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クロガネ隊:積みあげる大切さ
しおりを挟む憲兵隊に連行され、はやいもので3日。
大剣使いバルドロー、双剣使いゴルドゥ、風魔法使いバネッサは、ようやく留置所から解放された。
「うぅ、やっとお日様の下に出てこられたわ!」
バネッサは両手を擦り合わさて、天に感謝した。
「俺たちの物語がここから始まる!」
ゴルドゥは汚れた顔をぬぐい、宣言する。
「サムス、ぶち殺してやる……っ!」
バルドローは報復を誓った。
客観的に正当性はないものだが、それでも彼の頭のなかには憎き雑用係への復讐、それしかない。
「サムスの家に乗り込むぞ!」
「そうね、あの顔だけが取り柄のクソカス陰キャ童貞、きっとビクビクして家に引きこもってるに違いないわ!」
「んじゃ、いくか!」
『クロガネ隊』はサムスの家、アルドレア家に乗り込むことにした。
──彼らの頭から、アルドレアが貴族家なのは完全に抜け落ちている
アルドレア家にたどり着いた一行。
彼らは燃え尽きたアルドレア家の屋敷を見て唖然とし、近くにいた市民から数日前に火事があったことを聞かされた。
「翌朝にはこう、地面がドカーンってなって。そりゃもうすごい騒ぎだったさ」
バルドローとゴルドゥ、バネッサの3人はお互いに顔を見合わせた。
「はははーっ! サムスに天罰がくだったんだな!」
「死ーんだ、死ーんだ、サムスが死んだ!」
「イキり陰キャ童貞クソカス雑用係が調子に乗るからこうなるんだ! 天はやっぱり俺たちを見捨ててなかったんだぜ!」
踊りだす3人は、サムスの死を盛大にお祝いするべく歩きだす。今夜は焼肉だ。
「そういえば、アルドレアの生き残りの兄ちゃんがいたっけな」
市民のつぶやきに、お祭りモードの3人は肩を震わせて立ち止まる。
「すぐにどっかいっちまったせいで、領地は大変らしいが」
「おい、てめぇ! まさか、裏切り者のサムスがまだ生きてるって言ったのか?!」
大剣使いバルドローは、バスターソードに手をかけて市民を脅す。
「そうだそうだ、サムス。そんな名前だったな~」
「くっそぉお! あのクズ貴族まだ生きてんのかよ!」
「裏切り者には死を……バルドロー、ゴルドゥ、わたしたちであの人間のクズに正義の鉄槌をくだすわよ」
「ああ、賛成だ。おい、サムスがどこ言ったか知ってるか?」
「さあ、なんとも。そこまでは知らないさ」
市民は歩き去っていった。
3人はそれぞれ、サムス・アルドレアの足取りを追うべく調査を開始した。
めっきり姿を消してしまったこと。
ここ数日は誰もサムスを見てないこと。
この事から3人はサムスが既にカーボンシティにはいないと見当をつけるに至る。
「ごくり……行ってくる」
大剣使いバルドローは緊張した面持ちで、冒険者ギルドの扉を開けた。
冒険者であるサムスの足取りを追うには、ここに来るのが手っ取り早く、確実だと考えたためだ。
「今度は何しに来たんですか」
「ぎくっ」
背後から聞こえた声に、バルドローは縮みあがった。
そこに立っていたのは、両手いっぱいに書類を抱える受付嬢だ。
冷めた眼差しで、バルドローをいちべつし「そこどいてくれます?」と突き放すように言って、受付カウンターへと入っていく。
「おい、裏切り者サムスがどこへ行ったか知らないか」
「誰ですか、それ。意味不明なんで、わかるように言ってください」
バルドローは歯がみしながらも、声を荒げない。
あのガーディアンが恐くてたまらないからだ。
「『クロガネ隊』の雑用係サムス・アルドレアだ。あいつがどこにいるか知らないかって聞いてんだ!」
ビビりながら、机をガシガシ叩くバルドローに、受付嬢は興味なさそうに告げる。
「ああ…彼…気の良いサムスさんですね。大方、あなた方は喧嘩別れしたんだと邪推します。その経緯から言って、わたしはあなたにサムスさんの情報を教えたくないです」
「は? て、てめえ、何言ってやがる……! 冒険者の要望に沿うのがてめぇらみたいな書類いじるだけの、誰にでもできる仕事をやるメスの簡単な役目だろーが!」
バルドローの言葉に、冒険者ギルドは静まりかえった。
何事だと動揺するバルドローは、きょろきょろとあたりを見渡す。
受付嬢は涼しげな声で喋る。
「誰にでも出来る仕事が簡単とは限らないですよ。それこそ、信用・信頼といったモノは才能がなくても、誰にだって積みあげる事はできます。では、聞きましょう──あなたは積み上げてきたんですか?」
受付嬢の言葉を皮切りに、酒場で酔っ払っていた荒くれ者の冒険者たちが立ちあがる。
「てめえ、受付嬢舐めてんじゃねえーぞ!?」
「どつき回すぞゴラァアアッ!」
「俺たちみてぇな汚え男どもに、いつだって氷の笑顔と、たまに見せる素の笑顔のギャップ萌えを提供してくれる女神だろおおがァァァァァア!」
「殺すぞ、ど新人。いや、決めた、もう殺すぜ、どクズ」
大剣使いバルドローは、気性の荒くなった冒険者たちにさらわれて表へと追い出されていった。
受付嬢は彼らの背中を見ながら、バルドローとサムスの違いをつげる。
「少なくとも、サムスさんは積みあげて来ましたよ」
その後、冒険者ギルドまえでは目も当てられない集団リンチが行われた。
自分よりも上位の冒険者たちに囲まれ、バルドローは拳による制裁を存分に味わうことになった。
「いい加減にしやがれ、クソ野郎」
「もう一度、面見せてみろ、次は殺すぜ」
「ぁ、ぁ、ぅぐ……」
虫の息のバルドローへ、唾を吐き掛け、リンチ隊は「飲み直すぞー!」と言いながら冒険者ギルドへ戻っていく。
「ば、バルドロー? 死んでない?」
「おい、バルドロー、バルドロー」
遠巻きからリンチ現場を眺めていたバネッサとゴルドゥは、不安そうにバルドローに近寄る。
まだ生きているとわかると、2人はバルドローを運んだ。
「わたしたち、もうこの街にいられないわ……」
「今日中に荷造りして宿屋をでるしかねぇな」
ゴルドゥとバネッサは、なけなしの銀貨で買った治癒ポーションでバルドローの顔をまだ見れる状態に治していく。
治癒ポーションを使い終わると、バルドローは目を見開き起きあがった。
「許さなねえ、これも全部サムスのせいに違いねえ」
「バルドロー! よかった生きてたか!」
「やったわ、バルドロー復活ね!」
大喜びするゴルドゥとバネッサに、バルドローは上機嫌だった。
「ん、なんじゃ、もう良いんかい。元気なったんたら出て行っておくれよ」
小屋の中、老人は厄介払いするようにバルドローたちに告げた。
3人はこの老人の厚意で、彼の所有する馬小屋に一時避難させてもらっていたのだ。
「ありがと、おじいさん♡」
バネッサが可愛らしい顔で、ウィンクする。
すると老人は顔を強烈にしかめた。
「おぬし、それはあんまりやらない方がええのぉ……。下手なビジネススマイルほど見てられないモノはないわい」
「な、なな、なんて失礼なジジイなの!」
「一瞬で化けの皮が剥がれたわい。ここまで来ると虚しいばかりじゃのお」
暴れ出しそうになるバネッサをゴルドゥがおさえる。
「ん、そういえば、じいさん、あんたは馬を売ってんのか」
「そうじゃ。これはワシ自慢の馬たちじゃ。近くの草原で人が乗れるよう訓練しとるし、餌にもこだわりを持っとるからすこぶる質が良いぞお~」
バルドローは顎に手をあてて考える。
「なあ、じいさん、この小屋にわりと綺麗めな蒼銀髪をした、ひょろっちいこんくらいの背丈の男がやって来なかったか?」
「あー、少し前に来たのお。なんでもずっと、南にある″チタン村″とやらを目指すとか言っておったわい」
「ほう。その話詳しく聞かせもらおうか」
バルドローはニヤリと笑みを深めた。
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