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9/18『擬人化カノジョと具現化カレシ』
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イラストを描くのが好きだ。
ただ好きなだけで、仕事にしたいとか誰かに見て貰いたいとかは思わない。
描いているのは、目についた物を擬人化したイラスト。“鉛筆ちゃん”とか“消しゴムくん”とかそういうの。
家の中にある物ばかりを描いていたら割とすぐにネタに尽きて、空気とか水なんかも擬人化し始めた。
A5サイズのノートに描いたそれらをたまに見返すのが楽しい。
今日は描く気分じゃないなってときは色を塗る。
画材にこだわりはないけど、やっぱり描き味がいいと楽しいからそこそこ良い物を使ってる。
というのを最近付き合い始めた彼氏に話したら、思いのほか食いつきが良かった。そのノートを見てみたいと言うので、恥ずかしかったけど次のデートのときに持参した。
誰にも見せたことのない自分の作品を目の前で見られるのは、裸を見られるのと同じくらい恥ずかしい。
ゆっくりじっくり鑑賞した後、彼が嬉しそうに破顔した。
「ありがとう、すごい想像力で見習いたいと思った」
「ありがとう。そんな風に言ってもらえるとは」
照れ照れしながら返されたノートを受け取る。
「どこかにアップすればいいのに」
「うーん、それは恥ずかしいし、誰かになにか、価値を付けられるのはちょっと……」
「価値?」
「いいとか悪いとか……あっ、あなたからの感想と褒め言葉は嬉しいよ? でも、見ず知らずの人からのそういう言葉を、受け止められる気がしないと言うか……」
「そっか。うん、なんかわかるかも」
へへっと笑う彼、ふふっと笑う私。
なんだかちょっと心の距離が近づいた気がして、嬉しくなった。
次のデートのとき、彼が小さな箱を差し出した。
「これ……良ければ、貰って?」
首をかしげながら受け取る。
「開けていい?」
「恥ずかしいから、コッソリね」
「うん……」
恥ずかしい贈り物ってなんだろう? と不思議に思いながらラッピングを解いて開封したら……‼︎
声が出ないくらい驚いた。
「っ! こっ、これっ……!」
「うん。こないだ見せて貰ったイラストがあまりにも素敵だったから、作っちゃった」
「作っちゃったって……」
目の前にあるのは、私が描いた【水滴ちゃん】を立体化したフィギュアだ。しかも売ってるやつみたいな素材とクオリティのもの。
「そんな簡単じゃなかったでしょ。凄い。器用なんだね」
「あれ、言ってなかったっけ。俺原型師やってるんだよ」
「えっ、凄い、そうなんだ!」
「ごめん、言ったつもりでいた」
「ううん? 私もそういうことあるかもしれないし……あっ。ありがとう、これ。すっごく嬉しい!」
「良かった~。女性ってそういうの苦手かなと思ってから……退かれたらどうしようって思ってた」
「苦手だったらああいう絵、描いてないよ」
「そっか」
へへっと笑う彼、ふふっと笑う私。
またちょっと、心の距離が近づいた気がして嬉しくなった。
それから、彼は私の家に来ると作品ノートを見てくれるようになった。そして、持参した素材と道具を使ってその場で立体化してくれる。
その手さばきが見事すぎて、見とれてしまう。
「……あんま見られると恥ずかしい」
「あっ、ごめん」
「いや、うん……」
なんだかいい雰囲気になった室内で、彼は黙々と手を動かしている。
私はどこを見ていいかわからなくなって、視線を泳がせた。
視界に入った机に、こないだ買ったばかりの紙と画材が置いてある。相性がどんな感じか知りたくて買ったんだけど、まだ袋に入ったまま。
手持無沙汰になってしまったので、せっかくだしと開封する。
水彩色鉛筆は描き味が滑らかで、凹凸のある紙によく定着する。水筆でなぞると滲みが予想外の方向lに出て面白い。うん、当たりだ。
「新作描く?」
「うーん、そうしようかな。題材があれば」
「そんなにいい作品ばっか生み出されたら、粘土足りなくなっちゃう」
「そんなこと言われても」
「……一生かかっても、作り切れないかもしれないから……ずっと一緒にいない?」
言われた言葉の意味が一瞬わからなくて、でもすぐに気づいて、
「それって……」
若干愚問めいたことを言ってしまった。
「キミとだったら、毎日、こうして、穏やかで楽しく過ごしていけるかな……と思ったんだけど……俺だけかな」
本当はもっとちゃんと、ハッキリ言って欲しかったけど、彼なりの精一杯なのかなと汲んで、返答した。
「私もそう思う。この先も、よろしくお願いします」
頭を下げたら彼は嬉しそうにして、粘土とヘラを置き私を抱きしめようとして、自分の手を見て「洗面台借りるね」と立ち上がり、手を洗ってきてから私を抱き寄せた。
その間がおかしくてちょっと笑っちゃったら彼が少し拗ねたけど、こんな毎日が積み重なっていくんだと思うと、人生が楽しみになった。
ただ好きなだけで、仕事にしたいとか誰かに見て貰いたいとかは思わない。
描いているのは、目についた物を擬人化したイラスト。“鉛筆ちゃん”とか“消しゴムくん”とかそういうの。
家の中にある物ばかりを描いていたら割とすぐにネタに尽きて、空気とか水なんかも擬人化し始めた。
A5サイズのノートに描いたそれらをたまに見返すのが楽しい。
今日は描く気分じゃないなってときは色を塗る。
画材にこだわりはないけど、やっぱり描き味がいいと楽しいからそこそこ良い物を使ってる。
というのを最近付き合い始めた彼氏に話したら、思いのほか食いつきが良かった。そのノートを見てみたいと言うので、恥ずかしかったけど次のデートのときに持参した。
誰にも見せたことのない自分の作品を目の前で見られるのは、裸を見られるのと同じくらい恥ずかしい。
ゆっくりじっくり鑑賞した後、彼が嬉しそうに破顔した。
「ありがとう、すごい想像力で見習いたいと思った」
「ありがとう。そんな風に言ってもらえるとは」
照れ照れしながら返されたノートを受け取る。
「どこかにアップすればいいのに」
「うーん、それは恥ずかしいし、誰かになにか、価値を付けられるのはちょっと……」
「価値?」
「いいとか悪いとか……あっ、あなたからの感想と褒め言葉は嬉しいよ? でも、見ず知らずの人からのそういう言葉を、受け止められる気がしないと言うか……」
「そっか。うん、なんかわかるかも」
へへっと笑う彼、ふふっと笑う私。
なんだかちょっと心の距離が近づいた気がして、嬉しくなった。
次のデートのとき、彼が小さな箱を差し出した。
「これ……良ければ、貰って?」
首をかしげながら受け取る。
「開けていい?」
「恥ずかしいから、コッソリね」
「うん……」
恥ずかしい贈り物ってなんだろう? と不思議に思いながらラッピングを解いて開封したら……‼︎
声が出ないくらい驚いた。
「っ! こっ、これっ……!」
「うん。こないだ見せて貰ったイラストがあまりにも素敵だったから、作っちゃった」
「作っちゃったって……」
目の前にあるのは、私が描いた【水滴ちゃん】を立体化したフィギュアだ。しかも売ってるやつみたいな素材とクオリティのもの。
「そんな簡単じゃなかったでしょ。凄い。器用なんだね」
「あれ、言ってなかったっけ。俺原型師やってるんだよ」
「えっ、凄い、そうなんだ!」
「ごめん、言ったつもりでいた」
「ううん? 私もそういうことあるかもしれないし……あっ。ありがとう、これ。すっごく嬉しい!」
「良かった~。女性ってそういうの苦手かなと思ってから……退かれたらどうしようって思ってた」
「苦手だったらああいう絵、描いてないよ」
「そっか」
へへっと笑う彼、ふふっと笑う私。
またちょっと、心の距離が近づいた気がして嬉しくなった。
それから、彼は私の家に来ると作品ノートを見てくれるようになった。そして、持参した素材と道具を使ってその場で立体化してくれる。
その手さばきが見事すぎて、見とれてしまう。
「……あんま見られると恥ずかしい」
「あっ、ごめん」
「いや、うん……」
なんだかいい雰囲気になった室内で、彼は黙々と手を動かしている。
私はどこを見ていいかわからなくなって、視線を泳がせた。
視界に入った机に、こないだ買ったばかりの紙と画材が置いてある。相性がどんな感じか知りたくて買ったんだけど、まだ袋に入ったまま。
手持無沙汰になってしまったので、せっかくだしと開封する。
水彩色鉛筆は描き味が滑らかで、凹凸のある紙によく定着する。水筆でなぞると滲みが予想外の方向lに出て面白い。うん、当たりだ。
「新作描く?」
「うーん、そうしようかな。題材があれば」
「そんなにいい作品ばっか生み出されたら、粘土足りなくなっちゃう」
「そんなこと言われても」
「……一生かかっても、作り切れないかもしれないから……ずっと一緒にいない?」
言われた言葉の意味が一瞬わからなくて、でもすぐに気づいて、
「それって……」
若干愚問めいたことを言ってしまった。
「キミとだったら、毎日、こうして、穏やかで楽しく過ごしていけるかな……と思ったんだけど……俺だけかな」
本当はもっとちゃんと、ハッキリ言って欲しかったけど、彼なりの精一杯なのかなと汲んで、返答した。
「私もそう思う。この先も、よろしくお願いします」
頭を下げたら彼は嬉しそうにして、粘土とヘラを置き私を抱きしめようとして、自分の手を見て「洗面台借りるね」と立ち上がり、手を洗ってきてから私を抱き寄せた。
その間がおかしくてちょっと笑っちゃったら彼が少し拗ねたけど、こんな毎日が積み重なっていくんだと思うと、人生が楽しみになった。
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