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第二十二節・終曲の激戦 セイル編
第370幕 帝都の壁
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ある程度身体がまともに動かせるようになった頃。グランセスト軍は新たな課題に向き合おうとしていた。それは『帝都攻略』だ。シアロルの帝都クワドリスには現在、覆うような結界の壁が立ちふさがっていて、俺たちではどうやっても入れない状態だった。いや、正確には兄貴なら斬る事が出来るみたいだ。『神』『斬』の魔方陣を剣に纏わせて斬りつける事でなんとか出来るみたいだけど……五人くらい中に入ったくらいのタイミングで塞がってしまうらしい。多分、常に魔力を巡らせていて、壊れた場所を修復しているんだとか。
いくら兄貴でも軍隊を送り込むために何度も魔方陣を使って結界を斬るなんて出来る訳がない。後の戦いの事も考えると明らかに愚行と言える。
なにせ後ろにはロンギルス皇帝とヘルガ。さらにエンデハルト王が控えているのだから。最高戦力である兄貴を無駄に消耗させる訳にはいかない……それが上の見解だった。それに対しては俺や銀狼騎士団の団員も同意した。ここで兄貴の力がなければシアロルを攻め落とすことなんて出来る訳がない。
というわけでどういう風に戦えば攻略することが出来るのか? そんな事を話し合って、既に数日は経過していた――
――
「やはり、少数精鋭で敵地に乗り込んで王を討つしかないだろう。その為にも――」
「いいや、まずはあちらの食糧が尽きるのを待つのが一番だと思う。帝都へ向かう商人は全てこちらで抑えればジリ貧なって出てこざるを得ないだろう」
何度と開かれた会議の場で、一番最初に発言したのは銀狼騎士団の……なんて言ったけか。そうそう、シグゼスって呼ばれている男だ。彼は騎士団の中でもかなりの実力者らしい。次に発言したのはジパーニグで作戦指揮官を任せられたことのある男らしくて……名前は――そう、アレクセイ沢田って奴だ。
「確かに、帝都を他の町や村と孤立させた状態にすれば、干上がるのも時間の問題だ。彼らが焦って出撃すれば、士気の低い状態の彼らと戦うことが出来るだろう」
「しかし、相手はあのロンギルス皇帝だ。そして姿を消すことが出来るエンデハルト王もいる。慎重にならなければならない」
「だからといって――」
これだ。話ばかりで全く先に進まない。俺も少し良くなったからといって、こんな何の意味もない会談に参加したところで、傷が悪化するだけだ。隣を見てみると、兄貴の方もうんざりするような顔でそれを眺めていた。兄貴は一日でこの会議を抜けたらしいけど、俺が参加するって事で再びこの場の席に着いたのだとか。
「グレリアさんはどう考えているんです? 是非貴方の意見をお聞かせください」
「……簡単だ。シグゼスが言っていたように少数精鋭で行けばいい。イギランスがまともに動いている以上、こちらへの妨害が行われる可能性もある。慣れない気候で兵士たちの士気が下がる事も十分にあり得る。長期戦に持ち込むことが必ずしもこちらに有益に働くとは限らない」
「ですが――」
「あくまで一個人の考え方、だがな。だけどな、地下都市の存在を忘れていないか?」
兄貴の一言に、今まで不毛な争いを続けていた彼らは、ハッと気づいたかのような顔をした。
クワドリスの地下にスラヴァグラードがある以上、食糧危機に陥ることは少ないだろう。地下に帝都を賄えるだけの農耕地が存在したら……何十年経ったとしても帝都は健在し続けるだろう。
「し、しかし、地下都市にそれだけの食糧が――」
「それを言い出したらキリがないと思わないか? 今重要なのは、ここでどう行動するかだと思うが。もちろん、軍の決定には俺も従う。だが、シアロルがゴーレムを完備させるような時間を与えてしまったら……それこそこちらの被害は甚大になるだろうな」
帝都の結界が解けた時。門からゴーレムが無数に出現したら……そんな想像をした彼らは、一瞬で顔が青くなっていった。
「普通なら食糧が少なくなれば、こちらの優位に働くだろう。腹が減れば力は入らないだろうし、そういう事に強くなる訓練をしている者もまずいない。それはこちらも……俺と同じ意見のシグゼスもよくわかている。だが、地下都市の存在をしっかり考慮した上で、もう一度話し合いをしてもらいたい」
「……わかりました」
兄貴の言葉に、今までは時間を掛けて戦うように話していた者たちが一斉に黙ってしまった。それからぽつりぽつりと行われた話し合いは、アリッカルやジパーニグに広がっていた地下都市の状況、食糧の自給についてにまで及んで……結果的にシグゼスの意見が採用されることになった。
ここまで来て軍勢を連れて行くことが出来ないのが辛いところだが、帝都が結界に守られている以上、大勢で攻めることは不可能と言っていい。
その後の話し合いで、潜入するのは兄貴を含めて銀狼騎士団員が二人。それと連絡員として戦闘能力はないが、諜報などの能力に長けている者が選出されることになった。
俺は……この傷もあって戦いに参加することは出来なさそうだ。もう少し時間があれば……そう思うけれど……仕方ない。残念だし悔しいけれど、俺は傷を癒すことを最優先にした方がいいだろう。
いくら兄貴でも軍隊を送り込むために何度も魔方陣を使って結界を斬るなんて出来る訳がない。後の戦いの事も考えると明らかに愚行と言える。
なにせ後ろにはロンギルス皇帝とヘルガ。さらにエンデハルト王が控えているのだから。最高戦力である兄貴を無駄に消耗させる訳にはいかない……それが上の見解だった。それに対しては俺や銀狼騎士団の団員も同意した。ここで兄貴の力がなければシアロルを攻め落とすことなんて出来る訳がない。
というわけでどういう風に戦えば攻略することが出来るのか? そんな事を話し合って、既に数日は経過していた――
――
「やはり、少数精鋭で敵地に乗り込んで王を討つしかないだろう。その為にも――」
「いいや、まずはあちらの食糧が尽きるのを待つのが一番だと思う。帝都へ向かう商人は全てこちらで抑えればジリ貧なって出てこざるを得ないだろう」
何度と開かれた会議の場で、一番最初に発言したのは銀狼騎士団の……なんて言ったけか。そうそう、シグゼスって呼ばれている男だ。彼は騎士団の中でもかなりの実力者らしい。次に発言したのはジパーニグで作戦指揮官を任せられたことのある男らしくて……名前は――そう、アレクセイ沢田って奴だ。
「確かに、帝都を他の町や村と孤立させた状態にすれば、干上がるのも時間の問題だ。彼らが焦って出撃すれば、士気の低い状態の彼らと戦うことが出来るだろう」
「しかし、相手はあのロンギルス皇帝だ。そして姿を消すことが出来るエンデハルト王もいる。慎重にならなければならない」
「だからといって――」
これだ。話ばかりで全く先に進まない。俺も少し良くなったからといって、こんな何の意味もない会談に参加したところで、傷が悪化するだけだ。隣を見てみると、兄貴の方もうんざりするような顔でそれを眺めていた。兄貴は一日でこの会議を抜けたらしいけど、俺が参加するって事で再びこの場の席に着いたのだとか。
「グレリアさんはどう考えているんです? 是非貴方の意見をお聞かせください」
「……簡単だ。シグゼスが言っていたように少数精鋭で行けばいい。イギランスがまともに動いている以上、こちらへの妨害が行われる可能性もある。慣れない気候で兵士たちの士気が下がる事も十分にあり得る。長期戦に持ち込むことが必ずしもこちらに有益に働くとは限らない」
「ですが――」
「あくまで一個人の考え方、だがな。だけどな、地下都市の存在を忘れていないか?」
兄貴の一言に、今まで不毛な争いを続けていた彼らは、ハッと気づいたかのような顔をした。
クワドリスの地下にスラヴァグラードがある以上、食糧危機に陥ることは少ないだろう。地下に帝都を賄えるだけの農耕地が存在したら……何十年経ったとしても帝都は健在し続けるだろう。
「し、しかし、地下都市にそれだけの食糧が――」
「それを言い出したらキリがないと思わないか? 今重要なのは、ここでどう行動するかだと思うが。もちろん、軍の決定には俺も従う。だが、シアロルがゴーレムを完備させるような時間を与えてしまったら……それこそこちらの被害は甚大になるだろうな」
帝都の結界が解けた時。門からゴーレムが無数に出現したら……そんな想像をした彼らは、一瞬で顔が青くなっていった。
「普通なら食糧が少なくなれば、こちらの優位に働くだろう。腹が減れば力は入らないだろうし、そういう事に強くなる訓練をしている者もまずいない。それはこちらも……俺と同じ意見のシグゼスもよくわかている。だが、地下都市の存在をしっかり考慮した上で、もう一度話し合いをしてもらいたい」
「……わかりました」
兄貴の言葉に、今までは時間を掛けて戦うように話していた者たちが一斉に黙ってしまった。それからぽつりぽつりと行われた話し合いは、アリッカルやジパーニグに広がっていた地下都市の状況、食糧の自給についてにまで及んで……結果的にシグゼスの意見が採用されることになった。
ここまで来て軍勢を連れて行くことが出来ないのが辛いところだが、帝都が結界に守られている以上、大勢で攻めることは不可能と言っていい。
その後の話し合いで、潜入するのは兄貴を含めて銀狼騎士団員が二人。それと連絡員として戦闘能力はないが、諜報などの能力に長けている者が選出されることになった。
俺は……この傷もあって戦いに参加することは出来なさそうだ。もう少し時間があれば……そう思うけれど……仕方ない。残念だし悔しいけれど、俺は傷を癒すことを最優先にした方がいいだろう。
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