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4、もしかして、本当は好きじゃない?

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 お昼休みのちょうど混む時間帯で、ざわついている学食。

 二限が一緒だったまゆちゃんの隣の席を確保したのどかの机の上には、大好物のクリームパスタが置かれている。
 
 だけど今日はパスタが全然喉を通っていかなくて、箸を置く。

「どうしたの。めずらしく暗い顔して」
「まゆちゃん、どうしよう」

 心配してくれたまゆちゃんと目を合わせ、ここ最近の悩みを打ち明ける。

「いっちゃんが好きって言ってくれない」

 いっちゃんに『好き』って言ってもらおう作戦を始めてから、二週目の木曜。結局今日まで、いっちゃんからは一度も『好き』をもらうことはできなかった。

 まゆちゃんは『やっぱりね』って、分かりきってたみたいに言う。

「本当は好きじゃないんじゃない?」
「そんなことないよ! ない……、はず」

 はっきり否定しようとしたのにできなくて、だんだん声が小さくなっちゃう。

 いっちゃんのことは、のどかが誰よりも知ってる。
 それなのに、ちょっぴり自信がなくなってきちゃったよ。

 最初は意地になって続けてたけど、ここまで言ってもらえないと不安になってくる。本当は、いっちゃんはのどかを好きじゃないんじゃないかって。

 そうじゃないって分かってる、でも……。

 水の入ったコップにかけた手が震える。

「彼氏の気持ちが知りたいなら、『好きって言ってくれないなら別れる』って言ってみたら?」

 意味もなくテーブルをじっと見つめていると、まゆちゃんからとんでもない提案が降ってきた。
 
「ええっ!? ダメだよ、そんなこと言えない」
 
 あわてて顔を上げて、ブンブンと首を横に振る。

「もし本当に別れることになったら嫌だもん」

 いっちゃんからの『好き』は聞きたい。
 でも、いっちゃんを試すような真似はしたくないし、もし万が一『じゃあ別れるか』なんて言われたら生きていけない。

 まゆちゃんはのどかをじっと見て、ハンバーグランチセットに付いていたサラダを口に運んだ。
 
「誰と付き合っても、のどかの自由だよ」

 前置きをして、まゆちゃんは言葉を続ける。

「でももし彼氏がのどかを本気で好きじゃないなら、私は付き合ってほしくないな。彼氏ものどかをちゃんと好きなら、認める」

 いっちゃんとは違う意味で言葉はキツイけど、まゆちゃんはのどかを心配してくれているだけなんだ。分かってるよ。

 だけどね、違うんだ。
 いっちゃんは他の人から見たら少し分かりにくいだけで、本当はのどかを好きでいてくれてるんだよ。
 
 でも、だったら、どうして一回も『好き』って言ってくれないんだろう。いっちゃんが照れ屋なことは知ってるけど、一回ぐらい言ってくれたっていいのに。
 
「別れるって言ったら、いっちゃんは好きって言ってくれるかなあ」
「彼氏がのどかを好きならね」
「そう、だよね」

 結局いっちゃんに聞くとも聞かないとも言えなくて、曖昧に言葉を濁す。

 どうにか自分を落ち着かせようと、お水の入ったコップを口元に運ぶ。少しだけ口に含んだお水が喉を通っていく時、やけに冷たく感じた。

 いっちゃんは、のどかを好きでいてくれるよね?
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