「探偵 曾我山入鹿（そがやまいるか）」

1 頂き霊媒女子

１「頂き霊媒女子」

　夜は更けゆく。街の片隅で、ふたりの影が居酒屋のガラス越しに映えていた。神崎 美月は、マッチングアプリで出会った男性と対面している。

　彼女の目の前に座る男性は、初対面とは思えぬほどに美月に心を開いて話していた。店内に流れる落ち着いた音楽と、薄暗い照明がその雰囲気を一層引き立てる。

「実は最近、会社でちょっとした悩みがあって…」

　男性が口を開くと、美月は優しく微笑みながら耳を傾けた。

　彼女は相手の話をじっくりと聞き、時には共感を示しながら、相手の考えていることや悩みを的確に当てていく。会話を重ねるごとに、男性はますます美月に心を開いていった。

　そして、話は自然と美月の悩みへと進んでいく。

「実は、事業を始めたいんだけど、資金繰りが…」

　美月がためらいながらも融資の話を切り出す。美月は、内心で勝利を確信していた。

「そうなんだ。何か手伝えることがあれば言ってね」

　と美月は励ましの言葉を男性から貰う。その言葉に、美月はさらに、具体的な金額や計画について話し始めた。

　会話が一段落した時、トイレに入った美月はふとした瞬間に、

「ちょろいｗ」

　と小さくつぶやいた。彼女の表情は満足げで、自分の計画が見事に進んでいることに悦に浸っているようだった。

　居酒屋の賑やかな声や笑い声が響く中、美月と男性の間には見えない駆け引きが繰り広げられていた。しかし、そのすべてを美月が軽やかに操っていることに、男性はまったく気づいていなかった。