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 アリシアが愛用する寝間着は、どれもスポッ、スパッと着脱できるゆったりとしたワンピースタイプのものだ。
 飾り気のない襟ぐりが少し広めのシンプルなものが多い。襟ぐりが広いのは何も色気を狙っているわけではなく、単純によりスパッと着脱できるから。
 脱ぐ時に頭に引っかかるのが面倒くさいのだ。

 本日の寝間着もそのようなものだった。
 なので、アリシアは自分一人でペイッと寝間着を脱ぎ捨て、シュミーズ一枚というあられもない姿で自室と続き間になったクローゼットへ着替えを取りに行ったミリーを待っている。

「いったい何処のどなたさんかしらね~?先触れも出さずに押しかける非常識さんは」

 馬の嘶きが聞こえたのは、正門側。 
 しかも嘶き声が聞こえている時点で門の内側、邸のすぐ側なのが知れる。
 邸には出入りの業者あたりが出入りするための裏口もあるけれど、そちらは距離的に音は届かない。

 だとなれば来客は表から入る身分の人間――しかも門番が通しても問題がないと判断した人間か、あるいは通さざるを得なかった人間だということになる。 

 前者であれば良いが、後者ならば面倒事の予感がする。
 そう…………ヒシヒシと嫌な予感がするではないか。


 なんて。
 それっぽく俯いて顎に指を当てて思案顔をしてみたアリシアは、けれど次の瞬間聞こえてきた声に、パッと顔を上げた。

「アーちゃ~んっ!!レオだよ~!レオが来たよ~!?」

 元気な、声変わり前の子供らしい高い声。 

「ミリーっ!変更っ!来客用じゃなくて動きやすい汚れてもいい服に変更っ!」
「ですね」

 両手に着替えを抱えていたクローゼットから出て来ていたところだったミリーが短く応えて踵を返す。
 アリシアもまたササッと下ろしていた髪をまとめ上げ、適当な髪留めで止め、小さな客人の来訪に向けての準備として部屋の扉を少し開けた。



 できる侍女は主人を着せ替えるのも早い。

 トテテテテと軽い足音が扉の外に近付いてくる頃には、アリシアの服装は水色のエプロンドレスに変わり、あとは首の後ろでリボンを結ぶだけである。

 キュ、とちょうどミリーがリボンを結び終えたところで、少し開けておいた扉が勢いよく開いて、

「アーちゃ~んっ!」

 と、扉を押し開けた格好のまま両手を前に突き出した天使がアリシアの胸に飛び込んできた。



 



 


 
 
 
 



 

 

 


 



 
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