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俺の輝かしい学校生活はもうすぐ完成する
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「おはようメイトン!今日も大人気ですなっ」
教室に入ると早々に人だかりが出来た。今朝の夢での景色と完全に一致していて、腹の辺りがむずがゆい。
「おはよう早紀、みんなもおはよう」
内心は顔には出さず、笑顔でクラスメイトを確認する。見慣れた顔ぶれ、見飽きた顔ぶれ。こいつら一人一人は俺を照らすスポットライトにすぎない。俺を襲うなんてそんな大それたこと出来ないだろう。だが、会話まで同じとなると予知夢だったのではと疑いたくなる。
「ねえ、サキとメイトって付き合ってるの~」
おいおい、それはまずい。
万が一にもこのまま夢を辿った場合、無事ではいられない。何よりも俺の輝かしい学校生活が脅かされる。
「えっ?私と?いや~そんなことはないんだけどな~そう見えちゃう?」
何か夢とは違う行動を取らなければ……だが、あまり強い口調で否定するのはいつもにこやかメイト君のキャラを崩しかねない。
「絶対今の反応嘘だって~」
「え~砂上君、付き合ってるんだ」
俺のキャラを崩してでもはっきりと否定するか?
いや、リスクが大きすぎる。
群衆の外に目を向ける。クラスの中心である俺に寄ってこない愚か者は、他人に興味のないぼっちか、あるいは―――
教室の奥の席に座る女の子と目が合った。そいつは俺に気づくと、柔らかな笑みで手を振ってきた。優し気なたれ目と愛らしくぷっくりとした唇は校内中の男たちを魅了してきた。
「メイトン、どこ見てるの?…ってアマミー?……見つめあう二人何だか怪しいですなー」
「天峯?サキといういい女がいながら、他の女に手を出すんだ~」
「鳴斗お前いつそんなに天峯さんと仲良くなったんだよ。羨ましいぜチクショー」
ガヤの話題が変わる。こいつらは俺に近づけさえすればいいと思ってるから会話の内容なんて考えちゃいない。今回に限っては、そのおかげで夢の通りにならなくてほっとしているが。
「同じ委員長だから喋る機会が多かったってだけだよ。別に天峯さんとは何もないから」
天峯梨桜、校内一の美少女だ。見た目もさることながら口調、仕草、性格、そのどれもが男心をくすぶらせてたまらなくする。親しみやすいし話しかけやすいのだが、天峯に近づける生徒、とりわけ男子生徒はいない。絶妙な距離を保っているのだ。
いわゆる高嶺の花。手を伸ばすも決して届かないことは誰しもが理解している。だから、この俺が登校してきたというのに自分の席で悠々と構えていられるのだ。
「それより、一時間目は体育だったよな。そろそろ準備したほうがいいんじゃないか?」
「え~もうちょっといいじゃん。メイトったら真面目すぎ~」
「はいはい、また遅れると海パンゴリラに怒鳴られるぞ」
生徒が密かに海パンゴリラと呼んでいる体育教師は、誰かが少しでも遅刻しようものなら連帯責任でクラス全員の授業がまるまるお説教に変わる。
「う~んそれは勘弁。最悪サキが倒しちゃえばいいんじゃない?」
「いや~、さすがにそれは無理無理」
女子の着替え場所は別教室なので、ぞろぞろとクラスから出ていく。最後尾にいた天峯とすれ違うとき、先程と同じ笑みで俺に、口パクでありがとう、と伝えてきた。
委員長の仕事とはいえ、俺の取り巻きでも最もうるさい麻田を筆頭に話を聞かない連中に、教室を移動しろ、と言うのは厄介だ。それこそ俺のように手なずけていないと、毎度毎度疲れるだろう。
俺も先程と同じ笑みを返した。
高嶺で堂々と咲き誇る一輪の花、天峯梨桜、お前をこの汚らしい荒野に引きずり下ろす。そうすれば、俺はついに名実ともに校内で一番モテるという称号を得られる。お前が俺の取り巻きに加われば、もう俺はこの学校を手に入れたと言っても過言ではないのだから。
俺の取り巻きが俺ではなくお前に話しかけに行くのを見る度、苦汁の飲んで我慢した。反吐の出そうな委員長をしてまで近づいた。だが、それももう終わりだ。俺は、山頂が目前のところまで来た。
あと少し…あと少しで俺の理想に届く。
*
砂上鳴斗を選んだ私の目は間違えていなかった。
無意識に彼女たちをたぶらかし、魅了し、ある種の蜜を持っているのだろう。これほどまでに条件が揃った人間はいない。
彼自身は気づいてすらいないが、甘い蜜に引き寄せられて、刺激的な毒を潜ませた蜂たちが集まってきているのだ。
あと一歩で私の夢は実現する。
どうなるかなんて私自身にもわからない、だけど、これだけ入念に準備したのだから、きっと楽しいことになるはず。
後は彼が引き金を引くだけ。
それで、全てが始まる。
教室に入ると早々に人だかりが出来た。今朝の夢での景色と完全に一致していて、腹の辺りがむずがゆい。
「おはよう早紀、みんなもおはよう」
内心は顔には出さず、笑顔でクラスメイトを確認する。見慣れた顔ぶれ、見飽きた顔ぶれ。こいつら一人一人は俺を照らすスポットライトにすぎない。俺を襲うなんてそんな大それたこと出来ないだろう。だが、会話まで同じとなると予知夢だったのではと疑いたくなる。
「ねえ、サキとメイトって付き合ってるの~」
おいおい、それはまずい。
万が一にもこのまま夢を辿った場合、無事ではいられない。何よりも俺の輝かしい学校生活が脅かされる。
「えっ?私と?いや~そんなことはないんだけどな~そう見えちゃう?」
何か夢とは違う行動を取らなければ……だが、あまり強い口調で否定するのはいつもにこやかメイト君のキャラを崩しかねない。
「絶対今の反応嘘だって~」
「え~砂上君、付き合ってるんだ」
俺のキャラを崩してでもはっきりと否定するか?
いや、リスクが大きすぎる。
群衆の外に目を向ける。クラスの中心である俺に寄ってこない愚か者は、他人に興味のないぼっちか、あるいは―――
教室の奥の席に座る女の子と目が合った。そいつは俺に気づくと、柔らかな笑みで手を振ってきた。優し気なたれ目と愛らしくぷっくりとした唇は校内中の男たちを魅了してきた。
「メイトン、どこ見てるの?…ってアマミー?……見つめあう二人何だか怪しいですなー」
「天峯?サキといういい女がいながら、他の女に手を出すんだ~」
「鳴斗お前いつそんなに天峯さんと仲良くなったんだよ。羨ましいぜチクショー」
ガヤの話題が変わる。こいつらは俺に近づけさえすればいいと思ってるから会話の内容なんて考えちゃいない。今回に限っては、そのおかげで夢の通りにならなくてほっとしているが。
「同じ委員長だから喋る機会が多かったってだけだよ。別に天峯さんとは何もないから」
天峯梨桜、校内一の美少女だ。見た目もさることながら口調、仕草、性格、そのどれもが男心をくすぶらせてたまらなくする。親しみやすいし話しかけやすいのだが、天峯に近づける生徒、とりわけ男子生徒はいない。絶妙な距離を保っているのだ。
いわゆる高嶺の花。手を伸ばすも決して届かないことは誰しもが理解している。だから、この俺が登校してきたというのに自分の席で悠々と構えていられるのだ。
「それより、一時間目は体育だったよな。そろそろ準備したほうがいいんじゃないか?」
「え~もうちょっといいじゃん。メイトったら真面目すぎ~」
「はいはい、また遅れると海パンゴリラに怒鳴られるぞ」
生徒が密かに海パンゴリラと呼んでいる体育教師は、誰かが少しでも遅刻しようものなら連帯責任でクラス全員の授業がまるまるお説教に変わる。
「う~んそれは勘弁。最悪サキが倒しちゃえばいいんじゃない?」
「いや~、さすがにそれは無理無理」
女子の着替え場所は別教室なので、ぞろぞろとクラスから出ていく。最後尾にいた天峯とすれ違うとき、先程と同じ笑みで俺に、口パクでありがとう、と伝えてきた。
委員長の仕事とはいえ、俺の取り巻きでも最もうるさい麻田を筆頭に話を聞かない連中に、教室を移動しろ、と言うのは厄介だ。それこそ俺のように手なずけていないと、毎度毎度疲れるだろう。
俺も先程と同じ笑みを返した。
高嶺で堂々と咲き誇る一輪の花、天峯梨桜、お前をこの汚らしい荒野に引きずり下ろす。そうすれば、俺はついに名実ともに校内で一番モテるという称号を得られる。お前が俺の取り巻きに加われば、もう俺はこの学校を手に入れたと言っても過言ではないのだから。
俺の取り巻きが俺ではなくお前に話しかけに行くのを見る度、苦汁の飲んで我慢した。反吐の出そうな委員長をしてまで近づいた。だが、それももう終わりだ。俺は、山頂が目前のところまで来た。
あと少し…あと少しで俺の理想に届く。
*
砂上鳴斗を選んだ私の目は間違えていなかった。
無意識に彼女たちをたぶらかし、魅了し、ある種の蜜を持っているのだろう。これほどまでに条件が揃った人間はいない。
彼自身は気づいてすらいないが、甘い蜜に引き寄せられて、刺激的な毒を潜ませた蜂たちが集まってきているのだ。
あと一歩で私の夢は実現する。
どうなるかなんて私自身にもわからない、だけど、これだけ入念に準備したのだから、きっと楽しいことになるはず。
後は彼が引き金を引くだけ。
それで、全てが始まる。
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