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ドールハウス
しおりを挟む叔母の葬儀が終わり、家族で形見分けをしているときに、そのドールハウスが目に入った。木製の骨組みに、精緻な装飾が施されているそのドールハウスは、まるで生きているかのように感じられた。
「これ、誰が持って帰る?」
姉が私に向かって尋ねた。
「私が持って帰るよ」と言いたくなかったが、姉たちの視線が一斉に私に向けられた。その場の空気に押されるようにして、私は渋々受け取ることになった。
数日後、ドールハウスが私のマンションに届いた。箱から取り出すと、その古めかしさと念入りな手入れが施された高級感が目立った。私は何とか売りに出して少しでも利益を得ようと考え、人形をドールハウスに配置し始めた。
それぞれの部屋には、小さな家具や装飾品が丁寧に配置され、まるで本物の家のようだった。人形もリアリティがあって、その顔には微妙な表情が刻まれていた。
「本当に精巧だな…」
その夜、私はドールハウスを売りに出すために写真を撮り、オンラインオークションに掲載した。価格は思った以上に高く設定できた。これで少しは儲かるだろう、と内心ほくそ笑んだ。
しかし、その翌日から奇妙なことが起こり始めた。仕事から帰宅すると、ドールハウスの中の人形が微妙に動いているように感じられた。最初は気のせいだと思っていたが、次第にその異変は明らかになっていった。
ある夜、寝ていると人形たちが微かに動く音が聞こえてきた。私は恐る恐るドールハウスを確認しに行った。人形たちの配置が変わっているのを目の当たりにしたとき、背筋に冷たいものが走った。
「これは一体…」
叔母の形見のドールハウスは、ただの骨董品ではなかったのかもしれない。私は叔母のことを思い出し、その趣味にどれほどの情熱を注いでいたのかを考えた。もしかしたら、彼女はこのドールハウスに何か特別な思いを込めていたのかもしれない。
数日後、私はドールハウスの買い手から連絡を受けた。高額で買い取りたいと言ってきた。しかし、私は何かに取り憑かれたように、売ることをためらった。
その夜、再び人形たちの動く音が聞こえた。今度ははっきりと目の前で見てしまった。小さな人形たちが動き、まるで私に何かを伝えようとしているかのようだった。恐怖と興味が入り混じり、私は彼らの動きを見守った。
「何かを、伝えようとしている…」
翌朝、私はドールハウスをじっくりと調べることにした。各部屋を隅々まで確認すると、床板の下に小さな引き出しが隠されているのを発見した。その中には、一通の手紙が入っていた。
手紙には、叔母の細かな文字でこう書かれていた。
「このドールハウスは、私の愛する家族との思い出を詰め込んだものです。これを受け取る人が、私の思いを感じてくれることを願っています」
私はその手紙を読み、胸が締め付けられる思いだった。叔母の思いを無視して転売しようとした自分が恥ずかしくなった。ドールハウスを手放すことを止め、私の家に大切に飾ることにした。
それ以来、不気味な現象はぴたりと止んだ。叔母の思いを受け入れたことで、彼女の魂も安らかに眠っているのだろう。ドールハウスは、今や私にとって大切な形見となり、私の家の一角に静かに佇んでいる。
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