君に伝えたい言葉

マキノトシヒメ

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美鈴編

九月

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 季節的には秋という事になるのかもしれませんが、少なくとも昼間はそんな感じじゃありません。
 昼間はまだセミが鳴いていたりして、うるさいと思う時もありますが、日が落ちるとその喧騒が嘘のように収まることもあって、季節は進んでいるのだなと思います。

 神社の周辺には高い建物がない事と、道路に照明が少ないこと。そして周囲に植えられている常緑樹が中の雰囲気を静かなものにしてくれます。それで、少人数での天文観測に使われることがあります。これは神社の行事とは関係なく、場所を提供しているだけですが、神社が地域に密接に関わっているので、結構依頼があります。
 今日の夜も10人程での集まりがありますが、代表の名前が事務方の佐川さんなんですね。どうやらその近辺の気楽な集まりのようです。
 時間は午後の六時から九時になっていて、会合は七時からということになっているので、翔太は午後からの出勤です。

 全員が揃ったところで、翔太が注意点を説明します。注意点といっても、マナーよく使うことであって、騒がないのとゴミを放置しないことです。
 そしてお父さんが安全祈願のお祓いをしたら境内での行動は自由です。
 ちょっとはしゃいだりした子はいたけど、それも年長のお子さんが静かに注意をしてくれて、落ち着いた回になっています。
 望遠鏡も用意されてはいますが、大体は肉眼での夜空の観察ですね。神社の方からも冷たいお茶と例のお菓子を些少ながら用意しました。大人の方が星座早見表を使って、小さい子供に説明をしたりしています。

「ありがとうございました」
「はい。気を付けて帰ってね」
 みんなが帰った後の後片付けと言っても、こっちで用意したものと言ったらお茶とお菓子くらいで、境内を翔太と手分けして見回って、参道を軽くはいたらもう終わり。
 翔太は鳥居や手水所の後ろとかを見直している。その間に…。
「特に問題ないね」
「ねえ」
 賽銭箱の前にレジャーシートを敷いておいて、残ったものだけど、お茶とお菓子。そして、あたしの横の場所をぽんぽんと叩く。
 翔太は微笑んで、そのままあたしの隣に座る。
 この場所が実は月がきれいに見えるというのは、知っている人はあまりいないのよね。みんなが帰る前には出てきたばかりだった月はすっかり高い位置に上がって、照明を点けていないのに、まわりを明るく照らしていた。
 翔太が少し体を寄せてくる。それに応えてあたしも軽くよりかかる。そのままでずっと二人の視線は同じに十五夜を過ぎて少し欠けた月を眺めていた。
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