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2、彼女のことが好きすぎる彼氏

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 ファミレスのバイトの後、バイト先のお友達と色々話していたら、少し遅くなっちゃった。

 玄関を開けると、なんだかおいしそうな匂いが漂ってくる。コンソメスープかな?

「いっちゃん、ただいまー」

 たぶんキッチンでお料理をしてくれているいっちゃんに声をかけながら、狭い廊下を歩く。
 
 二人で暮らすには少し狭い1DKの小さな部屋。だけど、あまりお金のない大学生で、いつもくっついていたいのどかたちにはぴったりなお家。
 
「おせぇ」

 キッチンに立っていた黒いパーカーフード姿のいっちゃんは、おたまを置いて、こちらを振り返った。

 いつも思っちゃうんだけど、いっちゃんがおたまを持ってる姿ってなんだか似合わなくて、可愛い。絶対に料理なんてしそうにないのに、のどかよりも手際が良くて、なんでもできちゃうんだ。

「心配かけてごめんね、いっちゃん」
「別に心配なんてしてねぇよ」
「うん、分かってる」

 たしかにいっちゃんはちょっぴり口が悪いけど、心は誰よりも優しい人なの。
 
 いっちゃんの『おせぇ』は『遅くなると心配だ』って意味だし、『心配なんてしてねぇ』は『心配だけど、俺のことは気にしないで友達とゆっくり話してこい』って意味だもんね。

 にこにこ笑いながら、いっちゃんに返事をする。
 いっちゃんはのどかをじっと見つめ、大きく手を広げた。

「ン」
「いっちゃんっ」

 嬉しくなって、早足でいっちゃんの胸に飛び込む。
 
「おかえり」

 いっちゃんは長い腕でのどかをくるんで、頬を寄せる。

「ただいま、いっちゃん」

 いっちゃんの広い背中に手を回し、顔を押し付ける。
 そうしたら、のどかを抱きしめるいっちゃんの手にもほんのり力が入った。
 
 あったかくて、大きくて、安心する。
 いっちゃん、大好き。

 しばらくそのままでいてから、いっちゃんから少し身体を離す。

「ごはん作ってくれてたの?」

 いっちゃんを見上げると、自然と笑顔になっちゃう。

「もう出来た」

 いっちゃんはお鍋の方に視線をやって、片手でふたをとった。そうしたら、コンソメの良い匂いがさらに強くなる。

 お鍋の中に入っていたのは、スープに浸されたロールキャベツ。

「わああ。おいしそう~! さすがいっちゃんだね」

 キャベツの独特の甘い匂いと、おいしそうなコンソメスープの匂い。お鍋の中で、綺麗な形に丸められたロールキャベツ。

 まだ食べてなくても、絶対おいしいって分かる。
 
「いちいち騒がんでも、またいつでも作ったる」

 呆れたように少しだけ口の端を上げて、いっちゃんはのどかの髪をくしゃっとかきまぜる。

 優しいいっちゃんが好き。
 いっちゃんは、いつでものどかを甘やかしてくれる。

 お父さんお母さんも最初は家を出ることに心配していたものの、最終的には『いっちゃんが一緒なら』って折れてくれた。
 
 いっちゃんは何も言わないけど、のどかは知ってるんだよ。世界で一番高い山よりもプライドの高いいっちゃんが、うちのお父さんとお母さんに頭を下げてくれたこと。

 だから、お父さんたちも許してくれたんだよ。
 あのいっちゃんがそこまでするならって。

 まゆちゃんはいっちゃんが好きじゃないみたいだけど、いっちゃんは世界で一番の彼氏だと思うんだ。
 
「いっちゃん、大好き」

 背伸びをして、もう一度いっちゃんに抱きつく。
 
 いっちゃんものどかを抱きしめ返してくれた。
 だけど、いっちゃんからは、いつものように『好き』は返ってこない。

 のどかも、いつもなら全然気にしない。
 だけど、今日のお昼にまゆちゃんといっちゃんの話題になったばっかりなので、少しだけ気になってしまう。

 たしかに、ほとんど言ってくれないんだよね。
 告白してくれた時でさえ、『好き』はなかったし。

 ……あれ? もしかして、いっちゃんからは『好き』って一度も言われてない?
 
 のどかの感覚では勝手に毎日言われてるような気分になってたけど、改めて考えてみたら、言葉では言われたことない気がする。

 なんだかちょっと気になってきたよ?

「いっちゃん、好き」
「ン」
「ねぇ、いっちゃ」
「メシ、冷めるぞ」

 いっちゃんも言ってくれないかなって遠回しにアピールしてみたのに、あえなく失敗。いっちゃんはのどかの背をポンと叩いて、やんわり促す。
 
 小さな時からずっと一緒にいるんだもん。
 言葉にはしてくれなくても、いっちゃんはのどかをちゃんと愛してくれてるって分かってるよ。

 だけどね、いっちゃん。
 一生に一度でいいから、いっちゃんから『好き』って言われてみたいなぁ。

 よぉし、言ってもらえるようにがんばる!
 
 いっちゃんは何も気づかずに涼しい顔でごはんをよそっているなか。のどかはテーブルをふきながらも、いっちゃんから『好き』を引き出そうと心に決めたんだ。
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