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第十七節・落日の国編
第303幕 不安な先行き
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ジパーニグで数日が経過したが、やはり問題は多そうだった。俺からはよくわからないが、アリッカルの執政官には疲れの色が濃く見える。
「お疲れのようだが……大丈夫か?」
「ええ。あちらもクリムホルン王を亡くなっているのです。出来る限り混乱は避けたいことでしょう。ですが……」
「問題になってるのは俺たちが魔人――アンヒュルだってことか?」
「そうなりますね」
やはりそれが一番の問題か。ジパーニグ……というよりもヒュルマの歴史はアンヒュルとの闘争の歴史だ。アリッカルのように半ば力で降伏し、ヘンリーが仕切っているのとはまたわけが違う。
「やはり、ヘンリー殿が話されるのが一番良いのかもしれません。私たちの話ではどうしても嘘臭さが抜けないようでして……」
「……そうだろうな」
アスクード王を倒し、親衛隊の兵士たちを降伏させた後の話なのだが、ヘンリーは俺たち魔人を次々と改心させていっている……という話で周囲を納得させている。もちろん嘘なのだが……彼が言うには――
「日本――くずはさんたちの国のことわざに『嘘も方便』という言葉があります。真実を告げること……それが全て正しいわけではないのですよ。一の真実、千の嘘。物事を穏便かつ迅速に進めていく為には、そういう事も必要というわけですよ」
――らしい。言っていることはわかるが、実際やれるかどうかはまた別問題だ。
だが、それのおかげでアリッカルは静かに戦争を続けているような状況になっているというわけだ。少し間違えれば一気に城の方まで攻められてしまうというのに、よくやっていると言えるだろう。
ジパーニグにもそれを広めながら国を手中に収めようとしていたのだけれど……やはり上手くは行かないか。
改心させている(という事になっている)本人がアリッカルで広めても嘘臭さは拭えなかったのに、本人のいないジパーニグでそれが通じる訳もないだろう。
「やはり必要なのは証拠……それと本人の実力といったところか」
「はい。人は……特に軍に関わる者は実力主義が多いです。中には話だけで信じていただける方や、現状をよく思っていない方々からもいらっしゃいます。彼らはこちらに乗ってくれる可能性はあるのですが……」
そう思い通りにならないのが前者――兵士や勇者に連なる家系の……いわゆる武闘派と言った連中のことだろう。ジパーニグは平気で勇者に土地を与えていたからなぁ……。しかもそれが正しいことのように学ばせているのだから更にたちが悪い。
結局、今駄々をこねているのはそういった土地を奪われるかもしれない――利権を失うかもしれないという者たちなのだろう。
「ここに来て邪魔になるのは勇者の家系って訳か。皮肉なものだ」
「そうですね。中でも吉田と呼ばれる家の者が『魔人どもの軍門になぞ降れるか!』と他の貴族階級をまとめ上げてしまってるようでして……」
ある意味予想された展開通りという訳だ。難航するのはわかっていたが、この調子では逆にこちらが飲まれかねない。
「何か策はあるのか?」
「……貴方を差し出せ、とそういう声が強いです。恐らく、処刑する為ではないかと……」
なるほど。実にわかりやすい要求だ。シエラはともかく、俺はこの国の兵士たちに顔が割れている。少なくとも吉田が連れていた兵士たちは知ってるだろう。
見せしめにして、グランセストとアリッカルの動きを確かめる……そういう事も平気でしそうだが、あの無駄に誇り高い吉田がそれで許すとも思えない。奴は自分の手で俺を倒したいと思っているはずだ。あいつは、俺に四度の恥辱を与えられたんだからな。
「それで、俺はどうなる?」
「私は貴方がたとアスクード王が率いる兵隊の戦いを目撃しました。あの外庭は、私の執務室からよく見えたので」
あの戦いをはっきり見ていた……というのも意外だが、彼がヘンリーに引き込まれて上に昇った人物ではなくて、最初からアリッカルでもそれなりの地位に就いていたと考えるべきだろう。
そんな彼は深く息を吐いて少し嫌そうに笑みを浮かべていた。
「彼らに貴方を引き渡して、こっちに飛び火するくらいなら要求を突っぱね続けた方が幾分かマシですね。頭が筋肉で覆われてるような輩は先々の事を考えませんから」
「ははっ、ここの奴らには聞かせられない言葉だな」
「私とて命は惜しいのですよ。ようやく目の上の――こほん! アリッカルが不安定ながらもまとまり掛けている時に、余計な事はしたくありません」
今何か言い掛けたようだが、そこに突っ込まない方が良いだろう。彼も色々と大変そうだしな。
「だが、全く要求を呑まない訳にはいかないのだろう?」
「そうですね。その辺りについては……戦いを重んじる方々らしい解決法を模索しますよ」
それは暗に『戦って納得させろ』と言ってるように聞こえる。まあ、その方が一番手っ取り早いのは事実なんだが……それで本当に納得出来るのか否かを考えると、大分怪しい所だ。
なんだか雲行きが悪い方向に転がっていきそうな予感がするが、なんとか頑張ってほしいところだ。
「お疲れのようだが……大丈夫か?」
「ええ。あちらもクリムホルン王を亡くなっているのです。出来る限り混乱は避けたいことでしょう。ですが……」
「問題になってるのは俺たちが魔人――アンヒュルだってことか?」
「そうなりますね」
やはりそれが一番の問題か。ジパーニグ……というよりもヒュルマの歴史はアンヒュルとの闘争の歴史だ。アリッカルのように半ば力で降伏し、ヘンリーが仕切っているのとはまたわけが違う。
「やはり、ヘンリー殿が話されるのが一番良いのかもしれません。私たちの話ではどうしても嘘臭さが抜けないようでして……」
「……そうだろうな」
アスクード王を倒し、親衛隊の兵士たちを降伏させた後の話なのだが、ヘンリーは俺たち魔人を次々と改心させていっている……という話で周囲を納得させている。もちろん嘘なのだが……彼が言うには――
「日本――くずはさんたちの国のことわざに『嘘も方便』という言葉があります。真実を告げること……それが全て正しいわけではないのですよ。一の真実、千の嘘。物事を穏便かつ迅速に進めていく為には、そういう事も必要というわけですよ」
――らしい。言っていることはわかるが、実際やれるかどうかはまた別問題だ。
だが、それのおかげでアリッカルは静かに戦争を続けているような状況になっているというわけだ。少し間違えれば一気に城の方まで攻められてしまうというのに、よくやっていると言えるだろう。
ジパーニグにもそれを広めながら国を手中に収めようとしていたのだけれど……やはり上手くは行かないか。
改心させている(という事になっている)本人がアリッカルで広めても嘘臭さは拭えなかったのに、本人のいないジパーニグでそれが通じる訳もないだろう。
「やはり必要なのは証拠……それと本人の実力といったところか」
「はい。人は……特に軍に関わる者は実力主義が多いです。中には話だけで信じていただける方や、現状をよく思っていない方々からもいらっしゃいます。彼らはこちらに乗ってくれる可能性はあるのですが……」
そう思い通りにならないのが前者――兵士や勇者に連なる家系の……いわゆる武闘派と言った連中のことだろう。ジパーニグは平気で勇者に土地を与えていたからなぁ……。しかもそれが正しいことのように学ばせているのだから更にたちが悪い。
結局、今駄々をこねているのはそういった土地を奪われるかもしれない――利権を失うかもしれないという者たちなのだろう。
「ここに来て邪魔になるのは勇者の家系って訳か。皮肉なものだ」
「そうですね。中でも吉田と呼ばれる家の者が『魔人どもの軍門になぞ降れるか!』と他の貴族階級をまとめ上げてしまってるようでして……」
ある意味予想された展開通りという訳だ。難航するのはわかっていたが、この調子では逆にこちらが飲まれかねない。
「何か策はあるのか?」
「……貴方を差し出せ、とそういう声が強いです。恐らく、処刑する為ではないかと……」
なるほど。実にわかりやすい要求だ。シエラはともかく、俺はこの国の兵士たちに顔が割れている。少なくとも吉田が連れていた兵士たちは知ってるだろう。
見せしめにして、グランセストとアリッカルの動きを確かめる……そういう事も平気でしそうだが、あの無駄に誇り高い吉田がそれで許すとも思えない。奴は自分の手で俺を倒したいと思っているはずだ。あいつは、俺に四度の恥辱を与えられたんだからな。
「それで、俺はどうなる?」
「私は貴方がたとアスクード王が率いる兵隊の戦いを目撃しました。あの外庭は、私の執務室からよく見えたので」
あの戦いをはっきり見ていた……というのも意外だが、彼がヘンリーに引き込まれて上に昇った人物ではなくて、最初からアリッカルでもそれなりの地位に就いていたと考えるべきだろう。
そんな彼は深く息を吐いて少し嫌そうに笑みを浮かべていた。
「彼らに貴方を引き渡して、こっちに飛び火するくらいなら要求を突っぱね続けた方が幾分かマシですね。頭が筋肉で覆われてるような輩は先々の事を考えませんから」
「ははっ、ここの奴らには聞かせられない言葉だな」
「私とて命は惜しいのですよ。ようやく目の上の――こほん! アリッカルが不安定ながらもまとまり掛けている時に、余計な事はしたくありません」
今何か言い掛けたようだが、そこに突っ込まない方が良いだろう。彼も色々と大変そうだしな。
「だが、全く要求を呑まない訳にはいかないのだろう?」
「そうですね。その辺りについては……戦いを重んじる方々らしい解決法を模索しますよ」
それは暗に『戦って納得させろ』と言ってるように聞こえる。まあ、その方が一番手っ取り早いのは事実なんだが……それで本当に納得出来るのか否かを考えると、大分怪しい所だ。
なんだか雲行きが悪い方向に転がっていきそうな予感がするが、なんとか頑張ってほしいところだ。
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