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6/19『計画的な運命の出会い』
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ロマンスの神様は仰います。
「相手が違っているのだがのう」
けれど当事者には聞こえていません。聞こえていたとしても聞く耳を持ちません。恋は盲目というやつです。
(どうか大好きな彼と、永遠に結ばれますように)
しかし神様は不幸になるお願いを叶えるわけにはいきません。
叶えてもらえなかったといって、参拝をやめる人もちらほら。残念ですが、それを引き留める権利は誰にもありません。
しかしこの参拝者は違いました。
(これだけお願いしても叶わないということは、彼と私はそういう運命じゃなかったってことですねー。はぁ……)
おや。こちらの世界のルールを多少理解しているようです。
境内のベンチに腰掛けて、空を見上げています。その目には見えていないようですが、視線の先にはこの神社の御祭神である“ロマンスの神様”がいらっしゃいます。
大きなお姿で、社殿の上に鎮座されているのです。
(もし次に誰かを好きになることがあったら、またお願いしに来ると思います)
明確に“失恋”したわけじゃないようですが、相手の態度から、恋仲になる可能性は低いと感じているようです。
神様のご依頼でわたしが見て来たところ、この女性が恋するお相手はとてもおモテになられる様子。現在も複数人の方を“恋人”と認識しているようです。
いま縁が結ばれても、のちにこの女性が心を痛める様子が見えています。だから叶えることができないのです。
少し前に来訪したときより疲れた様子なので、励ます目的で隣に寄り添ってみます。
なんとなく気配がわかるようで、わたしのいる空間を見つめ、不思議そうに首をかしげつつも笑みを浮かべてくれました。成功です。
おや、新たな参拝者が来ました。あれ? このかたは……。
神様を見ると、神様もうなずいておられます。
女性の隣から移動して、拝殿に向かう男性のほうへ。バッグの横ポケットに入っているハンカチを咥えて、落とします。男性からは死角なので、気づいていません。
おーい、こっちこっち。
女性に向かって手を振ったら、気配に気づいてくれました。
「あ」
小さく言って駆け寄り、ハンカチを拾います。
「あの」
「はい」
視線が合った二人はそのまま恋に落ち……なんて簡単にはいきませんね。
落としたハンカチの受け渡しだけでその日は終わってしまいました。
「うまくいきますかねぇ」
「お前にも見えただろう?」
「見えました。けど、人間はよくチャンスを掴み損ねます」
「大丈夫じゃよ、きちんと計画通りじゃし」
「そうですねー」
「きっと近いうちにまた来るだろう」
神様が指さした先にあるのは、ふたつの小さなお財布です。
「同じ……? いや、微妙に色が違う?」
「素敵な偶然があるもんじゃのう」
ほほほ、と神様は笑って、そのお財布を社務所のカウンターにそっと置きました。翌日宮司がやってきてそのお財布に気づき、ルールに沿って拾得物処理を行います。
電話で問い合わせがあり後日やって来たのは……。
「あっ」
嬉しくなって尻尾を立てたら、神様が微笑ましそうにうなずきます。
二人ともお互いが初対面じゃないことに気づいていないようですが……おーい、こっちこっちー!
社務所の受付まで行って、二人を招きます。
二人は適度な距離を保ちながら同じ方向へ進んで……
「あ、どうぞ」
「あぁ、いえ、どうぞ」
順番を譲り合っているので、巫女さん二人に気づいてもらうように手を振ります。無事、二人並んで同時に受付してもらえました。一人の巫女さんがふたつのお財布を持って戻ってきます。
「こちらのうち、どちらかだと思うのですが……」
色合いが良く似た同じ形のお財布に、男女が顔を見合わせます。
自分のお財布を指さしながら中の金額を告げて、無事持ち主のもとに返されました。
「……これ、使い勝手いいですよね」
「はい。お賽銭用に丁度いいなって」
「僕もです。よくお参りに行くので、専用のが欲しくて」
「えー、偶然ですね! 私もです」
二人はなんだかいい雰囲気。でもこのまま帰ってしまいそうです~。
慌てていたら、天気が味方してくれました。突然の大雨です。
男女は並んで雨宿りをしています。お互い気にしている様子……あ! 男性が勇気を出して女性を誘ってくれました!
社務所と同じ建物内にあるカフェでお茶をしながら雨宿りすることになったよう。計画通りです! やったー!
この間までしょんぼりしていた女性も、とても楽しそうです。わたしも嬉しくて飛び跳ねながら神様にご報告したら、神様もとても嬉しそうになさっていました。
それから数日後、男女は二人で参拝に来てくれました。どちらもお願い事が叶ったと喜んでいます。
この二人なら、きっとずっと幸せでいてくれることでしょう。あぁ、良かった。
「相手が違っているのだがのう」
けれど当事者には聞こえていません。聞こえていたとしても聞く耳を持ちません。恋は盲目というやつです。
(どうか大好きな彼と、永遠に結ばれますように)
しかし神様は不幸になるお願いを叶えるわけにはいきません。
叶えてもらえなかったといって、参拝をやめる人もちらほら。残念ですが、それを引き留める権利は誰にもありません。
しかしこの参拝者は違いました。
(これだけお願いしても叶わないということは、彼と私はそういう運命じゃなかったってことですねー。はぁ……)
おや。こちらの世界のルールを多少理解しているようです。
境内のベンチに腰掛けて、空を見上げています。その目には見えていないようですが、視線の先にはこの神社の御祭神である“ロマンスの神様”がいらっしゃいます。
大きなお姿で、社殿の上に鎮座されているのです。
(もし次に誰かを好きになることがあったら、またお願いしに来ると思います)
明確に“失恋”したわけじゃないようですが、相手の態度から、恋仲になる可能性は低いと感じているようです。
神様のご依頼でわたしが見て来たところ、この女性が恋するお相手はとてもおモテになられる様子。現在も複数人の方を“恋人”と認識しているようです。
いま縁が結ばれても、のちにこの女性が心を痛める様子が見えています。だから叶えることができないのです。
少し前に来訪したときより疲れた様子なので、励ます目的で隣に寄り添ってみます。
なんとなく気配がわかるようで、わたしのいる空間を見つめ、不思議そうに首をかしげつつも笑みを浮かべてくれました。成功です。
おや、新たな参拝者が来ました。あれ? このかたは……。
神様を見ると、神様もうなずいておられます。
女性の隣から移動して、拝殿に向かう男性のほうへ。バッグの横ポケットに入っているハンカチを咥えて、落とします。男性からは死角なので、気づいていません。
おーい、こっちこっち。
女性に向かって手を振ったら、気配に気づいてくれました。
「あ」
小さく言って駆け寄り、ハンカチを拾います。
「あの」
「はい」
視線が合った二人はそのまま恋に落ち……なんて簡単にはいきませんね。
落としたハンカチの受け渡しだけでその日は終わってしまいました。
「うまくいきますかねぇ」
「お前にも見えただろう?」
「見えました。けど、人間はよくチャンスを掴み損ねます」
「大丈夫じゃよ、きちんと計画通りじゃし」
「そうですねー」
「きっと近いうちにまた来るだろう」
神様が指さした先にあるのは、ふたつの小さなお財布です。
「同じ……? いや、微妙に色が違う?」
「素敵な偶然があるもんじゃのう」
ほほほ、と神様は笑って、そのお財布を社務所のカウンターにそっと置きました。翌日宮司がやってきてそのお財布に気づき、ルールに沿って拾得物処理を行います。
電話で問い合わせがあり後日やって来たのは……。
「あっ」
嬉しくなって尻尾を立てたら、神様が微笑ましそうにうなずきます。
二人ともお互いが初対面じゃないことに気づいていないようですが……おーい、こっちこっちー!
社務所の受付まで行って、二人を招きます。
二人は適度な距離を保ちながら同じ方向へ進んで……
「あ、どうぞ」
「あぁ、いえ、どうぞ」
順番を譲り合っているので、巫女さん二人に気づいてもらうように手を振ります。無事、二人並んで同時に受付してもらえました。一人の巫女さんがふたつのお財布を持って戻ってきます。
「こちらのうち、どちらかだと思うのですが……」
色合いが良く似た同じ形のお財布に、男女が顔を見合わせます。
自分のお財布を指さしながら中の金額を告げて、無事持ち主のもとに返されました。
「……これ、使い勝手いいですよね」
「はい。お賽銭用に丁度いいなって」
「僕もです。よくお参りに行くので、専用のが欲しくて」
「えー、偶然ですね! 私もです」
二人はなんだかいい雰囲気。でもこのまま帰ってしまいそうです~。
慌てていたら、天気が味方してくれました。突然の大雨です。
男女は並んで雨宿りをしています。お互い気にしている様子……あ! 男性が勇気を出して女性を誘ってくれました!
社務所と同じ建物内にあるカフェでお茶をしながら雨宿りすることになったよう。計画通りです! やったー!
この間までしょんぼりしていた女性も、とても楽しそうです。わたしも嬉しくて飛び跳ねながら神様にご報告したら、神様もとても嬉しそうになさっていました。
それから数日後、男女は二人で参拝に来てくれました。どちらもお願い事が叶ったと喜んでいます。
この二人なら、きっとずっと幸せでいてくれることでしょう。あぁ、良かった。
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