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第二十四節・未来へ向かって
第395幕・逃亡不可の英雄
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セイルと本気の勝負が終わって少し時間が経った時――。俺は相変わらずグランセストの軍勢の只中にいた。最初はシアロルとの戦争が終わったと同時にいなくなってしまおうと思っていたのだけれど、ルッセルやアルディやシグゼスに食い止められてしまった。というか、いつの間にか囲われていて……下手に動けなくなってしまった。
俺がセイルと本気で戦おうとしている間にも、既にミルティナ女王に根回しがされていて……戦いが終わってすぐに凱旋パレード。おまけにその間は英雄という事で護衛が付けられる始末だ。いくら俺でも、好意を持って接してくる相手に向かっていくようなことは出来ない。『隠蔽』を使っていなくなる……という手も実行に移そうとしたのだけれど、常時『索敵』の魔方陣を使っている者がいて、町から外に出るときは検問。おまけに警備隊は外を見回りに……と、まるで監視するみたいに広がっているのだからな。
これで俺がいなくなった日には、ミルティナ女王がどれだけの兵士を探索任務に就かせてくるか、わかったものじゃない。俺のせいで別の争いが発生されてはたまらないからな。仕方なく、ここに留まる道を選んだ……という訳だ。
「全く……もう少し自由にさせてくれないかな」
「だったらグレリアくんも逃げるような真似しなければいいのに」
俺のため息混じりの言葉に『しょうがないな』とか思っていそうな顔で、エセルカはお茶を持って来てくれた。
それを受け取って一口すすると、少し熱い液体が喉を通って身体を潤してくれる。
「そうは言ってもな。シアロルとの戦いはもう終わったんだ。これ以上、俺みたいな殺人者を祭り上げる必要もないだろうに」
「そんなことないよ。グレリアくんはやっぱり私たちの英雄だもの。誰もそんな事、思ってないよ」
エセルカが見せる穏やかな微笑みに、俺はなにも言えなくなった。俺と彼女にどういう経緯があったか、ミルティナ女王も知っているはずなんだが……いや、だからこそ、か。性格の変わった――というか元に戻ったエセルカを見る度に思い出す。もう一人の彼女が死んだ……あの日の出来事を。
「? どうかした?」
「いや、別になんでもない」
思わずジッと見ていたせいか、エセルカが少し恥ずかしそうにそんな事を聞いてきた。思わず取り繕うように顔をそむけた丁度その時……ノックの音が聞こえてきた。
「入ってくれ」
その一言に扉を開けて現れたのは……アルディだった。
「グレリアさん、お久しぶりですね」
「ああ。アルディか……。どうかしたか?」
「パレードの準備が後三日程で整いますので、そのご報告に参りました」
アルディの言葉に、こっちの方にも思わずため息が出てしまった。六日前辺りから、こうして報告してくれている。毎日こんな報告をしてこられる俺の身にもなって欲しいものだ。
……まあ、俺の監視も含んでいるのだから当然と言えば当然か。
「アルディさん、毎日律儀だよね」
「これが私の仕事ですからね」
アルディがちらりと俺の方に視線を向けて来て、にっこりと笑っていた。それだけでも彼が俺の事を監視している事が十分に伝わってくる。
「……わかった。ありがとう」
「いえ、当然の事をしたまでです。それで、グレリアさん。例の件は考えてくださいましたか?」
例の件……それは恐らく、ミルティナ女王の手紙に書かれていたことだろう。それはつまり……グランセストで初めての『貴族』になってくれないか、というものだった。
人の側にはそういう分類の者たちがいたが、ミルティナ女王は自分を頂点にして、領主や代行という存在がいるだけだったからな。これからは領地も今まで以上に広くなるし、良からぬことをたくらむ連中も増えてくる。
地方の者にだけ任せていては、いずれ揉め事になる。それならば、自らが一番信頼できる者にその土地を預けた方が良いというのが結論だったらしい。
俺としては、あまり面倒事に巻き込まないで欲しいというのが本音だ。かなり沈静化してはいるが、シアロルでの貴族とのいざこざは未だに続いている。この世界には争いが満ちていて、何が起こるかわからない。下手に身動きの出来ない地位に就かされるのは御免だと言うことだ。
「悪いが、そういう事は柄じゃない。戦い以外に何かの役に立てそうもないからな」
「……そうですか。残念ですよ」
諦めたような笑みで、アルディはそれ以上何も言わずに帰っていってしまった。
「良かったの? グレリアくんなら、立派な貴族になれたと思うのに……」
「やめてくれ。柄じゃない。それに……」
今回の騒動がきちんと終わったら、出て行くのには変わりがないからだ。平和な世の中に英雄と呼ばれる者は必要ない。戦争中は敵を殺す度に授かる名誉があるように、平和の中では誰かを殺す度に汚名に塗れる事になる。
そんな男が土地を収め、国の役に立つ? 冗談じゃない。それこそ悪趣味だと言われても仕方が無い事だ。
エセルカとはもう少し付き合う事になるだろうけれど……争いが終わったら、俺もセイルのように旅に出よう。
どこか遠くの村で……ひっそりと生を終わらせたい。
それだけが、俺の望みだった。
俺がセイルと本気で戦おうとしている間にも、既にミルティナ女王に根回しがされていて……戦いが終わってすぐに凱旋パレード。おまけにその間は英雄という事で護衛が付けられる始末だ。いくら俺でも、好意を持って接してくる相手に向かっていくようなことは出来ない。『隠蔽』を使っていなくなる……という手も実行に移そうとしたのだけれど、常時『索敵』の魔方陣を使っている者がいて、町から外に出るときは検問。おまけに警備隊は外を見回りに……と、まるで監視するみたいに広がっているのだからな。
これで俺がいなくなった日には、ミルティナ女王がどれだけの兵士を探索任務に就かせてくるか、わかったものじゃない。俺のせいで別の争いが発生されてはたまらないからな。仕方なく、ここに留まる道を選んだ……という訳だ。
「全く……もう少し自由にさせてくれないかな」
「だったらグレリアくんも逃げるような真似しなければいいのに」
俺のため息混じりの言葉に『しょうがないな』とか思っていそうな顔で、エセルカはお茶を持って来てくれた。
それを受け取って一口すすると、少し熱い液体が喉を通って身体を潤してくれる。
「そうは言ってもな。シアロルとの戦いはもう終わったんだ。これ以上、俺みたいな殺人者を祭り上げる必要もないだろうに」
「そんなことないよ。グレリアくんはやっぱり私たちの英雄だもの。誰もそんな事、思ってないよ」
エセルカが見せる穏やかな微笑みに、俺はなにも言えなくなった。俺と彼女にどういう経緯があったか、ミルティナ女王も知っているはずなんだが……いや、だからこそ、か。性格の変わった――というか元に戻ったエセルカを見る度に思い出す。もう一人の彼女が死んだ……あの日の出来事を。
「? どうかした?」
「いや、別になんでもない」
思わずジッと見ていたせいか、エセルカが少し恥ずかしそうにそんな事を聞いてきた。思わず取り繕うように顔をそむけた丁度その時……ノックの音が聞こえてきた。
「入ってくれ」
その一言に扉を開けて現れたのは……アルディだった。
「グレリアさん、お久しぶりですね」
「ああ。アルディか……。どうかしたか?」
「パレードの準備が後三日程で整いますので、そのご報告に参りました」
アルディの言葉に、こっちの方にも思わずため息が出てしまった。六日前辺りから、こうして報告してくれている。毎日こんな報告をしてこられる俺の身にもなって欲しいものだ。
……まあ、俺の監視も含んでいるのだから当然と言えば当然か。
「アルディさん、毎日律儀だよね」
「これが私の仕事ですからね」
アルディがちらりと俺の方に視線を向けて来て、にっこりと笑っていた。それだけでも彼が俺の事を監視している事が十分に伝わってくる。
「……わかった。ありがとう」
「いえ、当然の事をしたまでです。それで、グレリアさん。例の件は考えてくださいましたか?」
例の件……それは恐らく、ミルティナ女王の手紙に書かれていたことだろう。それはつまり……グランセストで初めての『貴族』になってくれないか、というものだった。
人の側にはそういう分類の者たちがいたが、ミルティナ女王は自分を頂点にして、領主や代行という存在がいるだけだったからな。これからは領地も今まで以上に広くなるし、良からぬことをたくらむ連中も増えてくる。
地方の者にだけ任せていては、いずれ揉め事になる。それならば、自らが一番信頼できる者にその土地を預けた方が良いというのが結論だったらしい。
俺としては、あまり面倒事に巻き込まないで欲しいというのが本音だ。かなり沈静化してはいるが、シアロルでの貴族とのいざこざは未だに続いている。この世界には争いが満ちていて、何が起こるかわからない。下手に身動きの出来ない地位に就かされるのは御免だと言うことだ。
「悪いが、そういう事は柄じゃない。戦い以外に何かの役に立てそうもないからな」
「……そうですか。残念ですよ」
諦めたような笑みで、アルディはそれ以上何も言わずに帰っていってしまった。
「良かったの? グレリアくんなら、立派な貴族になれたと思うのに……」
「やめてくれ。柄じゃない。それに……」
今回の騒動がきちんと終わったら、出て行くのには変わりがないからだ。平和な世の中に英雄と呼ばれる者は必要ない。戦争中は敵を殺す度に授かる名誉があるように、平和の中では誰かを殺す度に汚名に塗れる事になる。
そんな男が土地を収め、国の役に立つ? 冗談じゃない。それこそ悪趣味だと言われても仕方が無い事だ。
エセルカとはもう少し付き合う事になるだろうけれど……争いが終わったら、俺もセイルのように旅に出よう。
どこか遠くの村で……ひっそりと生を終わらせたい。
それだけが、俺の望みだった。
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