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Chapter.36

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 一緒に地下駐車場まで降りて、車に乗り込み目的地へ向かう。
「そういえば」と少し走ったところで攷斗が口を開いた。「さっき渡した鍵。あれひなのだから、持っててね」
「え。あ。そっか。うん」
 ジーンズのポケットに入れたままのそれを思い出す。そういえばさっきは攷斗が自分のキーケースに着いた鍵を使って施錠していた。
(帰ったらすぐ出そう)
 着替えた時にクローゼットにしまったジーンズを思い返す。
 忘れそうで仕方ないが、生活するのに必要なことだから大丈夫、と自分に言い聞かせてみる。でもきっと、忘れるんだろうなとも思う。
 攷斗はこの道を使い慣れているのか、特にナビも頼りにせず到着した道沿いのコインパーキングに車を停めた。
 下車して5分ほど歩いた小道にある、こぢんまりとした店に攷斗が入っていく。カウンターに座って作業をしている、あごひげを蓄えメガネをかけた、いわゆる“ガチムチ体型”の人物に
「どうも~」
 攷斗が声をかけた。
「あれ、どしたの。今日なんか商談入ってたっけ?」
「ううん、プライベート。いま大丈夫?」
「うん、大丈夫だけど」
 男は作業の手を止めて攷斗のほうを向く。しかし目線は攷斗の先に向けられている。お辞儀をしたひぃなにつられ、会釈をした。
「えっと……?」
「うちの嫁です」
 その紹介に一瞬言葉が詰まるが、
「初めまして。ひぃなです。棚井がお世話になってます」
お辞儀をしてごまかして、言葉を紡いだ。
「はい、こちらこそ……えっ? いつの間に?」
「先週」
「えぇ? 急! 急すぎない? 先月末会ったときなんも言ってなかったじゃん!」
「うん、今月頭に急に決まったから…。周りも知らない人のが多いから、これで」
と唇に人差し指を当てた。
「いや、そりゃそうでしょ。ちょっとしたニュースだよ」
「うん。なんで、正式な発表するまでは」
「わかった」
 攷斗の後ろで二人のやりとりを見ていたひぃなを、攷斗が振り返る。
「この人はジュエリーデザイナーの井周イシュウさん。うちのショーのときとかにお世話になってる方」
「初めまして」
 紹介されて、井周がお辞儀をする。だいぶと時差だ。
「…で? 今日は…?」
「作ってほしいものがあって」
 と、バッグからスケッチブックを取り出し、
「完成図、まだ内緒なんで」
 ひぃなを見やる。
「あぁ、はい」
 心得たといった顔でスケッチブックを受け取って
「細かいこと詰めたいから、裏いい?」
 カウンターの後方にあるバックヤードを指さした。
「うん。ひな、待っててもらっていい?」
「いい、けど……」
 オープン状態の店に、勝手知らぬ自分だけがいていいものかと井周に視線を送る。
「あ。表の看板、クローズにしてきます」
「すみません」
「大丈夫です。旦那さんからたんまりいただくんで」
 井周がニヤリと笑い、ドアを開けて看板を裏返して店内に戻ってきた。
「良ければ椅子、どうぞ」
「ありがとうございます」
 それまで自分が座っていたカウンターの椅子をひぃなに薦め、攷斗と連れだって井周がバックヤードへ移動した。
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