165 / 366
6/14『習うは一生』
しおりを挟む
認知症予防のためにできることを今日から始めよう、と夫が言った。あまりに突然の申し出に面食らったけれど、確かに大事かもしれない。
身体が丈夫でも認識能力が低下してしまっては、好きなことや、やりたいことをエンジョイできないのではないか。
認知症の方々が楽しい人生を過ごしていないとは思っていないけれど、せっかくだったら夫婦そろって好きなことを長く楽しみたい。
夫の提案に賛同して、認知症予防のためになにをするかの会議を開く。
予防するにはまず対策法を知らなくちゃね、ということで、夫のパソコンで調べてみた。
認知症予防は四十代から始めるのが効果的みたい。そんな年齢とっくに過ぎてしまっているけれど、読んでみたらいつも実践していることばかりだった。
「どうしましょう、全部やってるわ?」
「うーん、まぁボクら夫婦、健康オタクだからね」
「そうねぇ……」
困った私たちは、インフルエンサー講座のオンラインレッスンが終わったあと、先生に聞いてみた。
『ご心配なさらなくても、お二人は充分お若いと思いますよ』
「そうかしらぁ」
『私の生徒さんの中では一番ご高齢ですけど、理解力と吸収力はズバ抜けて高いですし、SNSの更新頻度やフォロワー数もトップクラスです』
「ですって、お父さん」
「ふむぅ。そういったことを長く楽しむためにも、認知症予防したいんですけどねぇ」
『なるほどー……』
先生は手元のスマホでなにか調べ物をしている。
『運動しながらの脳トレとか、指先を動かすゲームなんかもいいみたいですね』
「ほうほう」
『ウォーキングしつつしりとりやクイズ大会をする、とか、対戦型のオンラインゲームとかならお二人の環境で手軽にできるかもしれません』
「おぉ、面白そうですなぁ」
「自己満足で終わらせないようにしないとですねぇ」
『でしたら、それを発信なさったらいかがです?』
「我々のアカウントでですか?」
『そうですそうです。ゲーム実況なんかは定番ですし、場所は選ぶでしょうけど外からの配信は気分転換にもなるのではないかと』
「あら、面白そう」
『お二人と同じようなお悩みを抱えている方も多くいらっしゃるでしょうし、その方たちがパソコンやスマホを扱うことで指先や思考の運動を促すことができると思うんですよね』
「なるほど、さすが先生。及びもつきませんでした」
『いえ全然……ありがとうございます。発信する際に内容のこととかでお困りになるようでしたら、お声がけくださいね』
「ありがとうございます」
夫婦でお礼を言って、通信を切った。
「やっぱり若い脳には敵わないわねー」
「うん。でも少し考えればわかることだったかもなぁ」
「じゃあ今度から、本当に行き詰るまでは先生を頼らないようにしましょうか」
「うむ。それも認知症予防につながるかもしれないね」
それがいい、と夫婦で納得して、動画撮影の計画を立て始めた。
手っ取り早いのはゲーム実況。家に環境もあるし、ゲームを選んで購入して、プレイを開始すればいいだけ。
折角だから始める前の段階から撮影して、それを私たちのチャンネルで公開する。
それとは別に“古き良き玩具”や“最新ボードゲーム”を買った。孫たちを巻き込んで遊ぶ光景を撮影し、それもアップした。
取り扱うジャンルが増えたことで映像のバリエーションも広がって、登録者数も増えた。
メディアでも取り上げて貰えるようになって、私たちはすっかり有名人。
今日は朝のバラエティ番組で紹介してもらえるということで、テレビ局に来ている。
生放送の番組で芸人さんやタレントさんと、私たちが考案したゲームで楽しませて貰った。
「すごいですね、このゲームをお二人で作られたと」
「えぇ、それがこんな風に楽しんでいただけるなんて、ねぇ」
「元々は私たちのボケ防止のために始めたんですよ」
「いやいや、お二人は大丈夫でしょ! 絶対ボケませんて」
司会の芸人さんが笑いながら言ってくれた。向かい側の席に座る出演者のみなさんも、大きくうなずいてくれる。説得力のあるその言葉に、私たち夫婦は嬉しくなってますます頑張った。
テレビ出演をキッカケにフォロワー数も更に増えたから、今度はギネス記録に申請してみようかと、申請方法を調査中。
まだまだ若い者には負けないぞ! と気合いを入れていたら、それが自然と認知症予防になり、生活に張りも出た。
一石二鳥ってこういうことを言うのねって、私たち夫婦は大満足。
次の目標を“百代になっても現役”にしたから、頭だけじゃなく身体も鍛えなくちゃねって夫婦で盛り上がっている。
身体が丈夫でも認識能力が低下してしまっては、好きなことや、やりたいことをエンジョイできないのではないか。
認知症の方々が楽しい人生を過ごしていないとは思っていないけれど、せっかくだったら夫婦そろって好きなことを長く楽しみたい。
夫の提案に賛同して、認知症予防のためになにをするかの会議を開く。
予防するにはまず対策法を知らなくちゃね、ということで、夫のパソコンで調べてみた。
認知症予防は四十代から始めるのが効果的みたい。そんな年齢とっくに過ぎてしまっているけれど、読んでみたらいつも実践していることばかりだった。
「どうしましょう、全部やってるわ?」
「うーん、まぁボクら夫婦、健康オタクだからね」
「そうねぇ……」
困った私たちは、インフルエンサー講座のオンラインレッスンが終わったあと、先生に聞いてみた。
『ご心配なさらなくても、お二人は充分お若いと思いますよ』
「そうかしらぁ」
『私の生徒さんの中では一番ご高齢ですけど、理解力と吸収力はズバ抜けて高いですし、SNSの更新頻度やフォロワー数もトップクラスです』
「ですって、お父さん」
「ふむぅ。そういったことを長く楽しむためにも、認知症予防したいんですけどねぇ」
『なるほどー……』
先生は手元のスマホでなにか調べ物をしている。
『運動しながらの脳トレとか、指先を動かすゲームなんかもいいみたいですね』
「ほうほう」
『ウォーキングしつつしりとりやクイズ大会をする、とか、対戦型のオンラインゲームとかならお二人の環境で手軽にできるかもしれません』
「おぉ、面白そうですなぁ」
「自己満足で終わらせないようにしないとですねぇ」
『でしたら、それを発信なさったらいかがです?』
「我々のアカウントでですか?」
『そうですそうです。ゲーム実況なんかは定番ですし、場所は選ぶでしょうけど外からの配信は気分転換にもなるのではないかと』
「あら、面白そう」
『お二人と同じようなお悩みを抱えている方も多くいらっしゃるでしょうし、その方たちがパソコンやスマホを扱うことで指先や思考の運動を促すことができると思うんですよね』
「なるほど、さすが先生。及びもつきませんでした」
『いえ全然……ありがとうございます。発信する際に内容のこととかでお困りになるようでしたら、お声がけくださいね』
「ありがとうございます」
夫婦でお礼を言って、通信を切った。
「やっぱり若い脳には敵わないわねー」
「うん。でも少し考えればわかることだったかもなぁ」
「じゃあ今度から、本当に行き詰るまでは先生を頼らないようにしましょうか」
「うむ。それも認知症予防につながるかもしれないね」
それがいい、と夫婦で納得して、動画撮影の計画を立て始めた。
手っ取り早いのはゲーム実況。家に環境もあるし、ゲームを選んで購入して、プレイを開始すればいいだけ。
折角だから始める前の段階から撮影して、それを私たちのチャンネルで公開する。
それとは別に“古き良き玩具”や“最新ボードゲーム”を買った。孫たちを巻き込んで遊ぶ光景を撮影し、それもアップした。
取り扱うジャンルが増えたことで映像のバリエーションも広がって、登録者数も増えた。
メディアでも取り上げて貰えるようになって、私たちはすっかり有名人。
今日は朝のバラエティ番組で紹介してもらえるということで、テレビ局に来ている。
生放送の番組で芸人さんやタレントさんと、私たちが考案したゲームで楽しませて貰った。
「すごいですね、このゲームをお二人で作られたと」
「えぇ、それがこんな風に楽しんでいただけるなんて、ねぇ」
「元々は私たちのボケ防止のために始めたんですよ」
「いやいや、お二人は大丈夫でしょ! 絶対ボケませんて」
司会の芸人さんが笑いながら言ってくれた。向かい側の席に座る出演者のみなさんも、大きくうなずいてくれる。説得力のあるその言葉に、私たち夫婦は嬉しくなってますます頑張った。
テレビ出演をキッカケにフォロワー数も更に増えたから、今度はギネス記録に申請してみようかと、申請方法を調査中。
まだまだ若い者には負けないぞ! と気合いを入れていたら、それが自然と認知症予防になり、生活に張りも出た。
一石二鳥ってこういうことを言うのねって、私たち夫婦は大満足。
次の目標を“百代になっても現役”にしたから、頭だけじゃなく身体も鍛えなくちゃねって夫婦で盛り上がっている。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる