異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

第七章 魔法王国の動乱

キサラギと世の情け

　──アンナが副団長バルバトスを斬るすこし前

　キサラギは外周部で高周波ブレードを片手にブラックコフィンをサーフボードのように乗りこなしていた。

　ふと立ち止まり、ブラックコフィンから降りると壁に手をあてる。
　キサラギの手のひらから音波がトクゥン！　っと放たれた。

「敵影を発見しました、とキサラギはJapanese Kawaiiに報告します」
「敵影補足。演算。精密狙撃開始、1，2、3、4、5、6、7──」

　ブラックコフィンは変形すると、内蔵された大口径機関銃で壁を18回撃った。

「熱源転倒。敵影無力化」
「あっ、そういえば、あんまり城を壊してはいけないと兄様に言われていたことをキサラギは思い出しました」
「責任追及。責任割合100％でeve-streika-ikai-kisaragiのミスと断定」
「キサラギはJapanese Kawaiiの責任追及をします」
「マスターが嘘をついている可能性100％」
「適当な発言をキサラギは非難します」

　キサラギとブラックコフィンが責任のなすりつけ合いをはじめた。
　半眼になり外部デバイスを脅すキサラギ。
　絶対に譲らない浮遊墓石。

　キサラギは御手製で改造を加えたブラックコフィンの喋るモードをすこし後悔しはじめていた。

「いたぞ！　あいつが壁の向こうから攻撃してきたに違いない！」
「射撃音で位置を捕捉されたようです」
「50口径弾の残弾は」
「21。8.55mmは40」
「50口径だけを撃っていいです、とキサラギは射撃命令をだします。8.55mmはもったいないのでだめ、とキサラギは節約精神を見せます」

　8.55mm×54mm超粒子徹甲弾。それは対軍事サイボーグ用にイセカイテックが開発した新しい規格の弾。イセカイテック社の新型アサルトライフルに採用されたものだ。
　弾頭にマナニウムを埋め込むことで、マナニウムを用いた装甲へのダメージ性能を確保している。同じく魔力を元に編み込まれた鎧圧にも有効。
　キサラギはこれと50口径弾を異世界でも、御手製で製造できるようになったが、8.55mmに関してはアーカムの作る魔力結晶がないと作れないため、すこし貴重になるのである。

　銃弾を掃射され、騎士たちの肩が砕け散っていく。
　剣気圧のないフルプレートアーマーでは、50口径弾の威力から身を守ることは出来ない。

　ブラックコフィンが弾切れを起こせば、キサラギは高周波ブレードで向かってくる騎士を斬り捨てた。高周波の流れるマナニウム超合金の刀身は世界最高の原子間結合を誇り、この刃で斬られる物質は接触時に原子間結合が綻ぶため、超高振動するマナニウム超合金製の刃はフルプレートアーマーごとたやすく騎士たちを両断するのだ。
　
「悪魔だ……ッ、強すぎる！」
「やつはいったい、なんだ、あの剣は……！」

　すべてが未知。
　高周波の刀が騎士の直剣を断ち切り胴体を水平に両断したあたりで、騎士たちは完全に戦意を喪失した。

　17名が壁越しに膝を狙撃され杖無しでは二度と歩けなくなり、21名が右肩を撃ち抜かれ腕を吹っ飛ばされ剣を振れなくなり、45名が物理学的超刀によって利き腕を切断され騎士生命を絶たれた。

「キサラギはJapanese Kawaiiに乗り、圧倒的追撃を開始します。レボリューションです」

　言いながらブラックコフィンに乗ったキサラギは波乗りしながら外周の騎士を無力化した。

　キサラギは心優しきマナニューロAIだ。
　ドラゴンとの邂逅で世の情けを知った彼女は命こそ奪いはしない。
　とはいえ、彼女が敵にとって悪魔的なのは変わらない。
　そのため、わずか10分で被害は最大化し、四肢のいずれかを失い、戦闘能力を失った騎士は621名にまで上ることになった。