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2、元社長令嬢、就職する
五話 傍若無人は嫌われる
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パパの昔の知り合いに連絡をとると、翌日からその方の息子さんが勤める会社で働くように言われ、その日から今日まで二週間毎日真面目に働いている。
紹介された会社は日本人なら誰もが知っている有名な食品会社で、海外にも進出している大手企業だった。期待していたほどではないけど、まあ待遇も悪くないし、私が勤める最低条件はクリアしているわね。
会社自体は悪くなさそうだけど、そこに勤めている社員は低俗な人間が多くて、正直付き合っていられないけれど。大手でもこんなものなの?
「もう私本当にブスだよね。生きるのつらいー」
「えーそんなことないよ。可愛いのに」
始業前に同僚たちがSNSを見ながら、自虐したり見え見えのお世辞を言い合っているのもいつもの光景だった。本当に毎日毎日同じようなやりとりしてよく飽きないわよね。
「もし私があなたたちみたいな容姿だったら絶望してたけど、人を不快にさせるほどのブスでもないんだから、気にせず自撮り写真載せても大丈夫なんじゃない?」
ブスでもないけど、美人でもない。
化粧で底上げしているものの、私みたいな美人と比べれば、たしかにパッとしない。
十人並みの容姿に生まれたことは同情するけれど、彼女たちの面倒なやり取りは聞くに耐えるわ。
どこにでもいるタイプの彼女たちは、私の発言でぴたりと口をつぐんだ。
どうして自分がブスだと思うのに、わざわざSNSに自撮り写真をたくさん載せるのかしら? ブスだと思ってるなら、わざわざ自撮りなんか載せなきゃいいのに。全く理解できない。
◇
「二階堂さん、資料作りお願いできる?
例年と同じようにまとめるだけだから大丈夫だと思うけど、分からないことがあったら聞いてね」
「どうして私がそんなことしなければいけないの? あなたが自分でやったらいいじゃない」
始業後、忙しそうに資料をまとめる同僚に声をかけられたけど、ぴしゃりとそれを拒絶する。
やりたくても、資料のまとめ方どころかグラフの作り方もパソコンの使い方も分からなくてやれない。でもこの私が、「できない」なんてみっともないことを口にできるわけがないので、必然的にそういう答え方になってしまう。
「あの、......前から言おうと思ってたけど、あなた社会人としてありえないわよ。今だって仕事中だっていうのに何もしてないし、あなたに不満がある人はたくさんいるんだから」
「じゃあ解雇したら?
あなたにその権限があるなら、だけど」
「あなたね......、もういい分かった」
何が分かったのか分からないけど、ふわふわした髪型の彼女はきゅっと口を結んで、そのまま自分の席に戻ってしまった。
こんな感じでニ週間真面目に会社に来てあげてるにも関わらず、なぜかほとんどの女子社員から避けられている。
私が美人だから、嫉妬されているのかもしれないわね。生まれながらの社長令嬢の私と低俗な庶民のあなたたちじゃ格が違うのだから、それも仕方ないわ。
どれだけあがいても庶民が貴族にはなれないのだから見苦しい嫉妬はやめてほしいけれど、自分の容姿を見て生きるのが辛くなる平凡女子もいるみたいだから、いきなりこんな美人が入社してきたら嫉妬されても仕方ないのかもしれないわね。生まれつきの美人だったから、そうでないひとの気持ちが全く理解できないのが残念だけれど......。
美人も辛いものね、と仕事中にため息をついていると、急にオフィスの雰囲気が変わった。みんな表立っては平静を装っているけど、男性社員は少し緊張しているみたいに見えるし、女子社員たちに至っては急に色めき立っている。
一体何があるっていうの?
興味をひかれ、オフィスを見渡すと、二週間ほど前に初対面を果たした人物と目が合った。
この場にいる全員の注目を集めているのは、九条秋人ね。
御曹司として生まれた彼は、二十七才という若さでこの会社の重役でもあり次期社長と噂されている。それから、私のパパの昔の知り合いの息子でもあるわ。つまり、九条秋人は間接的に私を雇ってくれた恩人でもあるんだけど、この男のことは好きになれそうになかった。
女子社員たちがかっこいいと騒いでいたけど、どこがいいのか全く分からない。
スラッとした高身長に、上品で整った顔、たしかに外見は悪くないかもしれないけど......。
あの何を考えているのか分からない、鉄火面みたいな冷たい表情が全てを台無しにしている。本当はロボットなんじゃないの?
九条秋人は一言二言男性社員と会話したあと、なぜか私のデスクの方へと近づいてきた。
「二階堂さん。就業時間が終わったら、専務室に来てほしい。話がある」
表情ひとつ変えずにそれだけ告げると、返事も聞かないうちにさっさと歩いていってしまう。
何の話があるっていうの?
仕事が終わってまで、あの男と話したくない。
でも......、一応上司でもあるし、恩人でもあるのよね。あまり気が乗らないけど、聞いといた方が良いかもしれないわ。
結局きっちり六時に仕事を終わらせ、彼に言われた通りに専務室を訪れることにした。
紹介された会社は日本人なら誰もが知っている有名な食品会社で、海外にも進出している大手企業だった。期待していたほどではないけど、まあ待遇も悪くないし、私が勤める最低条件はクリアしているわね。
会社自体は悪くなさそうだけど、そこに勤めている社員は低俗な人間が多くて、正直付き合っていられないけれど。大手でもこんなものなの?
「もう私本当にブスだよね。生きるのつらいー」
「えーそんなことないよ。可愛いのに」
始業前に同僚たちがSNSを見ながら、自虐したり見え見えのお世辞を言い合っているのもいつもの光景だった。本当に毎日毎日同じようなやりとりしてよく飽きないわよね。
「もし私があなたたちみたいな容姿だったら絶望してたけど、人を不快にさせるほどのブスでもないんだから、気にせず自撮り写真載せても大丈夫なんじゃない?」
ブスでもないけど、美人でもない。
化粧で底上げしているものの、私みたいな美人と比べれば、たしかにパッとしない。
十人並みの容姿に生まれたことは同情するけれど、彼女たちの面倒なやり取りは聞くに耐えるわ。
どこにでもいるタイプの彼女たちは、私の発言でぴたりと口をつぐんだ。
どうして自分がブスだと思うのに、わざわざSNSに自撮り写真をたくさん載せるのかしら? ブスだと思ってるなら、わざわざ自撮りなんか載せなきゃいいのに。全く理解できない。
◇
「二階堂さん、資料作りお願いできる?
例年と同じようにまとめるだけだから大丈夫だと思うけど、分からないことがあったら聞いてね」
「どうして私がそんなことしなければいけないの? あなたが自分でやったらいいじゃない」
始業後、忙しそうに資料をまとめる同僚に声をかけられたけど、ぴしゃりとそれを拒絶する。
やりたくても、資料のまとめ方どころかグラフの作り方もパソコンの使い方も分からなくてやれない。でもこの私が、「できない」なんてみっともないことを口にできるわけがないので、必然的にそういう答え方になってしまう。
「あの、......前から言おうと思ってたけど、あなた社会人としてありえないわよ。今だって仕事中だっていうのに何もしてないし、あなたに不満がある人はたくさんいるんだから」
「じゃあ解雇したら?
あなたにその権限があるなら、だけど」
「あなたね......、もういい分かった」
何が分かったのか分からないけど、ふわふわした髪型の彼女はきゅっと口を結んで、そのまま自分の席に戻ってしまった。
こんな感じでニ週間真面目に会社に来てあげてるにも関わらず、なぜかほとんどの女子社員から避けられている。
私が美人だから、嫉妬されているのかもしれないわね。生まれながらの社長令嬢の私と低俗な庶民のあなたたちじゃ格が違うのだから、それも仕方ないわ。
どれだけあがいても庶民が貴族にはなれないのだから見苦しい嫉妬はやめてほしいけれど、自分の容姿を見て生きるのが辛くなる平凡女子もいるみたいだから、いきなりこんな美人が入社してきたら嫉妬されても仕方ないのかもしれないわね。生まれつきの美人だったから、そうでないひとの気持ちが全く理解できないのが残念だけれど......。
美人も辛いものね、と仕事中にため息をついていると、急にオフィスの雰囲気が変わった。みんな表立っては平静を装っているけど、男性社員は少し緊張しているみたいに見えるし、女子社員たちに至っては急に色めき立っている。
一体何があるっていうの?
興味をひかれ、オフィスを見渡すと、二週間ほど前に初対面を果たした人物と目が合った。
この場にいる全員の注目を集めているのは、九条秋人ね。
御曹司として生まれた彼は、二十七才という若さでこの会社の重役でもあり次期社長と噂されている。それから、私のパパの昔の知り合いの息子でもあるわ。つまり、九条秋人は間接的に私を雇ってくれた恩人でもあるんだけど、この男のことは好きになれそうになかった。
女子社員たちがかっこいいと騒いでいたけど、どこがいいのか全く分からない。
スラッとした高身長に、上品で整った顔、たしかに外見は悪くないかもしれないけど......。
あの何を考えているのか分からない、鉄火面みたいな冷たい表情が全てを台無しにしている。本当はロボットなんじゃないの?
九条秋人は一言二言男性社員と会話したあと、なぜか私のデスクの方へと近づいてきた。
「二階堂さん。就業時間が終わったら、専務室に来てほしい。話がある」
表情ひとつ変えずにそれだけ告げると、返事も聞かないうちにさっさと歩いていってしまう。
何の話があるっていうの?
仕事が終わってまで、あの男と話したくない。
でも......、一応上司でもあるし、恩人でもあるのよね。あまり気が乗らないけど、聞いといた方が良いかもしれないわ。
結局きっちり六時に仕事を終わらせ、彼に言われた通りに専務室を訪れることにした。
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