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4/25『小さな鍵』(リメイク版)
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【地球】と刻印された、指先ほどの小さな鍵を拾った。そういえばあそこに謎の鍵穴あったな、と思い出し、いつも通る道を一本入って裏路地へ向かう。
「あった」
行き止まりの壁の下、アスファルトで舗装された道にある小さな穴。ともすれば見逃してしまいそうなその穴は、良く見ると鍵穴の形をしている。
鍵が入ったところで回るかわからないし、回ったところで何かが起こるわけでもないと思うが、沸き上がる好奇心は抑えらない。
地面の鍵穴に鍵を差し込み、時計回りに回してみる。途中で少しの抵抗感。そして鍵はぐるりと一周回った。
――ガチャリ――
どこからか開錠の音が聞こえた。と同時に、それまで射していた陽の光が消えた。
「え?」
足元に落ちていた影が暗闇に飲まれ、消える。慌てて空を見上げると、割れた青空の間に星空が見えた。
「えっ、えっ?」
空の隙間はじわじわと開き、夜空が広がっていく。誰かと状況を共有したいのに、周囲には人どころか虫すらいない。
いま回した鍵と、あの空の変化に因果はあるのだろうか。
どうにもできずに空を眺めていたら、
「あー! ちょっと! 勝手にダメですよ!」
背後から小さな子供の声が、明らかに自分を咎めるために飛んで来た。
声の主は漫画やアニメで見るような“中華風”の服を着た子供。どこから現れたのか……顔に怒りを滲ませながらこちらへ駆け寄って来る。
「あーあー……。一気に回すから~」
空と地面を交互に見て呆れ顔になると、壁のすぐそばにしゃがみ込んだ。
袖に隠れた指先で服越しに鍵をつまみ、半時計回りにゆっくり回転させた。鍵の動きと同調するように、開き続けていた青空がゆっくりと閉まっていく。
「……なに……それ……」
空とは逆に半開きになった口から出た言葉に反応して、子供が立ち上がった。
「拾っていただいたことには感謝いたします。ありがとうございます」若干棒読みの礼と共にペコリと頭を下げる。「ですが勝手に使用するのはちょっと……」
「す、すみません……?」
事情もわからず謝罪をしたら、子供はやれやれと言った感じでため息をついた。
「拾っていただいたお礼としてお伝えするので、いまからお話する内容は他言無用でお願いします」
やけに大人びた口調と笑顔で、子供が話を続ける。
「この鍵は天候や昼夜の管理をするものです。これは地球用で」と右手を掲げた。「これらは他の星のもの」次に左手。
袖から出た細い手首には、さっき拾った鍵と同じサイズの鍵がジャラジャラとついている。
子供は右手に持った鍵を手首の鍵束に加えた。
「そして、私はそれを司る、空の管理者です」
きょとんとする私を余所に、子供は続けた。
「キーリングがちょっと緩くなってたみたいで、落ちちゃったんですよね。見つけられず困っていたので本当に助かりました。まぁ、鍵穴の位置を知ってるとは思いませんでしたけど」
苦笑交じりのその言葉には、少しの皮肉が混じっている。
そんなに言わなくても……。
「ま、普通の地球人には見えないものなんですけどね。鍵も、鍵穴も」
「え」
私の反応に子供がニヤリと笑う。
「鍵はただの金属片に、鍵穴はたまたま空いている穴に――そういう風にできているんです」
「なにが」
「世界の~、理(ことわり)が?」
漠然とした説明に、私同様、子供も小首をかしげた。
理解の範疇を越えた話に、脳の処理がついていかない。しかし、こいつ何言ってんだ、と思わないのは、空の急激な変化を目の当たりにしてしまったからだ。
「段階を踏んで回せば、いつもみたいに陽が落ちて月が登り、月が落ちて陽が登る、という普通の変化が起きます」
その言葉に、空を見上げる。
「私と別れたあともいまのお話を覚えていられたら、あなたにも管理者の素養がありますよ」
続いた言葉に驚いて子供を見たら、ニヒルに笑っていた。
「まぁ、現世を退職なされたら会いに伺いますので、一度お話させてください」
では。と言い残して、子供はパッと消えた。その場に残ったのは、煌めくダイヤモンドダスト。
夢か、はたまた現実か。真相はわからないが、どちらにせよ眩暈がしそうだ。
ゆっくりと歩を進めて足元を見ると、鍵穴はまだ、そこにあった。
そこに、見えている。
「素養……」
口から出た言葉は、先ほどまでの出来事を覚えている証拠だ。
とりあえず、現世での役目を終えたあとの仕事は確保できたようだ。
仕事をしないと生きていけない世界なのかわからない……いや、多分もう、そこでは生きてはいないだろうけど。
ブラック企業じゃないといいな、なんて考えながら歩くいつもの見慣れた帰り道が、少し違って見えているような気がした。
……ただの気のせいかもしれない。
「あった」
行き止まりの壁の下、アスファルトで舗装された道にある小さな穴。ともすれば見逃してしまいそうなその穴は、良く見ると鍵穴の形をしている。
鍵が入ったところで回るかわからないし、回ったところで何かが起こるわけでもないと思うが、沸き上がる好奇心は抑えらない。
地面の鍵穴に鍵を差し込み、時計回りに回してみる。途中で少しの抵抗感。そして鍵はぐるりと一周回った。
――ガチャリ――
どこからか開錠の音が聞こえた。と同時に、それまで射していた陽の光が消えた。
「え?」
足元に落ちていた影が暗闇に飲まれ、消える。慌てて空を見上げると、割れた青空の間に星空が見えた。
「えっ、えっ?」
空の隙間はじわじわと開き、夜空が広がっていく。誰かと状況を共有したいのに、周囲には人どころか虫すらいない。
いま回した鍵と、あの空の変化に因果はあるのだろうか。
どうにもできずに空を眺めていたら、
「あー! ちょっと! 勝手にダメですよ!」
背後から小さな子供の声が、明らかに自分を咎めるために飛んで来た。
声の主は漫画やアニメで見るような“中華風”の服を着た子供。どこから現れたのか……顔に怒りを滲ませながらこちらへ駆け寄って来る。
「あーあー……。一気に回すから~」
空と地面を交互に見て呆れ顔になると、壁のすぐそばにしゃがみ込んだ。
袖に隠れた指先で服越しに鍵をつまみ、半時計回りにゆっくり回転させた。鍵の動きと同調するように、開き続けていた青空がゆっくりと閉まっていく。
「……なに……それ……」
空とは逆に半開きになった口から出た言葉に反応して、子供が立ち上がった。
「拾っていただいたことには感謝いたします。ありがとうございます」若干棒読みの礼と共にペコリと頭を下げる。「ですが勝手に使用するのはちょっと……」
「す、すみません……?」
事情もわからず謝罪をしたら、子供はやれやれと言った感じでため息をついた。
「拾っていただいたお礼としてお伝えするので、いまからお話する内容は他言無用でお願いします」
やけに大人びた口調と笑顔で、子供が話を続ける。
「この鍵は天候や昼夜の管理をするものです。これは地球用で」と右手を掲げた。「これらは他の星のもの」次に左手。
袖から出た細い手首には、さっき拾った鍵と同じサイズの鍵がジャラジャラとついている。
子供は右手に持った鍵を手首の鍵束に加えた。
「そして、私はそれを司る、空の管理者です」
きょとんとする私を余所に、子供は続けた。
「キーリングがちょっと緩くなってたみたいで、落ちちゃったんですよね。見つけられず困っていたので本当に助かりました。まぁ、鍵穴の位置を知ってるとは思いませんでしたけど」
苦笑交じりのその言葉には、少しの皮肉が混じっている。
そんなに言わなくても……。
「ま、普通の地球人には見えないものなんですけどね。鍵も、鍵穴も」
「え」
私の反応に子供がニヤリと笑う。
「鍵はただの金属片に、鍵穴はたまたま空いている穴に――そういう風にできているんです」
「なにが」
「世界の~、理(ことわり)が?」
漠然とした説明に、私同様、子供も小首をかしげた。
理解の範疇を越えた話に、脳の処理がついていかない。しかし、こいつ何言ってんだ、と思わないのは、空の急激な変化を目の当たりにしてしまったからだ。
「段階を踏んで回せば、いつもみたいに陽が落ちて月が登り、月が落ちて陽が登る、という普通の変化が起きます」
その言葉に、空を見上げる。
「私と別れたあともいまのお話を覚えていられたら、あなたにも管理者の素養がありますよ」
続いた言葉に驚いて子供を見たら、ニヒルに笑っていた。
「まぁ、現世を退職なされたら会いに伺いますので、一度お話させてください」
では。と言い残して、子供はパッと消えた。その場に残ったのは、煌めくダイヤモンドダスト。
夢か、はたまた現実か。真相はわからないが、どちらにせよ眩暈がしそうだ。
ゆっくりと歩を進めて足元を見ると、鍵穴はまだ、そこにあった。
そこに、見えている。
「素養……」
口から出た言葉は、先ほどまでの出来事を覚えている証拠だ。
とりあえず、現世での役目を終えたあとの仕事は確保できたようだ。
仕事をしないと生きていけない世界なのかわからない……いや、多分もう、そこでは生きてはいないだろうけど。
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……ただの気のせいかもしれない。
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