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11/7『たぬきつね』
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昔話で見たそれが美味しそうで、ずっと憧れていた。いつか近所に来ないかなって待ってたけど、今時の都会では難しかったようで……待ち焦がれたまま大人になってしまった。
だったらもういっそ自分で作っちゃえって。
仕事しながら勉強して、資金を貯めて資格を取って、中古の屋台を買ってカスタムして、晴れて夜泣きうどん屋台を開業した。
機材が積まれた屋台は重いし営業許可申請もけっこう面倒だったけど、今時だからこそ珍しいのか常連さんもできた。
感謝しつつ自宅で売上の計算をしていたら、お札の間に数枚の葉っぱが紛れ込んでいた。販売数と売上額から算出するに、リアルなお札として受け取ったよう。
きたきたきたー! ほんとにあるんだこういうの! 狸かな⁈ 狐かな⁈
謎の高揚感。儲けが減ったことよりも、ファンタジーな世界に入り込めたことのほうが嬉しいぞ。
さて、どうやっておもてなししようかな。
狸か狐かわからないけど、きっとこっちが騙されてると思ってるだろうし、わからないフリしてたほうがいいよね。
狐の好物の定番は油揚げだけど、狸の好物ってなんだろうと調べてみたら、お肉や果物類らしい。
ならばきつねうどん用の油揚げをグレードアップして、肉うどんを新メニューにしよう。果物はー……試しにデザートにしてみよう。
夜泣きうどんに憧れたキッカケの昔話では、人間を騙した狸が憎まれて酷い目に遭っていたけど、私はそんなことしない。
狸に餌付けはしない方がいいと聞くけれど……自発的にお金 (という名目の葉っぱ)を持って食べにくるなら、気にしないでいいかなぁ。
よし、そしたらいい油揚げの手配と肉、果物の仕入れ先を探そう。
にしても、お客さんの中に狸や狐が化けた“人間”がいたなんて気づきもしなかった。都会にも案外いるんだなぁ。
こっちが気づいてるって知ったら来てくれなくなっちゃうかもだけど、後ろめたい気持ちとか引け目を抱えてたら嫌だから……。
「うん、しょ……っと。ん、オッケー」
固定した屋台の近くに【タヌキさん、キツネさん、動物さんたち大歓迎!】と書いたスタンド式黒板を置いた。
看板に照明をあて、屋台にぶら下げてる提灯付近にもイラスト入りのポップを掲示。
化けなくてもいいよ。葉っぱのお金でもいいよ。好みの味付けと具材で作るよ。塩分・糖分控えめ! だけど人間とは違う食器を使わせてね、って。
仲良くしたいけど感染症はお互いに良くないし、みんなに安心して食べて欲しい。
同時に対応するときは別途折りたたみの机と椅子を出して区画を分ける予定。人間が不満を述べたら動物優先するつもり。
さて、どうかなぁ……と仕込みをしながら待っていたら、生き物の気配がした。
「あのぅ……」
「はーい」
声のする方に姿は見えない。
「キツネでもいいって……」
姿を隠しているのかと思ったら違った。作業スペースから出て見たら、小狐がモジモジしていた。
「はい、大歓迎ですよ。塩分糖分控えめのあっさりお出汁になりますが」
「お金……」
「動物さんたちからは頂きません。人間から頂いた分で営めるので」
私の言葉に子狐は安心した笑顔を見せた。
「人間語上手ね」
「学校で習うんです。でも人間には近づくなって」
人語を喋るモジモジ小狐が可愛すぎて悶絶級。
「友好的じゃないヒトもいるからねぇ。あなたの安全を思ってるんだよ。さて、うちはうどんしかないけど、具材は選べますよ。どうしましょ」
売上管理台帳でもあるタブレットで写真を見せながら、食べたいものを選んでもらった。
「はい、お待たせしました。熱いのでお気をつけて」
ミニテーブルの上に置いた小丼には特製のきつねうどん。
「わぁ……!」
小狐は瞳を輝かせ、フォークを握って食べ始める。
「美味しーい!」
「良かった! おかわり自由ですからね」
「ありがとう!」
椅子に座りハフハフしながらきつねうどんを食べる小狐が可愛すぎて悶絶した。
うどんを完食して、小狐は満足したよう。
「また来てね。貴方一人でも家族やお友達と一緒でも大歓迎!」
「うん!」
気をつけてねと送り出し、バイバイした。
「あれまぁ、驚いた!」
人間の常連さんが目を丸くして言う。
「あら古池さん。こんばんは」
「あれ狐の子じゃない、喋れるんだね」
「ね。学校で習ってるらしいですよ」
「あなたシニア料金してる上に動物にもって……大丈夫なの?」
「はい、本業が順調なもんで」
「あらそぉ」
「ありがとうございます。あ。油揚げちょっと高級にしました。あと肉うどんが新メニューに」
「えぇー、選べないわぁ」
「半々のたぬきつねうどんもできますよ」
私の提案に古池さんが嬉しそうに笑った。
うん、やっぱりお客さんの笑顔が見れるっていいわ。これからも頑張って屋台引いてこ。
だったらもういっそ自分で作っちゃえって。
仕事しながら勉強して、資金を貯めて資格を取って、中古の屋台を買ってカスタムして、晴れて夜泣きうどん屋台を開業した。
機材が積まれた屋台は重いし営業許可申請もけっこう面倒だったけど、今時だからこそ珍しいのか常連さんもできた。
感謝しつつ自宅で売上の計算をしていたら、お札の間に数枚の葉っぱが紛れ込んでいた。販売数と売上額から算出するに、リアルなお札として受け取ったよう。
きたきたきたー! ほんとにあるんだこういうの! 狸かな⁈ 狐かな⁈
謎の高揚感。儲けが減ったことよりも、ファンタジーな世界に入り込めたことのほうが嬉しいぞ。
さて、どうやっておもてなししようかな。
狸か狐かわからないけど、きっとこっちが騙されてると思ってるだろうし、わからないフリしてたほうがいいよね。
狐の好物の定番は油揚げだけど、狸の好物ってなんだろうと調べてみたら、お肉や果物類らしい。
ならばきつねうどん用の油揚げをグレードアップして、肉うどんを新メニューにしよう。果物はー……試しにデザートにしてみよう。
夜泣きうどんに憧れたキッカケの昔話では、人間を騙した狸が憎まれて酷い目に遭っていたけど、私はそんなことしない。
狸に餌付けはしない方がいいと聞くけれど……自発的にお金 (という名目の葉っぱ)を持って食べにくるなら、気にしないでいいかなぁ。
よし、そしたらいい油揚げの手配と肉、果物の仕入れ先を探そう。
にしても、お客さんの中に狸や狐が化けた“人間”がいたなんて気づきもしなかった。都会にも案外いるんだなぁ。
こっちが気づいてるって知ったら来てくれなくなっちゃうかもだけど、後ろめたい気持ちとか引け目を抱えてたら嫌だから……。
「うん、しょ……っと。ん、オッケー」
固定した屋台の近くに【タヌキさん、キツネさん、動物さんたち大歓迎!】と書いたスタンド式黒板を置いた。
看板に照明をあて、屋台にぶら下げてる提灯付近にもイラスト入りのポップを掲示。
化けなくてもいいよ。葉っぱのお金でもいいよ。好みの味付けと具材で作るよ。塩分・糖分控えめ! だけど人間とは違う食器を使わせてね、って。
仲良くしたいけど感染症はお互いに良くないし、みんなに安心して食べて欲しい。
同時に対応するときは別途折りたたみの机と椅子を出して区画を分ける予定。人間が不満を述べたら動物優先するつもり。
さて、どうかなぁ……と仕込みをしながら待っていたら、生き物の気配がした。
「あのぅ……」
「はーい」
声のする方に姿は見えない。
「キツネでもいいって……」
姿を隠しているのかと思ったら違った。作業スペースから出て見たら、小狐がモジモジしていた。
「はい、大歓迎ですよ。塩分糖分控えめのあっさりお出汁になりますが」
「お金……」
「動物さんたちからは頂きません。人間から頂いた分で営めるので」
私の言葉に子狐は安心した笑顔を見せた。
「人間語上手ね」
「学校で習うんです。でも人間には近づくなって」
人語を喋るモジモジ小狐が可愛すぎて悶絶級。
「友好的じゃないヒトもいるからねぇ。あなたの安全を思ってるんだよ。さて、うちはうどんしかないけど、具材は選べますよ。どうしましょ」
売上管理台帳でもあるタブレットで写真を見せながら、食べたいものを選んでもらった。
「はい、お待たせしました。熱いのでお気をつけて」
ミニテーブルの上に置いた小丼には特製のきつねうどん。
「わぁ……!」
小狐は瞳を輝かせ、フォークを握って食べ始める。
「美味しーい!」
「良かった! おかわり自由ですからね」
「ありがとう!」
椅子に座りハフハフしながらきつねうどんを食べる小狐が可愛すぎて悶絶した。
うどんを完食して、小狐は満足したよう。
「また来てね。貴方一人でも家族やお友達と一緒でも大歓迎!」
「うん!」
気をつけてねと送り出し、バイバイした。
「あれまぁ、驚いた!」
人間の常連さんが目を丸くして言う。
「あら古池さん。こんばんは」
「あれ狐の子じゃない、喋れるんだね」
「ね。学校で習ってるらしいですよ」
「あなたシニア料金してる上に動物にもって……大丈夫なの?」
「はい、本業が順調なもんで」
「あらそぉ」
「ありがとうございます。あ。油揚げちょっと高級にしました。あと肉うどんが新メニューに」
「えぇー、選べないわぁ」
「半々のたぬきつねうどんもできますよ」
私の提案に古池さんが嬉しそうに笑った。
うん、やっぱりお客さんの笑顔が見れるっていいわ。これからも頑張って屋台引いてこ。
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