上 下
2 / 20

俺の輝かしい学校生活はもうすぐ完成する

しおりを挟む
「おはようメイトン!今日も大人気ですなっ」

教室に入ると早々に人だかりが出来た。今朝の夢での景色と完全に一致していて、腹の辺りがむずがゆい。

「おはよう早紀、みんなもおはよう」

 内心は顔には出さず、笑顔でクラスメイトを確認する。見慣れた顔ぶれ、見飽きた顔ぶれ。こいつら一人一人は俺を照らすスポットライトにすぎない。俺を襲うなんてそんな大それたこと出来ないだろう。だが、会話まで同じとなると予知夢だったのではと疑いたくなる。

 「ねえ、サキとメイトって付き合ってるの~」

 おいおい、それはまずい。

 万が一にもこのまま夢を辿った場合、無事ではいられない。何よりも俺の輝かしい学校生活が脅かされる。

 「えっ?私と?いや~そんなことはないんだけどな~そう見えちゃう?」

 何か夢とは違う行動を取らなければ……だが、あまり強い口調で否定するのはいつもにこやかメイト君のキャラを崩しかねない。

 「絶対今の反応嘘だって~」
 「え~砂上君、付き合ってるんだ」

 俺のキャラを崩してでもはっきりと否定するか?
 いや、リスクが大きすぎる。

 群衆の外に目を向ける。クラスの中心である俺に寄ってこない愚か者は、他人に興味のないぼっちか、あるいは―――

 教室の奥の席に座る女の子と目が合った。そいつは俺に気づくと、柔らかな笑みで手を振ってきた。優し気なたれ目と愛らしくぷっくりとした唇は校内中の男たちを魅了してきた。

 「メイトン、どこ見てるの?…ってアマミー?……見つめあう二人何だか怪しいですなー」
 「天峯?サキといういい女がいながら、他の女に手を出すんだ~」
 「鳴斗お前いつそんなに天峯さんと仲良くなったんだよ。羨ましいぜチクショー」

 ガヤの話題が変わる。こいつらは俺に近づけさえすればいいと思ってるから会話の内容なんて考えちゃいない。今回に限っては、そのおかげで夢の通りにならなくてほっとしているが。

 「同じ委員長だから喋る機会が多かったってだけだよ。別に天峯さんとは何もないから」

 天峯梨桜あまみねりおう、校内一の美少女だ。見た目もさることながら口調、仕草、性格、そのどれもが男心をくすぶらせてたまらなくする。親しみやすいし話しかけやすいのだが、天峯に近づける生徒、とりわけ男子生徒はいない。絶妙な距離を保っているのだ。
 いわゆる高嶺の花。手を伸ばすも決して届かないことは誰しもが理解している。だから、この俺が登校してきたというのに自分の席で悠々と構えていられるのだ。

 「それより、一時間目は体育だったよな。そろそろ準備したほうがいいんじゃないか?」
 「え~もうちょっといいじゃん。メイトったら真面目すぎ~」
 「はいはい、また遅れると海パンゴリラに怒鳴られるぞ」

 生徒が密かに海パンゴリラと呼んでいる体育教師は、誰かが少しでも遅刻しようものなら連帯責任でクラス全員の授業がまるまるお説教に変わる。

 「う~んそれは勘弁。最悪サキが倒しちゃえばいいんじゃない?」
 「いや~、さすがにそれは無理無理」

 女子の着替え場所は別教室なので、ぞろぞろとクラスから出ていく。最後尾にいた天峯とすれ違うとき、先程と同じ笑みで俺に、口パクでありがとう、と伝えてきた。
 委員長の仕事とはいえ、俺の取り巻きでも最もうるさい麻田を筆頭に話を聞かない連中に、教室を移動しろ、と言うのは厄介だ。それこそ俺のように手なずけていないと、毎度毎度疲れるだろう。

 俺も先程と同じ笑みを返した。

 高嶺で堂々と咲き誇る一輪の花、天峯梨桜、お前をこの汚らしい荒野に引きずり下ろす。そうすれば、俺はついに名実ともに校内で一番モテるという称号を得られる。お前が俺の取り巻きに加われば、もう俺はこの学校を手に入れたと言っても過言ではないのだから。

 俺の取り巻きが俺ではなくお前に話しかけに行くのを見る度、苦汁の飲んで我慢した。反吐の出そうな委員長をしてまで近づいた。だが、それももう終わりだ。俺は、山頂が目前のところまで来た。

 あと少し…あと少しで俺の理想に届く。

       *

 砂上鳴斗を選んだ私の目は間違えていなかった。

 無意識に彼女たちをたぶらかし、魅了し、ある種の蜜を持っているのだろう。これほどまでに条件が揃った人間はいない。

 彼自身は気づいてすらいないが、甘い蜜に引き寄せられて、刺激的な毒を潜ませた蜂たちが集まってきているのだ。 

 あと一歩で私の夢は実現する。

 どうなるかなんて私自身にもわからない、だけど、これだけ入念に準備したのだから、きっと楽しいことになるはず。

 後は彼が引き金を引くだけ。 

 それで、全てが始まる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...