日々の欠片

小海音かなた

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7/9『泣くに泣けず』

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 泣くのが嫌いだ。鼻は詰まって息苦しいし、酸欠で頭痛くなるし体力使うし。
 泣くとストレス発散できるからいい、と聞くけど、私の場合は逆。
 子供の頃、感動的な映画を観て泣いていたのを母にからかわれてから、“泣くのは恥ずかしいこと”という感覚が植え付けられてしまったらしい。
 これがトラウマってやつか。

 辛くても悲しくても寂しくても泣けなくなった私は、徐々に怒ること以外の感情を失っていった。
 少しくらい嬉しかったりおかしかったりするくらいじゃ顔に出ない。頭とか心では感情が渦巻いてるのに、表情に出ないから他人に伝わらない。
 口角が下がった顔の作りと相まって、怒ってないのに「怒ってる?」って聞かれて、「怒ってないよ」と怒ってしまう。
 怒ることだけが得意になって、なんだかいつも不機嫌だった。
 家族も信頼できなくて、実家にいるのに孤独で窮屈だった。
 根本的な考え方が違うから、なにかと反発してしまう。大人になってもずっと思春期のような、自分でも持て余すくらい青かった。
 母が私を生んだ年齢を自分が超えて、大変だったろうとわかり、同時に子育てが得意じゃなかったんだろうなとも気づいた。
 実家を出られるほどの稼ぎもなく、このまま一生ストレスを蓄積しながら実家暮らしするのか、と諦めかけたとき、実家を出ることになった。
 賃貸の家賃を払いきれないという家族から、格安の集合住宅へ入居できるよう応募していた権利が当選したと聞かされた。
 退去日の二か月前に引っ越すと告げられ、なんでもっと早く言わないのかと怒った。昔から相談してくれない人たちだったけど、ここまでなにも教えてくれないとは。
 さすがにもう一緒に住むのは嫌になって、急いで一人暮らしするための家を探した。
 家族にはしつこいくらいに出ていくのかと言われたけど、もう一緒には住めなかった。
 職場に近いワンルーム、風呂トイレ別、ペット可。近くにお寺がたくさんあってお墓があるのがちょっと難点。でも初めての一人暮らしは快適だった。
 結婚は、この人生ではしないって決めて生まれてきたんだろうなと気づいたから、もう諦めている。子供は好きじゃなから欲しいと思えないし、家事全般できるかといえばそうではないし。
 一人の時間を気ままに過ごすのが好きだ。

 歳を重ねて涙腺が弱くなって、これまで泣けなかった分を取り戻すように些細なことで泣くようになった。
 多分精神的に疲れてるんだと思うけど、泣けてしまうのだから仕方ない。
 涙活にはもちろんなってなくて、泣くのは未だに苦痛だ。
 でも……。
 昔ほど、悪い気持ちはしてない。
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