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呪いと真実

その3

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そこらへんから記憶がない。

たぶん混乱し過ぎて意識が遠のいたか、夢であれば途切れたか。


「…………」

どっちだ?

あれは現実だったのか、夢だったのか。
でも現実だったとしたら私はいつの間に自分のベッドに戻ってきたのだろう。
夢遊病者のごとく自分で歩いて?
そんなことがあり得るのか。
だいたいだ、現実だったとしたらあのクルドの姿はなんなのだ。 
 
大人だった。
大人の男だった。

胸板も、肩幅も広くて、たぶん背もずっと高かったように思う。 
顔は大人びて少年らしいふっくらとした頬は少し痩けていた。いや、痩けていた、というよりは引き締まっていた、というべきか。
私は年のわりに小柄な方だけれど、だからといって12の少年の身体の中にすっぽりとは収まらない。
クルドと私なら私の方が少しだけ、ちょっぴりだけど背が高いのだ。


うん。
夢だな。

『寝起きどっきり』するぞ~!と思いながら寝落ちしたからおかしな夢を見たのだ。
そうに違いない!

私がそう自分に言い聞かせていると、衝立がコンコンとノックされた。

比喩でなく本気でベッドの上で軽く飛び上がった。
何故か慌てて両手でわしゃわしゃと乱れた髪を整えてしまう。
それがまるで自分がクルドを意識してるみたいで、恥ずかしくなる。

やばい、私……今絶対顔赤い!
つーかなんで私はあんなガキんちょを意識しているのだ。

人間の、しかも子供だよ?
年下だよ?
キレイな顔して案外俺様だし人を子供扱いするし私がその気になればちょん、で細切れだよ!
弱っちくて魔力も乏しくて数くらいしか取り柄のない人間だよ!?

「ないわ~。ないない」

私はブンブンと頭を振った。



その後、二人で下の食堂で食事をして、クルドから今日の内に村を立つことを伝えられた。
ゴーレム退治に続々と人が集まっていて、ずいぶん村の中は騒がしいことになっているらしい。

それほど高位の騎士や兵士までが集まっているわけではないが、やはり人目にはつきたくないらしい。 
まあ、クルドって命を狙われてたからね。
 
念のため目につきやすい馬車も手放してこの先は馬での旅になるらしい。

「とはいえ目的地まではそう遠くない。近くに開拓中の村があるから、そこならよそ者も受け入れられやすい。ユナはそこでしばらくのんびりしながらこの先どうするか考えればいいと思う」 

そう言うクルドはやはり12才の少年だ。
目を合わせると微妙に逸らされたが態度がおかしいというほどでもない。

うむ、やはりあれは夢だったのか。

私はホッとしながら急かされるままに身支度を整え宿を出た。
  


クルドは馬車の代わりに私の寝床としてテントを勝っておいてくれた。
夜は私はテントで、クルドはその外で見張りもかねて寝袋で寝る。


5日後に小さな集落で一度宿を取ったが、『寝起きどっきり』はもうやめておいた。

そのまた10日ほど後に、こんもりした樹木の覆う森の手前に村があった。
なるほど開拓中だなと納得するまだ未完成な感じの村であった。

クルドの目的は森の中。

『常闇の森』と呼ばれる日の差さない森の奥。
そこに一人住む、『常闇の魔女』と呼ばれる人がクルドの心当りであるらしい。





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