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 二日後の水曜日の授業後。あまり気乗りしないながらもサークル棟に向かうと、部室の中にはすでに旭陽と彩羽がいた。隣同士の椅子に座り、楽しそうに話している。

 とても声をかける気にはなれず、旭陽と彩羽からは離れた位置の椅子に座った。カバンから出した本を読みながらも、こっそり二人の様子を観察する。

 百八十センチ近くあり、顔立ちも整った旭陽は、やっぱりどこにいても目立つ。無難な感じのさわやかな栗色ショートヘア、服装もそんなに派手じゃない。だけど、クセがなく、誰が見てもかっこいい旭陽は、シンプルなファッションが一番似合っている気がする。
 
 正統派イケメンの旭陽の隣に、可愛くて愛嬌のある彩羽。悔しいけど、こうして見るとお似合いだった。
 こころなしか、私といる時よりも旭陽の顔も嬉しそうに見える。……彼女といるんだから、当たり前か。
 
 彩羽と好きな人が付き合うのは慣れてるはずなのに、チクチクと胸が痛む。
 旭陽は、今までの人とは違ったからかな。趣味も合うし、深い話も出来て、彩羽がサークルに入ってきてからも旭陽は分け隔てなく接してくれた。だから余計に、旭陽が彩羽を好きだったなんて思いもしなかったんだけど……。

 旭陽が彩羽を好きになるのは仕方ない。だって、彩羽は可愛いし、今までだって私の好きな人はいつも彩羽を好きになったから。
 でも、悔しいよ。どうして私じゃだめだったの? 

 チラチラ二人を見ていたら、彩羽と目が合ってしまった。笑顔で手を振られたけど、気がついていないフリをして、茶色いブックカバーをつけた本に視線を戻す。
 
 先週発売したばかりの大好きな先生の新刊で、一日で読破したくらいにハマった本。もう一回読み直そうと思って持ってきたけど、さっきから一文字も頭に入ってこない。
 集中出来そうになかったけど、彩羽に話しかけられないように、本の世界に没頭しているフリをした。

 部活じゃなくてサークルだから、うちは基本は何をしていても自由。
 小説を書いている人が多いけど、本を読んでいてもいいし、他の人と本の話をしてもいい。もっと言ったら、大学の課題をやっている人もいるし、文芸に全く関係のないおしゃべりで盛り上がっている人たちもいる。何をしにきているのかよく分からない人もそこそこいるものの、今みたいに話しかけられたくない時にあまり干渉されないのはありがたいかもしれない。
 
 しばらくそうしていたら、近くの席に座っていた部長たちが小声で話しているのが聞こえた。

「今日は新しくサークルに入りたい二年生が来るって言ってたけど、まだきてないね」
「そのうち来るんじゃない?」
「でも、もうそろそろ解散の時間だよ」

 一年生じゃなくて、二年生?
 一年経ってから入ってくるなんて、少し変わってる。なんて思っていたら、部室のドアが勢い良く開いた。

「遅れてすみません~」

 軽い口調で入ってきたのは、見た目からしてもいかにも陽キャな男の子。
 子犬みたいにふわふわしたくせっ毛は、瞳と同じライトブラウン。たぶん旭陽と同じで百八十ぐらいで、緑色のパーカーとジーンズをはいている。しっかりした体つきに反して、顔は甘めな雰囲気でゆるそうな感じ。

 初めて見かける人が現れて、みんなの注目が集まる。

「はじめまして~、経済学部二年生の遠坂優日とおさかゆうひです。今日から文芸サークルでお世話になります。全然似てないってよく言われますが、一応そこにいる旭陽の双子の弟やってます」

 ニコニコとゆるく挨拶した彼は、予想もしなかった事実を告げた。ウケ狙いみたいな彼の挨拶を聞いて、他の人はクスクス笑っているけど……。

 旭陽の弟なの?
 驚いて、思わず旭陽の方を見てしまう。
 そうしたら、なぜか旭陽も少し驚いたような顔をしていた。今日弟が来るって、知らなかったの?

 旭陽にも全然似てない二卵性の双子の弟がいるとは聞いてたけど、この人だったんだ。双子どころか兄弟と言われてもピンと来ないくらいに、旭陽とは真逆のタイプ。

 旭陽の弟をじっと見ていたら、ヒラヒラと手を振られた。手を振り返すほど親しくもなかったので、軽く頭を下げるだけにとどめておく。

 彩羽と同じ系統で、仲良くなれそうもない人種ね。もしも双子の妹じゃなかったら、彩羽も絶対に関わっていないタイプだもの。

 数日前から付き合い始めたばかりの好きな人と双子の妹。突然サークルに入ってきた好きな人の双子の弟。
 大好きな小説を読んだり書いたり出来る楽しくて平和な時間のはずが……。なんだか気が重くなってきた。
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