日々の欠片

小海音かなた

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5/1『始まったから終わる恋』

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 人が恋に落ちる瞬間をはじめて見てしまった、という漫画の台詞を思い出した。
 たったいま俺もその場面を見たから。
 でもそれは俺が片思いしてるコが、俺じゃないやつに対して落ちた場面で……。
 誰かの恋が始まった瞬間、誰かの恋が終わる。それはどこにでもある、いつでも起こりうることで……でも俺じゃなくても良くね?
 けっこういい感じだったんだよコイツとは。今日だって一緒に買い物行ってさ、その帰りにオシャレなカフェ寄ってさ……そこの店員にそのコが一目惚れしたわけなんだけど……。
 あぁそうか、コイツ、こんな顔するんだ。初めて見たわ。なんだよ、やっぱスゲェ可愛いじゃん。その顔、俺に見せて欲しいんだけど。
「あっ、ごめん、なんだっけ」
 ボゥとながめていた視線を俺に戻してそのコが言った。
 いや別に、なにも話してないよ。というか、楽しい話できるような気分じゃないよ。
 でもそう伝えるわけにもいかなくて、「ん? なにも? メニュー見てただけ」なんてちょっとした嘘をついた。
「そ?」
 向かいの席で少しソワソワしながらメニューを開く彼女。さっきまでとは違う輝きを持った瞳。
 あー、知りたくなかったなー。
 もうこれで遊ぶの最後になったりするかな、なんて考えながらメニューを選んだ。
 甘いはずのそのケーキはなんだか味がしなくて、でも彼女は「すっごく美味しいね」って嬉しそうにはしゃいでる。
 気持ちひとつで味が変わるってのを初めて体験した。
 俺の苦い片想いはいつまで続けられるだろう。
 そんなことを思いながら、機敏に働く店員を見た。
 爽やかな笑顔で爽やかに接客するその男性を、女性客たちがチラチラ見てる。男性は誰かに特別な対応をするではなく、にこやかな笑顔を振りまきながら店内を回る。
 イケメンで仕事もできるとか、勝ち目ねーじゃん。
 って見つめていたら、その人が俺の視線に気づいてニコリと笑った。
 その笑顔を、俺は彼女とは違う意味で一生忘れないと思う。
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