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師匠の想い 前編

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 ──転生から1年1ヶ月が経過した

 師匠が家庭教師をはじめてからひと月がたった。

 俺は《ホット》を使った火属性式魔術の再現は実に順調に進んでおり、なんと第一式の炎魔術の約9割を再現可能となっている。

 つまるところ俺はもう『炎の魔術師』を名乗ってよいと言われたのだ。

 一日1万回のホットも継続している。
 ホットの火力は順調に伸びてきている。

 そろそろ、止まった人間なら発火させられるくらいの実力はついてきた。
 暗殺ならば出来るかもしれない。

「ヘンドリック、今日はなにしているのですか?」
「ふふ、驚きたまへよ、フクロウくん。これはすごい発明なんだ」

 夕ごはん後。俺は自室でチャームを4つ掛け合わせて作った『ハイパーチャーム』なる違法チューニングな魔導具を自作していた。

 アルカマジとの国交が盛んになって来ているので、欲しい魔導具をカリーナにいえば、数週間後には手元に届くのだ。
 そのため、チャーム3つくらいなら簡単に集めることができた。

「ヘンドリック、私から付けろと言っておいてなんなのですけど、そんなに身につけて平気なんでしょうか? ちょっと心配です……」

 止まり木のラテナは「ふくぅ」と心配そうな声をもらした。

「精神力は日々、成長してる。これも無茶なノルマのおかげだ。ほら大丈夫だよ」

 4つのチャームを手首につけてみて、平気なことをアピールする。

「流石は女神も認める英雄ですね。転生させた私も鼻が高いです」

 ラテナはフクロウ胸をはって、自慢げに喉を鳴らした。彼女の好きな眉間を指でなでてあげる。

 チャームは通常なら魔術の発動を補助するアイテムだが、俺にとってはホットの変化技を使いやすくさせるためのアイテムだ。

 こいつのおかげで俺は魔術師を名乗れるようになったと言っても過言ではない。

「できた」

 ハイパーチャームを、手首に巻きつける。
 脳内の思考領域が拡張された感覚を得た。

 ふふ、これは実に楽しい体験だな。

 と、その時。
 部屋の扉がガチャリと開いた。

「お兄ちゃん、お風呂あがったよー!」

 風呂上りのほかほかセレーナが順番をつたえて、俺のもとへ飛びこんできた。
 やさしく抱きとめて、頭に口づけしてやると「えへへ! おやすみ~!」と恥ずかしそうに、されど嬉しそうに、キャピキャピ言いながら、元気に自分の部屋へ戻っていった。

「ヘンドリック」
「ん、どうした、ラテナ」
「セレーナちゃんだけでいいんですか?」

 ラテナがジトーッとした光無き眼差しをむけてくる。猛禽類の鋭い視線は、返答を間違えれば襲われそうな雰囲気をもっている。

 俺は生唾を飲みこみ慎重に言葉を選んだ。

 ラテナは不機嫌だ。
 その理由はひとつ。
 スキンシップ不足だろう。

「よーしよしよし」

 ラテナの羽毛をわしわし撫でる。
 すると、彼女はそれそれーっと言わんばかりに胸に飛び込んできた。
 可愛らしい声で「ふくふく~♡」といって腕のなかで翼をちいさくバタつかせてくる。

 どうやらセレーナを再現してるらしい。
 俺とラテナはお互いが大好きなので、たまにこういう事するのだ。

「ふくふく~、ほら、愛らしいフクロウが甘えています! これはチャンス以外の何物でもない模様なのですよ!」

 俺はラテナをやんわり抱きしめて、ふわっふわに羽毛に口づけしてモフらせてもらう。

 ラテナはご満悦の様子で「よく出来ました、ふくふく♪」と止まり木にとまった。
 
「じゃ、お風呂入ってくる」
「ゆっくりして来るのですよ」

 ハイパーチャームをつけ俺は部屋を出た。

「風呂風呂っと。あとちょっとで二式もコンプリートできるぞっと」

 先日、剣術のほうでも『即撃』を修めて、ウィリアムから銀狼流一段をもらった。

 これで3つある剣術流派のうち、ふたつは有段者の肩書きを名乗れる。

 最近の俺は調子がすこぶる良いな。


 ──しばらく後


 風呂場で、火属性式魔術の練習していたせいで、そうとうな長風呂になってしまった。

 はやく部屋に戻らないと。

 俺は暗い廊下をはしる。

「むむ? なにやら音が」

 部屋への途中、妙な音が聞こえてきた。
 両親の部屋のまえを通りかかった瞬間だ。

 ベッドのきしむ……いやらしい音だ。

「この音はまさか……」

 耳を澄ますのをやめて、ため息をつく。
 俺は奴隷時代に、複数の奴隷をすしずめにした奴隷小屋のなかで過ごしていたので知っている。

 夜になると男、特に大人の奴隷たちは小屋のなかの、女奴隷たちに覆いかぶさり、組みふせて性欲をしずめるのだ。

 俺みたいなガキたちはすみっこに固まって、ただ夜な夜な無理に股を広げさせられる女性たちを無視することしかできなかった。

 雑用係になってからは、ウィリアムが俺にいろいろと教えてくれた。セックスとかいう名称がついている行為で、生きていると自然としたくなるんだという。

 俺の両親、浮雲夫妻。
 カリーナとウィリアムは20代だ。
 まだまだ若く、精力にみなぎっている。

 子供が寝静まった夜に、一日中楽しみにしてた行為におよぶのは至極当然だろう。

 だから、美人な母親の「ウィル、だめ…っ、もうっ、私……んんっ!」という声が聞こえてくるのも、旺盛な父親の「ほら、奥までつっこむぞ、カリーナッ!」という勇ましい声が聞こえてくるのも仕方がない。
 
「ウィル、ウィル……っ、だめだって、声が、もれちゃう……っ」
「まだまだこれから、へへへ♪」

 ウィリアムにはすこし黙っていて欲しい。

「寝るか」

 俺は両親の現場などみたくはなかったので、さっさと寝ることにした。

「明日も早いからな。……ん」

 暗い廊下の途中で、俺はソイツの存在に気がつき思わず物陰にかくれた。

 それは、行為中の両親の部屋のまえに、″見知らぬ人影″がいたからだ。

「はあ…はあ…落ち着け…」

 早くなる鼓動を押さえながら、俺はそろりと物陰から顔をだす。

 両親の部屋のまえ。
 扉の隙間からだれかが、ウィリアムとカリーナのセックスをのぞいている。

 その人物には狐色の″もふっと尻尾″がはえており、頭にも″ふわっと耳″がはえている。

 異常すぎる現場だ。
 どうしたらいいかわからない。

「あれは……」

 少し眺めていて冷静になる。

 その人物、なんか師匠に似ている、と。
 あれ、さては師匠なのでは? と。

 じーっと目を凝らす。

「ぁぁ、なるほど…」

 俺はすべてを理解した。

 どうやら俺のフォッコ師匠。
 両親のセックスをのぞき見してるらしい。

 なるほど。
 師匠はセックス知らないな。
 ふふ、俺の方が大人ではないか。
 俺はたくさん見たことあるからな。


 ──すべてが終わった頃


 夜の廊下でひとしきりのセックスの勉強をおえた師匠は、顔を真っ赤にして、そそくさと部屋へともどっていった。

 俺はその背中を見つめる。
 
 良い物見させてもらいました。
 今度、これをネタに不遜な態度を取るちみっこ師匠をこらしめてやろうか。

 邪悪な計画が頭をよぎった。
 と、同時に疑問も浮かんでくる。

「それにしても、あの尻尾と耳は……まさか、そういうことなのか?」

 俺はひとつの重大な事実に気がつき腕を組む。夜の廊下でひとり思案にふけた。

 彼女は──『獣』だ。


 


 
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