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第十七節・落日の国編
第310幕 竜の代償
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吉田は相変わらず空中からのブレス攻撃を飛ばしてくるが、先程のような広範囲の物じゃなく、ある程度絞って威力を上げたものをぶつけてきた。
おかげでかわしやすくなった。俺の方も反撃で『神』『雷』『槍』の起動式で魔方陣を構築して、出来る限り本体を避けるように発射する。手に持つには明らかに巨大な雷槍が上空に向けて放たれて……吉田の翼を辛うじて掠め、その竜の身体全身に電撃が流れた。
「グ……ガ、アアアァァァッッ! オノ、レエエエエェェェェッッ!」
痛みを紛らわせるような咆哮を放つのは良いが、この程度で痛がっているようではこれから保たないってことを思い知らせてやる……!
更に構築した魔方陣が立て続けに吉田に襲いかかり、彼は苦痛を堪えながら回避することを余儀なくされていた。
「調子ニ……乗ルナァァァッッ!」
口を開いて再び魔方陣を構築。芸がない奴だな……なんて思っていると、その起動式が先程とは違うことに気づいた。『竜』『息吹』『炎』の三つだ。初めて使うとは思えないほどスムーズに構築していたところを考えると……俺が魔方陣で防御している間にでも作っていたのだろう。一つの魔方陣が作れる程の時間はあったし、あの広範囲の攻撃はこの為にやってたってわけか。
「味な真似をしてくれるな」
「滅ビロ!」
あの魔方陣とは明らかに違う青い色合いの炎が口元に集約している。ぱっと見た感じでは俺の魔方陣で防ぐことが出来るように思うけど……嫌な予感がする。
吉田の攻撃に合わせるように手元から『神』『焔』『剣』の魔方陣を発動させた。いつものように上空から……というわけではないから魔力の消費も抑えめだ。
同時に放ったそれは、ちょうど中間辺りで激しくぶつかり合い、周囲に炎を撒き散らしていく。
「ナ、ニィィ……」
俺の攻撃の一部がすり抜け、吉田のところに飛んでいった。
予想外の事態だったのか、驚いた彼は回避が間に合わずに竜の身体を炎が焦がす。
――結構自信があったのだが、かなり相殺されてしまった。
だが、落ち込んでいる場合じゃない。今も確かに効いてて、苦しんでるようだからな。ここで畳み掛けてやる……!
『神』『風』の魔方陣を発動させ、空中にいる吉田の機動力を削ぎ、先程浴びせた神焔の剣を再び放ち、吉田の片翼を焼き落とす。
「グ、ギャアアアアッッッ!!」
片翼を失ったせいか、空中でバランスを取ることが出来なくなった吉田は、くるくると回転しながら闘技場の方へと落ちてくる。その間に……俺は新しく魔方陣を作ることにした。『神』というのは本来、魔方陣の威力を極限まで高めてくれるものだ。
だからこそ、攻撃や強化にこそ相応しい文字だと思っていた……のだけれど、一つ思いついた事があった。
構築するのは『神』『吸』『魔』の三つ。地面に落ちて、苦しむ吉田が起き上がる前に駆け出し、彼に叩き込むように魔方陣を喰らわしてやった。
「目を覚ませ……馬鹿貴族が……!」
「グレ、リア……! グレリアァァァァァッッ!!」
「喚くな。トカゲが!」
黒く光る魔方陣が、吉田の身体から魔力を根こそぎ奪っていって、俺の力になっていくのを感じる。身体の中から爆発しそうな力が流れ込んでくるが、それをなんとか制御して抑え込んでいく。
魔力を吸い尽くしていく間に少しずつ竜の身体が元に戻っていって……最終的に、きちんと彼は自分の姿を取り戻した。ほっと胸を撫で下ろしたのだけれど、予想以上に取り込んだ魔力が多く、内部から焼き尽くされそうな痛みを感じる程だ。
しばらくの間意識を失っていた吉田は、うめき声を上げて目を覚ました。
「くっ……グレ、リア……」
「大丈夫か?」
全身を渦巻いている痛みを全く出さず、吉田に言葉を投げかけた。奴に出来る、俺なりの強がりというやつだ。
「無茶、したな……はっ、ははっ、無様だな。何もかにも投げ出した、はずなのに……それでも、地べたに這いつくばってんのは、俺……なんだものな」
「吉田……」
どう言葉をかけたらいいか、よく分からなかった。倒した本人が慰めたところで……気休めにもならない。
「……もう、貴様の顔が見れないと思うと、悔しくて仕方ない」
「なん、だって……?」
今、吉田の放った言葉に違和感がして……俺は倒れている彼の顔を覗き込む。それでも吉田は微動だにせず、ただ上を眺めているだけだ。まるで、何もないみたいに。
「吉田、お前……」
――目が、見えなくなってるのか。
その言葉は最後まで言えなかった。これが、吉田の選んだ道なんだと、無理やり納得すると同時に怒りが湧いてくる。
両眼に刻まれた魔方陣と、俺が魔力を吸い取ったことで発生した障害だとはいえ、こんな事になったのは吉田の想いを後押しした黒幕のせいだ。
「……済まなかった」
「謝るな。本当だったら俺は、死ぬはずだった。貴様の……お陰だ」
微かに笑った吉田の顔が、やけに印象的だった。
……顔を上げると、ジパーニグの兵士は皆、意気消沈となっていて、これ以上争う気概を持っている者はいなかった。
心にわだかまりの残る勝利。だけど、確実に一歩前進した勝利だった……。
おかげでかわしやすくなった。俺の方も反撃で『神』『雷』『槍』の起動式で魔方陣を構築して、出来る限り本体を避けるように発射する。手に持つには明らかに巨大な雷槍が上空に向けて放たれて……吉田の翼を辛うじて掠め、その竜の身体全身に電撃が流れた。
「グ……ガ、アアアァァァッッ! オノ、レエエエエェェェェッッ!」
痛みを紛らわせるような咆哮を放つのは良いが、この程度で痛がっているようではこれから保たないってことを思い知らせてやる……!
更に構築した魔方陣が立て続けに吉田に襲いかかり、彼は苦痛を堪えながら回避することを余儀なくされていた。
「調子ニ……乗ルナァァァッッ!」
口を開いて再び魔方陣を構築。芸がない奴だな……なんて思っていると、その起動式が先程とは違うことに気づいた。『竜』『息吹』『炎』の三つだ。初めて使うとは思えないほどスムーズに構築していたところを考えると……俺が魔方陣で防御している間にでも作っていたのだろう。一つの魔方陣が作れる程の時間はあったし、あの広範囲の攻撃はこの為にやってたってわけか。
「味な真似をしてくれるな」
「滅ビロ!」
あの魔方陣とは明らかに違う青い色合いの炎が口元に集約している。ぱっと見た感じでは俺の魔方陣で防ぐことが出来るように思うけど……嫌な予感がする。
吉田の攻撃に合わせるように手元から『神』『焔』『剣』の魔方陣を発動させた。いつものように上空から……というわけではないから魔力の消費も抑えめだ。
同時に放ったそれは、ちょうど中間辺りで激しくぶつかり合い、周囲に炎を撒き散らしていく。
「ナ、ニィィ……」
俺の攻撃の一部がすり抜け、吉田のところに飛んでいった。
予想外の事態だったのか、驚いた彼は回避が間に合わずに竜の身体を炎が焦がす。
――結構自信があったのだが、かなり相殺されてしまった。
だが、落ち込んでいる場合じゃない。今も確かに効いてて、苦しんでるようだからな。ここで畳み掛けてやる……!
『神』『風』の魔方陣を発動させ、空中にいる吉田の機動力を削ぎ、先程浴びせた神焔の剣を再び放ち、吉田の片翼を焼き落とす。
「グ、ギャアアアアッッッ!!」
片翼を失ったせいか、空中でバランスを取ることが出来なくなった吉田は、くるくると回転しながら闘技場の方へと落ちてくる。その間に……俺は新しく魔方陣を作ることにした。『神』というのは本来、魔方陣の威力を極限まで高めてくれるものだ。
だからこそ、攻撃や強化にこそ相応しい文字だと思っていた……のだけれど、一つ思いついた事があった。
構築するのは『神』『吸』『魔』の三つ。地面に落ちて、苦しむ吉田が起き上がる前に駆け出し、彼に叩き込むように魔方陣を喰らわしてやった。
「目を覚ませ……馬鹿貴族が……!」
「グレ、リア……! グレリアァァァァァッッ!!」
「喚くな。トカゲが!」
黒く光る魔方陣が、吉田の身体から魔力を根こそぎ奪っていって、俺の力になっていくのを感じる。身体の中から爆発しそうな力が流れ込んでくるが、それをなんとか制御して抑え込んでいく。
魔力を吸い尽くしていく間に少しずつ竜の身体が元に戻っていって……最終的に、きちんと彼は自分の姿を取り戻した。ほっと胸を撫で下ろしたのだけれど、予想以上に取り込んだ魔力が多く、内部から焼き尽くされそうな痛みを感じる程だ。
しばらくの間意識を失っていた吉田は、うめき声を上げて目を覚ました。
「くっ……グレ、リア……」
「大丈夫か?」
全身を渦巻いている痛みを全く出さず、吉田に言葉を投げかけた。奴に出来る、俺なりの強がりというやつだ。
「無茶、したな……はっ、ははっ、無様だな。何もかにも投げ出した、はずなのに……それでも、地べたに這いつくばってんのは、俺……なんだものな」
「吉田……」
どう言葉をかけたらいいか、よく分からなかった。倒した本人が慰めたところで……気休めにもならない。
「……もう、貴様の顔が見れないと思うと、悔しくて仕方ない」
「なん、だって……?」
今、吉田の放った言葉に違和感がして……俺は倒れている彼の顔を覗き込む。それでも吉田は微動だにせず、ただ上を眺めているだけだ。まるで、何もないみたいに。
「吉田、お前……」
――目が、見えなくなってるのか。
その言葉は最後まで言えなかった。これが、吉田の選んだ道なんだと、無理やり納得すると同時に怒りが湧いてくる。
両眼に刻まれた魔方陣と、俺が魔力を吸い取ったことで発生した障害だとはいえ、こんな事になったのは吉田の想いを後押しした黒幕のせいだ。
「……済まなかった」
「謝るな。本当だったら俺は、死ぬはずだった。貴様の……お陰だ」
微かに笑った吉田の顔が、やけに印象的だった。
……顔を上げると、ジパーニグの兵士は皆、意気消沈となっていて、これ以上争う気概を持っている者はいなかった。
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