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Chapter.42

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「さっき言ったのもそうだけど、煮物とかも食べたいな。あと、ひなの得意なやつがあるならそれで」
「得意…かどうかは不安ですが、作り慣れてるものならいくつか」
「うん。それも食べたい。食費とかも出すから、気にしないでいいからね」
 夫婦なら当たり前なのかもしれないが、生活費が完全に攷斗頼りなのは気が引ける。
「いいよ、自分の分は出すよ」
 一緒に食事に行ったとき、ひぃなに良く言われるその言葉。先輩とはいえ気のある女性に金を出させたくない、という男のプライドは譲れない。
 何度か断るうちに言葉は出なくなったが財布は毎回出てくるので、そっと手で押し戻す。その攻防は、最初に勃発してから十年近く経ついまでも続いている。婚姻関係を結んだあとでも言われるのは予想外だった。
「二人分の食材をまとめて買うのにどうするの。俺のが絶対多く食べるよ? 使った分グラムで割って、一人分に換算するの?」
「う」
 そんなレシピ本や料理番組のようなことは、面倒で出来ない。
「よし、帰ったらまずそのへんのルール決めよう。今日はとりあえず俺に出させてよ。引っ越し祝い」
 そのお祝いをもらっていい引っ越しなのかは疑問だが、一番しっくりくる理由なので甘んじて受け入れることにする。
「わかりました。ありがとう」
「うん。二人で食べるもの以外にも、なにか欲しいものあったら入れてね」
「あ、じゃあ、あとで飲料コーナー寄りたい」
「うん、オッケー。近いし、一旦調味料コーナー見るか」
 カートを押しながら陳列棚を眺める攷斗が
「あ、ねぇ、これは?」
 と、調味料コーナーの一角を指した。そこには、少々割高ではあるが、比較的日持ちのする小分けパックの調味料が各種並んでいる。
 余らせてダメにするよりはいいし、お弁当にも活用出来るしで、アリかもしれない。
「そうだね。これにしようかな」
 保存が可能な砂糖や塩は小分けされていない袋の物を選び、その他の基本的な調味料もかごに入れていく。
「おっけー?」
「うん」
「じゃあ次は食材かな。あ、小麦粉とかパン粉とかは確実にないから、必要なら買おう」
「そっか、了解」
 必要な食材類がパッと浮かばず、スマホのレシピアプリを立ち上げる。ちゃんと行動で返していかないと、と思いながら、攷斗が移動の車内で言っていた食べたい料理の個別レシピをいくつか【お気に入り】に入れた。
「先に飲料コーナー行こうか。その間にゆっくり考えたらいいよ」
「ありがとう」
「どれがいい? ミネラルウォーターなら箱であるけど」
「うーんと、あるかな……」と紙パックのコーナーを眺める。「あ、これこれ」
 とひぃなが手にしたのは、【一日分の鉄分配合】とパッケージに書かれたヨーグルト飲料だ。消費期限を確認して、まとめて数本かごに入れる。
「美味しいの?」
「うん、美味しいし、これ飲み始めてから貧血あんまり出なくなったんだよね」
「貧血? だったの?」
「うん。いまもたまに出ちゃうときあるかな」
「困ったらすぐ教えてね。見た目で気付けるかわかんない」
「ありがとう。そんなにしょっちゅうなるわけじゃないから、心配しないで大丈夫だよ」
「うん」
 攷斗がカートを押しながら、心配そうに眉根を寄せる。
「あ、特徴あるわ」
「え、なに?」
「吐く息が冷たかったり唇が冷たいと危ない。私の場合は」
「それは……確認して、いいもの……?」
「ん? 手の甲とか当てたらわかるよ? 棚井が嫌じゃないならだけど」
「あ。あー。そう。そうね」
 秘かに頬を染める攷斗には気付かず、ひぃなが生鮮食品売り場をじっくり眺める。
「よし。まずはー」
 と、数日分のレシピを考えながら、食材をかごに入れていった。

* * *
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