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迷子になりました。そして保護されました。

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角を曲がるなり、視界に入ったミニマムモンキーに腰だめに構えたライフルを連射する。

これで角を曲がるのは四度目か。
今のところ上手い具合に行き止まりにはさしかかっていない。

スキル気配察知で近くに魔物の気配がないことを確認してから、腰のベルトに下げたポーチからスキルポーションを取り出して、一気に飲んだ。

装備品の効果だけではアサルトライフルを担いで走ることは難しい。もともとが子供の腕力では多少底上げしたところでたかがしれているということ。
スキルの腕力強化、身体強化を二重掛けしてようやくまともに動くことができる。

レベル差のあるミニマムモンキーを倒してきたおかげで、一気にレベル上げができてはいるけれどもそれでも私のレベルは現時点で18。SPはようやく2000を超えたところ。
ずっとスキルを使いっぱなしの現状は、あっという間に不足してしまう。

そのため3/1を削った時点でポーションでSPを回復させている、のだけれど……。

「うぷっ……」

ポーションの類は飲み過ぎると気持ちが悪くなることがある。
ゲームのアバターなのに何故?と初期の頃掲示板を賑やかしたくらいに。
しかも個人差があるらしく、気持ち悪くなる人とならない人がいる。

この世界でも同じらしく、しかも私は後者であるようだ。

だってまだ二本目なのに胃のあたりがムカムカする。

「しかもこのペースで飲んでいるとあっという間にお腹もタプタプになりそうよね……」

『ブック』の中には大量のポーション類も残っていたから、ステータスを回復させながら武器チートを発揮できるかと思ったのだけど、やはり浅はかだったかしら。


「階段は見つからないし」

ーー参ったわね。
と、私は肩を落とした。

もっともダンジョンも最下層ともなると階段を上がったからといってそれが正解の道だとは限らない。このフロアだけでも最低3つ程度は上階に上がる階段はあるはずなのだ。

転職の間を出てからの時間はまださほど経っていない。恐らくは30分ほどだと思う。
わずか30分。
たったそれだけの時間でこの体たらくとは、前世で『リーナ』としてユグドラシル・オンラインをプレイしていた時とはあまりにも違っていて、なんだか情けない気持ちになってしまった。

もっともあの時は初期の頃は『リーナ』のお子様な見た目を利用しいくつものパーティーに寄生させてもらってはレベルを上げていたし、ダンジョンに挑む頃にはむしろ推奨レベルよりも余裕ができてからしか挑まなかった。

前世の私、りなはサクサク先に進むよりも、コツコツレベルを上げてから次に進むタイプであったのだ。

「……一旦、転職の間に戻った方がいいかしらね」

ゲームならば、無理をしても死に戻りがある。
経験値が多少削られるだけで、現実に死ぬわけではなく、またログインした場所からやり直せる。

けれど今の私は『リーナ』の姿をしていても、死んだら生き返ることはない。
ここはあくまでもゲームと同じ世界であっても現実で、私はプレイヤーのではないのだから。

せっかく張り切って出てきたものの、意地を張って死んでしまっては意味がない。
私は私のいるべき場所に戻らなくてはならないのだ。


◆◆◆◆◆◆



ピチョン、とどこかで水滴の落ちるような音がした。

いったいどこから?と疑問に思って、すぐにああ、と気がついた。

私からだ。

正解には私の左肩から。
滴り落ちる赤い血が床に血溜まりを作って、そこに落ちた血の雫がピチョン、ピチョンと音を立てている。

ーー人間、調子に乗りすぎるとロクな事にならないっていうことね。

血が足りないのか、頭がボンヤリとする。

転職の間に戻ることはさほど難しいことではないはずだった。
何故なら私は、曲がり角を必ず右へ右へと曲がってきたからだ。
もし戻るとなった時に、迷うことがないように。

もちろん途中魔物が出る危険性はきちんと考えていた。はずだった。

ただ接近する前に排除できるだろうと気軽に考えていた感はある。
実際アサルトライフルの威力は絶大で、離れた状態から比較的安全に戦闘ができていたから。

ーーあの時までは。

ダンジョンの魔物はダンジョンから生まれる。
突然に。
唐突に。
今いないからといって、その次の瞬間に目の前の壁から生まれてくることもあると、知識では知っていたはずだった。





 




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