18 / 18
17
しおりを挟む
少々やり過ぎではないかというほど念入りに化粧を施されたアリシアは、居間のドアを前に一つ息をついてから、ノブに手を掛けるミリーに合図をする。
「ご機嫌よう。お待たせしてごめんなさいねぇ~。ところで『親しい仲にも礼儀あり』って東の国の諺?知ってる?知らないかしらぁ?普通人様ん家尋ねる時は先触れってもんをねぇ、出すものなのよ?ギル男クン?」
「その『親しい仲』の親族に式の招待もない、結婚の報告もないってのはどうなんだ?よほど『礼儀』に反するんじゃないかと思うけど?あとその喋り方キモい。ギル男クンってのもないから」
先手必勝とばかりにドアと同時に口を開いたアリシアだったが、その口撃は即座に跳ね返された。しかも、大きな瞳をウルウルとさせた天使に、
「ごめんなさいアーちゃん。レオちゃん…………レオちゃんアーちゃんのことびっくりさせたくて」
ぷるぷる、ふるふるされながら謝られてしまっては全面降伏以外とれる選択肢などあるはずもない。
はぅ、と息を飲んで涙ぐむレオちゃんの側に躙り寄る。
「ち、違うのよ?レオちゃん。レオちゃんを攻める気なんてひとっつもないの。えっと、あのね?さっきのは、その、そう!ちょっとした冗談よ!アーちゃんレオちゃんが来てくれてとっても嬉しいわ」
コツンとオデコ同士をくっつけて告げたアリシアの目前で、柔らかな白い頬がほわりと解けた。
――は、鼻血ものだわっ!
尊すぎてキュン死にしそう。ついでにちょっぴり匂いとか嗅いじゃっても…………。
「お前まだその性癖直ってないわけ?引くわ~」
思わずピンク色の髪に顔を埋めかけていたアリシアは、ギルの呆れ声にピタリと寸前で顔を止める。
ギギ、と壊れかけの絡繰り人形みたいな動きで首を回し、声音同様呆れ顔のギルに唇の端を上げてみせた。
「ホホ、性癖だなんて失礼しちゃうわ。人を変態みたいに言わないでくれる?」
「いやだってお前昔からそうだっただろ?やたら匂い嗅ぎたがるの。領地で近所のデカい犬の耳とか腹とか、やたら触りまくってすぐ顔埋めてさ、クンクン匂い飼いで、肉球の匂いが香ばしい~っ!とか脂下がってヘラヘラしてたくせに」
「だからって性癖はないでしょっ!あのね、ちっちゃいとかカワイイとかモフモフとかふわふわとかってのは癒しなの。触りたいとかモフりたいとかハグしたいとか……ちょっとだけ嗅ぎたいとかってのは、性癖なんかじゃなくて、え~っと、その、」
何だろう。
こういうのって、どう言えばいいのかな?
上手い言葉が出てこない。
「…………愛でる?いやでもそれも変態ちっく。心の洗濯?ってそれもちょっと――うぅむ」
――愛情表現?うん、これがわりにしっくりくるか?
よし、と意気込んで口を開きかけたアリシアだったが、
「うん、ま、とりあえず今はお前の性癖については横に置いとこうぜ?それより旦那さんにも挨拶いるかなって思ってたんだけど、全然気配もないよな、外出中か?なあ奥様?」
後半になるにつれて声音も顔つきも変えたギルの、こちらを見る視線に、グフ、と喉を詰まらせた。
「ご機嫌よう。お待たせしてごめんなさいねぇ~。ところで『親しい仲にも礼儀あり』って東の国の諺?知ってる?知らないかしらぁ?普通人様ん家尋ねる時は先触れってもんをねぇ、出すものなのよ?ギル男クン?」
「その『親しい仲』の親族に式の招待もない、結婚の報告もないってのはどうなんだ?よほど『礼儀』に反するんじゃないかと思うけど?あとその喋り方キモい。ギル男クンってのもないから」
先手必勝とばかりにドアと同時に口を開いたアリシアだったが、その口撃は即座に跳ね返された。しかも、大きな瞳をウルウルとさせた天使に、
「ごめんなさいアーちゃん。レオちゃん…………レオちゃんアーちゃんのことびっくりさせたくて」
ぷるぷる、ふるふるされながら謝られてしまっては全面降伏以外とれる選択肢などあるはずもない。
はぅ、と息を飲んで涙ぐむレオちゃんの側に躙り寄る。
「ち、違うのよ?レオちゃん。レオちゃんを攻める気なんてひとっつもないの。えっと、あのね?さっきのは、その、そう!ちょっとした冗談よ!アーちゃんレオちゃんが来てくれてとっても嬉しいわ」
コツンとオデコ同士をくっつけて告げたアリシアの目前で、柔らかな白い頬がほわりと解けた。
――は、鼻血ものだわっ!
尊すぎてキュン死にしそう。ついでにちょっぴり匂いとか嗅いじゃっても…………。
「お前まだその性癖直ってないわけ?引くわ~」
思わずピンク色の髪に顔を埋めかけていたアリシアは、ギルの呆れ声にピタリと寸前で顔を止める。
ギギ、と壊れかけの絡繰り人形みたいな動きで首を回し、声音同様呆れ顔のギルに唇の端を上げてみせた。
「ホホ、性癖だなんて失礼しちゃうわ。人を変態みたいに言わないでくれる?」
「いやだってお前昔からそうだっただろ?やたら匂い嗅ぎたがるの。領地で近所のデカい犬の耳とか腹とか、やたら触りまくってすぐ顔埋めてさ、クンクン匂い飼いで、肉球の匂いが香ばしい~っ!とか脂下がってヘラヘラしてたくせに」
「だからって性癖はないでしょっ!あのね、ちっちゃいとかカワイイとかモフモフとかふわふわとかってのは癒しなの。触りたいとかモフりたいとかハグしたいとか……ちょっとだけ嗅ぎたいとかってのは、性癖なんかじゃなくて、え~っと、その、」
何だろう。
こういうのって、どう言えばいいのかな?
上手い言葉が出てこない。
「…………愛でる?いやでもそれも変態ちっく。心の洗濯?ってそれもちょっと――うぅむ」
――愛情表現?うん、これがわりにしっくりくるか?
よし、と意気込んで口を開きかけたアリシアだったが、
「うん、ま、とりあえず今はお前の性癖については横に置いとこうぜ?それより旦那さんにも挨拶いるかなって思ってたんだけど、全然気配もないよな、外出中か?なあ奥様?」
後半になるにつれて声音も顔つきも変えたギルの、こちらを見る視線に、グフ、と喉を詰まらせた。
15
お気に入りに追加
4,582
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
婚約破棄のお返しはお礼の手紙で
ルー
恋愛
十五歳の時から婚約していた婚約者の隣国の王子パトリクスに謂れのない罪で突然婚約破棄されてしまったレイナ(侯爵令嬢)は後日国に戻った後パトリクスにあててえ手紙を書く。
その手紙を読んだ王子は酷く後悔することになる。
私の婚約者が、記憶を無くし他の婚約者を作りました。
霙アルカ。
恋愛
男爵令嬢のルルノアには、婚約者がいた。
ルルノアの婚約者、リヴェル・レヴェリアは第一皇子であり、2人の婚約は2人が勝手に結んだものであり、国王も王妃も2人の結婚を決して許さなかった。
リヴェルはルルノアに問うた。
「私が王でなくても、平民でも、暮らしが豊かでなくても、側にいてくれるか?」と。
ルルノアは二つ返事で、「勿論!リヴェルとなら地獄でも行くわ。」と言った。
2人は誰にもバレぬよう家をでた。が、何者かに2人は襲われた。
何とか逃げ切ったルルノアが目を覚まし、リヴェルの元に行くと、リヴェルはルルノアに向けていた優しい笑みを、違う女性にむけていた。
子供の言い分 大人の領分
ひおむし
恋愛
第二王子は、苛立っていた。身分を超えて絆を結んだ、元平民の子爵令嬢を苛む悪辣な婚約者に。気持ちを同じくする宰相子息、騎士団長子息は、ともに正義の鉄槌をくださんと立ち上がろうーーーとしたら、何故か即効で生徒指導室に放り込まれた。
「はーい、全員揃ってるかなー」
王道婚約破棄VSダウナー系教師。
いつも学園モノの婚約破棄見るたびに『いや教師何やってんの、学校なのに』と思っていた作者の鬱憤をつめた作品です。
罪なき令嬢 (11話作成済み)
京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。
5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。
5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、
見る者の心を奪う美女だった。
※完結済みです。
今更何の御用でしょう? ウザいので止めて下さいませんか?
ノアにゃん
恋愛
私は3年前に幼馴染の王子に告白して「馬鹿じゃないの?」と最低な一瞬で振られた侯爵令嬢
その3年前に私を振った王子がいきなりベタベタし始めた
はっきり言ってウザい、しつこい、キモい、、、
王子には言いませんよ?不敬罪になりますもの。
そして私は知りませんでした。これが1,000年前の再来だという事を…………。
※ 8/ 9 HOTランキング 2位 ありがとう御座います‼
※ 8/ 9 HOTランキング 1位 ありがとう御座います‼
※過去最高 154,000ポイント ありがとう御座います‼
幼馴染は不幸の始まり
mios
恋愛
「アリスの体調が悪くなって、申し訳ないがそちらに行けなくなった。」
何度目のキャンセルだろうか。
クラリッサの婚約者、イーサンは幼馴染アリスを大切にしている。婚約者のクラリッサよりもずっと。
婚約者様は連れ子の妹に夢中なようなので別れる事にした。〜連れ子とは知らなかったと言い訳をされましても〜
おしゃれスナイプ
恋愛
事あるごとに婚約者の実家に金の無心をしてくる碌でなし。それが、侯爵令嬢アルカ・ハヴェルの婚約者であるドルク・メルアを正しくあらわす言葉であった。
落ち目の危機に瀕しているメルア侯爵家であったが、これまでの付き合いから見捨てられなかった父が縁談を纏めてしまったのが全ての始まり。
しかし、ある日転機が訪れる。
アルカの父の再婚相手の連れ子、妹にあたるユーミスがドルクの婚約者の地位をアルカから奪おうと試みたのだ。
そして、ドルクもアルカではなく、過剰に持ち上げ、常にご機嫌を取るユーミスを気に入ってゆき、果てにはアルカへ婚約の破談を突きつけてしまう事になる。
もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜
おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。
それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。
精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。
だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる