ブサ犬王子は復讐しない

黒田悠月

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ブサ犬王子は川に落ちる。3

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――なんて。


「ブヒュッビョブフュ!!」

変なクシャミが出た。
そして思い出に浸っている内に、いつの間にか雪に埋もれていた。
……いや、ごめん。盛った。
うっすら背中が白くなった程度だ。
けど、犬ってのはなかなか不便だってことを学習はさせられた。

鼻水が
拭けないんだよ
俺の脚

ここは犬らしくベロで舐めるしかないのだろうか、犬だけに。

――はぁ、自分で言っててクソしょうもない。

俺は薄く雪が積もりだして柔らかい地面に自分の鼻面を擦りつけてから、ブルリと全身を震わせた。

さて、王宮から追い出されてとりあえずあてもないまま人目のない路地を選んで歩いてきたものの。そろそろ色々限界かも知れない。

日は少しずつ落ちはじめているし、寒さも増している。
雪は激しくはなくとも降り続け、何よりも腹が減った。
水も飲みたい。

思えば朝から何も口にしていないのだった。
まあそれ以前――婚約破棄を宣言した後からふた月、俺に出される食事は量も質もジリ減していて最後の数日間は一日一食の硬いパンが一つとほとんど味のしないスープだけだったし、前のひと月は自室に謹慎で、後のひと月は貴族牢に入れられていたから、運動不足も重なって身体は弱っていた。

ブル、と寒さで身体が震える。
犬は寒さに強いと聞くが、全身毛に覆われてても寒いものは寒い。

ひとまず屋根とできれば風除けのある寝床を探して、その間に何か腹に入れられそうなものを見繕うとしよう。
最悪、今日のところは雪で水分と腹を保たせて、一眠りして身体を休ませてから、明日その辺の店の軒先ででもゴミを漁るか。

自分でもアレだが、犬にされて追放されたわりに、俺の中に死にたいといった気持ちはない。
かといって何が何でもというほど生き残るんだ!というほどの気概や執念があるわけでもないが。
けどとりあえずまだ生きている。
たいした怪我もなく病気もたぶんない。
ブサ犬だけど。
とりあえず生きてるんだから、歩けるうちは歩くし、喉が乾いたら水を飲む。腹が減ったら何か食えそうなものを食う。寝れる時は寝る。
ただそれだけのことだ。

俺は冷たく冷え切った脚をノロノロと持ち上げては前へ進み、しばらく進んだところで――ピタリと止めた。


狭い路地にいるせいもあるだろう。辺りはすでに薄い暗闇が漂いはじめている。
その暗闇の奥に、いくつもの光るものがあった。

――マズイな。

微かに「グル」という獣の呻き声がした。
俺はゆっくり、ゆっくりと短い四足で後ずさる。
野生の獣に遭遇した時の基本は慌てず騒がずその場を離れることだ。
熊でも、狼でも、そして野犬でも。
極力刺激をしないよう、音を立てずに、正面を向いたまま。

ジリ、ジリ、と厚くなりはじめた雪を踏みしめながら、後退する。

このまま横道のある場所まで下がる。
そうしたら横道に入って後はひたすら全力疾走だ。

大丈夫。俺は身体が小さい。
小型の中型犬サイズだから、スピードでは負けるだろうがその分狭い隙間に入り込める。

逃げ切れる。

そう思ったその時、後脚が何かを踏んだ。
感触からして木の枝のようなもの。

後脚の下で、パキン、と音が鳴る。

瞬間、俺は跳ねるように後方に走り出した。
横道に入って、ひたすら走る。走る。走る。


その俺の後ろから聞こえてくる、いくつもの野犬のギャンギャンいう声と、追ってくる足音に、

「ピギャー?!」

と、犬らしからぬ恐怖の雄叫びを上げながら。














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