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スローライフ始めます?
その8
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おのれ。
私はクルドよりも年上だ。
しかも人間よりも魔力の強い魔族で、しかもその中でも高位に位置する魔王車四天王(元)。
はっきりいっとクルドなんつーガキは私がその気になったら速攻でばったんきゅーである。
『ルーシア』に言えば叫び声を上げる間もなくドロドロに溶けて吸収される運命である。
なのに。
なのに、いったいどうということか。
最初の数日はまだそうでもなかった。
クルドは私を警戒してもいたし、一応は命の恩人として立ててくれていたはず。
それが日が経つに連れて、どんどん扱いが軽くなっている気がする。
ついでに子供扱いも。
やはりここはどちらが上かなんとしてもわからせなくてはなるまい。
かといってクルドと旅をしている間に、私自身このまま私一人で人間に溶け込んで生活するのは無理があると自覚し始めている。
物の相場もわからないし、人間との付き合い方もわからない。挨拶一つ知らなかったのだ。
人間は朝は「おはよう」と言って昼は「こんにちは」夜は「こんばんは」と時間によって挨拶の仕方が違う。
挨拶は人間の生活の中の基本であるらしく、それがちゃんとできないのでは人間の社会では不適合者というものになるらしい。
そういえば『てれび』の中でも同じ言葉を聞いたと思う。人間の社会というのは世界が変わっても同じように挨拶するものなのか。
うぬぬ、と唸りながらいかにしてクルドに思い知らせるべきか悩んでいるうちに、宿屋に着いたらしかった。
まだいい考えが浮かんでいないのに。
私には当面クルドが必要。
だから物理的にポッキリするんじゃなくてできれば精神的にポッキリ折りたい。
やりすぎない程度で。
「なんだ?奇妙な顔して」
馬車のドアを聞いたクルドがそんな失礼なことをのたまってから私に手を差し伸べる。
若くても騎士だからか、こういうところは変に紳士的なのだ。
手を貸してくれたくらいで私の『クルド懲らしめ計画』は揺るがないがな!
クルドが選んだ今宵の宿は見るからに古い二階建ての建物だった。
けれど広さはわりとあるっぽい。
どうやら裏に馬車と馬を預ける倉庫もあるらしくて、それがここに決めた決め手のようだ。
クルドは建物から出てきた人間に馬車と馬を預けて、私の手を引いて中へ入っていく。
私はキョロキョロしながら、クルドのあとをついて行った。
私とクルドが一緒に旅をする中で、いくつかの決めごとがある。
それは主に私の行動についてだ。
簡単に言うと魔法は極力使わない、ということ。
人間の生活に馴染もうというのだから、人間の常識からはみ出る真似はするなということ。
『移動』の魔法、つまり『転移』の禁止。
おかげで馬車旅である。
『空間収納魔法』の禁止。
人間にも収納魔法具と呼ばれる鞄型の似たようなものがあるが、めちゃくちゃぼったくり価格なうえに収納できるのはよくてせいぜい荷馬車一台分。
私はともかく普通の魔族でもその10倍はいけるよ?
私は人間の不便さにびっくりした。
同時に私自身の人間の世界における非常識さに愕然とする。
魔族の中でなら私は他より魔力が多いだけの存在。
それも他に同じようなのがいないわけでもない。
だけど人間の世界の中で、私が何も考えずに行動すれば、私はとてつもなく『異質』だ。
や、なんとなく、わかってはいたのだよ?
私は人間を知らない。
知らなすぎるって。
ずっとずーっと長く戦争をしていても、私たち魔族は人間の社会について何も知らないのだ。
今となってはその理由もわかる。
洗脳だ。
洗脳をより強化なものにするためにはいらない知識はいらない。
むしろ害悪。
だからクルドから人間のことを、その社会と常識を学ぼうと思ったし、魔法だってほとんど使ってない。
馬車の中で暇つぶしに『てれび』を楽しんでいたくらい。あとはたまに『空間収納魔法』からお茶とお菓子を出してティータイムしたり。
だって誰も見てないんだもん。
そのくらいはいいじゃないか。
私はものすごく我慢しているし、譲歩もしている。
しているはずだ。
なのにこの扱いはひどいと思う。
私はクルドよりも年上だ。
しかも人間よりも魔力の強い魔族で、しかもその中でも高位に位置する魔王車四天王(元)。
はっきりいっとクルドなんつーガキは私がその気になったら速攻でばったんきゅーである。
『ルーシア』に言えば叫び声を上げる間もなくドロドロに溶けて吸収される運命である。
なのに。
なのに、いったいどうということか。
最初の数日はまだそうでもなかった。
クルドは私を警戒してもいたし、一応は命の恩人として立ててくれていたはず。
それが日が経つに連れて、どんどん扱いが軽くなっている気がする。
ついでに子供扱いも。
やはりここはどちらが上かなんとしてもわからせなくてはなるまい。
かといってクルドと旅をしている間に、私自身このまま私一人で人間に溶け込んで生活するのは無理があると自覚し始めている。
物の相場もわからないし、人間との付き合い方もわからない。挨拶一つ知らなかったのだ。
人間は朝は「おはよう」と言って昼は「こんにちは」夜は「こんばんは」と時間によって挨拶の仕方が違う。
挨拶は人間の生活の中の基本であるらしく、それがちゃんとできないのでは人間の社会では不適合者というものになるらしい。
そういえば『てれび』の中でも同じ言葉を聞いたと思う。人間の社会というのは世界が変わっても同じように挨拶するものなのか。
うぬぬ、と唸りながらいかにしてクルドに思い知らせるべきか悩んでいるうちに、宿屋に着いたらしかった。
まだいい考えが浮かんでいないのに。
私には当面クルドが必要。
だから物理的にポッキリするんじゃなくてできれば精神的にポッキリ折りたい。
やりすぎない程度で。
「なんだ?奇妙な顔して」
馬車のドアを聞いたクルドがそんな失礼なことをのたまってから私に手を差し伸べる。
若くても騎士だからか、こういうところは変に紳士的なのだ。
手を貸してくれたくらいで私の『クルド懲らしめ計画』は揺るがないがな!
クルドが選んだ今宵の宿は見るからに古い二階建ての建物だった。
けれど広さはわりとあるっぽい。
どうやら裏に馬車と馬を預ける倉庫もあるらしくて、それがここに決めた決め手のようだ。
クルドは建物から出てきた人間に馬車と馬を預けて、私の手を引いて中へ入っていく。
私はキョロキョロしながら、クルドのあとをついて行った。
私とクルドが一緒に旅をする中で、いくつかの決めごとがある。
それは主に私の行動についてだ。
簡単に言うと魔法は極力使わない、ということ。
人間の生活に馴染もうというのだから、人間の常識からはみ出る真似はするなということ。
『移動』の魔法、つまり『転移』の禁止。
おかげで馬車旅である。
『空間収納魔法』の禁止。
人間にも収納魔法具と呼ばれる鞄型の似たようなものがあるが、めちゃくちゃぼったくり価格なうえに収納できるのはよくてせいぜい荷馬車一台分。
私はともかく普通の魔族でもその10倍はいけるよ?
私は人間の不便さにびっくりした。
同時に私自身の人間の世界における非常識さに愕然とする。
魔族の中でなら私は他より魔力が多いだけの存在。
それも他に同じようなのがいないわけでもない。
だけど人間の世界の中で、私が何も考えずに行動すれば、私はとてつもなく『異質』だ。
や、なんとなく、わかってはいたのだよ?
私は人間を知らない。
知らなすぎるって。
ずっとずーっと長く戦争をしていても、私たち魔族は人間の社会について何も知らないのだ。
今となってはその理由もわかる。
洗脳だ。
洗脳をより強化なものにするためにはいらない知識はいらない。
むしろ害悪。
だからクルドから人間のことを、その社会と常識を学ぼうと思ったし、魔法だってほとんど使ってない。
馬車の中で暇つぶしに『てれび』を楽しんでいたくらい。あとはたまに『空間収納魔法』からお茶とお菓子を出してティータイムしたり。
だって誰も見てないんだもん。
そのくらいはいいじゃないか。
私はものすごく我慢しているし、譲歩もしている。
しているはずだ。
なのにこの扱いはひどいと思う。
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