と友達になってあげるって瑞希は優しいな~」


副会長と会計は口を揃えてそんなことを言った。



「俺が優しいのは当たり前だぞ!もう疲れたから帰る!!行くぞ、あおい!!」



「あ、あの…っ」


花園くんは再び強く引っ張って進もうするけど、もう片方の右腕はゆうに掴まれているため進めない。



「もう!お前邪魔するなよ!!離せって!!俺たちはこれから教室に戻るんだ!」


花園くんは、ゆうが掴んでる僕の腕を引き離した。



「よし、ほら行くぞ!」



「あおいっ!」


「ゆ、ゆう…」



ゆうは、止めようとし後を追ってきたけど、花園くんがドンドン前へ進むため、ゆうの声はもう届かなかった。


ゆうにはあとで寮に帰ったとき謝ろう…。



食堂から随分離れて今はZクラス近くの廊下にいる。



「はぁ…っ…は、花園くん…ま、待って…はや…っ」



僕は小さい頃から体力がないため、ちょっと走るだけでもスタミナが切れる。

もう限界…っ。



「うわっ!」


そう思った時、急に動きが止まって僕はそのまま勢い余って花園くんの背中に顔をぶつけてしまった。



「背中…はぁっ…ご…め…」


背中をぶつけてごめんねと謝りたいけど息を吸うのに一苦労。



「あおい大丈夫か?お前これぐらいで息切れするなんて変なやつだな!!」


花園くんは、変なのーと言いながら笑った。



花園くんって何か部活でもしていたのかな?足もはやいし息切れ一つしていない。


そして少し休憩したあと、僕たちはZクラスに向かった。


―――――
―――――――
―――――――――


……。



「あおい、お前って色んな奴から嫌われてんだな!」



ビクッ

花園くんは唐突にそう言った。


たった今、午後の授業が終わったところ。いつも通り、ちゃんとした授業はなかったけど。


嫌われてる…か…。


「う、うん…。ぼ、僕は良いとこも何もないだめ人間だから…。ほ、ほら、さっきだってすぐ息切れするし何もできないしさ…」


僕なんか…

クズ、気持ち悪い、汚いの3Kだ。


頭も悪いし、足手纏いだし迷惑もかける。

皆から嫌われて当たり前。


自分の悪いところはたくさん見つかるのに良いところがまるでない。




「まあ、だけど俺は親友だからな!」


バシンッと背中を強く叩かれる。



「…っ」   

背中に痛みが走る。ヒリヒリして痛いけど我慢我慢…。



「こ、こんな僕なんかと本当に…友達になってくれるの…?」


花園くんは、実際に僕が皆に嫌われているところを見ている。それでも、僕と関わってくれるの…?



「もうあおいは心配症だなっ!当たり前だろ!!」



「ありがと…っ」


涙が自然に出た。



「おい!泣いてんのかー?やっぱ変なやつだな!!あ、よし!これから寮に行こうぜ!」


花園くんは、僕の腕に抱きついて元気よくレッツゴー!と言った。



今までにこうやって言ってくれる人がいなかったせいか、なれていない。涙だってすぐ出ちゃう弱虫。

でもこれは嬉しくて泣いているんだ。僕は涙を拭い頷いて、寮へと向かった。



それから、花園くんは寮の管理人さんに新しく寮の鍵を貰った。



「なあ!聞いたか?俺、新しく転入してきたから一人部屋だって!!」


「う、うん」



「あおいは二人部屋なのか?」



「そ、そうだよ…だけど、同室の人にも嫌われて追い出されちゃったんだ…。あ、でも今は…ゆうの部屋に泊めさせてもらっているよ」



「あおいは本当に嫌われ者だな!ゆうって食堂にいた奴のことか!!」



「うん。唯一、僕に優しくしてくれる人なんだ」



「唯一何だよ!!俺だって優しいだろ!」



「う、うん。そうだね…すっごく優しい…」



「分かればいい!おっ、ここが俺の部屋か!!」




すると、花園くんは【109号室】と書かれた扉の前に立ち止まった。


鍵穴に鍵をさしこみ、ガチャッと扉を開けると花園くんは足を踏み入れた。



「おお!今日からここに住むのか!!あおいも早く入れよ!」


「う、うん!お、お邪魔します…」



僕も花園くんに、続いて中に入った。まだ床は新しく綺麗だった。リビングに足を運ぶと段ボールがたくさん置かれていた。



「俺の荷物届いていたのか!!よし、あおい一緒に整理しようぜ」



「う、うん…僕にできることなら手伝うよ」



「おお!頼むぞ!!」



僕も人の役に立ちたい。いつまでも、うじうじして頼りない僕は嫌いだ。

少しずつ自分を変えていきたいな…。



そう思いながら、花園くんの指示の通り僕は荷物を並べたり運んだりとして手伝った。

重い荷物とかは花園くんと一緒に持ってせっせと終わらせた。



「ふぅ。疲れたな!!あおいご苦労だった!」



「はぁ…っ、ご苦労さま」


少し疲れたけどやっと片付いた。珍しく汗もかいた。



「ははっ!あおいお前眼鏡曇ってるぞ!!」


花園くんは僕を見て笑った。

あ、本当だ…。眼鏡のレンズが曇っている。多分、熱気で曇ったのだろう。




「もう見苦しいな!!えいっ!」


花園くんは、僕の眼鏡を外し奪った。視界がぼやける。



「ちょ、は、花園くん…っ、め、眼鏡返してっ」


花園くんは笑いながら、僕の眼鏡を高く上にあげる。ジャンプしても届かない。



「へー!この眼鏡超変なのー!!あおいよくこんなものかけられるよな……………え?」




花園くんが僕を見た瞬間、なぜか固まった。



…しまった。顔を見られてしまった。ゆうと約束したのに。こんな気持ち悪い顔、晒しちゃだめなのに。僕はすぐに顔を見られないようにうつむいた。




ガチャンー

花園くんは口を開け、固まった状態のまま、スルリと僕の眼鏡を床に落とした。

僕はすぐさま拾い上げて眼鏡をかけた。



…よかった。落ちたけど壊れてないみたいだ。割れてないしキズもはいっていない。




そう安心したのも束の間、




「うわぁっ!」

急に花園くんが黙ったまま、勢いよく前からぎゅっと力強く抱き締めてきた。




「なにこれやばい……」


「ちょ、は、花園くん…っ!?」



僕は花園くんの急な行動に驚きが隠せない。




「は、花園くん…ど、どうしたの…っ」




「なんで、あおい…そんな顔してるんだよ…」



「………」



そんな顔?もしかしてそんなに僕の顔…悪かったのかな…。今更わかったことじゃないけど言われるとなるとへこんでしまう。




「もう一回俺に見せて?」



「え…?」


強く抱き締めながら耳元に囁く。そんなに僕みたいな顔が珍しかったのかな…。

…そっか、そうだよ。こんな酷い顔僕しかいない。



「あおい?」



「ご、ごめんね…それは無理っ」



だけどこれ以上、この顔のことで惨めになりたくない。


「何で無理なんだよ!!」


花園くん僕の肩を掴んで頬は少し赤みを帯びていた。


…きっと怒っているんだ。僕が偉そうに反抗したから。立場をわきまえろという言葉がピッタリと合う。



「だ、だって…見ても…不快感を与えるだけだから…」



それは本当。徐々に語尾が小さくなる。さっきはうっかり眼鏡を取られちゃったけど今度は維持でも取られまいと眼鏡を押さえた。



すると、


「ははっ!やっぱあおいって変な奴だな!!しかもドがつくほどのネガティブだし。…まあ、そっちの方が都合いいけどな!」




花園くんはそうお腹を押さえながら笑って最後にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


僕は花園くんの言っている意味がわからなくて首を傾ける。



「な!あおい!!俺、お前と今日初めて会って気づいたんだけどさ、お前が他の奴と絡んでる姿見ると邪魔したくなってムカついた!」



「え?」


そ、それはどういう…?



「だから、あおい!お前は今日から俺の恋人な!」


え…

「こ、恋人…っ!?」


僕は急な展開に驚いてしまった。何かの聞き間違いだと思った。


「声と雰囲気、それと唇。素顔まじタイプだ!!お前が俺の運命の相手だったんだな!」



「ちょ、ちょっと待って…花園くん!」



全く話についていけない…。僕は困惑してしまう。


「あ、でも気がはやかったか!あおいまだ心の準備ができてないんだな!よし、それまで親友のままでもいいぜ!!俺優しいから待ってやるよ」


「……え、ーっと」


どうしよう。本当に話の内容がわからない。



「結婚とかどうする?やっぱ海外?」



「け、結婚…?」


一体、何の話をしているんだろ…。流れが早くてよくわからない。一度に多く喋られると困ってしまう。


「あ!そだ!!あおい、ここに来いよ!部屋追い出されたんだろ?」


え?


「で、でも…」



た、確かに追い出されたけど今はゆうにお願い言ってゆうの部屋にお世話になっている。

でも、まだ何も恩もかえせてないのに部屋を移動したらゆうに失礼だし…。



「なあ、いいだろう?一緒のベッドで寝ようぜ!!」


『いいじゃんいいじゃん!!あおいー!!』と花園くんは床にコロコロ転がりながら言った。



「じゃ、じゃあ迷惑じゃなかったら…たまに泊まりに来てもいいかな?」



これって、友達とのお泊まりの約束ってやつなのかな…。少し恥ずかしくなって顔をうつむける。

友達とこんな会話したこと今までなかったからどんな顔して言えばいいかわからない。



「うわっ、やばい。眼鏡越しでわからないけど絶対今可愛い表情してた!!」


僕の横で急に、はしゃぎ出す花園くん。


「は、花園くん…?」



「おう!いいぜ!!いつでも泊まりに来いよ!俺待ってるぜ!!」



「あ、ありがとう…」


僕はお礼を言ってそれから夜遅くまで花園くんと他愛もない会話をしてゆうがいる部屋に帰った。



―――――――
―――――――――



「た、ただいま…ゆういる?」

リビングに明かりがついていた。僕は一直線にそこを向かう。


「あ、ゆう…」


 リビングのドアを開けるとソファーに座っているゆうの姿があった。

 
「あおい…お帰り」

ゆうは、僕に気づいたけど少し落ち込んでいる様子だった。多分、僕のせいだ…。

僕はすぐさまゆうの座っているソファーの近くに行き、床に膝をつけた。



「ゆ、ゆう…今日は本当にごめんなさい…っ。謝って済むことじゃないけど…ごめんね」



僕は頭を下げた。すると、すぐにゆうは優しく声をかけた。



「あおい。顔あげて…?」



「で、できないよ…」


だってお昼はいつも約束している場所には行かなかったし、何も言わずに遅くに帰ってきた。


今の僕は、ゆうに顔を合わせられない…。



「どうしてそんなにあおいが謝るの?謝る必要なんかないよ。何か理由があったんでしょ?俺はわかっているから」


僕の頭を撫でながら優しくゆっくりとした手つきで僕の顔をあげさせた。


「ゆう…っ」


「ほら、そんな顔しないで?こっちおいで」


ゆうは自分の足の間のスペースのところをポンポンと叩く。


「で、でも…」


「今日のこと聞かせてくれる?」



「…うん」


僕はこくりと頷き、ゆっくりとゆうの足の間に座る。そして、ゆうが僕を後ろから包み込む。


何で、ゆうはこんなに優しいんだろ…。僕なんか最低なやつなのに、それでもいつもと変わらなく優しいままのゆう。


そして、僕はゆっくりと話をゆうに聞かせた。



今日転入してきた花園くんのこと。友達になったこと。寮の片付けを手伝っていたこと。今日あったことを全部話した。それでも、微笑みながら僕の話を聞いてくれた。

不思議と温かい気持ちになった。


ゆうが隣にいるだけでこんなにも幸せ。


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