「監査官兼執行官アッシュ・ノイマン」ーこの異世界はなにかがオカシイ

『むらさき』

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闇ギルド調査

2 潜伏

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　アッシュ・ノイマンはアリアナのオフィスに足を踏み入れた。部屋は落ち着いた色合いで統一され、窓からはエクレシア・バランスの庭園が見えた。アリアナは彼をソファに座らせると、自らも向かい合わせに腰掛けた。

「アッシュ、君の奇跡について聞かせてほしいの」とアリアナが切り出した。

「エクレシア・バランスの中で、君のように特別な能力を持っている者は稀だからね」

　アリアナのオフィスの静寂を、ノイマンの落ち着いた声が満たした。

「この世界では、奇跡は神秘的な現象とされております。数千人に一人、神の恩寵を受け、奇跡を行使する能力を持って生まれる者がいます。これらの能力は多種多様で、人々はその力を"魔法"と呼んでいますが、私たちはそれを神の奇跡として尊重しています」

　アリアナは興味深く彼を見つめ、静かに頷きながら促した。

「続けてください、アッシュ」

「奇跡にはそれぞれ固有の制限があります。能力を使う際には、何らかの代価や条件が伴うのです。例えば、ある者は物を浮かせることができますが、それはその者が触れられる範囲内でのみ。また別の者は時間をわずかに遡ることができますが、それは記憶を失うリスクを伴います」

　アリアナは一瞬、眉を寄せると、そっと息を吐き出し、目の前のノイマンに重大な任務を伝える覚悟を決めた。

「アッシュ、あなたには極秘の任務をお願いしたい」

　アリアナは立ち上がり、窓の外を見つめながら続けた。

「彼らの企みを探るため、あなたには闇ギルドに潜入してもらう」

　ノイマンは一瞬、息をのんだが、すぐに冷静さを取り戻し、頷いた。

「承知しました。しかし、潜入は極めて危険な任務です。私の奇跡を使っても、バレるリスクはあります」

　アリアナは再びノイマンの前に座り、真剣な表情で言葉を紡いだ。

「確かにリスクはある。だが、あなたの奇跡があれば、必要な証拠を手に入れることも可能だろう。あなたならやれる。我々はあなたを信じている」

　ノイマンは深く頭を下げた。

「平和を守ることを誓います」

　アリアナは彼の肩を軽く叩き、力強く言った。

「心強いわ、アッシュ。準備ができたら、すぐにでも行動を開始して。我々の未来は、君の手にかかっている」

　アッシュ・ノイマンは、エクレシア・バランスの監査官としての身分を隠し、闇ギルドに潜入するためギルドハウスの扉を押し開けた。薄暗い室内では、さまざまな人々が密談を交わし、秘密の取引をしている。彼は周囲を警戒しつつ、受付のカウンターに近づいた。

　ギルドの受付係は、覆面で顔を隠した不穏な雰囲気の男だった。彼はノイマンを一瞥し、低い声で問いかけた。

「新入りか？ここで何を望む？」

　ノイマンは静かに答えた。彼の声には、いつものけだるさはなく、ギルドの雰囲気に溶け込むような落ち着きがあった。

「問題を解決する力を貸したい。私の奇跡も、ギルドの役に立つだろう」

　受付係は興味を示したように眉をひそめた。

「奇跡か。ここではそれを証明しなければならん。お前の奇跡とその制限を教えてもらおう」

　ノイマンは深呼吸し、自分の奇跡を説明する準備をした。彼の奇跡は「思考の共有」—他人の思考を一時的に共有し、相手の意図や認識を読み取る能力だった。ただし、この力には重大な制限がある。一度に一人のみ思考を共有でき、その効果は夜明けまでと限られている。

「私の奇跡は思考の共有だ。夜が明けるまで間、一人の思考を読むことができる。しかし、一晩に一度、そして一人だけだ」

　受係は記録帳を取り出し、ノイマンの言葉書き留めた。そして、彼の目をじっと見つめながら、一言付け加えた。

　「奇跡は貴重な力だ。だが、ここではそれがお前の命綱になることある。注意して使え」

　ノイマンは頷き、ギルドの一員としての第一歩を踏み出した。ギルドの内部から問題を暴くためには、彼の奇跡が鍵になるだろう。彼は心の準備整え、ギルドの深淵へと足を踏み入れいった。

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