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【第二部】

50、浮気のアドバイスやめてもらっていいですか

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 合宿から帰ってきて数日が経ったある日の夜、バイト終わりに慧の家に寄る。私がシャワー借りた後で慧もシャワーを浴びにいって、特にやることもなくなったので持ってきたノートパソコンを開く。
 
 もうすぐ提出しなければいけないゼミのレポートを作成してたけど、慧のスマホの通知音がなったので、なんとなくそれを見る。画面を見ると、みくちゃんの名前が表示されていて、あんまり見ない方がいいかなと思って目を逸らした。けど五分後にまたみくちゃんからのメッセージがきていて、さすがに気になってしまう。
 
 別にいいんだけどね。私だって男友達と連絡くらいするし。それは別にいいんだけど、明日から大学始まるのにわざわざ夜に連絡してくるって。何の用事なのかな。大したことじゃないかもしれないけど、なんかなぁ……。
 
 もちろん慧のスマホは勝手に見たりはしないけど、どんなやりとりしてるのかとか色々考えてたら、全くレポートが進まなくなっちゃった。
 
 結局ほとんどレポートが完成しないうちに慧がお風呂から出てきて、パソコンの電源を落とす。
 
「はい、みくちゃんから何回も連絡きてたよ」
「もしかして見ました?」
 
 慧が近づいてくるなり笑顔でスマホを手渡すと、慧は少し驚いたように目を見張る。
 
「中身は見てないよ。画面に名前が表示されてたから見えちゃっただけ」
「そういうことですか」
「なに~? 見られたら困るやりとりでもしてるんだ?」
「違うって。見られても問題ないです。何なら今見せても……、あ~ちょっとこれは……」
 
 隣に座ってスマホを見ている慧をつつくと、スマホの画面を一瞬注視した慧は眉をひそめて口ごもる。
 
「やっぱり見せられないんじゃん」
「やましいことは何もないけど、個人情報が入ってたから」
 
 スマホを置いた慧を横目で見ると、真顔でそんなことを言われた。
 
「はいはい、個人情報ね。浮気ならバレないようにやってね」
 
 別に本気で疑ってるわけじゃないけど、ちょっとだけ慧の言動が怪しく感じたので嫌味っぽく言っておくと、肩を掴まれて正面を向かされた。
 
「浮気なんかしてない」
「へぇ~。みんなそう言うよね」
「いや本当に。バイト終わった後はいつも花音先輩と会ってるし、サークルも一緒だし、浮気する時間ないの知ってますよね」
「時間はあるものじゃなくて作るものだよ、慧くん。私とは学部も学年も違うけど、みくちゃんとは学部一緒なんだしさ。一緒に授業サボるか休講になるかしたら、いくらでも時間作れるよね」
 
 ね?と片目を瞑ると、嫌そうに目を細められてしまう。
 
「浮気のアドバイスやめてもらっていいですか。そんなの考えたこともなかったです」
 
 慧の反応からして本気で何もないんだろうけど、でもまあ私としてはちょっと面白くないものがある。なんかちょっと怪しかったし。
 
「別にいいんだよ? 慧も他の女の子に興味あると思うし。ただね?私としては同じサークル内で同時に二人ってのはね、さすがにやめておいた方がいいんじゃないかな~って思っただけ♡」
「さっきから何言ってるんですか。花音先輩としか付き合ってないです」
「だってさぁ、冷静に考えてみてよ。さっきの慧の発言、すっごく怪しいよ? 彼女に見せられないようなメッセージがありますって言ってるようなもんじゃん」
 
 どっちが本命なのか知らないけどね、とニコニコで付け加えると、慧は困ったように眉を下げる。
 
「じゃあもう言いますけど。みくは好きな人がいるんです。それについての相談だったから、見せられないって言っただけ」
「なるほどね。好きな人本人に好きな人がいるって相談するパターンだ。よくあるよね」
「だから、何でそうなるんですか。本気で何もないって」
 
 笑顔で追い詰めると、慧は困り果てて肩を落とす。さすがに可哀想かな? そろそろ責めるのやめようかなと思って口を開きかけたけど、私よりも先に慧が口を開いた。
 
「そこまで疑うなら、今ここでみくに電話して、花音先輩と付き合ってるって言ってもいいです」
「え……、それはやめときなよ。いきなりそんな電話されても、みくちゃんも迷惑だろうし」
「そうしないと信じてくれないじゃないですか。それでも納得してもらえないなら、もうみくと話しません」
「何もそこまでしなくても」
 
 本気で浮気を疑ってたわけじゃなかったけど、なんかおかしなことになってきた。冗談で言ってるわけじゃなさそうだし、本気で実行に移しそうで怖い。
 
 今ここでみくちゃんに電話するにしても、もうみくちゃんと話さないにしても、私すっごく怖い先輩みたいじゃん。
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