日々の欠片

小海音かなた

文字の大きさ
上 下
164 / 366

6/13『ソラを翔ける』

しおりを挟む
 行きつけの神社の境内を歩いていたら、顔の横をなにかが横切った。
 気配を追って視線を流したら、その先に鳥の姿が見えた。
 大きさはカラスほどだけど全身が黒いわけじゃない。頭から背中にかけて黒っぽく、胸からお腹のあたりに縞模様が見える。
 クチバシの色まではちょっと見えないけど……鷹とかそういう、猛禽類っぽいフォルム。
 実体があるわけじゃなくて、魂というか、“霊感がないと見えない存在”だ。
 千木のてっぺんにとまるその鳥を凝視するけど、種類にあまり明るくないからなんの鳥かは特定できない。
 カメラに映ればなんらかのアプリで調べることもできるだろうけど、実体がないから無理だ。
 思いついた【カラスくらいの大きさ 猛禽類】というワードで検索したら、出て来たのは【ハヤブサ】だった。
 写真と実物 (実体はないけど)を見比べて、おそらくそうであろうと断定する。
 ハヤブサは千木の上で周囲を眺め、毛づくろいをしてから空へ戻った。
 そのまま上へ、上へ。
 遥か上空、見えなくなりそうな高さまで飛んで、姿を変えた。
 鳥から、翼を持った四角い箱に。
 いまも宇宙を飛び続ける後輩に寄りそい、並んで軌道を流れて行った。

 一度、地球外生命体を見たことがある。
 その存在も実体がなく、波長が合う人にしか見えていなかった。
 大型ターミナル駅近くにある、ガードレールに腰を掛け道行く人を眺めていたときに見かけたその存在。見えない人は気にせずすり抜け、見える人はぶつからないよう避けて歩いていた。
 ヒトの姿をしていたけれど、本来は違う見た目なのだろうな、と思った。
 肩に乗っている、犬のような猫のような、一瞬あとには鳥に見えるようなあやふやな存在が口を動かしてなにかを伝えていた。それを聞くヒト型の存在はうなずきながら街の景観を楽しんでいた。
 その存在はどうやらこの星に観光目的で来ていたようだった。
 肩に乗っているのはツアーコンダクターだったのだろう。
 波長がたまたま合ったから見えて認識できただけで、他にも見えていない存在が何かしらの目的で来訪してるんだろうなぁと思った。

 ハヤブサは宇宙を飛んでいる間、どんな存在とすれ違っただろう。
 挨拶を交わし、旅の安全を祈りあっただろうか。
 時には速さを競って競争したりしただろうか。
 目的地である星に着陸したとき、誰か出迎えてくれただろうか。
 まだ誰も出会ったことのない生命体や違う次元の存在が、宇宙のあちらこちらにきっといるはずだ。

 なんだか楽しくなって空を見上げた。四角い箱たちはもう見えない。
 ハヤブサは今日も、誰かと一緒に空を飛ぶ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幻のスロー

道端之小石
ライト文芸
 とある野球少年はプロを目指した。彼はなんとかプロになった。 体が病弱であるがために万年二軍ではあったが、度々一軍になることができた。しかし体の弱さ故に直ぐに2軍に落ち注目を集めることは叶わなかった。 そして怪我をした。彼は引退を余儀なくされた。  どんな形でもいいから、と諦め切れず野球にしがみついた。裏方として働き続け、気づけば幾十年が経っていた。 すっかり老けた彼が珍しく酒を飲んだことによって物語は始まる。 これは元病弱の野球少年がエースを目指してやり直す物語。 注)筆者は野球に詳しいわけではありません。そこのところご了承ください。 物理法則なんかもネットからの聞き齧りです。 超次元野球ではありませんが、オーラとかが見える可能性があります。 企業名やら団体名やら人物名はフィクションです。実際に存在するような色々とは関係ございません。 人物名は基本ランダム……企業とか団体名はそれっぽいのを適当に書いています。 感想を貰えると筆者のやる気が出ます。

今夜、夢枕を喰らう

Maybetrue Books
ライト文芸
大学に馴染めず中退した主人公エナ。 返済しなければいけない莫大な奨学金に悩みつつも一日のほとんどを眠りについやす日々。 そんなある日、エナは夢を売るバイトをはじめる。 毎晩小舟に乗り彼女は夢の中にくりだすようになる。そして、とある地下室でランタンを灯しながら歩いていると一人の青年と出会う。 彼女は夢の中で様々な体験をし、心の成長を感じる。恋と友情の狭間のボーイミーツガールストーリー。

心を焦がし愛し愛され

しらかわからし
ライト文芸
合コンで出会った二人。 歩んできた人生は全く違っていた。 共通の接点の無さから互いに興味を持ち始めた。 瑛太は杏奈の強さと時折見せる優しさの紙一重な部分に興味を持ち魅力を感じた。 杏奈は瑛太の学童の指導員という仕事で、他人の子供に対し、愛情を込めて真摯に向かっている姿に興味を持ち好きになっていった。 ヘタレな男を人生経験豊富な女性が司令塔となって自他共に幸せに導く物語です。 この物語は以前に公開させて頂きましたが、題名は一部変更し、内容は一部改稿しましたので、再度公開いたします。

劇場の紫陽花

茶野森かのこ
ライト文芸
三十路を過ぎ、役者の夢を諦めた佳世の前に現れた謎の黒猫。 劇団員時代の憧れの先輩、巽に化けた黒猫のミカは、佳世の口ずさむ歌が好きだから、もう一度、あの頃のように歌ってほしいからと、半ば強制的に佳世を夢への道へ連れ戻そうとする。 ミカと始まった共同生活、ミカの本当に思うところ、ミカが佳世を通して見ていたもの。 佳世はミカと出会った事で、もう一度、夢へ顔を上げる。そんなお話です。 現代ファンタジーで、少し恋愛要素もあります。 ★過去に書いたお話を修正しました。

小説書きのお題チャレンジ

三島
大衆娯楽
お題で書いた習作をupしていこうと思います。

ゴーストスロッター

クランキー
ライト文芸
【数万人に読まれた、超本格派パチスロ小説】 時は2004年、4号機末期。 設定を読む能力は抜群なものの、設定6に座り続けても全敗するほどの、常識では考えられないヒキ弱な主人公「夏目優司」の成長物語。 実際にあった攻略法、テクニック、勝つための立ち回りがふんだんに盛り込まれた、超本格派パチスロ小説です。

スマイリング・プリンス

上津英
ライト文芸
福岡県福岡市博多区。福岡空港近くの障害者支援施設で働く青年佐古川歩は、カレーとスマホゲー大好きのオタクだった。 ある夏、下半身不随の中途障害者の少年(鴻野尚也)に出会う。すっかり塞ぎ込んでいる尚也を笑顔にしたくて、歩は「スマイリング・プリンス」と作戦名を名付けて尚也に寄り添い始める。

海燕 ーシュルーケンー  リヒテン・ライヒ空軍記

源燕め
ライト文芸
リヒテン・ライヒと呼ばれた帝国の長い戦争。やがて戦闘機による闘いへと突き進む。  海燕ーシュルーケンーと呼ばれる爆撃機を操る、十四歳の少女ユリウス。どこまでも青い海と空に響くエンジン音。そして、投下される爆弾。  戦火の中、生きる一人の少女の物語。  「わたしは、ただ空を飛ぶのが大好きなだけなんです…」

処理中です...