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26話 弱さを認める勇気
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あれ? ここ、どこ?
目を開けると、なぜかそこには真っ白な天井があって、しかも私は柔らかいベッドの上に寝ていた。
白い天井、ベッド、白いカーテン……。
もしかして、ここは保健室?
なんで私こんなことに……? たしか、さっきまで図書室にいて……それで……、和也くんは?
徐々に意識がはっきりしてきて今までのことを思い出すと、和也くんのことが気になって飛び起きる。ばっと乱暴にカーテンを開けると、保健室の先生と目が合った。
「もう目が覚めた? 倒れたみたいだから、ゆっくり起き上がってね」
「あ、はい。ありがとうございます。……それで、あの、私はどうしてここに?」
先生に言われたようにゆっくりとベッドから立ち上がって、先生が座っている椅子まで近づいていく。
「男の子がここに運んできてくれたのよ」
男の子? たぶん、というかあの状況だと、その男の子って和也くんしかいないよね。
「その男の子はもういませんか?」
「部活にもう行かなきゃいけないから、よろしくお願いしますって」
「そう、ですか……」
けっこう長く話してたような気もするし、きっと和也くん部活遅れちゃったよね。色々な意味で申し訳ないことしちゃったな……。
「あなたのことすごく心配してたし、なんだか責任感じてるみたいだったわ」
一人で考え込んでいると、先生は困ったようにほんの少しだけ微笑む。
和也くんが責任を感じる必要なんか全くないのに。むしろ私の方が和也くんのこと傷つけた。
何でもっと上手く話せなかったんだろう……。
初めて聞いた和也くんが声を荒げるところや、和也くんの沈んだ声、うつろな目、泣きそうな顔。さっきのことを思い出すと、深い悲しみにのまれそうになって、止める間もなく涙が溢れてくる。
「うっ……ううーっ……、ご、ごめ……ごめんなさ、い……」
いきなり泣き出したりして、きっと先生はびっくりしてる。先生に謝っているのか、和也くんに謝っているのか。自分でもよく分からないまま、私は泣きながら必死で誰かに謝り続ける。
涙はなかなか止まらなかったけど、少し落ち着いた頃に先生の正面の椅子に座るように促されたので、素直にそれに従った。
「何かあったの? 先生でよかったら、話してみて? もしかしたら、力になれるかもしれないわ」
「でも……」
勝手に話してもいいのかな。
上手く話せるかも分からない。
「秘密は絶対に守るから。担任の先生にもご家族の方にも、誰にも話したりしない」
圭佑くんも相談してたみたいだし、先生なら勝手に誰かに言ったりしないよね。それに、大人の人に聞いてもらった方がいいかもしれない。私一人じゃ抱えきれないよ……。
「ゆっくりでいいから話してみて?」
先生の穏やかで優しい声に後押しされて、私は重たい口を開く。
「私……、友達を傷つけてしまったんです。そんなつもりじゃなかったのに……、いつも失敗するんです」
図書室であった出来事を頭の中でどうにか整理しながら先生に話す。まだ相当動揺していたし、泣きながらだったからきっと分かりづらかったと思うけど、それでも先生は最後まで話を聞いてくれた。
「もしかしたら、そのお友達は学習障害かもしれない」
先生は私の話に相づちをうつくらいでほとんど口をはさまなかったけど、私の話が終わると一言だけそう言った。
「学習、障害……?」
学習障害って、何だろう。知的障害とは、また違うのかな。
「ええ、そうね……。話を聞いただけだからもしかしたらとしか言えないけれど、可能性としてはその可能性もあると思う。本当は、専門の人に見てもらった方がいいのだけど」
あくまで可能性の一つで、そうと決まったわけではないからね。そう前置きした上で、先生は学習障害のことを私に丁寧に教えてくれた。
知的の発達に遅れは見られないけれど、主に勉強面に置いてある分野が極端に苦手な人たちがいるらしい。何が苦手かは人によって違うみたいだけど、計算だったり文字を読むことだったり。
例えば計算が苦手な人は、他の勉強は問題なく出来ても、計算だけがどうしても苦手。それで勉強する時に周りの人についていけなかったり、かなりの困難があるとか。
和也くんの場合は文字を読むことが苦手だから、読字障害という障害がある可能性が高い、……ということらしい。
「それって、治らないんですか……?」
「治すのは難しいかもしれないけれど、改善する可能性はあるわ。でも、お友達の場合は心の問題の方が大きいかもしれないわね。本人が事実を受け入れることができるかどうか……」
心の、問題……。
和也くんはいつも明るくて、いつも笑ってて、大きな悩み事なんてないと思ってた。何かあっても、そんなに気にしたりしないと思った。だって、いつも優しくて、いつも励ましてくれて、まさか和也くんにそんな悩みがあったなんて思わなかったんだよ。
でも本当は、和也くんもずっと悩んでたから、そういう劣等感があったからこそ、あんなに人にも優しくできたのかもしれない。
「私、友達の心の傷を広げるようなことを言ってしまったかもしません。何にも知らないくせに、えらそうなこと言って、きっと嫌われた。そんなつもりなんてなかったのに……。私っていつもこうなんです」
和也くんの気持ちは想像するしかできないけど、きっと今までずっと辛い思いをしてきて、たくさんたくさん傷ついてきたんだ。
親に相談しても勉強しない言い訳だと思われて、他のことでがんばっても認めてもらえなくて。
それでも和也くんは、認めてもらえなくても、勉強についていけなくてみんなから笑われても、いつも明るく笑ってた。きっとすごく辛かったはずなのに……。
和也くんは、ずっとそうやって生きてきたんだ。
私、……何にも和也くんのこと分かってなかったんだね。
付き合うことはできないと振られたことよりも、和也くんを傷つけてしまったことが悲しいし、自分が情けないし、すごく悔しい。
「お友達がどう思ってるかは先生には分からないけれど、お友達のためを思って言ったことだったのよね? きっとお友達もそれは分かってくれてると思うわ。もう一回ちゃんと話してみたらどう?」
「話……そうとはしたんです。文字が読めなくても関係ないって、それでも好きだって言いたかったのに……でも私は言えなかった」
文字が読めない彼氏なんて嫌だろ?
あの言葉を否定すれば良かった。そんなの関係ないって、それでも好きだって言えばよかった。
チャンスなんていくらでもあったのに、結局最後まで何一つ言えなかった。
「それは、どうして? がっかりした?」
「それは違います。違う、んです。がっかりもしてないし、引いてもない。ただ……」
あの時、何を言ったらいいのか分からなかった。言葉が出てこなかった。
「……分からなかったんです」
今でさえ先生に何を言ったらいいのか分からない。上手く説明できない。
そんな私を先生は責めることもなく、それ以上追及することもなく、そうなんだねと優しくうなずいてくれた。
「それに、私が彼に何かを言う資格なんて、……なかったんです」
「どうしてそう思うの?」
どうして、なんて決まってる。
「私自身が一番ありのままの自分を認められていないから」
私は、和也くんより誰より自分の弱いところを拒絶して、今も逃げ続けている人間だから。それなのに、人にはあんなこと言うなんて本当にどうかしてる。
「本当は、ほんの少しみんなと違う部分があるだけで、おかしくなんかないよ。そんなの関係ないって言いたかった。でも、……」
和也くんにがっかりしたわけじゃない。
嫌いになったわけじゃない。
ただあの時の和也くんが自分と重なってしまったの。自分に障がいがあると認められない彼を見ていると、まるで自分を見ているみたいで辛くなった。
「障がいは個性だって言う人もいるけど、私はそんな風に思えません。だって、病気や障がいがないほうがずっと楽しく生きられるだろうし、みんなと違うと苦労ばっかりなんです。
私は、色んな人間がいていいと思うし、差別なんてしたくないし、されたくない。だけど結局……結局は普通じゃないと、まわりから浮いて辛い思いをするんです。
普通じゃなくても大丈夫なんて、障がいは個性なんて、私にはそんなの綺麗事としか思えません……。だって、結局普通じゃなかったら他の子に変な目で見られる。
本当に個性だっていうのなら、それを障がいや病気なんて言わないでほしい。おかしい子だっていうレッテルを貼らないでほしい……っ」
何、言ってるんだろう私。一回言い出したら止まらなくなってしまったけど、自分でも何が言いたいのか全然分からない。
和也くんの話をしているはずがいつのまにか自分の話になってるし、こんな無茶苦茶なことを言ったりして、先生だってきっと呆れてるよね。
障がいや病気を受け入れて前向きに生きている人はたくさんいるし、それはすごく素晴らしいことだと思うし、羨ましいなって思う。
みんなが出来ることでも私には出来ないこともあるけど、私には私の出来る事があるって。そうやって自分を受け入れて前向きに生きてる人は、すごくすごく素敵な人だと思うし輝いてみえる。
私もそう生きられたらいいのに、そうやって生きた方が人生をずっと楽しく有意義に過ごせるだろうに。
頭ではそれは分かっていても、心が拒絶する。自分の弱い部分を認める勇気がないの。
「ごめんなさい……、いきなり意味不明なこと言ったりして。私、おかしいですよね」
黙って聞いてくれていた先生に申し訳なくなって謝ると、先生は気にしないでと小さく微笑んだ。
「感受性が豊かなんだと思うわ。そういう気持ちを専門の先生に話してみたら今よりも少し楽になれるかもしれないし、もし話しにくかったら私でもいつでも聞くから」
おかしいおかしくない、とはっきり断言しなかった先生になんだかホッとした。
感受性が豊か……。そういう風に捉えることも出来るんだ。
「そうした方が良いって自分でも思ってます。先生や誰かにこの気持ちや自分の悩みを打ち明けた方がきっと前には進めると思ってるんです。だけど、勇気が出ないんです。
人と関わるのが怖くて、いつも目の前のことから逃げだしてしまう。逃げたくないのに。強い人間になりたいのに……」
「そうね、弱い自分を認めることはすごく難しいことよね。だけど、強い人間になるためには、弱い自分も認めることが必要だと先生は思うな」
「そう、ですよね……」
「そんなことを言って、先生もまだ出来ていないのだけどね」
「先生も?」
「ええ。恥ずかしいけれど、まだもがいてるの」
もがいてる人間だとはとても思えないくらいに、先生は優しくふわりと笑う。
そういう、ものなのかな。
だけど、先生もまだもがいてるって知って、少しだけ安心してしまった。
大人になってももがいててもいいんだな、私からはずっとずっと大人にみえる先生も私みたいにもがいてるんだなって。
目を開けると、なぜかそこには真っ白な天井があって、しかも私は柔らかいベッドの上に寝ていた。
白い天井、ベッド、白いカーテン……。
もしかして、ここは保健室?
なんで私こんなことに……? たしか、さっきまで図書室にいて……それで……、和也くんは?
徐々に意識がはっきりしてきて今までのことを思い出すと、和也くんのことが気になって飛び起きる。ばっと乱暴にカーテンを開けると、保健室の先生と目が合った。
「もう目が覚めた? 倒れたみたいだから、ゆっくり起き上がってね」
「あ、はい。ありがとうございます。……それで、あの、私はどうしてここに?」
先生に言われたようにゆっくりとベッドから立ち上がって、先生が座っている椅子まで近づいていく。
「男の子がここに運んできてくれたのよ」
男の子? たぶん、というかあの状況だと、その男の子って和也くんしかいないよね。
「その男の子はもういませんか?」
「部活にもう行かなきゃいけないから、よろしくお願いしますって」
「そう、ですか……」
けっこう長く話してたような気もするし、きっと和也くん部活遅れちゃったよね。色々な意味で申し訳ないことしちゃったな……。
「あなたのことすごく心配してたし、なんだか責任感じてるみたいだったわ」
一人で考え込んでいると、先生は困ったようにほんの少しだけ微笑む。
和也くんが責任を感じる必要なんか全くないのに。むしろ私の方が和也くんのこと傷つけた。
何でもっと上手く話せなかったんだろう……。
初めて聞いた和也くんが声を荒げるところや、和也くんの沈んだ声、うつろな目、泣きそうな顔。さっきのことを思い出すと、深い悲しみにのまれそうになって、止める間もなく涙が溢れてくる。
「うっ……ううーっ……、ご、ごめ……ごめんなさ、い……」
いきなり泣き出したりして、きっと先生はびっくりしてる。先生に謝っているのか、和也くんに謝っているのか。自分でもよく分からないまま、私は泣きながら必死で誰かに謝り続ける。
涙はなかなか止まらなかったけど、少し落ち着いた頃に先生の正面の椅子に座るように促されたので、素直にそれに従った。
「何かあったの? 先生でよかったら、話してみて? もしかしたら、力になれるかもしれないわ」
「でも……」
勝手に話してもいいのかな。
上手く話せるかも分からない。
「秘密は絶対に守るから。担任の先生にもご家族の方にも、誰にも話したりしない」
圭佑くんも相談してたみたいだし、先生なら勝手に誰かに言ったりしないよね。それに、大人の人に聞いてもらった方がいいかもしれない。私一人じゃ抱えきれないよ……。
「ゆっくりでいいから話してみて?」
先生の穏やかで優しい声に後押しされて、私は重たい口を開く。
「私……、友達を傷つけてしまったんです。そんなつもりじゃなかったのに……、いつも失敗するんです」
図書室であった出来事を頭の中でどうにか整理しながら先生に話す。まだ相当動揺していたし、泣きながらだったからきっと分かりづらかったと思うけど、それでも先生は最後まで話を聞いてくれた。
「もしかしたら、そのお友達は学習障害かもしれない」
先生は私の話に相づちをうつくらいでほとんど口をはさまなかったけど、私の話が終わると一言だけそう言った。
「学習、障害……?」
学習障害って、何だろう。知的障害とは、また違うのかな。
「ええ、そうね……。話を聞いただけだからもしかしたらとしか言えないけれど、可能性としてはその可能性もあると思う。本当は、専門の人に見てもらった方がいいのだけど」
あくまで可能性の一つで、そうと決まったわけではないからね。そう前置きした上で、先生は学習障害のことを私に丁寧に教えてくれた。
知的の発達に遅れは見られないけれど、主に勉強面に置いてある分野が極端に苦手な人たちがいるらしい。何が苦手かは人によって違うみたいだけど、計算だったり文字を読むことだったり。
例えば計算が苦手な人は、他の勉強は問題なく出来ても、計算だけがどうしても苦手。それで勉強する時に周りの人についていけなかったり、かなりの困難があるとか。
和也くんの場合は文字を読むことが苦手だから、読字障害という障害がある可能性が高い、……ということらしい。
「それって、治らないんですか……?」
「治すのは難しいかもしれないけれど、改善する可能性はあるわ。でも、お友達の場合は心の問題の方が大きいかもしれないわね。本人が事実を受け入れることができるかどうか……」
心の、問題……。
和也くんはいつも明るくて、いつも笑ってて、大きな悩み事なんてないと思ってた。何かあっても、そんなに気にしたりしないと思った。だって、いつも優しくて、いつも励ましてくれて、まさか和也くんにそんな悩みがあったなんて思わなかったんだよ。
でも本当は、和也くんもずっと悩んでたから、そういう劣等感があったからこそ、あんなに人にも優しくできたのかもしれない。
「私、友達の心の傷を広げるようなことを言ってしまったかもしません。何にも知らないくせに、えらそうなこと言って、きっと嫌われた。そんなつもりなんてなかったのに……。私っていつもこうなんです」
和也くんの気持ちは想像するしかできないけど、きっと今までずっと辛い思いをしてきて、たくさんたくさん傷ついてきたんだ。
親に相談しても勉強しない言い訳だと思われて、他のことでがんばっても認めてもらえなくて。
それでも和也くんは、認めてもらえなくても、勉強についていけなくてみんなから笑われても、いつも明るく笑ってた。きっとすごく辛かったはずなのに……。
和也くんは、ずっとそうやって生きてきたんだ。
私、……何にも和也くんのこと分かってなかったんだね。
付き合うことはできないと振られたことよりも、和也くんを傷つけてしまったことが悲しいし、自分が情けないし、すごく悔しい。
「お友達がどう思ってるかは先生には分からないけれど、お友達のためを思って言ったことだったのよね? きっとお友達もそれは分かってくれてると思うわ。もう一回ちゃんと話してみたらどう?」
「話……そうとはしたんです。文字が読めなくても関係ないって、それでも好きだって言いたかったのに……でも私は言えなかった」
文字が読めない彼氏なんて嫌だろ?
あの言葉を否定すれば良かった。そんなの関係ないって、それでも好きだって言えばよかった。
チャンスなんていくらでもあったのに、結局最後まで何一つ言えなかった。
「それは、どうして? がっかりした?」
「それは違います。違う、んです。がっかりもしてないし、引いてもない。ただ……」
あの時、何を言ったらいいのか分からなかった。言葉が出てこなかった。
「……分からなかったんです」
今でさえ先生に何を言ったらいいのか分からない。上手く説明できない。
そんな私を先生は責めることもなく、それ以上追及することもなく、そうなんだねと優しくうなずいてくれた。
「それに、私が彼に何かを言う資格なんて、……なかったんです」
「どうしてそう思うの?」
どうして、なんて決まってる。
「私自身が一番ありのままの自分を認められていないから」
私は、和也くんより誰より自分の弱いところを拒絶して、今も逃げ続けている人間だから。それなのに、人にはあんなこと言うなんて本当にどうかしてる。
「本当は、ほんの少しみんなと違う部分があるだけで、おかしくなんかないよ。そんなの関係ないって言いたかった。でも、……」
和也くんにがっかりしたわけじゃない。
嫌いになったわけじゃない。
ただあの時の和也くんが自分と重なってしまったの。自分に障がいがあると認められない彼を見ていると、まるで自分を見ているみたいで辛くなった。
「障がいは個性だって言う人もいるけど、私はそんな風に思えません。だって、病気や障がいがないほうがずっと楽しく生きられるだろうし、みんなと違うと苦労ばっかりなんです。
私は、色んな人間がいていいと思うし、差別なんてしたくないし、されたくない。だけど結局……結局は普通じゃないと、まわりから浮いて辛い思いをするんです。
普通じゃなくても大丈夫なんて、障がいは個性なんて、私にはそんなの綺麗事としか思えません……。だって、結局普通じゃなかったら他の子に変な目で見られる。
本当に個性だっていうのなら、それを障がいや病気なんて言わないでほしい。おかしい子だっていうレッテルを貼らないでほしい……っ」
何、言ってるんだろう私。一回言い出したら止まらなくなってしまったけど、自分でも何が言いたいのか全然分からない。
和也くんの話をしているはずがいつのまにか自分の話になってるし、こんな無茶苦茶なことを言ったりして、先生だってきっと呆れてるよね。
障がいや病気を受け入れて前向きに生きている人はたくさんいるし、それはすごく素晴らしいことだと思うし、羨ましいなって思う。
みんなが出来ることでも私には出来ないこともあるけど、私には私の出来る事があるって。そうやって自分を受け入れて前向きに生きてる人は、すごくすごく素敵な人だと思うし輝いてみえる。
私もそう生きられたらいいのに、そうやって生きた方が人生をずっと楽しく有意義に過ごせるだろうに。
頭ではそれは分かっていても、心が拒絶する。自分の弱い部分を認める勇気がないの。
「ごめんなさい……、いきなり意味不明なこと言ったりして。私、おかしいですよね」
黙って聞いてくれていた先生に申し訳なくなって謝ると、先生は気にしないでと小さく微笑んだ。
「感受性が豊かなんだと思うわ。そういう気持ちを専門の先生に話してみたら今よりも少し楽になれるかもしれないし、もし話しにくかったら私でもいつでも聞くから」
おかしいおかしくない、とはっきり断言しなかった先生になんだかホッとした。
感受性が豊か……。そういう風に捉えることも出来るんだ。
「そうした方が良いって自分でも思ってます。先生や誰かにこの気持ちや自分の悩みを打ち明けた方がきっと前には進めると思ってるんです。だけど、勇気が出ないんです。
人と関わるのが怖くて、いつも目の前のことから逃げだしてしまう。逃げたくないのに。強い人間になりたいのに……」
「そうね、弱い自分を認めることはすごく難しいことよね。だけど、強い人間になるためには、弱い自分も認めることが必要だと先生は思うな」
「そう、ですよね……」
「そんなことを言って、先生もまだ出来ていないのだけどね」
「先生も?」
「ええ。恥ずかしいけれど、まだもがいてるの」
もがいてる人間だとはとても思えないくらいに、先生は優しくふわりと笑う。
そういう、ものなのかな。
だけど、先生もまだもがいてるって知って、少しだけ安心してしまった。
大人になってももがいててもいいんだな、私からはずっとずっと大人にみえる先生も私みたいにもがいてるんだなって。
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