373 / 415
第二十一節・凍てつく大地での戦い編
第354幕 終焉の狼煙
しおりを挟む
新しく手に入れた武器に魔方陣。今自分が出来る事、使える能力の把握に努めている内にこちら側もあちら側も準備が整ったらしく……とうとうその日が訪れた。
――
「中々壮観だな。これは」
ずらっと並んだ魔人の兵士たちを見て、思わずそう呟いてしまった。残ったシアロルとイギランスの二国を攻略する為に集まった彼らは圧巻としか言いようがない。
「この数……凄いな。気合い入れてるって言うのかな」
「なんだか、そういう風に言うとちょっと安っぽい感じがするね」
呑気にセイルとシエラが呆然としながら眺めてる一方で、エセルカは妙に緊張して固まってしまっていた。
「エセルカ」
「は、はいっ!」
「お前は後方での支援担当なんだからそう固まるな。戦闘は前線の兵士たちに任せておけ」
「……でも、私――」
「直接戦うことだけが全てじゃない。後ろで見守ってるのも、また戦いだ」
我ながら言ってて反吐が出る。そんな薄っぺらい事を言うくらいには彼女のことが大切だということか。傷ついて欲しくないから、ワザと遠ざけるようなことを言って……いや、はっきり言って俺は彼女に負い目を感じている。それはこれからも変わらないだろう。彼女には生きて幸せを掴んでもらいたい……これだ俺の本心だ。そこに俺はいないだろうが、彼女がそれで幸せになれるなら、それでもいい。だから……今は生きてもらいたい。
散々誰かを殺めてきた俺が思うのもおこがましいものだろうな。
「……グレリアくん、死なないでね。ちゃんと……帰ってきて」
「ああ。生きて帰る。俺もまだ、こんなところで死ぬわけにはいかないからな」
じっと潤んだ瞳で見つめてくるエセルカに目を合わせる事ができず……視線を逸らしながら答えることがやっとだった。ちらっとだけエセルカの方に視線だけ向けると、どこかはにかむように笑っていた。
「えへへ。それじゃあ……戦争が終わったら、また、ね」
「……ああ」
エセルカは別れを惜しむように時折ちらちらとこっちを見ながら……静かに後方へと下がっていった。
「良かったのか? 最後がアレで」
くずはとの別れを済ませたのか、どこか清々しい顔をしていた。
「もう、会わないつもりなんだろう?」
「やっぱりわかったか」
「兄貴が本当に帰ってこようって思ってるなら、あんな態度取らないだろう」
「……良いんだよ。それより、そっちはどうなんだ?」
「あ、はは。……ま、俺は兄貴と違って、帰れるって保証はないからな。それでも、やれることはやるよ。そのうえで生きて帰ってみせるさ」
決心じみた表情をしているセイルを見てると、自分が彼らとは違うのだと思い知らされるような気がする。こういう若いからこその自信というものは、きっと今だけのものなのだろう。
「相変わらず自分勝手な男たちだよね。恋人を待ち焦がれてる女の想い、わかってないでしょう?」
「……シエラ」
「別に言い訳して欲しい訳じゃないから。ただ、貴方たちが考えているよりずっと、大切に想ってる子たちがいるって事、忘れないで欲しいの」
シエラはそのまま俺たちから離れるように歩いていく。彼女は後方を守る部隊に配属されているからな。
しかし……今の言葉には痛いものがあった。ちらっとセイルの方を見ると同じような事を考えていそうな顔をしていた……が、スパルナが近寄ってきてからはそんな雰囲気は全く見せず、あの子の兄貴分を貫き通していた。
「全く……随分とたくましく育ったものだ……」
こうして見ると、如何に自分の成長が遅いか痛感させられる。伸び代の大きいみんなと違って、一度最後まで人生を歩んだ俺の伸び代は小さい。わかっていた事だ。だが、こうもむざむざと見せつけられるのは少し思うところもある。
そんな風に考えていた時……魔方陣による大きな炎が空へと打ち上げられた。
これは……そうだ。確か敵の軍がこちらに攻めてきた時の合図だ。いよいよ……攻めてきたというわけか。
「敵襲、か。三人とも、準備はいいか?」
「ああ、もちろんだ」
「ぼくも準備はいいよー!」
「……いよいよ、ね」
少し硬くなっているシエラはゆっくりと深呼吸をして心を鎮め、自分のいるべき場所へと戻っていった。
残された俺は何も不安を感じていなかった。それはセイルもスパルナも同じような気持ちだったと思う。彼らの顔つきは凛々しくて、力強さに満ち溢れていたから。
「セイル、わかってるな」
「ああ。ヘルガか皇帝……どちらかに出会うまでは共闘、だろう?」
「それで、ロンギルス皇帝だったら……ぼくたちが戦う……だよね?」
「そうだ。二人共、死ぬな……とは言わない。だが、どんな結果になろうとも、後悔が残るような戦いだけはするな。これが最後。全てを出し切って、終わらせるぞ」
頷く二人の顔を見て、俺ももう一度頷く。これで……今度こそ、終わりにしてみせる。その為の力はここにある。
――さあ、行こう。最後の戦場へ。この戦いの結果で、どちらかの国が終焉を迎える。その狼煙は……今、ここに。
――
「中々壮観だな。これは」
ずらっと並んだ魔人の兵士たちを見て、思わずそう呟いてしまった。残ったシアロルとイギランスの二国を攻略する為に集まった彼らは圧巻としか言いようがない。
「この数……凄いな。気合い入れてるって言うのかな」
「なんだか、そういう風に言うとちょっと安っぽい感じがするね」
呑気にセイルとシエラが呆然としながら眺めてる一方で、エセルカは妙に緊張して固まってしまっていた。
「エセルカ」
「は、はいっ!」
「お前は後方での支援担当なんだからそう固まるな。戦闘は前線の兵士たちに任せておけ」
「……でも、私――」
「直接戦うことだけが全てじゃない。後ろで見守ってるのも、また戦いだ」
我ながら言ってて反吐が出る。そんな薄っぺらい事を言うくらいには彼女のことが大切だということか。傷ついて欲しくないから、ワザと遠ざけるようなことを言って……いや、はっきり言って俺は彼女に負い目を感じている。それはこれからも変わらないだろう。彼女には生きて幸せを掴んでもらいたい……これだ俺の本心だ。そこに俺はいないだろうが、彼女がそれで幸せになれるなら、それでもいい。だから……今は生きてもらいたい。
散々誰かを殺めてきた俺が思うのもおこがましいものだろうな。
「……グレリアくん、死なないでね。ちゃんと……帰ってきて」
「ああ。生きて帰る。俺もまだ、こんなところで死ぬわけにはいかないからな」
じっと潤んだ瞳で見つめてくるエセルカに目を合わせる事ができず……視線を逸らしながら答えることがやっとだった。ちらっとだけエセルカの方に視線だけ向けると、どこかはにかむように笑っていた。
「えへへ。それじゃあ……戦争が終わったら、また、ね」
「……ああ」
エセルカは別れを惜しむように時折ちらちらとこっちを見ながら……静かに後方へと下がっていった。
「良かったのか? 最後がアレで」
くずはとの別れを済ませたのか、どこか清々しい顔をしていた。
「もう、会わないつもりなんだろう?」
「やっぱりわかったか」
「兄貴が本当に帰ってこようって思ってるなら、あんな態度取らないだろう」
「……良いんだよ。それより、そっちはどうなんだ?」
「あ、はは。……ま、俺は兄貴と違って、帰れるって保証はないからな。それでも、やれることはやるよ。そのうえで生きて帰ってみせるさ」
決心じみた表情をしているセイルを見てると、自分が彼らとは違うのだと思い知らされるような気がする。こういう若いからこその自信というものは、きっと今だけのものなのだろう。
「相変わらず自分勝手な男たちだよね。恋人を待ち焦がれてる女の想い、わかってないでしょう?」
「……シエラ」
「別に言い訳して欲しい訳じゃないから。ただ、貴方たちが考えているよりずっと、大切に想ってる子たちがいるって事、忘れないで欲しいの」
シエラはそのまま俺たちから離れるように歩いていく。彼女は後方を守る部隊に配属されているからな。
しかし……今の言葉には痛いものがあった。ちらっとセイルの方を見ると同じような事を考えていそうな顔をしていた……が、スパルナが近寄ってきてからはそんな雰囲気は全く見せず、あの子の兄貴分を貫き通していた。
「全く……随分とたくましく育ったものだ……」
こうして見ると、如何に自分の成長が遅いか痛感させられる。伸び代の大きいみんなと違って、一度最後まで人生を歩んだ俺の伸び代は小さい。わかっていた事だ。だが、こうもむざむざと見せつけられるのは少し思うところもある。
そんな風に考えていた時……魔方陣による大きな炎が空へと打ち上げられた。
これは……そうだ。確か敵の軍がこちらに攻めてきた時の合図だ。いよいよ……攻めてきたというわけか。
「敵襲、か。三人とも、準備はいいか?」
「ああ、もちろんだ」
「ぼくも準備はいいよー!」
「……いよいよ、ね」
少し硬くなっているシエラはゆっくりと深呼吸をして心を鎮め、自分のいるべき場所へと戻っていった。
残された俺は何も不安を感じていなかった。それはセイルもスパルナも同じような気持ちだったと思う。彼らの顔つきは凛々しくて、力強さに満ち溢れていたから。
「セイル、わかってるな」
「ああ。ヘルガか皇帝……どちらかに出会うまでは共闘、だろう?」
「それで、ロンギルス皇帝だったら……ぼくたちが戦う……だよね?」
「そうだ。二人共、死ぬな……とは言わない。だが、どんな結果になろうとも、後悔が残るような戦いだけはするな。これが最後。全てを出し切って、終わらせるぞ」
頷く二人の顔を見て、俺ももう一度頷く。これで……今度こそ、終わりにしてみせる。その為の力はここにある。
――さあ、行こう。最後の戦場へ。この戦いの結果で、どちらかの国が終焉を迎える。その狼煙は……今、ここに。
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる