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Chapter.111

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 警察による周囲の見回りとマンションのセキュリティが強化され、警戒レベルを下げた状態で付いていた護衛も、ようやく任務完了となった。
 身の回りも落ち着き、攷斗は少しずつ出社勤務するようになった。ひぃなもそれを薦めた。
 堀河との相談で、ひぃなも職場復帰を果す。
 一部の社員しか事情を知らないので、大げさに気を遣われることもなく無事復帰初日の業務を終える。
 休養前に移動した席の配置はそのままだが、誰かにガードしてもらっていたほうが気持ちが安定するので、そのままにしてもらった。
 攷斗の送迎はしばらくの間続いたが、ほどなくして繁忙期に入ったのでそれも難しくなってしまった。
 湖池と紙尾が同じ沿線に引っ越したので、途中まで一緒に帰ることが多くなった。二人ともひぃなの事情や結婚相手のことを知っているので、もう黙っていなければいけないことはさしてない。
 そろそろ籍を入れるそうで、その保証人は棚井夫婦が務めることになっている。
 自宅の最寄り駅で「また明日」と挨拶を交わし、先にひぃなが降りる。
 引っ越してきてから、そろそろ一年。通勤経路も近道を見つけるほどに通い慣れたその道を、ひぃなが一人、歩く。
(早いなー)
 湖池と紙尾の婚姻届の保証人や式でのスピーチを引き受けはしたものの、少しの後ろめたさもある。攷斗とひぃなが仮初めの夫妻だということを、彼らは知らない。
 いつまでもつきまとう“(仮)”の単語が、自然に消えることはない。
(結婚記念日……)
 ひぃなの誕生日でもあるその日。共有のスケジューラーの攷斗欄には仕事の予定が入力されている。開始時間は早朝、終了時間は翌日の夜半。前後一週間の予定も似たようなもので、現在も同様の日がちらほらある。
 出勤や帰宅時間も当日の業務進捗によるようなので、攷斗の予定は当日にならないとわからない。
(どうしよう……)
 これまでの癖で「ただいまー」と声をかけるが、それにおかえりと答える声はない。当たり前だが、やはり寂しい。
 今日も帰りの遅い攷斗を待つが、ひぃなの就寝時間になってしまった。
 そんな日々を繰り返しているうちに、“その日”はやってきた。
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