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 さぁて、どうしてやろうかしらん?


 そんなことを思って、ウズウズし始めたアリシアであったのに……。

 結果はあっさりすぎた。
 たいして煽る必要もなくビビアンは自身の前に置かれたものばかりでなく、テーブルに並べられた茶器のすべてを瞬時にひっくり返してしまったから。

――結構な重みがあるはずのアンティークのローテーブルごと。

 まだ、

「とても希少な茶葉なんですよ。淹れるのに少しコツがいるみたいなのですが、ミリーは美味しく淹れてくれるんです。うふふ、借金まみれの没落貴族になられるご予定の子爵家ではこの先二度とお目にかかれない代物でしてよ?ささっ!最後の晩餐?最後の高級茶?だと思ってとくと味わってくださいな」

 しか言っていないのに。

 ていうか、これって東国の駄目オヤジがキレたときにやるっていうちゃぶ台返しっ!?

 あぁだけどなんということか。
 せっかくのちゃぶ台返しがテーブルの重みでしっかりひっくり返ることなく中途半端に片側が浮き上がっただけで元通りである。せっかくのちゃぶ台返しが色々台無しだ。
 やっぱり本物のちゃぶ台でなければ上手く行かないものか。

「でもでも絨毯にちゃぶ台はなんか違うし~」

 アリシアはオーエンおじ様から聞く東国の話が大好きだった。海を遠く隔てた島国で、独自の文化を持つ小国。
 本当なら結婚したら新婚旅行には東国に行きたいと願っていたほどに。

「でも今回のは結婚(仮)だし?次に行けば良いのよね。うん。…………その前にまずあの悪趣味な別邸を東国風に改装してからに。畳に座布団にちゃぶ台っ!はぅん……っ」

 目の前で行われた(生)?ちゃぶ台返しにアリシアの頭の中は妄想で忙しかった。
 ちょっとだけ、周りも状況もすっかり忘れていた。
 

「奥様。出していないおつもりでしょうが、全部声に出ております」
「あら」
「……ちょっとあんたっ!さっきからいい加減にしなさいよ~っっ!!」

 三つ巴の声が立て続けに執務室に響く。
 ただ前の2つはごく小さなものだったのに対し、最後の一つは耳を塞ぎたくなるほどの音量かつ頭に響く甲高い声だ。

「ビビ子うるさい」
「なんですか、そのおかしなあだ名?」
「東国だと女子の名には尻に子って文字が必ずつくんですってミリーならミリ子ね」
「では奥様ならアリ子ですか?」
「…………だ、か、らっ!!いい加減にしろって言ってるでしょっ!」

 ガン!ガン!ガン!!と両手の拳を握ってテーブルを豪打するビビアンにアリシアはウンザリとした目を向けて茶を一口飲み、わざとらしいため息をついた。

「そちらこそいい加減になさいませんか。ホントに耳障りです」
「…………っ!あんた、ずいぶんいつもと口調も態度も違うじゃない。猫被ってたのね?」
「そうだっ!普段と全然違うじゃないか?!」
「そうよ!どういうつもりなの!!」

 あら、ようやく母と息子も参戦ですか?

 クスッと唇を歪めたアリシアは、ゆっくりと茶碗を置くと、

「あったり前じゃない。誰が信用もできないどころか自分ちを乗っ取る気満々な害虫相手に素を出すもんですか」

――バッカじゃないの?

 蔑みに満ちた目で親子を睥睨した。







 
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