7 / 86
旅立ちは突然に。
7
しおりを挟む
ポチャンと水音がして、わたしはそちらに顔を向けた。
音がしたのはたぶんわたしがいる場所から右側にある小さな池。魚が跳ねた音だろうか?
わたしはなんとなく気になってベンチから腰を浮かしかけ、「あいたっ」と中腰で呻いた。
あれ?わたしそんな腰が痛くなるほど長くいたっけ?と思い、空を見上げるといつの間にか日はずいぶん高い位置にあった。
「やばっ、ぼんやりしすぎてたっ」
クビを言い渡されてお母屋を出たのが朝まだ早い時間。
けれど太陽の位置からするに今の時間はとうに昼を回っているだろう。
「……うぅっ、ぼんやり浸ってる場合じゃないのに」
現実逃避して過去を顧みている場合じゃない。
次のお仕事を探さなくちゃ。
いえその前に今夜の寝床が先かしら?
クビになったおかげで、今夜寝る場所さえない。
わたしはため息を一つついて、足元に置いてあった皮のトランクケースを両手で持ち上げる。
何はともあれ、いつまでもここにいるわけにもいかない。
わたしはトランクケースを引き摺るようにして、邸の外を目指して歩いた。
使用人の利用する裏木戸に向かう。
人一人がようやく通れる狭い出入口だけれど、そこはお金持ちの貴族のお邸。しっかり門番がいる。
門番のおじさんはわたしの姿を認めると、軽くまだいたのか、と言いたげな顔をしてから苦笑いをして寄越した。
「あー、えーと……なんだ。ご愁傷様だったな」
ポリポリと頭を掻きながら言うのに、わたしもまた苦笑を返す。
「まあ貞操は無事でしたから。仕事はなくなっちゃいましたけどねっ」
あえてあっけらかんとそう言って見せて、肩をすくめた。おじさんは木戸を開きながら「まあ、その……無事だったのは良かったよ」と言った。
「はい」
とわたしは返す。
「これからどうするんだ?」
「とりあえず今日のところは宿を探して、明日から仕事探しに忙しみます」
「そっか。気を落とさず頑張れ」
「ありがとうございます」
わたしはぺこりと頭を下げておじさんの開けてくれた木戸をトランクケースを引きずりながら抜けた。
使用人が使う裏木戸の外は狭い路地だ。
その路地を庶民街の方向へと歩く。
わたしの所持金で泊まれる宿も、お仕事の仲介をしてくれる仲介所も庶民街にある。
そこまでわたしの足で半刻ほど。
歩きついでに頭の中で明日からの予定を立てるとしようか。
音がしたのはたぶんわたしがいる場所から右側にある小さな池。魚が跳ねた音だろうか?
わたしはなんとなく気になってベンチから腰を浮かしかけ、「あいたっ」と中腰で呻いた。
あれ?わたしそんな腰が痛くなるほど長くいたっけ?と思い、空を見上げるといつの間にか日はずいぶん高い位置にあった。
「やばっ、ぼんやりしすぎてたっ」
クビを言い渡されてお母屋を出たのが朝まだ早い時間。
けれど太陽の位置からするに今の時間はとうに昼を回っているだろう。
「……うぅっ、ぼんやり浸ってる場合じゃないのに」
現実逃避して過去を顧みている場合じゃない。
次のお仕事を探さなくちゃ。
いえその前に今夜の寝床が先かしら?
クビになったおかげで、今夜寝る場所さえない。
わたしはため息を一つついて、足元に置いてあった皮のトランクケースを両手で持ち上げる。
何はともあれ、いつまでもここにいるわけにもいかない。
わたしはトランクケースを引き摺るようにして、邸の外を目指して歩いた。
使用人の利用する裏木戸に向かう。
人一人がようやく通れる狭い出入口だけれど、そこはお金持ちの貴族のお邸。しっかり門番がいる。
門番のおじさんはわたしの姿を認めると、軽くまだいたのか、と言いたげな顔をしてから苦笑いをして寄越した。
「あー、えーと……なんだ。ご愁傷様だったな」
ポリポリと頭を掻きながら言うのに、わたしもまた苦笑を返す。
「まあ貞操は無事でしたから。仕事はなくなっちゃいましたけどねっ」
あえてあっけらかんとそう言って見せて、肩をすくめた。おじさんは木戸を開きながら「まあ、その……無事だったのは良かったよ」と言った。
「はい」
とわたしは返す。
「これからどうするんだ?」
「とりあえず今日のところは宿を探して、明日から仕事探しに忙しみます」
「そっか。気を落とさず頑張れ」
「ありがとうございます」
わたしはぺこりと頭を下げておじさんの開けてくれた木戸をトランクケースを引きずりながら抜けた。
使用人が使う裏木戸の外は狭い路地だ。
その路地を庶民街の方向へと歩く。
わたしの所持金で泊まれる宿も、お仕事の仲介をしてくれる仲介所も庶民街にある。
そこまでわたしの足で半刻ほど。
歩きついでに頭の中で明日からの予定を立てるとしようか。
0
お気に入りに追加
770
あなたにおすすめの小説
もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ
中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。
※ 作品
「男装バレてイケメンに~」
「灼熱の砂丘」
「イケメンはずんどうぽっちゃり…」
こちらの作品を先にお読みください。
各、作品のファン様へ。
こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。
故に、本作品のイメージが崩れた!とか。
あのキャラにこんなことさせないで!とか。
その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)
前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~
霜月雹花
ファンタジー
17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。
なろうでも掲載しています。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
【完結】都合のいい妻ですから
キムラましゅろう
恋愛
私の夫は魔術師だ。
夫はものぐさで魔術と魔術機械人形(オートマタ)以外はどうでもいいと、できることなら自分の代わりに呼吸をして自分の代わりに二本の足を交互に動かして歩いてほしいとまで思っている。
そんな夫が唯一足繁く通うもう一つの家。
夫名義のその家には美しい庭があり、美しい女性が住んでいた。
そして平凡な庭の一応は本宅であるらしいこの家には、都合のいい妻である私が住んでいる。
本宅と別宅を行き来する夫を世話するだけの毎日を送る私、マユラの物語。
⚠️\_(・ω・`)ココ重要!
イライラ必至のストーリーですが、作者は元サヤ主義です。
この旦那との元サヤハピエンなんてないわ〜( ・᷄ὢ・᷅)となる可能性が大ですので、無理だと思われた方は速やかにご退場を願います。
でも、世界はヒロシ。
元サヤハピエンを願う読者様も存在する事をご承知おきください。
その上でどうか言葉を選んで感想をお書きくださいませ。
(*・ω・)*_ _))ペコリン
小説家になろうにも時差投稿します。
基本、アルファポリスが先行投稿です。
【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!
Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥
財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。
”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。
財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。
財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!!
青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!!
関連物語
『お嬢様は“いけないコト”がしたい』
『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中
『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位
『好き好き大好きの嘘』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位
『約束したでしょ?忘れちゃった?』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位
※表紙イラスト Bu-cha作
【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453
の続きです。
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる