日々の欠片

小海音かなた

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7/22『埋めて忘れて。』

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 ダイエットにはミックスナッツが良いと聞いた。
 一日の間食は200キロカロリー、ナッツだと25グラム程度が適量らしい。
 近所の小型スーパーで一袋25グラムのミックスナッツが売られていたから早速買ってみた。食べきりサイズで、小腹が空いたときにちょうどいい。
 休日の今日はミックスナッツをツマミにビールを呑んでる。ダイエットにはならないだろうが、昼間から呑む酒は旨い。
 ほろ酔い気分でテレビを視てたら、充電中のスマホが鳴った。仕事の連絡だったらイヤだなぁと考えつつ画面を見たら、幼馴染みからだった。
「ほえー」
 思わず変な声が出ちゃったその連絡は、小学校の同窓会のお誘い。どうやら同窓生の半数くらいが参加の意思を示しているらしい。
 幼馴染みとは大人になってからもちょくちょく連絡をとって会っていたけど、他の級友とは疎遠になっていた。もう数十年経つってのに良く連絡とれたもんだと感心の言葉を送ったら返事が来た。
 当時の担任と年賀状のやりとりをいまだに続けていて、連絡先が変わる度に書き添えていたらしい。そういう生徒は他にもいて、先生を介して同窓会の連絡が来たんだとか。
 もうみんなおじさん、おばさんになってるからきっと誰が誰やらわからないだろうけど、もしかしたら再会して繋がる縁があるかもしれないし、たまには実家に顔くらい出すかと思い参加することにした。

 約束の日、懐かしい故郷の駅を出てタクシーを拾う。実家は駅と学校の中間くらいにあって、当たり前だけど子供の頃はそのくらいの距離なら歩いて移動してた。おじさんになったいま、歩くのは健康診断前だけにしたいと思ってる。
 母校は近くの学校と合併したと聞いていたが、少し新しくなった校舎に通っていた当時の面影を見て少々安心した。
 受付窓口で同窓会に参加する旨を伝えて、来訪者用のパスを受け取る。
「こんなちっちゃかったんだなぁ」
 教室内に並ぶ机と椅子が懐かしい。
「おーいキョウイチ、こっちこっち」
 教室の外で手を振る男。件の幼馴染、マサフミだ。
「よぉ。なんだお前、受付役?」
「そう。っていうか、連絡係。全員のアポ取ったの、俺」
「そうなの? そりゃご苦労なこって」
「仕事より全然ラク」
「外資系の営業だっけ」
「そ。大変な分やりがいもあるけどな」
 マサフミに渡された名札を付けて教室へ入る。名前を覚えている人、子供の頃の面影がある人、誰だか見当もつかない人。思い出の詰まった教室で、皆が思い思いに楽しんでいる。
 先生も加わって宴もたけなわの中、女子の一人が言った。
「そういえばさ、卒業するときタイムカプセル埋めたの覚えてる?」
「あー、なんかあったなぁ!」
「どこに埋めたっけ」
「先生覚えてる?」
「うーん、あんまり。でも校庭の遊具、何度か増設したり撤去したりしてるから、目印がなくなっちゃってるかも?」
「うわー、マジかー」
「そういえば」
 委員長がパチンと手を鳴らす。
「卒業アルバムに誰かが描いた地図を挟んだ気がする」
「確かに!」
「アルバムって見せてもらえるのかな?」
「個人情報保護の観点~とかありそうよね」
「挟んだの、私のアルバムだったはずだからそれは平気」
「お、じゃあ早速」
「でもあるの実家だわ。しかももうここら辺じゃないんだよね」
 委員長の両親は定年退職後に移住し、南方の離島でカフェ経営を始めたとか。
 とりあえず聞いてみるね、と委員長が電話をしに教室を出て行った。
 少しして送られてきた【地図】の写真を皆で見るが……。
「すっごい大雑把」
「子供が描いたもんだから」
「とりあえず行ってみる?」
 ぞろぞろと連れ立って校庭の隅へ移動した。
「あのころケータイ持ってればなー。写真撮っておけたのに」
「あったとしても、もう使えなくなってるって」
「そっか」
「あ。使い捨てカメラで撮影しとけばよかったんじゃんね」
「なるほど」
「うちの子が埋めるって言ったら教えてあげよ」
 学校側に許可を取り、広範囲に渡って掘ってみたけど、結局それらしき物は見つからなかった。
 掘ったあとは埋め戻さなければならなくて、いい歳したおっさんにはかなり重労働だった。
「お菓子の缶だったはずだし、見つかったとしても腐食してそうだよねー」
「工事のときに見つかったって話は聞かなかったから、どこかには埋まっているはずなんだけどねぇ」
「目印がなくなってるんじゃなぁ……」

 俺たちはリスだ。
 リスは後で食べるために埋めた木の実の場所を忘れる。そこから新たに芽吹けばいいが、俺たちの場合なにもない。
 しかしこれもきっと、のちにいい思い出になると思えば残念なだけじゃなくなる。

 同窓会も実家への顔出しも無事終わり、自宅に戻って今日もミックスナッツを食べる。
 リスのようなかつての俺らに思いを馳せて。
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