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【第二部】

74、批判出来るような人間じゃない

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「同じとこでバイトしてるのに、話すの久しぶりだね」
「ごめん、ちょっと避けてた。気まずくて」
「分かる」
 
 会えば挨拶くらいはするけど、磯川くんと致してからは挨拶以上の会話はなかった。でもそんなことを言いながらも、磯川くんも案外普通に話してくれてる。磯川くんに同意すると彼もこちらを見て、目を合わせて笑い合う。
 
「のんちゃんは彼氏出来たんだって? 上手くいってる?」
「うん、まあまあかな」
 
 磯川くんにはそう返したけど、正直上手くいってるとは言いづらい。
 
 説明会の後も慧とは普通に会ってるし、キスもしてるし、なんならえっちもしてる。
 
 表面上は順調なんだろうけど、恩田先輩に会ったことでトラウマが蘇ったせいかな。慧に嫌われることが怖くなって、面倒だと思われないようにしなくちゃって常に気を張ってる状態。
 それに、考えたくもないのに恩田先輩のことばっかり思い出しちゃうし……。何でこんなに考えちゃうのか分からないけど、こんな状態で慧と付き合ってていいのかなって罪悪感ばかりが募っていく。
 
 たぶん慧もそんな私に気がついてて、距離を縮めようとしてくれてるんだけど、どうもギクシャクしちゃってるんだよね。
 
「そっちはどうなの?」
「秋頃に別れたんだ」
「え……」
 
 予想していなかった答えに言葉を失う。
 だって、彼女のことが大好きって言ってたのに……。
 
「もしかして、浮気バレた?」
「自分から話したんだ」
「ええ……。何でそんなことするの。言わなければバレなかったんじゃないの? そんなこと話したって誰も幸せにならないのに」
「そうだね。誰も幸せにならないけど、俺が耐えられなかったんだ。彼女を裏切ったことを隠し続ける罪悪感に耐えられなくなった」
「ん~そっかぁ。彼女のことはもういいの?」
「本当はまだ好きなんだ。彼女も許せるように努力してみるって言ってくれたけど、当たり前だけどすごく傷ついてて……。今の状態で一緒にいるなんて出来ないし、反省も踏まえてしばらくは一人でいようと思う」
 
 寂しそうな笑顔を浮かべた磯川くんに複雑な気持ちになる。
 
 必ずしも正直なことがいつも正しいわけじゃない。だって、それって結局相手のためを思ってのことじゃなくて、罪悪感に耐えられなかった自分のためだ。でも、罪悪感に耐えきれなくなった磯川くんの気持ちは痛いほど分かる。
 
 彼女のことを傷つけたのは事実だし、自分からわざわざ言うなんて正直馬鹿だなって思うけど、その不器用な生き方がなんだか憎みきれない。磯川くんは根っからの悪い人ではないんだよね、たぶん。
 
「のんちゃんにもずっと謝らないといけないと思ってた。本当にひどいことしてごめん」
「やめてよ。言っても、私被害者じゃなくて加害者だからね。責められることはあっても、謝られるような立場じゃないよ」
 
 曖昧な笑みを浮かべると、磯川くんは申し訳なさそうに眉を下げる。
 
「私と四回もいちゃらぶえっちした日の翌朝に彼女と旅行行ったのはさすがに引いたけど。でも、……私はそれを批判出来るような立場じゃないし、清廉潔白な人間でもないから。だから私のことは気にしないで」
 
 無理矢理犯されたわけでもないし、彼女がいることを知らなかったわけでもないし、私だって磯川くんと大して変わらない。彼の行動を批判出来るのは、彼女———元彼女だけだと思うし。
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