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Chapter.89
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イベント盛りだくさんだった冬もそろそろ終わるころ、久しぶりに初音ちゃん、立川くんと由上さん、私の四人でいつものファミレスに寄った。
「もう二年も終わっちゃうね~」
「来年は受験だぁ」
「やだ~」
「やだな~」
同じように嘆く初音ちゃんと立川くんが可愛くて、ふふっと笑ったら
「ミイナは成績いいからいいけどさぁ」
「そうだよ、俺らに勉強教えてよ」
「それはかまわないけど、二人とも別に成績悪くないじゃない」
「そうだけど、やっとかないと不安じゃん」
「おんなじとこ行くんだっけ?」
「「そう」」
由上さんの質問に、立川くんと初音ちゃんが同時に答える。
「制服もあと何回着るんだか」ノスタルジックな雰囲気の初音ちゃんに
「みんな私服でえらいよね」って言ったら、
「え? 制服のほうがえらいでしょ」立川くんが答えた。
「ううん? 私は毎日洋服選ぶの大変だなぁって思って制服にしてるだけだから。私服の人が大半でビックリしたけど……」
「確かに、制服率低いよね。人のこと言えないけど」って初音ちゃん。
「でもデザインいいんだよなー」立川くんが私が着ている制服を見て言う。
「コイト・ウタナのだもん。世界的デザイナーだよ? そりゃいいでしょ」初音ちゃんも同じようにして、頬杖をついた。
「気崩しても様になるんだよね~」立川くんは目の前のストローに口を付ける。
「でもみんな着てこないね」私も自分が着ている制服を眺めながら言った。
「そうだね~。でもやっぱある程度のセンスがないと難しいから、崩して着るの」初音ちゃんが頬杖のまま言う。「あと学校帰りに遊ぶのにちょっと面倒。時間によっては補導されたりしそう」
「あぁ、なるほど」
私はあんまり学校帰りに寄り道しないから経験ないけど、学校サボったとき同じようなことを思った。学校帰りにどこかに寄りたいってなったとき、制服は確かに目立つ。いまも私服の中に制服一人で目立っている、かも。
「まぁどのみち、終業式はみんな制服じゃん」
それまで黙って見守っていた由上さんがカプチーノを飲み終えて言う。
「そうだね~。あ、そしたらさ、終業式のあと、四人で制服で遊びに行かない?」
「いいね、新鮮!」
「そうしよう!」
なんて盛り上がったのが一ヶ月前。
制服久しぶり、クリーニング出した、始業式のときより身体にフィットしててダイエットしなきゃって思った、みたいな会話をしつつ迎えた終業式。
学校が終わってから一旦帰宅し、再集合することになった。
帰宅しなくても別にかまわないって言う由上さんに家まで送ってもらい、制服のまま持つバッグだけお出かけ用のものにして家を出る。家の前で待っていてくれてた由上さんと一緒に、目的地付近の駅まで移動した。
私たちより少し遅れて待ち合わせ場所に現れた立川くんと初音ちゃんは、私服を身にまとっていた。
「えっ」
驚いたのは由上さんだ。
「え、待って! なんで着てきてないの?」
「んー、なんとなく?」
「気が変わった」
「いやいやいや、おかしいでしょ! 約束したじゃん!」
「いいじゃん、ミイナは着てるんだから」
「そうだよ、お揃いお揃い」
「いや、そうだけどさぁ!」
由上さんは納得いかない様子でブツブツ言ってる。それがなんだか子供が駄々をこねているみたいで可愛くて、二ヘラッと笑ったら由上さんにバレてしまった。
「子供っぽいなと思ってるでしょ」
「思ってな……思ってます」
今更隠し事してもなぁって素直な気持ちを伝えたら、由上さんはますます複雑な表情になってしまった。
「まぁまぁ、いいじゃん! 高校生活の思い出にさ! ね」
「うん。制服姿の由上さんとおでかけ、嬉しいです。なんかレア感あります」
「……そお?」
「はい」
笑顔でうなずいたら由上さんは少し復活してくれて、なんならちょっと上機嫌になってくれて、みんなで一緒に目的地である海辺の公園へ移動した。
私たちの年齢でも遊べるサイズの遊具があったり美術館があったり、様々なアトラクションが体験できる施設があったりして楽しい。
「あー!」初音ちゃんが指さした先に、大きな乗り物が見えた。「観覧車! 乗ろうよ!」
「いいね」
賛同した立川くんが初音ちゃんのあとを追う。
「高いとこ大丈夫?」
それに着いて行く私に、由上さんが聞いてくれた。
「はい、大丈夫です」
由上さんは? って聞こうとしたけど、
「早く早く! いまなら待ちなしだよ!」
手招きする初音ちゃんに促されて、聞けないまま少し早足で道を進んだ。
チケット売り場で観覧車用のチケットを買う。一回買えば発行日当日限定で一日何周も乗れるらしい。
「じゃあ先乗るね」
「うん、いってらっしゃい」
係のお姉さんに案内されて、初音ちゃんと立川くんがゴンドラに乗った。手を振って見送ったら、今度は私たちの番。
係のお姉さんは「空いてるから」ってひとつ空けてゴンドラを案内してくれた。確かにこの距離なら、人目を気にせず楽しむことができそう。
私たちを乗せたゴンドラはゆっくりと移動し、地上から離れていく。
「わぁ、すごい」
眼下にさっきまでいた公園とその先に見えていた海が一望できて、思わず口から声が出た。
「おー、高い」
由上さんは窓から少し離れた位置で外を眺めている。
「……もしかして、高いとこ苦手でした?」
「いや? 大丈夫だよ」
だけど。ぽつりと言って、そのまま無言になってしまった。
あれ? なんか変なこと聞いちゃったかな……いやでも、そんなセンシティブな発言じゃなかったはず……だ、大丈夫、だと思いたい……。
そういえば、と思い返す。
いままで二人きりになったことは何回もあるけど、こんなに狭い、いわば密室みたいな空間で二人きりになるのは初めてだ。
って気づいたら、急に心臓が暴れだした。頭の片隅に、なにか“期待”のようなものが生まれる。
いや違う、期待だなんて、そんな。でももう私たちもお付き合いし始めてからそろそろ半年くらいになるし、もう一段階進んでも、いいんじゃない……?
でもそれは私だけじゃ決められなくて、もちろん二人の気持ちが寄り添っていたらそれでいいんだけど、でもでも……。
由上さんの沈黙につられて、私も言葉にはできない思考で頭がいっぱいになってしまった。
窓の外を眺める由上さんの頭の中は、いまどうなっているんだろう。端正な横顔から読み取ることはできなくて、私も由上さんと同じように、黙って窓の外を眺めるばかり。
ゴンドラが一番高いところに到達して、そしてゆっくり降りていく。どんどん近づいてくる地面に、この時間が終わるときを感じた。もう少し、速度が遅くてもいいのにって思ってしまう。
「……もう一周、回らない?」
そろそろ乗降口に到着する、というところで、由上さんが提案してくれた。
「ありですかね?」
「ありあり。待ってる人いないし、チケットはフリーパスだし」
ドアを開けてくれた係のお姉さんに由上さんが聞いたら、「いいですよ~。行ってらっしゃい!」ってまたドアを閉めて送り出してくれた。先に降りていた初音ちゃんと立川くんは、また地上から離れていく私たちに気づき顔を見合わせて、でもすぐにこちらに向かって手を振ってくれる。
二人の姿が見えなくなったころ、初音ちゃんから『別行動しよ~! ソワちゃんになんかされそうになったらすぐ電話ちょうだい! 飛んで助けに行く!』ってメッセが届いて、私は笑ったし、由上さんは心外そうにプンスカした。
いまのでなんとなく、緊張が解けた感じ。ぎこちないと自覚があった表情も自然に緩む。
「もう二年も終わっちゃうね~」
「来年は受験だぁ」
「やだ~」
「やだな~」
同じように嘆く初音ちゃんと立川くんが可愛くて、ふふっと笑ったら
「ミイナは成績いいからいいけどさぁ」
「そうだよ、俺らに勉強教えてよ」
「それはかまわないけど、二人とも別に成績悪くないじゃない」
「そうだけど、やっとかないと不安じゃん」
「おんなじとこ行くんだっけ?」
「「そう」」
由上さんの質問に、立川くんと初音ちゃんが同時に答える。
「制服もあと何回着るんだか」ノスタルジックな雰囲気の初音ちゃんに
「みんな私服でえらいよね」って言ったら、
「え? 制服のほうがえらいでしょ」立川くんが答えた。
「ううん? 私は毎日洋服選ぶの大変だなぁって思って制服にしてるだけだから。私服の人が大半でビックリしたけど……」
「確かに、制服率低いよね。人のこと言えないけど」って初音ちゃん。
「でもデザインいいんだよなー」立川くんが私が着ている制服を見て言う。
「コイト・ウタナのだもん。世界的デザイナーだよ? そりゃいいでしょ」初音ちゃんも同じようにして、頬杖をついた。
「気崩しても様になるんだよね~」立川くんは目の前のストローに口を付ける。
「でもみんな着てこないね」私も自分が着ている制服を眺めながら言った。
「そうだね~。でもやっぱある程度のセンスがないと難しいから、崩して着るの」初音ちゃんが頬杖のまま言う。「あと学校帰りに遊ぶのにちょっと面倒。時間によっては補導されたりしそう」
「あぁ、なるほど」
私はあんまり学校帰りに寄り道しないから経験ないけど、学校サボったとき同じようなことを思った。学校帰りにどこかに寄りたいってなったとき、制服は確かに目立つ。いまも私服の中に制服一人で目立っている、かも。
「まぁどのみち、終業式はみんな制服じゃん」
それまで黙って見守っていた由上さんがカプチーノを飲み終えて言う。
「そうだね~。あ、そしたらさ、終業式のあと、四人で制服で遊びに行かない?」
「いいね、新鮮!」
「そうしよう!」
なんて盛り上がったのが一ヶ月前。
制服久しぶり、クリーニング出した、始業式のときより身体にフィットしててダイエットしなきゃって思った、みたいな会話をしつつ迎えた終業式。
学校が終わってから一旦帰宅し、再集合することになった。
帰宅しなくても別にかまわないって言う由上さんに家まで送ってもらい、制服のまま持つバッグだけお出かけ用のものにして家を出る。家の前で待っていてくれてた由上さんと一緒に、目的地付近の駅まで移動した。
私たちより少し遅れて待ち合わせ場所に現れた立川くんと初音ちゃんは、私服を身にまとっていた。
「えっ」
驚いたのは由上さんだ。
「え、待って! なんで着てきてないの?」
「んー、なんとなく?」
「気が変わった」
「いやいやいや、おかしいでしょ! 約束したじゃん!」
「いいじゃん、ミイナは着てるんだから」
「そうだよ、お揃いお揃い」
「いや、そうだけどさぁ!」
由上さんは納得いかない様子でブツブツ言ってる。それがなんだか子供が駄々をこねているみたいで可愛くて、二ヘラッと笑ったら由上さんにバレてしまった。
「子供っぽいなと思ってるでしょ」
「思ってな……思ってます」
今更隠し事してもなぁって素直な気持ちを伝えたら、由上さんはますます複雑な表情になってしまった。
「まぁまぁ、いいじゃん! 高校生活の思い出にさ! ね」
「うん。制服姿の由上さんとおでかけ、嬉しいです。なんかレア感あります」
「……そお?」
「はい」
笑顔でうなずいたら由上さんは少し復活してくれて、なんならちょっと上機嫌になってくれて、みんなで一緒に目的地である海辺の公園へ移動した。
私たちの年齢でも遊べるサイズの遊具があったり美術館があったり、様々なアトラクションが体験できる施設があったりして楽しい。
「あー!」初音ちゃんが指さした先に、大きな乗り物が見えた。「観覧車! 乗ろうよ!」
「いいね」
賛同した立川くんが初音ちゃんのあとを追う。
「高いとこ大丈夫?」
それに着いて行く私に、由上さんが聞いてくれた。
「はい、大丈夫です」
由上さんは? って聞こうとしたけど、
「早く早く! いまなら待ちなしだよ!」
手招きする初音ちゃんに促されて、聞けないまま少し早足で道を進んだ。
チケット売り場で観覧車用のチケットを買う。一回買えば発行日当日限定で一日何周も乗れるらしい。
「じゃあ先乗るね」
「うん、いってらっしゃい」
係のお姉さんに案内されて、初音ちゃんと立川くんがゴンドラに乗った。手を振って見送ったら、今度は私たちの番。
係のお姉さんは「空いてるから」ってひとつ空けてゴンドラを案内してくれた。確かにこの距離なら、人目を気にせず楽しむことができそう。
私たちを乗せたゴンドラはゆっくりと移動し、地上から離れていく。
「わぁ、すごい」
眼下にさっきまでいた公園とその先に見えていた海が一望できて、思わず口から声が出た。
「おー、高い」
由上さんは窓から少し離れた位置で外を眺めている。
「……もしかして、高いとこ苦手でした?」
「いや? 大丈夫だよ」
だけど。ぽつりと言って、そのまま無言になってしまった。
あれ? なんか変なこと聞いちゃったかな……いやでも、そんなセンシティブな発言じゃなかったはず……だ、大丈夫、だと思いたい……。
そういえば、と思い返す。
いままで二人きりになったことは何回もあるけど、こんなに狭い、いわば密室みたいな空間で二人きりになるのは初めてだ。
って気づいたら、急に心臓が暴れだした。頭の片隅に、なにか“期待”のようなものが生まれる。
いや違う、期待だなんて、そんな。でももう私たちもお付き合いし始めてからそろそろ半年くらいになるし、もう一段階進んでも、いいんじゃない……?
でもそれは私だけじゃ決められなくて、もちろん二人の気持ちが寄り添っていたらそれでいいんだけど、でもでも……。
由上さんの沈黙につられて、私も言葉にはできない思考で頭がいっぱいになってしまった。
窓の外を眺める由上さんの頭の中は、いまどうなっているんだろう。端正な横顔から読み取ることはできなくて、私も由上さんと同じように、黙って窓の外を眺めるばかり。
ゴンドラが一番高いところに到達して、そしてゆっくり降りていく。どんどん近づいてくる地面に、この時間が終わるときを感じた。もう少し、速度が遅くてもいいのにって思ってしまう。
「……もう一周、回らない?」
そろそろ乗降口に到着する、というところで、由上さんが提案してくれた。
「ありですかね?」
「ありあり。待ってる人いないし、チケットはフリーパスだし」
ドアを開けてくれた係のお姉さんに由上さんが聞いたら、「いいですよ~。行ってらっしゃい!」ってまたドアを閉めて送り出してくれた。先に降りていた初音ちゃんと立川くんは、また地上から離れていく私たちに気づき顔を見合わせて、でもすぐにこちらに向かって手を振ってくれる。
二人の姿が見えなくなったころ、初音ちゃんから『別行動しよ~! ソワちゃんになんかされそうになったらすぐ電話ちょうだい! 飛んで助けに行く!』ってメッセが届いて、私は笑ったし、由上さんは心外そうにプンスカした。
いまのでなんとなく、緊張が解けた感じ。ぎこちないと自覚があった表情も自然に緩む。
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