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Chapter.18
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一緑はアルコールが回り始めて上機嫌だった。
隣に座る華鈴にペタリと寄り掛かり、ふにゃりと相好を崩している。
「そういやずっと気になっててんけどさ」青砥がハイボールの入ったグラスから口を離し、一緑と華鈴に顔を向ける。「いのりとカリンちゃんって、どういうなれそめ? 年も違うし、カリンちゃん関東のコぉやろ? どうやって出会ったん?」
青砥の質問に橙山が弾けるような笑顔になる。「あー! 聞きたい~!」
「えぇ~? ええよぉ、そんなん~」一緑は半分瞼を閉じ、少し怪しい言葉遣いで、否定するように手を大きく振った。「他人に話すことちゃうやんかぁ」
「なんでよ、ええやん。気になるねんから」橙山が口をとがらせて一緑に言い、
「あかんかな」青砥は首をかしげて華鈴に問うた。
「ダメじゃないですけど……」華鈴はゆるく微笑んで、自分に寄り掛かる一緑を見やった。
それにつられた青砥と橙山も一緑に注目する。
「華鈴がいいならいいけどさぁ……」
一緑は渋々といった雰囲気で髪に指を入れ後頭部を指の腹で撫で、少し考えてから口を開いた。
* * *
「はじめまして。紗倉華鈴と申します」
第一印象は“真面目そうな子”だった。
特に見た目が好みというわけでもない、ただの“普通の女の子”。
サークル活動の一環で会社にインタビューをしに来た大学生グループ内の一人。ただそれだけだった。
出身大学の後輩からの頼みだから協力したい、という上司の意向を酌み、社内の人間で対応をすることになっていた。
一緑のインタビューを担当したのが華鈴だった。
「「よろしくお願いします」」
お互いに名刺を交換し、挨拶をしてインタビューが始まる。
当たり障りのない質問をされるだろうなとのん気に構えていたら、ズバズバ切り込んでくるような専門的な質問が投げられ、一緑は慌ててスタンスを変えた。
相当勉強してきたんやろな……。一緑はそんなことを片隅で考えながら、頭をフル回転させて質問に答えていく。
ギャップ萌え、なんてありきたりな言葉は使いたくない。けれど、見事な意外性に完全に心奪われていたのは事実で。
乗り気でなかった一時間弱のインタビューは、予想に反して楽しく、あっという間に終わってしまう。
もっと話がしたい。そう思っていたから、なおさら時間経過が早く感じていた。
受け取った名刺に印刷された連絡先は学校名義のものだし、インタビュー中も終了したあとも個人的な会話ができるような雰囲気ではなく、なにもできないまま学生たちの滞在時間が終わりを告げようとしていた。
少しの焦りと諦めが、一緑の胸に去来する。
「本日は誠にありがとうございました」
グループのリーダーと思しき女性が頭を下げる。
来訪時と同様、帰りも全員で移動するようで、華鈴一人に声をかけて彼女に気まずい思いをさせたくはないな、と、一縷の望みを手放そうとした一緑の耳に、女性のはつらつとした挨拶が流れこんでくる。
「こちらでインタビューさせていただいた内容は、わたくし共が記事にしまして、学園祭を兼ねて学内での展示をいたします際に、一般の方々向けにも公開いたしますのでご了承ください。みなさまもご都合がよろしければ、是非当校までお運びください。後日、記事のご確認用データと共にご案内を送らせていただきます」
女性と一緒に、学生たちが頭を下げた。
(それや!)
思わず声を上げてしまいそうな申し出だった。
後日届いたインタビュー記事は素晴らしい出来で、一緑はますます華鈴のことが気になって仕方なかった。
一緒に届いた案内を確認して、当日展示会場へ赴く。もちろん一人で。
(とはいえ……)
大学の出入口近くに設けられた受付でパンフレットを受け取って、華鈴が所属するサークルの展示案内を確認した。
(展示してる教室におるかな……展示だけかな……)
自分の学生時代を思い返してふと不安になる。接客系の催し物ならまだしも、ただの展示だと誰かが常駐しているか怪しい。
いたとしても、どう声をかけて連絡先を聞くつもりなのか……。自問するが答えはでない。それでも、このチャンスを逃したら、もう華鈴には会えないだろうことは予想が付いた。
そもそも決まった相手がすでにいたら……? なんて考えもよぎる。
(おったらおったで諦めつくし! いつまでもモヤモヤするよりええやろ!)
自分に言い聞かせて、限りない不安を打ち消した。しない後悔より、した後悔のほうが断然いい、と心を奮い立たせて。
展示室に近付くにつれ、自分でも驚くほど心臓が高鳴る。強い鼓動をなんとか落ち着かせようとして、展示室前で深呼吸をする。
(……よし)
意を決して入った室内、入口付近に受付と称して長机と椅子が置かれているが、誰も座っていない。机の上に置かれたポップには【ご自由にどうぞ】と書かれている。受付をしなくても入場していいですよ、という意味合いだとわかる。
広いフローリングの室内には、十数枚のパーテーションが置かれ、その壁面には引き延ばされた雑誌記事が掲示されていた。その間には、矢印と一緒に【順路】と書かれた紙が貼られている。指示されたように進むと、一冊の雑誌を順に読むのと同じ構成になるようだ。
一緑が勤めている制作会社以外のインタビュー記事もあり、一緑は順路をたどってそれらの記事にも目を通す。学生が作っているとはいえ、プロを目指して勉強しているだけにどれもレベルが高い。
何枚目かのパネルに、自分の顔写真が貼りだされていて(うおっ)と身じろいだ。すぐに華鈴の担当記事だと理解する。
メールに添付されていた記事をすでに読んでいたし、なにより自分の写真の目の前に自分いることが気恥ずかしくて、少し足早に次の記事に移る。
ぐるりと回って受付に戻るがまだ誰もおらず、【ご自由にどうぞ】と書かれたポップも置かれたままだ。
(会えなさそうかな……)
ふぅ、と息を吐き、肩の力を抜いた。その時、視界の片隅に人影が入り、一緑は思わず勢いよくその方向に視線を移した。
目の前に現れたのは、目を丸くした小柄な女性。華鈴ではない。
女性は曖昧な笑顔で会釈をすると、「あぁ!」手のひらを胸の前で合わせて「制作会社の!」満面の笑みを見せた。
取材の最後に統括の挨拶を担当していた学生だと、一緑も遅ればせながら思い出す。
「お邪魔しています。塚森です」
「佐々垣です。その節は大変お世話になりました」
「いえ、こちらこそ。良い経験になりました」
「担当は確か、紗倉でしたよね?」
「はい、そうでした」
「お時間よろしければ、いまお呼びしますのでお待ちいただけますか?」
「えっ、いえ、そんなわざわざ申し訳ないので」
思わず遠慮して(ちゃうやん! それが目的やん!)頭の中でツッコミを入れる。
「いえいえ、紗倉もお会いしたいと申しておりましたので、是非」
佐々垣がにこやかに告げたその事実に、一緑の脳内は満開の花畑のように華やいだ。
(えっ! うそやん!)
脳内の驚きと連動して反応した表情がデレッとゆるみそうになるのを抑えて「でしたら……ぜひ」低く言って、会釈をする。
「はい。少々お待ちください」
一緑に背を向ける形でスマホを取り出し、電話をかけはじめる佐々垣をよそに、一緑はにわかにソワソワしだした。やっと会える、という期待と高揚感が、どっと湧き出てきた。
「…あっ、華鈴? うん。いま展示室なんだけどさ、こっち来れないかな。うん。…………ちがうよ、ツカモリさんいらしてて……そう……ほんとほんと。うん。…………わかった、伝えておくね」
(えっ、どっち?)
あと数秒待てば答えを聞けるのに、ソワソワが止まらない。
「いま向かうと言っていたので、もう少々お待ちいただけますか?」
「はい、いくらでも待ちます」
思わず出た本音に、佐々垣がくすりと笑う。
一緑も自分の感情に苦笑して、(ササガキさんありがとう~!)感謝をこめつつ照れくさそうに頭を下げた。
展示されているインタビュー記事を五分ほど眺めていると、遠くから速いテンポの足音が聞こえてくる。おそらく走っているのであろう速度と間隔。
展示室に向かうその音が、ゆるやかになって、止まった。
「ささちゃんっ……ありがと……」
次に聞こえてきたのは、息を切らした女性の声。
聞き覚えのあるその声に、一緑の心臓がドキンと反応する。
「いーえ。あちらでお待ちですよ」
少しニヤニヤした笑顔の佐々垣が一緑のいる方向を手で示した。
その声に反応した一緑が受付の方向に視線を移し、そして固まった。そこにいる華鈴が、メイド服を着ていたからだ。
目が合って、どちらからともなく会釈をする。
「おっ、お久しぶりです」言いながら一緑に歩み寄る華鈴が「すみません、こんな格好で……」服を撫で、照れくさそうに頭を下げる。
「えっ? いえいえ、似合ってらして、カワイイ、です」
「えっ……ありがとう、ございます」
更に照れた華鈴が、更に可愛く感じて、一緑も照れてしまう。
「えっと……」二の句を継ごうとして、佐々垣の視線に気付いた一緑は「ここやと邪魔になるかもなので…どこかに移動しませんか?」伺うように提案する。
一緑の目線に気付いた華鈴が振り向くと、受付椅子に着席した佐々垣が心なしかニヤニヤしながら素知らぬ素振りで出入口のほうを眺めていた。
「…そうですね……」
一緑の意図に気付いて、華鈴が返答する。一緒に展示室をあとにすると、佐々垣はゆっくりと頭を下げ、二人を送り出した。
隣に座る華鈴にペタリと寄り掛かり、ふにゃりと相好を崩している。
「そういやずっと気になっててんけどさ」青砥がハイボールの入ったグラスから口を離し、一緑と華鈴に顔を向ける。「いのりとカリンちゃんって、どういうなれそめ? 年も違うし、カリンちゃん関東のコぉやろ? どうやって出会ったん?」
青砥の質問に橙山が弾けるような笑顔になる。「あー! 聞きたい~!」
「えぇ~? ええよぉ、そんなん~」一緑は半分瞼を閉じ、少し怪しい言葉遣いで、否定するように手を大きく振った。「他人に話すことちゃうやんかぁ」
「なんでよ、ええやん。気になるねんから」橙山が口をとがらせて一緑に言い、
「あかんかな」青砥は首をかしげて華鈴に問うた。
「ダメじゃないですけど……」華鈴はゆるく微笑んで、自分に寄り掛かる一緑を見やった。
それにつられた青砥と橙山も一緑に注目する。
「華鈴がいいならいいけどさぁ……」
一緑は渋々といった雰囲気で髪に指を入れ後頭部を指の腹で撫で、少し考えてから口を開いた。
* * *
「はじめまして。紗倉華鈴と申します」
第一印象は“真面目そうな子”だった。
特に見た目が好みというわけでもない、ただの“普通の女の子”。
サークル活動の一環で会社にインタビューをしに来た大学生グループ内の一人。ただそれだけだった。
出身大学の後輩からの頼みだから協力したい、という上司の意向を酌み、社内の人間で対応をすることになっていた。
一緑のインタビューを担当したのが華鈴だった。
「「よろしくお願いします」」
お互いに名刺を交換し、挨拶をしてインタビューが始まる。
当たり障りのない質問をされるだろうなとのん気に構えていたら、ズバズバ切り込んでくるような専門的な質問が投げられ、一緑は慌ててスタンスを変えた。
相当勉強してきたんやろな……。一緑はそんなことを片隅で考えながら、頭をフル回転させて質問に答えていく。
ギャップ萌え、なんてありきたりな言葉は使いたくない。けれど、見事な意外性に完全に心奪われていたのは事実で。
乗り気でなかった一時間弱のインタビューは、予想に反して楽しく、あっという間に終わってしまう。
もっと話がしたい。そう思っていたから、なおさら時間経過が早く感じていた。
受け取った名刺に印刷された連絡先は学校名義のものだし、インタビュー中も終了したあとも個人的な会話ができるような雰囲気ではなく、なにもできないまま学生たちの滞在時間が終わりを告げようとしていた。
少しの焦りと諦めが、一緑の胸に去来する。
「本日は誠にありがとうございました」
グループのリーダーと思しき女性が頭を下げる。
来訪時と同様、帰りも全員で移動するようで、華鈴一人に声をかけて彼女に気まずい思いをさせたくはないな、と、一縷の望みを手放そうとした一緑の耳に、女性のはつらつとした挨拶が流れこんでくる。
「こちらでインタビューさせていただいた内容は、わたくし共が記事にしまして、学園祭を兼ねて学内での展示をいたします際に、一般の方々向けにも公開いたしますのでご了承ください。みなさまもご都合がよろしければ、是非当校までお運びください。後日、記事のご確認用データと共にご案内を送らせていただきます」
女性と一緒に、学生たちが頭を下げた。
(それや!)
思わず声を上げてしまいそうな申し出だった。
後日届いたインタビュー記事は素晴らしい出来で、一緑はますます華鈴のことが気になって仕方なかった。
一緒に届いた案内を確認して、当日展示会場へ赴く。もちろん一人で。
(とはいえ……)
大学の出入口近くに設けられた受付でパンフレットを受け取って、華鈴が所属するサークルの展示案内を確認した。
(展示してる教室におるかな……展示だけかな……)
自分の学生時代を思い返してふと不安になる。接客系の催し物ならまだしも、ただの展示だと誰かが常駐しているか怪しい。
いたとしても、どう声をかけて連絡先を聞くつもりなのか……。自問するが答えはでない。それでも、このチャンスを逃したら、もう華鈴には会えないだろうことは予想が付いた。
そもそも決まった相手がすでにいたら……? なんて考えもよぎる。
(おったらおったで諦めつくし! いつまでもモヤモヤするよりええやろ!)
自分に言い聞かせて、限りない不安を打ち消した。しない後悔より、した後悔のほうが断然いい、と心を奮い立たせて。
展示室に近付くにつれ、自分でも驚くほど心臓が高鳴る。強い鼓動をなんとか落ち着かせようとして、展示室前で深呼吸をする。
(……よし)
意を決して入った室内、入口付近に受付と称して長机と椅子が置かれているが、誰も座っていない。机の上に置かれたポップには【ご自由にどうぞ】と書かれている。受付をしなくても入場していいですよ、という意味合いだとわかる。
広いフローリングの室内には、十数枚のパーテーションが置かれ、その壁面には引き延ばされた雑誌記事が掲示されていた。その間には、矢印と一緒に【順路】と書かれた紙が貼られている。指示されたように進むと、一冊の雑誌を順に読むのと同じ構成になるようだ。
一緑が勤めている制作会社以外のインタビュー記事もあり、一緑は順路をたどってそれらの記事にも目を通す。学生が作っているとはいえ、プロを目指して勉強しているだけにどれもレベルが高い。
何枚目かのパネルに、自分の顔写真が貼りだされていて(うおっ)と身じろいだ。すぐに華鈴の担当記事だと理解する。
メールに添付されていた記事をすでに読んでいたし、なにより自分の写真の目の前に自分いることが気恥ずかしくて、少し足早に次の記事に移る。
ぐるりと回って受付に戻るがまだ誰もおらず、【ご自由にどうぞ】と書かれたポップも置かれたままだ。
(会えなさそうかな……)
ふぅ、と息を吐き、肩の力を抜いた。その時、視界の片隅に人影が入り、一緑は思わず勢いよくその方向に視線を移した。
目の前に現れたのは、目を丸くした小柄な女性。華鈴ではない。
女性は曖昧な笑顔で会釈をすると、「あぁ!」手のひらを胸の前で合わせて「制作会社の!」満面の笑みを見せた。
取材の最後に統括の挨拶を担当していた学生だと、一緑も遅ればせながら思い出す。
「お邪魔しています。塚森です」
「佐々垣です。その節は大変お世話になりました」
「いえ、こちらこそ。良い経験になりました」
「担当は確か、紗倉でしたよね?」
「はい、そうでした」
「お時間よろしければ、いまお呼びしますのでお待ちいただけますか?」
「えっ、いえ、そんなわざわざ申し訳ないので」
思わず遠慮して(ちゃうやん! それが目的やん!)頭の中でツッコミを入れる。
「いえいえ、紗倉もお会いしたいと申しておりましたので、是非」
佐々垣がにこやかに告げたその事実に、一緑の脳内は満開の花畑のように華やいだ。
(えっ! うそやん!)
脳内の驚きと連動して反応した表情がデレッとゆるみそうになるのを抑えて「でしたら……ぜひ」低く言って、会釈をする。
「はい。少々お待ちください」
一緑に背を向ける形でスマホを取り出し、電話をかけはじめる佐々垣をよそに、一緑はにわかにソワソワしだした。やっと会える、という期待と高揚感が、どっと湧き出てきた。
「…あっ、華鈴? うん。いま展示室なんだけどさ、こっち来れないかな。うん。…………ちがうよ、ツカモリさんいらしてて……そう……ほんとほんと。うん。…………わかった、伝えておくね」
(えっ、どっち?)
あと数秒待てば答えを聞けるのに、ソワソワが止まらない。
「いま向かうと言っていたので、もう少々お待ちいただけますか?」
「はい、いくらでも待ちます」
思わず出た本音に、佐々垣がくすりと笑う。
一緑も自分の感情に苦笑して、(ササガキさんありがとう~!)感謝をこめつつ照れくさそうに頭を下げた。
展示されているインタビュー記事を五分ほど眺めていると、遠くから速いテンポの足音が聞こえてくる。おそらく走っているのであろう速度と間隔。
展示室に向かうその音が、ゆるやかになって、止まった。
「ささちゃんっ……ありがと……」
次に聞こえてきたのは、息を切らした女性の声。
聞き覚えのあるその声に、一緑の心臓がドキンと反応する。
「いーえ。あちらでお待ちですよ」
少しニヤニヤした笑顔の佐々垣が一緑のいる方向を手で示した。
その声に反応した一緑が受付の方向に視線を移し、そして固まった。そこにいる華鈴が、メイド服を着ていたからだ。
目が合って、どちらからともなく会釈をする。
「おっ、お久しぶりです」言いながら一緑に歩み寄る華鈴が「すみません、こんな格好で……」服を撫で、照れくさそうに頭を下げる。
「えっ? いえいえ、似合ってらして、カワイイ、です」
「えっ……ありがとう、ございます」
更に照れた華鈴が、更に可愛く感じて、一緑も照れてしまう。
「えっと……」二の句を継ごうとして、佐々垣の視線に気付いた一緑は「ここやと邪魔になるかもなので…どこかに移動しませんか?」伺うように提案する。
一緑の目線に気付いた華鈴が振り向くと、受付椅子に着席した佐々垣が心なしかニヤニヤしながら素知らぬ素振りで出入口のほうを眺めていた。
「…そうですね……」
一緑の意図に気付いて、華鈴が返答する。一緒に展示室をあとにすると、佐々垣はゆっくりと頭を下げ、二人を送り出した。
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